建設産業・不動産業

Ⅳ 建設業の協業組合の活性化方策



 協業組合の事業は各組合員の事業を統合して行われる「建設業」そのものであり、相互扶助のもとに組合員の事業を援助する事業協同組合の事業とは根本的に異なる。
 協業組合設立後は、一つの会社に近い形で建設業を実施し、利潤を追求していくこととなるので、ここではその具体的な事業の方策については触れないこととする。
 ただ、協業組合は各企業の組織結合体であり、一つの組織として、その設立から軌道に乗った事業を展開するに至るまでが、協業組合運営の最も難しいところである。この点に着目して協業組合の課題を整理し、活性化方策について述べることとする。
 
 
1 協業組合の目指すべき方向
 
(1)協業組合設立のメリット
 
 平成9年に建設省が、全国の建設業協業組合に対しアンケート調査を行ったところ(39組合を対象とし、有効回答35組合)、次のような設立のメリットがあげられている。
 
 ①企業規模の適正化による生産性の向上が図られ、多くの構成組合員の経営を 安定、向上させた。
 ②経営の合理化が図られ、大型工事の入札に参加できるようになり、受注が大幅に増した。
 ③高度な技術が要求され、設備投資面でも多額の資金を必要とする工事の受注が増加した。
 ④人材の確保・育成がうまく運んだ。
 ⑤技術力が向上し、発注機関から厚い信頼が得られた。
 ⑥コストの低減化に成功した。
 ⑦資本金が多くなり、近代化等の事業に取り組む力がついた。
 ⑧機械を個々に購入する必要がなくなり、稼働率がよくなった。
 
 成果をあげている組合からは、このような各種のメリットがあげられているにもかかわらず、現在の建設業における協業組合数は、40組合と非常に少ない。
 これは、協業化した当初は一時的に受注機会が減少する可能性があること、従来からの社長の立場を失うことに強い抵抗感があること、各組合員の協力体制の確立が難しいことなどが、このような結果を生じさせていると考えられる。
 
(2)協業組合設立の手順
 
 このようなことから、協業組合制度を効果的に活用するには、先に述べたような設立初期の課題を克服する必要があり、事業が軌道に乗れば上記のメリットを意識できることとなる。
 協業組合制度が企業合併と異なる点は、いきなり自分の会社の看板を失ってしまうのではなく、はじめは社長である自社の実態を残しつつ、結合の弱い段階からステップを踏んでより強い結合へ移行していけるところにある。
 現在全部協業で活動している組合の中には、設立当初は一部協業からスタートしている組合もいくつかあり、段階を踏んで結合力を強化していくという、その制度上のメリットを活かしている模様である。
 したがって、組合設立のごく初期においては、一部協業からのスタートもその活動の視野に入れ、協業組合としての活動のみならず組合員単体としての活動もできるようにしておくなど、協業組合制度の機動的な運営を利用することにより、スムーズな組織化をめざすことも必要かと考える。具体的には、土木工事業のみ協業化し、建築工事等その他の工事については各組合員が対応するというようなことが考えられる。
 国土交通省の直轄工事においては、発注者は、協業組合の資格審査を行うに際して、当該協業組合が所期の事業をなし得るに至るまでの相当の期間、その協業の態様、協調の度合等を勘案して、客観点数及び主観点数についておおむね15%の範囲内でプラスに調整できることとしており、さらに、当分の間は、当該協業組合が施工実績に著しく劣る場合を除き、10%プラスに調整できることとしている。さらに、受注機会の確保面において、協業組合の設立が不利になることのないように、設立後5年間程度、組合員の1社以上が組合の等級の直近下位の等級又は二等級下位の等級に認定されていた場合は、直近下位の等級においても指名することができることとしている。このように、協業組合の設立初期の状態に着目し、支援をしているところである。(巻末の参考資料2参照)
 しかし、このような機動的な運営は組合設立の初期において考えられるもので、協業組合の本来の目的は規模の適正化、拡大による施工能力の増大、技術力の向上である。建設省においては、昭和53年に、組合の指導監督行政庁である都道府県知事に対し、協業組合の指導について通達を発している。その内容は次のとおりである。
 
①組合の事業は、組合員それぞれの建設業に係る事業のごく一部分のみを協業対象とするのではなく、できる限り全部協業とすること。
また、経過措置として、組合の実態等に応じ業種別などの一部協業とする場合であっても、順次全部協業化へ進む年次別計画等を作成させ、全部協業化の方向で指導を行うこと。
なお、組合に新規組合員を加入させる場合にあっても、できる限り当該組合の協業対象事業にあわせて協業化させること。
②組合は、組合員相互の利害関係の複雑化、協調の困難性をきたすことを避け、適正な運営及び施工が確保される規模(組合員の数、出資の額)及び構成(業種、業態、組合員格差、組合員の所在地)とすること。
③協業に際しての組合員の事業用資産のうち、協業計画に沿って組合事業に利用できるものについては、現物出資の受入れ、資産の購入等により、組合事業に活用させること。特に、全部協業の場合、組合の事務所については1箇所に集約化させるようにすること。
④単なる受注機会の増大を図るための、形式だけで協業化の実質を伴わない組合とさせないこと。
 
