j011-Interview

地図は誰のもの?3Dモデルオープンデータ周辺の権利を多角的に考える。

―― パノラマティクスの齋藤 精一氏をホストに、テック・クリエイティブ・まちづくり分野の法務を得意とする弁護士の水野 祐氏と、Project “PLATEAU”を推進している国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐 内山 裕弥氏が集い、「3D都市モデルとルール」について語った。3D都市モデルのデータが整備されていくことによって、法というルールに変化の可能性はもたらされるのか? 多くの関係者によって遂行される地図づくりと、日々進化するPLATEAUに期待する、法やルールとの関わり方とは。

写真:
森 裕一朗
文・編集:
八木 あゆみ
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  • 齋藤 精一
    齋藤 精一
    株式会社ライゾマティクス 代表取締役社長 パノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー) 主宰
  • 水野 祐
    水野 祐
    弁護士(シティライツ法律事務所)
  • 内山 裕弥
    内山 裕弥
    国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐

―― 都市開発とエリアマネジメントなど含む「まちづくり」を、3D都市モデルで新しい価値を生み出し、今までなかった課題を解決することを目指すPLATEAU。現在3D都市モデルのさらなる拡充と、並行してユースケース開発を進めている。

PLATEAUは土地はもちろん、建物構造や建築年などの属性情報を持っており、これらのリッチなデータを活用してより高度なシミュレーションを行えるのが特徴だ。都市計画のために作成されている「都市計画基本図」等の都市の図形情報(都市計画GIS)と航空測量等によって取得される建物・地形の高さや建物の形状情報を掛け合わせ3D都市モデルを作成し、建物に付与される属性情報は都市計画基礎調査の情報を活用している。

CityGMLという世界的な国際標準規格を採用し、オープンデータとして解放することで、多くのエンジニアをはじめとするつくり手の参画を後押しするPLATEAUは、これからさらにさまざまなデータベースやAPIとの連携を進めていく。

齋藤

5年前に、3D都市データを活用した新たな体験や価値を、有識者とともに考えアートの力も使いながら、多彩な知識が集積していくラボとして機能させていくプロジェクト『3D City Experience Lab.』(以下、3Dcel.)を立ち上げました。その中では、データ整備とオープンデータにまつわる話や、著作権や個人情報などのトピックもあがりましたが、いまPLATEAUを目の前にしていかがですか?

関連記事:都市を可視化することで見えてくるもの|3Dcel.

水野

めちゃくちゃイケてるな、と思いますね(笑)。3Dcel.のときは都市の3DデータをCCライセンス化も含めて強い信念でオープン化しましたが、あくまで実験的なプロジェクトという前提でした。当時「こういうものが近い将来生まれてきたらいいな」というイメージ通りのものがPLATEAUで実装されていると感じました。むしろ予想を超えているくらいです。

齋藤

3Dcel.は当時、法整備やインフラ整備が追いついていないことから、都市3Dデータ全般のオープンデータ・ポータルとしてはまだ始められないとなり、経済産業省でコンテンツ事業として形にしました。オープンデータにまつわる法律改正はありませんが、官民データ活用推進基本法(2016年施行)やデジタル社会形成基本法は一応オープンデータ推進に関連していますよね。守りの法と攻める法がある中で、守りの面で思うところは?

水野

「攻め」と「守り」という言い方がよいかわかりませんが、たしかに、官民データ活用推進基本法はできましたし、最近成立したデジタル社会形成基本法もオープンデータ化を推進しているのですが、日本は全体としてオープンデータ化が進んでいるかというとそうではありません。デジタル社会形成基本法ができたことを好機に、もう一度機運を高めていかないといけないですね。

都市データの取得や利活用にあたっては、取得にあたって所有権や施設管理権等の制約が意外と大きいです。著作権、商標権、意匠権などの知的財産権については、気にしなきゃいけないポイントはあるものの、例外規定等を丁寧にみていくと意外に法的なハードルはそんなにないように思います。あとは、個人情報やプライバシー、肖像権といった権利も検討が必要ですが、やはり大きなハードルではないように思います。あえて言うと、測量法が若干今の時代にアップデートされていない印象があるのですが、測量法の現代的な意義についてはどのように考えられるでしょうか?

