【林委員】プレゼンテーション資料はこちら
ちょうど嶌さんから最後に「観光は地域おこし、活性化の柱になる」というお話がありまして、嘘のようにつながりがうまくっていると思いました。
今日ご紹介するのは、新潟県の岩船郡という県北での、地域おこしのチャレンジから、自然に生まれ出した観光の動きです。勇ましくグローバルエコノミーみたいな形で日本の経済を救うとという話ではなく、むしろローカルエコノミーで、非常に地味だが幅広い面で下支えをしている活動の中からいろいろ光るものが出てくるというようなところを取り上げています。
大化の時代にこのあたりに「都岐沙羅柵」というのがあったという話が『日本書紀』にあり、都岐沙羅という字はなかなかきれいだということで、この地域の愛称になりました。
新潟県が90年代の初めにニューにいがた里創プランという補助制度をつくりました。この制度は今の言葉で言うと、総合補助制度です。縦に割ってないということです。これが非常に重要です。
熱意ある広域圏から自分たち独自の提案をしてもらい、かつ県のほうも、これならというところに、10年間で総事業費は10億円程度、6割は県が補助金を出すというものです。今6つぐらいそのプロジェクトに名乗りをあげた地域がありますが、それぞれ全く違う内容のことをやっています。十日町周辺のように大地の芸術祭、地域自体を博物館のようにする活動をやったものもあります。この岩船地域では、自分たちの地域の、自分たちでやりたい仕事の提案をして自分でやるというものに対して公開審査をして、種まき部門に5万円、発芽部門に20万円、さらに開花部門には100万円から300万円を、3年を限りとして出すというものです。このプランをみんな自分たちで発表します。日本人はなかなかものを言わないというのは嘘で、ここでは本当にはつらつと元気良く、5万円目がけたり、20万円目がけたりして、ファイトしていました。僕が大変びっくりして、ここはすごいねと言ったら、いや、日ごろは何も言わん地域だがなあと言っていましたから、自分たちの発想でこれができる、それを自分たちの発想のままに受けとめてもらえるというのがパワーの源になっているのではないかと思います。
この地域では、自分たちがいろいろ議論して、広がりのある公という考えを共通の理念にしています。中心的なサポートをする組織は、NPOで、民間の人たちが中心で、行政と対等の形で自分達のパブリックというものを作っていこうとしています。
これらのコミュニティビジネスの中から幾つかが集まって、これをサポートするシステムを地域でいろいろつくりました。自分たちでやるといってもかならずしも必要なノウハウがあるわけではないので、専門家やアドバイザーが必要だったら紹介したり、起業塾を考えたり、地元の信用金庫に事業計画をつくるのをずっとコンサルティングしてもらうなど行っています。それを2年ぐらいやっていたら、信用金庫が、自分たちは独自に無担保で500万までのお金だったら融資する仕組みをつくりましょうと提案してくれました。これは地域内循環を高める経済的仕組で、国際的にも重要な仕組として評価されているものの都岐沙羅版であり立派なことだと思いました。こういったマイクロクレジットが、地域おこしには重要な役割をするのです。このような動きをみて、これは面白い新潟大学などの研究室が応援に来るなど、だんだんネットワークが広がってパワーがついてくるというプロセスに入ってきています。
大体10幾つかの起業を目指す人たちが連合して町の中につくったお店兼交流の場所“穂!人”です。商品の紹介もやっており、地域の産品が外へ知られていく一つの拠点であると同時に、日常的な交流の場としても機能しています。ここは地域的には非常に閉じた世界だったところから、小さいけれどもいろんな活動が出てきて、それを通じて開かれた世界、あるいはみんなのコモンズのようなものが町屋の中に発生するというふうなことになってきました。
また観光としては、見る観光から体験する観光へというので、日常自分たちがやっていることを現場で一緒に体験してもらい、それを通じて人と人の交流をするということをやろうとしています。体験観光の中身の例ですが、藻塩という海水をかけて塩をつくる体験や、みそづくり体験、伝統食の開発、繭の工作など多様なプログラム開発が進んでいます。
体験観光と直接関係はありませんが、町屋の魅力を町の魅力に結びつけるために町屋商人会による人形様めぐりが一昨年から始まりました。町屋の中の奥座敷に毎年3月、1ヶ月間飾るおひな様や、人形を展示しています。これは大変な評判になって、この3年で3万、5万、10万というように観光客が増えてきました。
これらの試みを行った結果、いろいろな活動から盛んに自己増殖的に地域独自のシステムをつくっていくという格好で、地域の力がどんどん上がってきています。
|