建設産業・不動産業

Ⅲ 建設業の事業協同組合の活性化方策



1 組合組織のあり方
 
 近年は、組合員の経営に対する考え方の多様化、世代交代の時期とも重なり、組合に求めるものや帰属意識には変化が生じつつある。しかし、まだ親睦や人間関係に重きを置いた、いわゆるサロン的な組合も少なからずある。
 事業協同組合は、相互扶助を目的とした人的結合体であり、さらに地域や地縁的なつながりの強い組織である。このことにより、地域経済・社会に対し大きな影響力を有しているといえる。しかし、事業協同組合の本質は、組合員の事業を補完することにより、組合員の経営基盤の強化に資するとともに、その経済合理性を追求するための組織である。いわば、組合事業を効率的に実施することによって、組合員の経済活動を活発化させ、事業の利益に直結させることが本来の役割である。
 活動が停滞している組合は、この際、組合員のニーズにあった事業を行っているか、また、組合員企業の経済的利益に貢献しているのか等を再検討していく必要があろう。
 また、組合は大別すると地域における業界団体的性格を持ち、多数の組合員で構成する網羅型組合と、具体的かつ共通のニーズのもとに団結した比較的少数の組合員で構成する同志型組合がある。一般的に、網羅型組合においては、地域内の組合員の経営基盤強化のための活動に重きが置かれ、人材育成による技術、技能の向上や新技術、新工法の開発、さらには取引先に対する発言力強化のための事業が中心になっている。一方、同志型組合の場合は、共同受注、共同購買事業等の機動的な展開により、組合員企業の利益をより増大していくことが求められている。
 このように、二つの組織形態から導き出される活動の効果はそれぞれ異なっているが、活動が停滞している組合の中には、組合員が求めるものとそれを実現していく手段に齟齬を来している場合がある。このような組合は、目的及び組織形態や規模等について再検討する必要があり、場合によっては、網羅型組合の中でグループ活動を推進したり、ときには新たな組織を結成するなど、活性化のためにより柔軟な対応が望まれる。
 
2 組合運営とリーダーシップ
 
 事業協同組合は、組合員の協力体制なくしては活動し得ず、このため指導者のリーダーシップ能力が事業成果を大きく左右することが多い。
 組合が組合員のニーズを捉え、環境変化に迅速に適合した事業展開を図るためには、指導者の人的資質によるところが大きい。そこで、組合の指導的立場にある役員は、常に最新の情報を捉え、適切な対応策を講じていけるよう、前向きな姿勢が求められる。また、このためには組合事務局を活性化させ、機能させていくことも必要であり、この点においては優秀な管理者としての役割が求められるのである。
 成功している組合を見ると、必ず魅力あるリーダーが存在し、多くの組合員の信頼を集めている。このようなリーダーには、活性化に向けての強い情熱が感じられる。中には、自己の事業をある程度犠牲にしても組合に貢献する、といった意気込みで取り組んでいるリーダーも見受けられる。
 これからの組合指導者には、自分はなぜ組合に所属しているのかという、その理念と組合の存在意義を各組合員に認識させていくことが必要であり、そのためには、明確な目標と行動指針を示し、組合員がともに行動できる体制と組織風土を形成していくことが求められている。
 
3 事務局体制の強化
 
 建設業を取り巻く環境が激変し、組合員のニーズがより多様化している現在、組合の日常業務を確実に遂行するとともに、新たな事業を開拓していくためには、事務局体制の強化が必要である。組合事業の成功は事務局の充実如何にかかっているといっても過言ではない。また、組合には優秀な事務局長他事務局員の充実とそれに見合う報酬を惜しまない態度が求められる。
 事務局長を選定するにあたっては、その資質を十分検討の上判断することが求められる。事務局長には、日々組合員の本当のニーズを把握し、組合と組合の存在する経済環境との関係を分析することによって、常に新しい組合の事業計画を提供する資質が要求される。
 また、事務局員には、事務局長をサポートするための十分な力量が必要とされるのみならず、組合制度や組合の根拠法をよく理解し、正確な事務運営が求められる。
 さらに最近では、情報化の進展に代表されるように、さまざまな分野において非常に専門的な知識が必要とされている。各分野の専門職員を事務局に招致したり、既にいる事務局員を組合が教育し、専門知識を修得させることも求められてきている。
優秀で機動力のある事務局体制を整備することが組合運営の成功の大前提である。
 
