建設産業・不動産業

Ⅱ 建設業における組合の必要性と存在意義



1 建設業と組合組織の役割
 
 中小企業は、一般的に、小さいながらも社長としての地位を重要視し、より大きい組織のナンバー2に甘んじることを好まない傾向があるといわれている。中小企業が多くを占める建設業においても、従来から独立意識が強いといわれ、組合組織を形成しても具体的な共同事業を効果的に実施することは不得手であると指摘されている。
 しかし、組合を設立することにより、単価の高いものが多い建設資材や建設機械器具について大量購入のメリットが受けられ、共同購買や共同利用による大きな効果が期待できる。また、それぞれの企業力を結集した共同受注事業の実施により、大規模かつ高難度の工事の受注が可能になる。
 このように建設業においても共同事業の需要は確実に存在し、その期待も大きなものがある。組合員のニーズを正確に捉え、適当な事業を選定し、適切な方法で行えば、組合員の組合事業に対する依存も高まり、組合の存在価値もますます大きく膨らんでいくと考えられる。
 また、建設業においては、元請下請関係の適正化が大きな課題となっている。これは元請と下請間の力の差から諸々の問題が引き起こされていると考えられているが、下請業者においても、適正な契約を締結しようとする毅然とした意識を持つことが大切であり、組合は、組合員が適正な契約に向けて取り組むように啓発することができる効果的な組織である。
 さらに、事業協同組合は、団体として交渉力を強化し、組合員に代わって取引の改善を求めていくことができる組織である。つまり、積極的に業界の共通意識の代弁者としてリーダーシップを取っていくことができるのである。このような元請下請関係の改善は、個々の企業の努力はもちろんであるが、業界が一丸となって取り組んでいくことにより、さらに改善への道が開かれているといえる。ただ、事業協同組合は独占禁止法の適用除外とされているが、「不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」(独占禁止法第24条)は適用対象となるので、慎重に対応する必要がある。
 
2 専門工事業の地位向上と組合
 
 建設業には多くの専門工事業が存在し、その中にはさらに細かく色々な工法が存在している。そしてその中には、建設工事を完成させる過程において重要な部分を担っている工法であるにもかかわらず、発注者や元請から十分な信頼が得られていないものもいくつか見受けられる。
 その原因としては、その工法についての実務書や共通仕様書等が作成されていないことや、各地方や企業間において技能者の施工能力に差があることなどが考えられる。
 このような課題に対しては、組合、特に事業協同組合やその連合会を活用して対処するのが効果的である。組合の活用により、実務や技術に関する教科書等を作成し、全国一律のレベルで施工できる優れた技能者を育て、発注者等に対し当該工法の重要性を十分にアピールすることが可能となる。行政庁の認可を得て法人格を取得し、社会的責任を負って活動している組合は、信頼度も違うのである。
 
3 人材育成と組合
 
 建設業は、他の産業と比較して労働集約的な要素が強く、機械化の進歩によっても人の手に頼らざるを得ない部分が大きい。建設業の技能者が行う作業については、製造業のように、工場内における定型化されたものとは異なる。高所における作業、大規模な重機の操作、工事中の第三者に対する危険回避や完成工事自体の安全性等、各専門工事ごとのマニュアルの完璧な修得にとどまらず、技能者自身による臨機応変な判断力を養っておくことも随所で要求されてくる。
 また、技術者においても、コストの縮減や工期の短縮、さらにはより安全かつ快適な工作物の作成等その重要性、期待性ェ増している上に、昨今の急激に増大している環境問題への対応等の社会的な要請に応えるためにも、日々山積する課題に向けての取り組みが必要となっている。
 このような要請に対しても、組合の必要性が認められる。
 研修会や講習会は、コスト等の面で、一中小企業ではなかなか充実したものを実施できないが、組合の財務力やノウハウを活用すればより一層効果的に行える。また、大学や研究機関の連携や調査研究事業を通じて個々の企業にはない最先端の技術や情報を集積している組合もあり、人材育成には積極的にこれを活用すべきである。
 