 この指導の必要性は現在でも失われていない。建設投資の低迷の中での建設業者数の増加等に代表される建設業の構造変化に対応するためには、より協業の度合の強い協業組合の設立が効果的であることは疑いない。
 長く一部協業に甘んじていることは、協業組合の本質でありかつその長所である、施工能力の強化、財政の一本化による資金力の拡大、高価な建設重機等への設備投資、事務局窓口体制の充実等各組合員の実力の統合、結合の強力さ等を発揮できなくなる。
 実績を残してきている協業組合には、「初めから全部協業として背水の陣で臨んだからこそ現在の成功がある」と自負しているところもある。より協業の度合が強力であると認められれば、発注者側からも一層厚い信頼が得られるであろう。
 
 国土交通省の直轄工事においては、全部協業で、全ての組合員が建設業の許可を返上している協業組合については、経常JVの構成員になることも認めている。
 最後に、協業組合の国土交通省直轄工事における支援策とそれに合わせた活用策を次のとおりの表にしたので参考にしてほしい。
 
国土交通省直轄工事における協業組合の支援策とその活用策の例
国 土 交 通 省 直 轄 工 事 に お け る 支 援
  設立初期(概ね2年まで) 成長期(概ね2年~5年) 完成期(概ね5年~10年)







客観点数 経営事項審査において各組合員の完工高等の合算
主観点数 審査前4年に組合員に実績があれば加算 前回審査以降の新規組合員の実績を加算 前回審査以降の新規組合員の実績を加算
格付調整 10%の加算 
優良なら15%まで
10%の加算 
優良なら15%まで
10%の加算 
優良なら15%まで
格付特例 直近下位の等級にも指名可能 直近下位の等級にも指名可能
協 業 組 合 の 活 用 策 の 例
組合員が有して いた建設業許可 廃棄しない場合もあり 全組合員廃棄の方向へ 全組合員が廃棄
協業形態 一部協業の場合もあり土木工事のみ協業化し、建築工事は各組合員が施工するなど。 全部協業の方向へ新規加入組合員も協業対象事業にあわせて協業化するようにする。 全部協業完全に1企業と同様に活動。
主観的効果 一部協業とすれば、合併に近いメリットがある一方、組合員企業が存続するため、その社長としての地位はなくならない。 組合の財政基盤が強化され、小規模業者としての意識が薄れる。 大規模工事に自信と責任をもって取り組める。
客観的効果 一部協業とすれば、協業化した工種において合併と同様のメリット(大規模工事の受注等)を享受でき、組合員単体としても並行して従来からの協業化していない工種の工事が実施可能。 施工能力が向上し、より大きな工事の受注が可能となる。また、財政基盤が強化し、信用力が向上する。 
全組合員が建設業の許可を廃棄していれば経常JV参加が可能になる。
大規模、高難度の工事に参加できる。 経常JVの構成員になれる。
 
 
2 協業組合におけるリーダーシップと組合員の協力体制
 
 協業組合におけるリーダーシップは、より組合員を引きつける強力な要素が必要とされる。協業組合は、一つの企業体として利潤を追求して活動することとなるので、そのリーダーは、合併した大きな会社の新社長同様の地位を得ることとなるわけであり、重大な責任のもと、正確な状況判断により、強い決断力と実行力をもって組合員を引っ張っていく積極的なリーダーシップが必要とされる。それだけに、協業組合のリーダーには、より一層大きな人望と確実な事業展開が要求されるのである。
 しかし、協業組合の組合員とて、直前までは社長であったわけである。プライドを持って自社を切り盛りしていたが、各種の検討を重ね、重大な決意を持って組合設立に踏み切ったのであろうから、それなりの配慮が必要である。親の代からの資産を他人のものと合せることになるため、かなりの覚悟が必要である。よって、理事会等で十分議論を重ね、意見調整を怠らず、協調裡に組合を運営していく必要があることはいうまでもない。
 また、逆に組合員側も、協業組合の設立という大きな転機に際して、私利私欲を払拭して臨むぐらいの意気込みが必要である。一人の信用するリーダーを担ぎ上げたのなら、その運営にある程度の不満はあっても「信頼して一任する」との気概のもとに成功を収めている組合もある。
 スタート時の苦難を理事長のリーダーシップと組合員のバックアップで乗り越えてほしい。
 
 

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