4 財政基盤の強化
 
 組合は組合員のための組織であり、共同事業を効果的に実施することにより組合員の企業活動を支援していくのが本来の姿である。しかし、先に述べたとおり、一面では組合は経済合理性を追求する経営体である。事業を安定的かつ確実に実施するとともに、新たな事業を積極的に開拓していくためには、組合の財政基盤の強化が不可欠である。そのためには、事業開始当初より自己資本を充実させるため、まず組合員に必要十分な出資をしてもらうことが大切である。また、組合運営を効率的に行うことにより、組合の内部留保を高めていくことも要求される。
 また、賦課金総額の大きい組合の運営が円滑に進みやすいのは当然のことであるが、組合はそもそも中小企業の集まりであり、多額の賦課金を徴収しにくいきらいがある。しかし、固定費的な部分は賦課金で賄うという運営は最低限必要である。賦課金の徴収の必要性について、十分に組合員を納得させることが求められる。
 また、組合の財政力を強化していくためには、共同経済事業の活発な展開により収入の増加を図ることが求められてくる。しかし、各事業を積極的に展開するあまり、財政基盤を損なうことのないよう十分留意することも必要である。
 また、組合財産というものは集合組織体としての財産である。組合員数が急増、急減したりすることもあり、特に小規模の組合は、それによって組合財産が急激に変動することもある。よって、規模に応じた健全な財政運営を行うことが重要である。
 
5 共同事業の効果的展開
 
 近年は、共同事業についてのニーズが多様化している。組合としては、常に現在実施している事業に対する組合員の評価はどうか、運営方法に問題はないか等のチェックを行うとともに、各種委員会や部会を通じて組合員のニーズを探り出していく努力が必要となる。さらに、こうしたニーズに対応していくためには、組合にどのような資源(財政基盤、技術、情報、人材等)を確保していかねばならないか等について、理事会が中心となって検討していく必要がある。
 組合事業は、マンネリ化に陥らないため、また時代の要請に応えていくために、場合によっては思い切って廃止したり、新規事業の立ち上げ等を考えていく必要がある。今後の組合活動においては、機動的な共同事業の展開が求められてきている。
事業協同組合の原則として、「組合は、その行う事業によってその組合員に直接の奉仕をすることを目的とし、特定の組合員の利益のみを目的としてその事業を行ってはならない。(中小企業等協同組合法第5条第2項)」とされている。いわゆる「直接奉仕の原則」と「公平奉仕の原則」である。この2つの原則については、現在では次のように考えられているので、このような点も十分考慮して組合事業に関する基本方針を策定していく必要がある。
 
【直接奉仕の原則】
 
 直接奉仕の原則は、組合が組合事業自体の効果により組合員に奉仕することを求める趣旨であり、組合が組合自体の営利追求を行い、配当を通じて組合員に間接的に奉仕することを否定するものと解されている。
したがって、組合事業自体の効果によって組合員に奉仕する組合事業であれば、その事業の効果の及ぶ態様が波及効果であっても直接奉仕の原則に反しないと解されている。
 例:住宅関連工事の共同受注を実施している組合が、組合員の受注機会の拡大のため、県住宅公社の共同宿舎の管理を委託。
 なお、この場合においても、組合事業の目的が組合自体の営利追求との疑義を受けないよう、くれぐれも注意すべきである。
 
