国土交通省 Ministry of Land, Infrastructure and Transport Japan
 二十 一世紀を展望し、経済社会の変化に対応した新たな建築行政の在り方に関する答申(別紙)

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I.経済社会の変化と建築行政の課題
  新たな世紀へと時代が転換する中で、我が国は現在、経済社会の成熟化、国際競争の激化、技術の高度化等の構造的変革を経験しつつある。このような時代背景 の中にあって、建築行政においても、戦後間もなく組み立てられ一定の役割を果たしてきた制度について、抜本的な変革が求められている。
 我が国の建築行政の基本をなす建築規制の体系は、大正8年に制定された市街地建築物法にその淵源を有し、戦後、行政の民主化、地方自治等の新憲法の理念 を取り入れて昭和25年に制定された建築基準法と建築士法を基礎として構築されている。
 前者は建築物等が満たすべき基準と基準適合を確認するための審査手続き等を定め、後者は設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めており、両法の制定以 来、急激な都市化や、技術革新といった経済社会情勢の変化に対応して逐次改善が図られてきたものの、基本的には制定当時の制度的枠組みを維持して現在に 至っている。
 本来、国民の経済社会活動や家庭生活の基盤である建築物の安全性を確保することや良好な市街地環境の形成を図ることは、国民の生命、健康、財産を保護す るために不可欠のものであり、そのための建築規制は社会的に必要なものであるが、その制度的枠組みは、国民のニーズの高度化・多様化や技術の進展、都市形 成過程の変遷等の経済社会構造の変化に的確に対応したものであるべきである。
 このような観点から現在の状況をみると、規制緩和による多様な選択と自由で競争性の高い市場を求める国民の強い声がある一方、阪神・淡路大震災を契機に 安全性の確保についても要求が高まっている。また、我が国の都市は外延的な拡大から内部市街地の再整備への移行期を迎えており、良好な市街地環境の形成を 図るための規制・誘導施策もこれに対応することが求められている。また、住文化の継承、まちづくりへの貢献等、住宅の社会的財としての役割を一層重視した 住宅供給を推進することが求められている。
 このため、今後の経済社会の変化を踏まえた上で、建築行政の在り方を基本から見直し、新たな制度へと再構築することが必要となっている。



(1) 経済社会の構造的変革と規制緩和の要請

 我が国の経済社会が構造的な変革期に入っ てきている現在、現行の各種規制制度の在り方が新たな経済社会に的確に対応することが困難になっており、このことが広く規制緩和を求める国民の強い声を生 む背景となっている。
 これを建築物についてみると、ライフスタイルやニーズが高度化・多様化するなかで、これに対応して多種・多様な材料、設備、工法等の開発・供給が可能と なっている。また、経済活動の国際化の進展に伴い、海外の建築資材等の市場参入の動きが急速に強まっている。
 こうした状況の下で、建築物の意匠・工法や材料・設備等の選択の自由の拡大、高コスト構造の是正が強く求められているが、現行の建築基準は材料、工法、 寸法等を具体的に規定する、いわゆる仕様規定が中心であるため、確保すべき性能水準が必ずしも明確でなく、固定化した仕様が自由な選択を妨げるという問題 を生んでいる。
 このため、建築物が満たすべき性能項目・性能水準を明確化することにより、技術革新の成果を積極的に採用した新技術や新材料の円滑な導入、海外の基準・ 規格との整合等を図ることが可能となる仕組みを建築行政の中で再構築することが求められている。
 また、我が国の市街地において街区の形成が不十分であることや、狭小な敷地が多いこと等から、敷地毎に建築できる範囲を規制する現行の方式のみでは合理 的土地利用による調和あるまちなみの形成が困難となっている。このため、設計の自由度を拡大しつつ良好な建築計画の誘導に向け、個々の敷地の範囲を超えた 視点からの規制方式を充実する必要がある。
 さらに、職住のバランスのとれた都市構造を実現するため、都市計画とも連携しつつ、土地の有効高度利用を図り、良好な中高層住宅の整備を促進する必要が ある。


(2) 構造的変革に対応した行政の在り方の見直しの要請

 構造的変革に的確に対応し、自由で活力あ る経済社会を創造するためには、従来の政策体系を、より市場を重視し明確なルールと透明な手続きに基づく政策体系へと再構築することが求められている。
 このため、建築行政においては、官民の役割分担の見直し等により、簡素で効率的な執行体制へと改革する一方で、市場の機能を高め、競争性の向上を図るた め、消費者に対する情報提供体制を整備するとともに、生産・流通の合理化や産業構造改革を強力に推進し、消費者需要に的確に対応できる地域住宅産業の実現 を図ることが求められている。
 また、居住環境やまちなみ景観への住民の関心が高まるなか、住民に身近で地域の状況を知悉する地方公共団体が建築規制において果たす役割は今後より一層 重要なものとなると考えられる。このため、その執行は地方公共団体が自らの責任において行うことを基本としつつ、建築物の安全性等を全国にわたって確保す べき国の責務や、運用の整合性を確保する要請等を踏まえながら建築規制制度の枠組みを再構築することが求められている。


(3) 震災を踏まえ新たな視点からの安全性確保の要請

 大都市地域を直撃した阪神・淡路大震災に おいては、被災建築物約44万棟、死者約6400名と戦後最大規模の被害が発生し、防災性の確保の必要性が改めて認識された。なかでも、建築行政において は、安全性を中心とする建築物の質の確保や適切な維持保全を図るため、建築規制の実効性を確保することが強く求められている。
 そのためには、着工前に行われる建築確認のみならず施工時の中間検査や工事完了時の完了検査を着実に実施するとともに、違反建築物に対する是正措置や違 反行為を行った者への罰則の適用・処分等を通じて、違反行為に対する抑止効果を発揮することが重要である。
 しかしながら、大規模建築物の建築確認申請件数が増加したことや新たなまちづくり関連行政へのニーズが高まっていること等から、地方公共団体のマンパ ワーが追いつかない状況となっており、建築規制の実効性の確保のための効果的な執行体制を整備する必要がある。
 さらに、建築主及び建築士等の専門技術者による建築物の安全性等の確保がより的確に実施できる体制が求められている。併せて、生産者においても、自らの 社会的責任を十分に認識し、信頼が得られるような生産体制の整備を図ることが求められている。

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