【嶌委員】
嶌です。よろしくお願いします。僕は、観光地域というのが、バブル崩壊後、あるいはデフレ時代になって大きく変化したと考えています。湯布院、黒川、津和野、長浜、会津、奥飛騨、富良野、網走など、言ってみれば交通の便は必ずしも良くない所にたくさんの人が行くようなり、かつての熱海や有馬温泉、登別など、その地域の有名な温泉地というのは衰退しています。例えば熱海のお宮の松があるところには10軒ぐらい有名な旅館があったそうですが、今残っているのは2、3軒だそうです。それほど激しい衰退をしているというのが現状です。
その背景は何かというと、それは物を重視する時代から、感性やライフスタイルを重視する時代に入ったということです。僕が調べたところでは、車からテレビから、大型冷蔵庫から、電気洗濯機やら、小さいころに欲しいと思っていたものは大体1980年に揃いました。1980年になくて今あるものは、携帯とパソコンだけです。だから携帯とパソコンだけが90年代に伸びたというのは、そんな理由があるわけです。しかも家が狭いから、もう車は3台置けない、テレビも3台置けないということから、もう物は要らないという時代になったわけです。80年までは奥さん方も家に物が欲しいために節約をし、お父さんが一生懸命外で働くのを支えていた時代だったと思います。そういう時代の旅行というのは、お父さんが中心でした。法人がそのお金を出していたわけです。企業が従業員、取引先、下請などの人々を大型バスで熱海や有馬温泉などの、効率の良いところへ連れて行って、一晩どんちゃん騒ぎをやって、翌日ゴルフ大会をやって、2泊3日で帰ってくる旅行でした。そこで変なおみやげ物を持って帰るとお母さんに怒られて、こんなセンスの悪いものはとても置けるところはないよと、どうしても置きたかったら何か捨てなさいと言われるのが落ちだったわけです。
時代は物から感性、居心地のよさ、センスなどに変わってきています。ところが、古い旅館地帯は、そういうことを見落としていて、相変わらずバブルの時代が続くし、バブルが崩壊してもまたもとに戻ってくるというふうに思っていたのではないかと思います。ところがバブルが崩壊してみると、法人はもうそういう接待はほとんどやらなくなりました。ウイークデーにゴルフ接待する企業もなくなりました。今リストラや何かしているところですから、接待などの旅行はほとんどなくなってしまいました。それが既存の大観光地がつぶれてきた大きな誘因だと思います。
今旅行しているのは、個人であり、とくに女性とワシモ族と呼ばれる60代、70代の男性です。8割が女性と言って良いでしょう。この女性たちはカルチャーセンターグループ、ボランティアグループ、アルバイトのグループ、趣味の仲間、あるいは学校時代の仲間などです。3万円から5万円の間で2泊ないし3泊4日の旅行を年間にで4〜5回旅行しているそうです。海外旅行は、大体2年に1回行くそうです。アルバイトを1週間に1回やって時給800円もらっていれば、1日5〜6,000円になって、月2万円で、年間で20数万円ですから、自分のお金で行けるわけです。子供も大体中学校卒業してくれば自由になってくる。これは地方へ行っても、あるいは都会でも同じです。では70代、60代の男性はなぜ来ているかというと、女性同士が旅行しているときには留守番させられてしまうわけです。でも毎回、毎回留守番なのは嫌だから、たまにはわしも連れて行ってくれよというので、ワシモ族と言われています。このワシモ族が2割ぐらいと7〜8割の女性がいるというのが今の旅行の実態です。
若い人たちは、スキーに行く場合でも、札幌か蔵王か長野かという発想ではなく、札幌か蔵王か、あるいはカナダかニュージーランドかアルプスかという単位でものを考えています。値段もそれほど変わりません。僕はそういう発想でとらえることが、大事だと思います。この統計にありますように、海外旅行人口は2000年には1,782万人とバブルが崩壊してからもどんどん増えています。しかしこの中身は法人やサラリーマンなどの男性ではなくて、女性やワシモ族が中心になってきているというのが原因なのではないかと僕は思います。サラリーマンが旅行に行けるのは、ゴールデンウィークとお盆のときと正月のときだけです。安い時には、女性やワシモ族が旅行しているのが実態ではないでしょうか。
海外からの観光客が少ない理由はプレゼンテーション力の弱さだと思います。海外からの観光客はイタリアやフランスに較べて日本は10分の1以下です。例えば登別では台湾と香港に出店して、直接宣伝をしたために、台湾や香港や東南アジアの人たちが非常に増えました。
例えばドバイはヨーロッパから見ると、ニースに匹敵するような、中東最大の貿易地であり、中東最大の観光地です。飛行機で降り立とうとすると、熱海と香港とハワイが一緒になったような、ネオンサインがバーッと輝いています。ゴルフ場もあり、買い物は世界一安く、金のお店も何千とあります。日本にもドバイ観光局というのがあります。ドバイは、アラブ首長国連邦の都市ですが、国の大使館とは別に、日本も含めて世界20カ所ぐらいにドバイ観光局というのを置いて、観光客を集めています。そういうプレゼンテーションがすごいのです。