【公平奉仕の原則】
 
 公平奉仕の原則は、個々の組合事業それぞれにおいて、全ての組合員に対して奉仕することまでを求める趣旨ではなく、組合が全ての組合員を対象とした共同事業を適切に実施している場合においては、組合が一部の組合員を対象とした他の共同事業を行っても、その他の組合員を対象にした共同事業が別途行われる計画、仕組みとなっている場合には、公平奉仕の原則に反しないものと解される。
 例:異業種(例えば、機器加工業、運送業等)で構成される団地組合が、人材育成事業、情報提供事業、金融事業等の全組合員を対象とする共同事業を実施 する他、加工資材の共同購入事業、共同運送事業等、それぞれの業種だけで利用する共同事業を、それぞれの業種において実施。
 
6 各事業の活性化方策
 
(1)共同購買事業
 
 組合員が必要とする資材や機械等を組合がまとめて購入し、組合員に供給する事業である。これによって、仕入先との交渉力が強化されるので仕入価格の引下 げ、代金決済条件などの改善、購入品の規格・品質の均一化などが図れる。
 
【活性化方策】
 
 協同組合の事業のうち最もオーソドックスであり、スケールメリットを享受しやすい事業である。
 しかし、現在組合員のニーズが多様化し、共同購買事業の問題点として「組合員の要望する品目の一部しか対象にできない、対象品目を絞り込むことができない」という意見をあげる声が多くなっており、この事業が停滞している組合が見受けられる。
よって、共同購買事業を成功に導くには、組合員のニーズを的確に把握し、確実に対応していくことが必要である。また、取引先との信頼関係の確立や、安価で迅速に提供していけるシステムの構築なども大切な事項である。
 また、近年、情報通信技術の進歩により、建設資材メーカー等では通信ネットワークによる商取引の研究を進めており、組合もこうしたネットワークを有効に活用して、組合員の要求に応えていくことも望まれる。
 さらに、組合員の倒産等により代金の回収が不能になった場合に備えた債権保全のためのシステムを構築することや、個々の組合員の支払能力も正確に把握できる方式を確立していくことも必要である。
 
(2)金融事業
 
 組合員の事業資金の調達を目的とする事業である。組合が金融機関から資金を借り入れ、これを組合員に貸し付ける方法(転貸融資)と組合員が金融機関から直接借り入れる際に組合が保証する方法(債務保証)がある。組合と組合員のための金融機関として商工組合中央金庫があり、組合に所属していれば、組合員は直接商工中金から融資を得ることができる(直貸)。
 金融事業は組合の財政にリスクをもたらす場合もあり、安全性の確保は不可欠である。組合は組合員の返済能力についての信用面を正確に捉えておく必要がある。
 
【活性化方策】
 
 国土交通省においては、事業協同組合の金融事業に着目し、平成11年2月から、中小建設業者等への資金供給の円滑化及び下請保護等を図る「下請セーフティネット債務保証事業」制度をスタートさせている。この事業は、公共工事の請負代金債権の譲渡を受けて融資を行うリスクの低いものであり、このことにより、組合員への低利かつ安定的な資金供給が可能となるものである。対応可能な組合は積極的に利用されたい。
※下請セーフティネット債務保証事業
 公共事業を受注・施工している健全な中小・中堅元請業者から事業協同組合等へ未完成公共工事に係る請負代金の譲渡を認め、それを担保に事業協同組合等が元請業者に対して融資を行う。事業協同組合等が、銀行等の金融機関から転貸融資資金を借り入れる際、その債務保証を(財)建設業振興基金が行う。そして、事業協同組合等は、融資に際し、元請業者の下請業者への支払状況等を確認するとともに、万が一元請業者が倒産等の状況に至った場合には、事業協同組合等が元請業者に代わって下請業者への支払を行う。
 なお、事業協同組合が債権譲渡先として認められることとなったのは、事業協同組合は加入脱退の自由が保証されていること、組合員の経営状態を熟知していること、建設業に精通しており、工事の出来高査定や下請への支払事務を円滑に行える主体であること等によるものである。
 