4 品質保証と組合
 
 建設生産物は、土木工事にしろ建築工事にしろ、完成までに多くの種類の専門工事業者が施工に携わっている。各施工業者のそれぞれの担当部分には最終ユーザーにはかくれて見えない部分があり、その安全性、確実性が別に担保される必要性が生じてくる。
例えばある建築物を購入しようとするとき、買い手にとって外見は明らかであるが、その建築中の状況や管理状況はわからない。つまり、その施工過程に関心を持たれることとなる。
 よって、より安全性に優れた建築物であるといえるには、一層技能者の責任施工が必要となってくることと同時に、その完成へ向けてのプロセスについて最終ユーザーが安心するような保証を与えることが重要である。つまり建築途中の品質管理を十分に行い、その結果を記録に残したり、建築過程についてユーザーが安心できるような十分でかつ明確な説明を行うこと等が大切である。
 個々の中小企業においては、なかなかこのような管理体制を構築できないが、品質保証の重要性を組合員に認識させ、啓発していく組織として組合は効果的である。
 また、現在ISO9000シリーズの取得を検討している企業も増えてきている。最終的には取得に至ることが望ましいが、契約過程の文書化や工事施工過程の明確化などの必要性は全ての工事に求められている。このような時代の要請に対しても組合が中心になって研究し、各組合員企業がそれぞれに適した品質管理体制を構築できるよう、リード、バックアップしていくことが求められている。
 品質保証に向けての事業は、ユーザーのみならず、組合員が技術と経営に優れた企業として発注者に多くの信頼を得るために極めて大切な事業である。
 
5 情報化と組合
 
 近年コンピュータと情報通信技術の進歩は著しく、多くの業務において情報化が進みつつある。設計や製図についてはコンピュータ化が主流になりつつあり、現在では情報機器の効果的な利用が確実に必要とされているといえる。
また、各種手続の電子化への動きは急速に進んでおり、建設業者においても着実に対応していくことが求められている。
 このような課題に対しても、組合の必要性が認められる。一中小企業では、OA機器を取得したとしても、なかなか効果的に利用できないところが多い。OA機器に精通した事務局員を組合に置いたり、講習会や研修会の開催により、組合員の情報化への対応を積極的に進めることが可能となる。今後一層、組合には情報化推進の旗振り役として期待される部分が大きくなろう。
 
6 改修工事の増加への対応と組合
 
 改修工事が増加してきていることは先に述べたとおりであり、専門工事業者への直接発注が多くなることが予想される。よって、中小専門工事業においても元請として活躍する機会が一層増えてくるものと思われる。
 専門工事業者が改修工事を受注した場合、自己の分野だけでなく、関連する分野との連携も必ず求められてくる。ここでも、組合の必要性が認められる。
 例えば、ある塗装を中心とした屋根部分の改修工事において、塗装工事業者が防水工事や屋根工事も行えるようであれば(その逆もあり得る)、一連の改修工事を一括して担当できるため、ユーザーからよい評価を得られるであろう。よって、従来から行ってきた自己の技術の範疇のみに専念するのではなく、関連する他の業種の技術を修得し、ある改修工事についてはオールマイティーな技術を持ち合わせることが非常に効果的になってきている。
 ここで、中小建設業者が、積極的に新しい分野への進出を図ろうとしても、情報力や資金力が十分でなく、その目標や指針を誤らずに設定したり、効率よく実施していくのは困難である。そこで、最先端の技術や多くの正確な情報を持ち、組合員をよりよい方向に誘導できる組織として、組合が効果的である。
 また、このような異業種分野間で連携を図り、得意分野を持ちより互いの不足を補いながら、共同して改修工事全般に対応することも考えられる。組合は、異業種間の効果的な連携策について研究する組織として、また、自ら共同受注事業を行い、改修工事を施工する組織として期待される部分が大きい。
 中小企業に対する施策の考え方が、業界全体の構造改善を目的とした設備投資等のハード面での支援から個別企業等の研究開発や新分野への進出というソフト面への支援へと移行してきており、中小建設業者も組合を活用した新分野への取組みの一環として、改修工事の増加に向けて積極的に対応することが望まれる。
 
 

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