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「水災害・土砂災害の危機管理」

河川審議会危機管理小委員会報告概要





はじめに

 我が国は、台風、梅雨等洪水が発生しやすいアジアモンスーン地域に位置し、急峻な山地に加えて火山噴火や地震が多い上、高潮や津波の来襲頻度も高い等、水災害・土砂災害の危険性が高いという地理特性下にある。しかし、利用可能な土地は限られており、河川氾濫原、土砂災害危険区域に人口、資産及び社会の中枢機能が集中している。

 我が国の治水の整備水準はいまだに低く、計画想定を上回る規模の豪雨等により、大規模な水災害・土砂災害が発生する可能性は常に内在しており、災害と共存せざるを得ない現状にある。

 仮に、利根川・淀川などの大河川の氾濫、同時多発的な土砂災害等などの大規模災害が発生した場合、我が国の社会経済活動は甚大な打撃を受け、その影響は世界経済にも及ぶ可能性がある。治水事業の本来の目的は、このような被害を最小限にくい止めることであり、そのためには、阪神・淡路大震災、雲仙普賢岳噴火等の経験や情報処理技術の進歩等を生かしつつ、住民と関係機関が相互に連携、協力し、それぞれの責務を担っていくことが必要である。

 危機管理小委員会では、平成9年8月から7回にわたる審議を行い、水災害、土砂災害の危機管理のあり方についてとりまとめを行った。

 

1.危機管理の現状と課題

(1)
 防災計画は市町村単位で策定されており、市町村の範囲を越える大規模な水災害・土砂災害を想定した広域防災体制が確立されていない。

(2)
 都市部を中心とした地域コミュニティー活動の衰退とともに、住民の防災意識が希薄化しており、地域における自主防災機能が脆弱化してきている。

(3)
 気象庁や河川管理者である国、都道府県からの情報を受け、市町村長が住民に避難勧告や避難指示等を行うこととなっている。しかし、判断基準が未整備であったり、具体的なものとなっていないため、市町村長が判断を逡巡する場合がある。また、勧告・指示を出した時に避難行動をとらない住民がいる。

(4)
 市町村ごとに洪水ハザードマップ、土砂災害危険区域図の作成・公表が始まっているが、災害に関する情報の住民への事前提供はまだ不十分である。

(5)
 防災・医療・福祉等の専門家がボランティアとして迅速・組織的に活動して、多数にのぼる被災者に的確できめ細かな対応するための体制が確立されていない。

(6)
 水災害・土砂災害を考慮して土地利用を行うことは、一部でしかなされていない。

 

2.危機管理施策の4つの基本的視点

責任・役割の明確化

 危機管理の基本は地域社会による自衛措置であり、住民や企業には自発的に警戒・避難活動を行うとともに、防災・減災活動に寄与するよう努める責任がある。市町村には地域防災計画を作成・実施する責務があり、国・都道府県には、市町村の防災業務の支援、関係機関との総合調整のほか、公共土木施設の管理者としての責務がある。また、マスメディアには災害回避・軽減及び被災者支援に役立つきめ細かな報道を一層充実させることが望まれる。

 住民・企業・マスメディア及び行政機関が、自らの責任・役割を明確に認識し、これに基づいて適切に行動することが重要である。

 

 

あらゆるレベルでの連携の強化

 市町村あるいは都道府県の処理・対応能力を超える大災害に備え、日頃より国、都道府県、市町村等の関係機関の連携を強化しておくことが重要である。

 また、災害時における危機管理について、行政、住民、マスメディア、ボランティア団体等のあらゆるレベルでの連携を強化することが重要である。

情報の開示と共有

 国、都道府県及び市町村は、地域の危険度を示す水災害や土砂災害に係る情報を、日常から住民に積極的かつ徹底的に開示する必要がある。一方、住民は、行政機関から開示された情報に基づいて、自然災害の危険性を十分把握しつつ主体的に判断し、自己責任の下で災害と共存していくことが求められる。

日常に根ざした危機管理

 災害発生時に行政機関や住民等が的確に行動するためには、日常からの備えが必要である。このため、学校教育や地域の社会活動における防災教育、防災訓練の充実強化により、防災意識の啓発と高揚を図っていくことが必要である。