 
(3)保証事業
 
保証事業については、次の二種類の実施方法がある。
①組合員の施工した工事が不完全であった場合、その瑕疵について組合が保証(金銭や役務)する方法(瑕疵保証事業)
②組合員が施工中に第三者に損害を与える等の事故を起こした場合に、組合が保証(金銭)する方法(第三者損害賠償保証) 
建設業の組合において、最近関心が多いのは瑕疵保証事業である。これは、顧客に対しより一層の安心、信頼を与え、受注の拡大につながるというメリットがある。
 
【活性化方策】
 
 建設業の成果物はユーザーに長期的に使用されるものであるのが特徴である。瑕疵保証事業は、特に長期的な品質保証が必要とされる防水工事や板金屋根工事等において効果的に機能している。組合員の工事を組合が保証することは、組合員自身の施工技術も、組合に迷惑をかけないようにとの努力の結果、向上するなど相乗効果が期待できる。
 ただ、保証事業に万全を期するため、組合による組合員の工事検査を実施することが必要となる。組合の検査とはいえ、結局は同僚の組合員が検査することであり、感情的なしこりを残すようなこともあるので、検査の実施基準を明確にし、組合の検査員としての立場を組合員に十分に理解させることが大切である。検査事業が効果的に実施されるようになれば、各組合員の工事の品質も向上する。
 また、最初は、組合の得意分野の工法を使用する工事に限定して保証し、事業が軌道に乗ってきたら、組合員の全ての工事に拡大して保証するという方法で成功しているところもあり、参考にすべきである。
 単位組合の保証を連合会が再保証し、さらに再々保証として損害保険会社と提携するといった方法で成果をあげているところもある。
 
(4)人材育成事業
 
 組合員をはじめ、その後継者、組合員企業の管理者、現場の技能者などを対象に計画的・体系的な教育研修等を行うことによって、人材を育成する事業である。
 
【活性化方策】
 
 人材育成は、企業経営の根幹をなすものだが、特に最近では、情報力、技術力等のソフトな経営資源の充実を図る必要からこの事業の重要性が高まっている。また、特に建設業は、特殊技術や安全性に関する知識の修得が不可欠な産業である。
 人材育成事業は、このように組合員のニーズが高い事業である一方、事業利益に直接結びつくものではない。しかし、後に大きな効果となり、組合員事業の利益として還元されるものである。
 また、最近の建設技術は急速に進化しつつあり、さらに環境問題対応のため、工法の限定を余儀なくされることもある。組合としては、最先端の技術情報を速やかに入手し、正確に組合員を教育することに努めるべきである。
 効果的に人材育成事業を実施するには、組合員を引き付ける一種の魅力的な要素が必要であり、より多くの組合員が研修会等に参加したいという意識を持たせることが大切である。例えば、研修会については、組合員のニーズを正確に把握するため恒常的にアンケートを実施している組合や、なるべく土曜、日曜日に実施するなど開催日に工夫をして成果をあげている組合もある。また、効果的に資格認定制度等を実施することにより組合員の志気を高めることも一つの方策である。
 
(5)研究開発事業
 
 組合が研究施設を設置したり、公的な試験研究機関等に研究を委託するなどにより、組合員の事業に関する様々なテーマについて研究開発を行う事業である。これによって、新技術、新工法の改善・開発等を図ることができる。
 
