ひるぜんワイナリーは、1987年以来、山ぶどう(「山の葡萄」を意味する)と呼ばれる野生のブドウの一種から、ユニークな地元のワインを製造してきた。
山ぶどうとは何か?
山ぶどう(ヤマブドウ)は、小粒の酸味のある果実をつける、英語でクリムゾン・グローリー・ヴァイン(crimson glory vine)と呼ばれる植物の一種である。この植物は全国に自生しているが、蒜山では気候が異なるため、より濃く、少し甘いブドウを生産する。ブドウの実の一つ一つは、直径約1センチメートルまで成長し、大きい種子がいくつか入っている。そのため、このブドウの実は、他で栽培される種と比べ、果汁の量が大幅に少ない。しかし、その果汁は、非常に多くのポリフェノール(健康に関する様々な恩恵をもたらすと言われる抗酸化物質を含有する)を含む。
どのように生育するのか?
ワイン生産のために山ぶどうを育てる際の栽培方法を決める取り組みは1979年に始まり、それ以降、長期にわたって試行錯誤が繰り返された。初めの一歩は、基となるブドウの木を選ぶことであった。蒜山の周りに自生する約1,000本のブドウの木から、糖度が最も高く、酸味が最も少ないものを選び、栽培に使用した。ブドウの木を選抜するのにおよそ10年の歳月を要した。
また、ブドウの木を植えた後、成熟し、果実をつけ始めるまでには、さらに5年が必要であった。そして、蒜山の大雪の中でもブドウの木が生き残れるよう、つるだなで管理する最も効果的な手法を見つけるには、長い時間がかかり、多くの失敗も経験した。多くのぶどう園では、いくつかの縦の列に分けて木を植えるやり方が一般的だ。しかし、蒜山では、高さ約2メートルの水平なつるだなにおいて、複数のブドウの木が一緒に生育するよう促している。木が雪の吹きだまりの中で凍ってしまうのを防ぐ工夫だ。
ひるぜんワイナリーでは、現在、ぶどう園の敷地として8ヘクタールを確保し、毎年、18~20トンの山ぶどうを生産している。しかし、ここに生えるブドウの木は、通常の剪定や監視だけでなく、つききりの世話を必要とすることさえある。例えば、栽培されるブドウは、ほぼすべて、花に雄雌両方の部分があるため、自ら受粉することができる。一方、山ぶどうの場合は、雌雄異株である(すなわち、木によって、雄雌どちらの花が咲くかが決まっている)。雄の植物は果実を作らないが、授粉のためには、近くで栽培しなくてはならない。この、雌雄異株の性質は、全体の生産量を低下させるもう1つの要因となっている。生産量を増やすため、作業者の手で、できる限り多くの雌花が受粉するようにしておく必要がある。
生産するワインの種類は?
ひるぜんワイナリーは、山ぶどう100パーセントの赤ワインとロゼを作っている。また、ブレンドした商品もいくつか生産している。例えば、ヤマソービニオンの品種もの(山ぶどうとカベルネソービニヨンの異種交配種)と混ぜた赤ワインや、神戸のシャルドネのブドウと混ぜた白ワインなどである。生産は現代的なステンレスの発酵タンクで行われるが、赤ワインの熟成には、ブドウの濃厚な味わいを引き出すのに特に適したフランスのオーク樽を用いている。最終的に製造されたワインは、深い色合い、驚くほど少ないタンニンと、長期熟成にふさわしい強い酸味を特徴とする、濃厚な味わいに仕上がっている。
近年、ひるぜんワイナリーの山ぶどうのワインは、ジャパン・ワイン・チャレンジで頻繁にメダルを獲得してきた。この自生植物を栽培しようという、40年にわたる過程が成功を収めたことの証しである。