会議記録


6.討論(2)

【隈部委員】
 私はこの1年ぐらい割合国内旅行をしておりますので、なぜ観光大国になれないかということについての感想を3つ申し上げたいと思います。
 1つは、非常に観光するのにお金がかかります。非常に高いと思います。これが国際基準まで下がらないと、外国人観光客も日本人もあまり観光できないと思います。大体1日4万円、5万円がすぐかかるような観光地が非常に多いと思います。例えば、全国に素晴らしい美術館などの箱ものがありますが、結局その箱ものをつくるのにお金を使ってしまっているので、入場料が1,000円〜1,500円かかります。これを見た観光客が入場をやめてしまう風景を最近よく見ます。これはここ1、2年のことです。
 2番目に、男性の方はお盆だとか、ゴールデンウィークにお出かけということですが、他の時に旅行に行きますと、観光地でも今、人がおりません。最近は女性でもあんまり人がいないので、危ないので出来るだけ人がいるときに行きましょうという人たちが増えていると思います。
 3番目に、ここ10年ぐらいは全国的に旅行に関しては女性をターゲットにしてと言われていることだと思います。その結果として、女性だけが楽しめるようなお土産物店などが各地でできておりますが、それでは男性はおそらく楽しめないと思います。結局観光に関しては、日本では男女が分断されていて、男性は男性で法人的な温泉だとかそういうところへいらっしゃる、女性は女性でお買い物を中心としたきれいなトイレのあるところに行くと、分断されていると思います。私が希望することは、将来的には男性も女性も一緒に旅行ができるような文化を育てていただきたいと思います。イタリアは多分男女が楽しめるような観光地になっているのだと思います。理想的なのは、男女がともに旅行して、男性がお金を払うというのが一番理想かもしれませんけれども。ワシモ族だけと旅行している女性というのは、まだ一つ足りないものを感じているのではないかと思います。


隈部委員
【澤登委員】
 私は、やはりこれからは、人々のキーワードは「贅沢な時」だと思います。「贅沢な時」は、個別にいろいろあって良いわけで、私自身でも非常に観光化したところでうんと贅沢なこともしてみたいし、何か山の中でも過ごしたいと思いますが、その「時」というものが非常に大切になってくるような気がします。そういう流れの中で見てみますと、今まで無機的なものをつくってきてしまったということで、これからは有機的な関係というか、何かが生み出していける可能性というものが非常に贅沢な場面になると思います。
 例えば少し観光と離れますが、つるしの既製服とオーダーメイドの違いみたいなものです。例えば家でも、建て売り住宅などつるしの感覚でものを買ってきたわけです。あるいは観光旅行も、全部お金で買えてしまうという意味で無機的なつるしの関係だったわけです。それは産業側から見た消費の場としてのモノの渡し方だったと思います。
 沖縄のあるところで、海辺に貨車のコンテナだけを置いて、朝からおいしいコーヒーを飲ませる場所があります。そこで何人かで旅行したときに、ある中高年の男性が自分はすごくジャズが好きなので、ジャズを聞く掘っ立て小屋をつくれないかなという話をしていました。地元の人に渡してしまって、鍵もなくても良いような小屋です。逆に地元は実は知恵や専門の技術を持っている人が来てくれないかなというんです。そして一緒に何かを起こす力を渡してほしいと。片方の中高年の男性は、週3日とかちょっとだけ働いて還元しながらいきたいと考えているわけです。私はそこからドラマが始まってくるような気がします。
 多分これからは発想を変えて、生活者がもっと「贅沢な時」を過ごすために様々な選択肢があって、いろんなところに動き回れることを求められているのではないでしょうか。そしてそこには、先ほど林さんがおっしゃったコミュニティビジネスが受けていくのも良いでしょう。旅行なら旅行ということをテーマに、各々が新しいものを「生み出せる可能性の場」をつくっていったほうが良いと思います。住まいでも最近ではオーダーメイドの家をつくりたい人が増えてきています。需要者と供給者が直接関係するような動きが大変成功しています。観光旅行も例外ではないでしょう。今までの発想を変えて、ソフトを重要視し、作ってきたハードの施設を活かすことを考えた方が良いと感じました。

 

 