【活性化方策】
 
 中小企業全般に対する支援策が、設備投資等のハード面の助成から研究開発等のソフト面への助成に移行しているおり、そのための支援策も充実してきている。
 中小の建設業者においては、新技術に関する情報や研究材料の入手、また、研究開発のための資金も十分でなく、効率的な研究開発の実施方法に苦慮しているものが多い。組合は豊富な技術情報、多様な支援策等の情報、さらにはその資金力を利用して積極的に組合員をバックアップすべきである。また、組合で開発した工法は基本的には組合員のみが活用でき、他との差別化を図れることも重要なポイントである。
 研究開発事業を実施するには、組合に技術に関する委員会を設け、専門分野に精通した組合員が集中的に研究することが好ましい。効果的な委員会運営のためには、頻繁に集まること、自由に意見を言えるような雰囲気を作り出すことなどがその秘訣である。また、研究開発した新工法などは、実際うまく機能するかどうか最初は不安なものである。これを速やかに実行に移すバイタリティーと、そのための強力なリーダーシップも必要である。
 また、このような委員会に、大学教授等の学識経験者や、より進んだ技術を保有するメーカー等を積極的に招致し、詳細な意見を聴取して、確実な開発につなげていくことも必要である。
 造園業者の組合で、伐採した木片をリサイクルし、園路として敷設するという工法を開発しているところや、改修工事を行う組合で、タイル張りに一層の補強をもたらすため、アンカーピン付きのタイルを開発しているところもある。このように研究開発は、組合員が蓄積してきた事業の経験を最大限活かしていけるような分野にその活路を見出すことが、成果をあげる秘訣である。
 
(6)情報提供事業
 
 組合員の経営に役立つ需要動向、技術情報、業界情報、経営管理情報等を収集し、組合員に提供する事業である。さらに組合をPRするための情報を組合員や関係各方面へ提供することも大切な情報提供事業の一つである。
 
【活性化方策】
 
 情報提供事業は、一般消費者や発注者に向けての対外的な情報提供と組合員向けの対内的な情報提供の2種類に分けられる。
 いわゆる組合をPRするための対外的な情報提供については、インターネットのホームページ等を積極的に利用して成果をあげている組合が増えている。効果的な情報掲載は、発注者や一般消費者の興味を呼び、受注増にもつながっていく。
 組合員向けの対内的な情報提供は、金利情報のようにリアルタイムで必要とされる情報と機関紙等で余裕をもって対応できる情報があり、これらをよく峻別し、効果的に実施することが必要である。また、各組合員ごとに入手したい情報や入手したい時期が異なることもあり、組合員のニーズに確実に応えているかをフォローアップする必要もある。組合員に対し、どのような情報をどのようなタイミングで提供したらよいか頻繁にアンケート調査を行うことも一つの方法である。組合員からの諸々の質問に速やかに回答するため、組合にファックスを利用した情報ボックスを設置し、その要求に応えている組合もある。
 
(7)共同受注事業
 
 組合が、自ら工事を受注し施工する事業である。この事業が成功すれば、受注機会の拡大が図られるのみならず、個々の企業のみでは成し得なかったより大規模かつ高難度の工事への参入も可能になる。組合が共同受注事業を行うには、まず組合独自の技術者を擁して、組合として建設業の許可を得るとともに、受注した工事を確実に実施できる体制を整備することが必要である。
 事業協同組合の共同受注事業については、技術者の適正な配置を怠ったり、一括下請負について問題になった事例が見受けられ、その不良不適格性が指摘されることもある。しかし、一方で建設業法等の関係法規を遵守し、技術力の向上を図りながら確実に実績を残してきて、発注者から信頼を得ている組合も数多くある。
 組合は、受注体制、責任施工体制、経営基盤を確立させることはもちろん、優秀な技術者・技能者の活用により適正な共同受注事業を実施して、発注者から一層の信頼を得るよう努力する必要がある。
 