 また、地域社会による自主防災活動を円滑に実施するためには、活力ある地域コミュニティーが形成されていることが不可欠である。

 

3.危機管理施策の展開

 水災害や土砂災害の発生時の被害を最小限にくい止めるため、上記の4つの視点に立って以下の施策等を展開する必要がある。

1)
危機管理体制の整備

(1)
 広域的な水災害・土砂災害を想定して「危機管理協議会(仮称)」等を設置し、危機管理施策の推進を図る。

(2)
 複数の行政機関が連携して実効性のある防災・減災活動を行うための広域防災計画を策定する。

(3)
 災害類型(洪水、土砂災害、津波、高潮等)に応じて共通・標準化された防災・減災マニュアルを作成する。

(4)
 行政機関職員や登録ボランティアのための危機管理研修の充実を図る。

2)
災害情報の開示と共有

(1)
 大河川の破堤時における氾濫流の到達時間、浸水深、湛水期間等の災害情報をきめ細かく提供する。

(2)
 浸水予想区域、避難経路、避難場所等を記載した「洪水ハザードマップ」、土砂災害を被るおそれのある個々の家屋が判別可能な「土砂災害危険区域図」等の情報を住民に提供する。

「洪水氾濫情報の所在地情報」 https://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/tisiki/syozaiti/syozaiti.html

(3)
 マスメディアの理解と協力を得て、また、ダイレクトメール、インターネット等を活用して、災害情報を直接住民に提供する。

(4)
 災害発生時において、洪水の氾濫流の予測情報、火山災害の予想区域図等の予測情報を適時に作成・公表する。

情報の開示(利根川の氾濫シミュレーションの例)

3)
避難誘導体制の確立

(1)
 市町村は住民に対する避難勧告・避難指示の明確な基準を設定し、地域防災計画に反映するとともに住民に周知する。

(2)
 周辺市町村とも協力しつつ、安全で衛生的な避難場所及び避難経路を確保する。その際には民間施設の活用、避難所での生活維持についても検討する。

4)
氾濫流、火山泥流等の制御による減災

(1)
 二線堤防や既存の鉄道・道路の盛土等を活用した氾濫流の拡散制御などの減災対策について検討し、広域的な水災害や土砂災害に対する防災計画に反映する。

5)
日常に根ざした危機管理

(1)
 防災意識の啓発・高揚を図るため、住民参加型の防災教育や防災訓練等の充実を図る。また、地域のリーダー的役割を担う人材への実践的な研修等を支援する。

(2)
 行政側、ボランティア側の双方において、活動を調整するコーディネーターの人材養成に努めるとともに、コーディネーターを組み込んだ対応システムの確立を図る。

(3)
 高齢者、障害者など特別な配慮を必要とする人々への対応について、日常から専門家と連携する等、必要な対応を防災計画に位置付けて実施する。

6)
災害に強いまちづくり

(1)
 市街化区域の指定、都市山麓におけるグリーンベルトの整備など、都市行政・住宅行政等との連携により災害に強いまちづくりを進める。

(2)
 ライフライン施設、地下鉄及び地下街等の水没、埋没を防ぐため、止水板の常備、排水ポンプの強化等の対策を実施する。

 

4.引き続き検討すべき危機管理上の課題

1)
災害に強い土地利用への誘導

 大河川の氾濫や、大規模な津波・高潮、広域的な土砂災害等の大災害においても被害を最小限に止める土地利用のあり方について、建築物の移転を含めた土地利用形態の抜本的な再編の可能性などを含め新たな施策の展開を検討する。

2)
広域防災機構の創設

 危機管理体制の一層の充実を図るため、米国の連邦危機管理庁(FEMA)のような常設の広域的な防災機構の設置が望まれるが、その求められる機能、組織、人員の配置・人事システム等について詳細に検討する。

3)
地下鉄・地下街や自動車等の新たな危険への対応

 社会形態の変化に伴って発生する、地下鉄・地下街等の地下空間における水災害や、災害時に自動車が災害を拡大するなどの新しいタイプの災害への対応について検討する。


「水災害・土砂災害の危機管理」報告




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