澤登委員

【石井委員】
 観光や余暇と生活に関しまして、私は赤坂で暮らしているものですから、その話をさせていただきたいと思います。今私達は赤坂4丁目に150〜160メートルという超高層の540軒の集合住宅を計画しておりまして、それが来年着工というところまできました。ここでその紹介をさせてもらえたらと思います。
 これは一ツ木通りというところの街路灯ですけれども、赤坂だからクヌギの丸太でつくっています。赤坂は不思議な町でして、愛子様がお生まれになったときも、私たちが1,000個ちょうちんを買いまして、ちょうちん行列って何だろうかとか考えっこなしに、自然とちょうちん行列をしました。赤坂はそういう街です。
 この集合住宅では、子供たちがエレベーターに乗ると、そのまま青山通りへ出ていってしまいます。お母さんはそれをすごく警戒しますので、家から出さない子供になってしまうわけです。そうするとガキ大将に対するつき合い方とか、そういうことを知らない子になってしまうので、エレベーターに乗らないで良いように庭が欲しいということになり、4層に1つずつ、10個の空中庭園をつくりました。今ここに桜を植えようとしています。上の方は遅咲きの北海道の桜を植え、下の方にはソメイヨシノを植えます。立体的な桜前線を作ろうと考えているわけです。こちらは全部野菜畑にしまして、産地直送ということで330の店舗が集まって、今、1店舗出そうとしています。しかし、超高層住宅であっても、自然があるという新しい時代がくるということでは、赤坂の方たちは同意して下さいません。最終的には庭つき木造一戸建てで超高層をやるから勘弁してくださいと一生懸命お願いしまして、80何歳の方が、そういうことならやろうと言って下さいました。やっぱりプライバシーとか何とか、そういう今までの集合住宅の論理というものは赤坂に合わないのです。ということで、超高層住宅だけど庭つきにしまして、一家に1本丸太を立てることにしました。そうしますと、外から見ると、丸太造のような超高層住宅になるわけです。
 超高層を見たときに緑が見えるというのはやっぱり良いことですよね。超高層を見たけれど、緑が目に見える、桜が目に見えるという少し余裕があるという超高層にしたいと考えています。



石井委員

【嶌委員】
 皆さんのご意見を聞いて参りましてやはり世の中、ゆったりとのんびりと居心地の良い場所を求め始めてきているのかなと思います。昔の農村というのはすごく良いものがたくさんありましたが、高度成長のために、農村から米を送り、人を送り、そしてそこで働いて出稼ぎにいって田舎にテレビや車や何かを送っているうちに、子供たちもやっぱり都会に住んだほうが良いと考えるようになった。その結果、田舎は過疎化してせっかくある伝統や文化などそういう歴史的な名所をこわしたり、磨かないできてしまったのだと思います。
 僕は、イタリアは、日本とは全く別の道をとってきたのだと思います。日本でも昔の街をこわさなかった地域が今蘇ってきています。例えば長浜は、黒壁の町がずっと残っていたので、あれを生かそうというふうになったんだろうと思いますし、黒川温泉なども行政や県のお金を借りるのではなく、自分たちで日本の原風景をつくるということで、自分たちでお金を出し合って原風景を作っているから、湯布院以上に有名な温泉場になってしまったというようなこともあると思います。
 先ほど出ました、日本には歴史がないという話は、逆に言うと、世界に対して日本の教育のプレゼンテーションが悪いということでもあると思います。もっと日本の歴史とかそういうものをプレゼンテーションすれば良いと思います。例えば陶器でいえば、安土桃山時代の陶器なんかは圧倒的に日本はすぐれているわけです。北斎だとか写楽だとか、歌麿の絵というのは、近代絵画のいわば基礎みたいなものにもなっているし、ガーデンだって、庭なんて日本から出たようなものでしょう。僕はそう考えると、日本の中にはすごく良いものがあるのだけれども、それがヨーロッパやあるいは欧米にきちんとプレゼンテーションされていないというところがあるのではないかと思います。
 先ほどの桐箪笥の話もありましたが、その組み合わせの仕方が、今までの行政のやり方や、今までの発想の延長でやっていると、多分なかなかうまくいかないなと思います。その発想を変えるということが、大事なのではないでしょうか。
 今後観光に関しては、基本的には自分たちで良い場所を、自分たちの良いところを見つけてやっていくというのが、基本だという感じを、皆さんの意見を聞いていて思いました。



嶌委員

 

 

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