【活性化方策】
 
①共同受注事業を行うに際して
 
 建設業の組合の設立動機でもっとも多く見られるものは、「受注機会の拡大」であり、この目標を達成するには、共同受注事業を通じての受注の確保を行うことが必要である。しかし、この動機を掲げ設立した組合の目標達成度合は、他の動機のものに比べ、大きく下回っている。この事業を成功に導くためには多くの課題を解決しなければならず、周到な準備と十分な実施体制を整備していくことが重要である。
 共同受注事業を行おうとする組合は、まず「官公需適格組合」の証明を取得することが望ましい。また、取得しないにしても、これに準じた組織体制を整備する必要がある。
 官公需適格組合制度は、官公需の受注に対し意欲的であり、かつ受注した案件については、十分に責任を持って実施できる経営基盤が整備されている組合であることを中小企業庁(実際の手続は各経済産業局及び沖縄総合事務局が行う)が証明する制度である。「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」をその根拠法規としている。
事業協同組合が証明を取得するには、以下の基準を満たすことが条件となっている。
a 組合が、組合員の協調裡に円滑に行われていること
b 官公需の受注について熱心な指導者がいること
c 常勤役職員が2名以上いること
さらに、工事1件の請負代金の額が、1,500万円(電気、管工事等は500万円)以上のものを受注しようとする組合は、常勤役員が1名以上、 常勤職員が2名以上おり、その役職員のうち2名は受注しようとする工事の技術者であること
d 官公需共同受注規約が定められていること
e 共同受注委員会が設置されていること
f 総合的な企画及び調整を行う企画・調整委員会が現場ごとに設置され、工事全体が契約どおりに施工される体制があること
g 役員と共同受注した案件を担当した組合員が連帯責任を負うこと
h 検査員を置くなど検査体制が確立されていること
i 組合運営を円滑に行うに足りる経常的収入があること
j 共同受注事業を1年以上行っており相当程度の受注実績があること
 このように、官公需適格組合の証明を取得することによって、受注体制、責任施工体制が整備されている組合であることが客観的に証明されることになる。
 しかし、官公需適格組合の証明は、具体的な施工の技術レベル等を証明するものではない。組合自らその技術力を高め、施工能力を向上させるべく努力し、実績を積み重ね、それを顧客である発注機関等に対しPRしていくことが必要である。官公需適格組合の証明を取得したからといって、無条件で受注につながるものではないことを認識する必要がある。
 さらに、技術者の適正な配置や一括下請負の禁止等の建設業法上の各規定を遵守することはもちろん、経営基盤を確立し、クレーム処理等のための窓口体制を整備することなどによって、より一層発注者の信頼を得られるような優れた事業を実施していくことが求められる。
 
②具体的な課題
 
○施工方式の効果的選択
 共同受注事業の実施方法としては、共同施工方式と分担施工方式の2種類があり、組合の性格や特徴、組合員の施工能力等に応じてこれらの方式を選択する必要がある。
 共同施工方式は、各施工担当組合員の技術者、資金、建設機械等の経営資源を組合に持ちよって、組合自身が施工主体となり、工事を完成させる方式である。組合員個々の経営規模が比較的小さく、施工能力が低いために、組合員個々に自主的に責任施工させる方法では発注者の信頼を得られにくい場合であって、組合の有している企画、調整、管理、監督等の機能及び指導力が組合員のそれらに比べて相対的に優れている組合に適する方式であるといえる。
 一方、分担施工方式は、組合が各施工担当組合員に工事の一部分の施工を各々割り当て、各施工担当組合員には、組合の企画、調整、管理、監督等のもとに、担当した部分についてそれぞれ責任施工させる方式である。組合員の経営規模が比較的大きく、また、工事に係る経験及び技術的蓄積等からみて組合員の施工能力が高いために、各組合員が十分に責任施工を行える場合に適した方式である。
 このような両方式の特徴をよく踏まえ、さらに、工事自体の種類、性格や発注者側の方針等もよく考慮して選択することが必要である。
 