もう一つの例ですが、アメリカの南北戦争の跡地には大砲が置いてあるだけです。行ってみて損すると思うのですが、年間に多くのアメリカ人が訪れています。それはやはりプレゼンテーションの力だと思います。
それに対して日本というのは、インフラがあまりにも悪過ぎます。まず道路はあまりにもひどい。僕は10数年前からいつも言っているのは、道路に名前がないことです。ヨーロッパやアメリカでは、どんな袋小路だって道路に名前がついているので、地図さえあれば個人やレンタカーでも旅行できます。しかし東京では、おそらく九州から来た人に、世田谷の家を探せと言っても探せないでしょう。道路に全部名前をつけろと10数年前から言っていますが、だれもやってくれません。改めて僕はここでお願いしたいと思います。
それから言葉の問題もありますし、物価が高い、公衆トイレなどがきちんとしてないことも問題です。女性はトイレが汚いところへは絶対行かないといいますからね。トイレをきれいにするというのは最大の問題です。
交通、特に飛行機と自動車とか飛行機とレンタカーなどの連携も悪過ぎます。これらが日本の弱点だと思います。
もう一つの弱点は、付加価値のつけ方が下手なことです。
この間、柳川に行きました。柳川には掘り割りが沢山あって、家と庭が掘り割りで隔てられています。自分の庭を手入れするときには、ボートを漕いで向こうへ行って庭の手入れをして、自分の家から庭を眺めているわけです。そんな洒落た発想をするような国が日本なのです。川沿いに良いレストランだとか庭園などがあれば、おそらくベニスに負けないぐらいの格好良い町になると思いますし、白秋が生まれたところでもありますし、いろんなものがいっぱいあるわけです。しかし、そういうことはほとんど知られていません。
網走というのは最近観光地で有名ですが、氷の音を聞くと何となく居心地が良い、安らげるというので、今や網走に氷を見にいく人が年間10万人ぐらいいるわけです。こんなことは今までありませんでした。これはまさに感性が変わってきて、付加価値のつけ方が変わってきたということです。そういうことがこれから大事だと思います。
例えば堺ですが、映画のイメージでは掘り割りがあって、茶室があって、と思いますが実際に堺に行ったらそんなもの何も見られません。僕は千利休の墓を一生懸命探しましたが、高速道路の真下にあり、唖然としました。そういうきちんとした付加価値のつけ方がないわけです。
それから、名古屋に行っても、文化も何もない。考えてみれば、関が原、徳川家康、豊臣秀吉などみんな名古屋周辺から出ているわけです。「利家とまつ」は、みんな名古屋、琵琶湖の周辺の話ばかりです。ところがそういうものは全く整備されていません。これらの整備をきちんとするということが、僕は大事だと思います。
そういう意味で言えば、僕はイタリアを見習えと言いたいです。イタリアはどんな地方都市に行ってもすばらしい。例えばソレント、ポジターノ、アマルフィ、シエナ、中田や中村が行ったペルージャや、レッジーナ、パルマなど彼らがそれらの都市へ行くことによって紹介されると、ああ、こんなに良い都市なのかということがわかります。そしてイタリアには中小企業の空洞化はないし、地方の衰退もありません。それはやはり観光などを中心にして、きちんと生きていけるからだと思います。それなりの食事やサービスやセンスの良いみやげ物を持っているために、イタリアはどこへ行っても良いわけです。
僕は観光地というのは、これからの日本の地方の地域おこしの柱だと思います。これからはアグリビジネス、環境やバリアフリーなどの発想からつくられた公共事業、介護、シルバー産業などが、地方が活性化していく大きな柱になってくると思います。観光というのはその中でも大きな柱になるのではないでしょうか。観光産業の生産効果は53兆円、雇用は422万人、日本全体の生産額の6〜7%、雇用も6〜7%あるということを考えれば、相当大きな魅力のある産業だということを、もっと考える必要があると思います。
そのためには構想力とか志が必要です。3,300市町村ある中で、この半年間で有名になったのは、中津江村ですよね。あの中津江村の村長の構想力と志はすごかった。中津江村は、4年後のワールドカップまでまず忘れられないと思います。その4年間に中津江スイカだとか中津江メロンなんかつくったら、僕は間違いなく売れると思いますね。
自立した構想力や志が大事だと思います。日本には、自然とか歴史とか文化とか伝統とかアウトドアのスポーツだとか、実はものすごく良いものがあるのに土地の人が気がつかない。これに気がついて、プレゼンテーションするということにすれば、僕は幾らでも観光大国になるチャンスがあると思います。
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