○施工担当組合員の明確化
 発注者から、諸々の条件の整っている組合に対して発注した場合、受注した後にどの組合員が実際に施工担当するのかわからないため、不安であるとの意見を聞くことがある。発注者としては、当該工事を担当するに足りる十分な技術力のある組合員に施工してもらいたいのは当然である。
 組合側は、事前に共同受注委員会等において、工事の規模、難易度等を考慮し十分に審査の上、最も適した複数の担当組合員を確定した後に申請を行い、いつでも施工担当組合員を提示できるようにすることが必要である。発注者が、発注方針として、申請時に施工担当組合員を明記させるという方式を取っていれば、その時点でこの課題は解決しているともいえるが、常に組合としてもそれに確実に応え、体制を整えていることも大切である。
 
○建設業法の遵守と一括下請負の排除
 建設業法によれば、工事現場ごとに監理技術者又は主任技術者を適切に配置することはもちろん、公共性のある工作物に関する重要な工事を施工する際は工事現場ごとに技術者の専任配置が求められているので、組合は確実に対応する必要がある。
 また、組合が工事を受注したとき、一括下請負(いわゆる丸投げ)を行えば、建設業法に抵触することとなる。また、組合員のうちの一社に下請させてしまえば、総合点数等の特例措置を設け、ランクをかさあげしてまで優遇していることが全く意味を成さないことになる。さらに実際上の工事施工の責任の所在を不明確にし、発注者の信頼を失うこととなる。
 次のような場合は、元請負人がその下請工事の施工に「実質的に関与」していると認められるときを除き、一括下請負に該当するとされている。
① 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分を一括して他の業者に請け負わせる場合
② 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の工事を一括して他の業者に請け
負わせる場合
 ここで、「実質的に関与」とは、元請負人が自ら総合的に企画、調整及び指導(具体的には、施工計画の総合的な企画、工事全体の的確な施工を確保するための工程管理及び安全管理、工事目的物、工事仮設物、工事用資材等の品質管理、下請負人間の施工の調整、下請負人に対する技術指導、監督等)を行うことをいう。単に現場に技術者を置いているだけではこれに該当せず、現場に元請負人との間に直接的かつ恒常的な雇用関係を有する適格な技術者を置く必要があるとされている。
 このことを組合に置き換えると、組合がその下請工事に「実質的に関与」することが必要なのである。
 組合としては、定期的に組合の企画調整委員会等を開会して、現場からの詳細な報告を聴取し、その報告のうち了承できないとされた事項がある場合は、企画調整委員会等が自ら現場に出向き当該事項を処理するような体制を確立しておく必要がある。
 
○競争入札参加における組合と組合員の競合
 組合と組合員が同じ入札に参加希望をしていることが見受けられるが、このことは、発注者に組合が受注したいのか組合員が受注したいのかその真意が不明との疑念を持たせ、このように意思の統一がなされていない組合は、そもそも施工能力面でも不安であると見なされることとなりかねない。
 組合の共同受注事業は、施工体制が充実することにより、組合員単独では受注できなかった大規模工事や高難度の工事の施工を行うことができるが、これがこの事業の本来の目的である。
 このため組合は、組合員が単独で受注できるような規模の工事の入札にまで参加しないようにすることが望ましい。
 
○受注した工事の担当組合員の選任
 組合で受注することは、組合員としても受注機会が増えそのメリットを享受することになるが、施工担当配分について順番がなかなか回ってこない等の組合員の不満が出て、組合員間の調整がうまくいかないという例が多い。
 当該工事の施工担当能力が最も重要視されることはいうまでもない。各組合員にもそれぞれの工事によって得手不得手があり、当然このようなことも勘案されるべきである。
 しかし、技術力が拮抗している場合は、地域性や過去の施工実績等をかんがみて、ある程度クリアな基準のもとに担当させることが必要となる。重要なことは、担当組合員の選任理由について、全ての組合員に十分納得させることであろう。
 また、組合への貢献度や会議、各種委員会等の出席頻度も斟酌して担当組合員を決定しているところもある。
 
○責任施工体制
 発注者から、組合は加入脱退の自由の原則があり、施工担当組合員が突然脱退する危険性があり不安、また、組合が受注することは施工担当組合員の工事に組合としての責任施工体制が具備されているのか疑問、との指摘がある。
 官公需適格組合の証明を取得するには、脱退の期間制限(一年前に予告)を設けておく必要があり、脱退組合員も施工担当工事については、連帯して責任を負うこととされている。また、工事の完成責任、第三者損害賠償責任及び瑕疵担保責任については、当該工事の施工担当組合員のみならず、組合理事全員が連帯して責任を負うこととされている。よって、官公需適格組合の証明を取得すれば、責任施工体制が確立しているということができる。
 さらに加えて、理事組合員企業のみの連帯責任にとどまらず、全ての組合員が連帯責任を負うという仕組みを確立したり、長期の瑕疵担保保証を同期間脱退組合員にも課すなどのより強力な責任施工体制を確立している組合もあるが、参考になろう。
 
○クレーム処理の窓口体制
 多くの発注者の意見として、「クレームの処理体制が不十分」という課題があげられている。まず、発注者からの連絡の受付先は一本化し、要求等に対しては、いつでも即座に応えられるような窓口体制を整備しておくことが必要である。
 さらに、クレームの処理方法に対しては速やかに意思決定を行い、その処理は迅速に行うようにすることが望まれる。組合としても、クレームの都度、誠実に対応することを実践していけば、発注者からも一層の信頼を得ることができよう。
 
○組合の自己PR
 多くの発注者から、組合の実情がわからないため、組合の説明がもっと必要であるとの指摘がある。
 各発注担当課に頻繁に足を運び、名刺のみならず組合の実績、特徴等を詳細に記した組合新聞のようなものを添えて置いてくる等の工夫を行っている組合もある。また、常に組合の実情について正確に説明できる職員を発注担当課に訪問させておくことが必要である。
 さらに、各種建設関係のイベントなどには積極的に参加し、情報収集や組合のPRを行っておくことも大切である。インターネットのホームページを効果的に活用し、組合をPRするのもよい。
 組合の実績が認められ、その評価がマスコミや口コミを通じて発注者に認知されることが最も望ましいが、ここまで至るには相当な努力が必要である。
 
○受注対象の絞りこみ
 組合の能力に応じた規模の工事を受注することが必要である。無理な大規模工事に手を出すことは大きな失敗につながるのみならず、今後の活動に大きな影響をもたらす。
 また、発注者を絞り込み、景気動向に関わらず同一の発注者からの継続的な受注を得ることにより、互いに信頼関係を築き、成果をあげている組合もある。
 
○他業者との差別化
 組合で独自の技術を開発したり、あるいは独自の品質保証体制を確立するなど、他業者とは一味違う、いわゆる差別化を図るような活動を行うことができれば、それが発注者から評価され、受注の増加につながるであろう。
 共同受注事業を成功に導くには、研究開発等の他の組合事業の活性化も必要である。
 
○その他
 組合員数が多くなりすぎると仕事が回ってこないという不平が組合員から必ず出る。特定組合員に仕事が偏る恐れもある。成功している組合をみると、組合員数は比較的少ないところが多い。設立の段階から、組合員構成には留意する必要がある。
 また、各組合員の規模は、ほぼ同程度であるのが好ましい。受注した工事は、それぞれの工事ごとに施工担当組合員をだれにするか判断する必要があるが、それぞれの規模がほぼ同じであれば、おおむね一定の基準の下に分担作業を行うことができる。また、組合員規模に格差があれば、大規模組合員に優先的に配分されることも多く、小規模組合員の不平を招くことにつながりかねない。さらに、格付けにおいて組合のランクと大規模組合員のランクが同じになり、入札参加における組合と組合員の競合が起こりやすくなってしまう不都合が生じることもあり得る。
 
 

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