内山

測量法はクオリティの担保なんです。測量法上決められたプロセスで精度管理されているので、みんなが地図を信用できる。また、公共測量と言いたい場合はこうしてというだけで、測量法自体の規制法ではないんです。ただ、公共測量は膨大な作業でルールも多いので、測量法を守った測量ができるのは、実質的には専門家を持つ測量会社などに限られてきます。

水野

測量法は公式の地図としての精度担保のためのルールであり、規制法ではない、というのはなるほどなんですが、大規模な測量ができるプレイヤーが極めて限定されていることと、その測量した結果が誰もが自由に使えて、アクセスしやすい形で公開されているかが課題ですよね。測量法が悪いのではなく、一応オープンになっているとはいえ、測量データにアクセスしづらいのが問題なのかもしれません。

内山

公共測量成果は申請すれば入手可能ですが、入手までいくつかステップを踏まないといけない。煩雑かつインターフェースも難しく、もったいないんです。

齋藤

PLATEAUが出ることでこれまでの商流が変わることも出てくると思いますが、そもそも地図は誰のものでしょう?

水野

UGSG(アメリカ地質調査所)をはじめとするアメリカの連邦政府機関が作成した地理空間情報の多くはパブリックドメインとして公開されているように、欧米では公金で作られた情報は市民に還元されるべきで、オープンデータ化しなくちゃいけないという意識が非常に強い。それがデフォルトなので、オープンデータを活用するサービス提供者が現れ、競い合う状況が生まれています。

内山

実はPLATEAUでもそうなりつつあって、例えばCADセンターやSYMMMETRY DIMENSIONS INC、Eukayaなどいくつかの企業では、最近はPLATEAUのデータを読み込んだプラットフォームを提供しています。そこで、解析機能や申請・手続き系のシステムを組み合わせてビジネスにしている。これまではあまりこういったビジネスモデルは見られませんでしたが、PLATEAUをきっかけにいい商機が生まれているかなと。

地図の自由は表現の自由

齋藤

データを公開する・しないの線引についてはどうでしょう?

水野

そこに関してはガイドラインを作る必要が出てきますね。防犯、テロ対策、……そしてプライバシー等に配慮してどう都市データを取得し、マスキングして公開していくか等の検討が必要だと思います。いまは建物の外観など都市の表面的なデータが多いですが、建物の中をどうするかは個別で考えることになるでしょうね。

内山

今の時代、Google EarthやGoogle Mapなどオープンに使えるデータはたくさん出てきており、誰でも簡単にアクセスできます。データの公開にどんな意味を付与したらいいでしょうか。

水野

オープンデータ化に対しては、この情報を開示すると「安全保障上の問題があるのでは」「改ざんされたらどうするんだ」という懸念の声は常にあります。たしかに、それらについて事前の検討が必要なのですが、世界的なオープンデータの潮流では、それが悪用されるリスクよりもオープン化されるベネフィットのほうが大きいという共通認識があるように感じます。例えば、ホワイトハウスの情報って全部クリエイティブコモンズでオープン化されているんですけど、もちろん公開している以上、改ざんのリスクはあるわけです。それよりもオープン化によって市民が享受するベネフィットが大きいからオープン化するわけだし、何よりデータという情報の透明性が高まることにより市民による監視も働き、リスクに対する耐性も強まる。公開するとリスクが高まるという認識は、少なくとも民主主義的な国家ではもはや古い認識と言えるかもしれません。

東日本大震災をきっかけに日本のオープンデータの機運が高まり、官民データ活用推進基本法もできましたが、現場で進められていない実情があります。地方自治体には計画策定が努力義務になってしまっているなどいろんな問題はありますが、PLATEAUのような成功事例が積み重なっていけばオープン化のメリットの大きさを自然に体感できると思います。

内山

そもそも測量や地図づくりは自由なのか? という議論が全体にある気がしています。私たちは「隠してもしょうがない」という発想ですが、地図づくりに規制を入れたほうがいいのではという話もゼロではありません。

水野

地図の自由とは、ある種、表現の自由と言えるかもしれませんね。わたしはクリエイティブ・コモンズの活動を通してオープンストリートマップ界隈の方々と交流があるのですが、あの界隈では割とそういった思想を持っている印象があります。

齋藤

データはすべての人にオープンな場合と、レベルの設定が必要な場合があると思います。アクセスの入り口の締め方についてはどうでしょう?

水野

国際的にオープンデータは定義が決まっていて、基本的に誰もが無料で二次利用に制限なく使用できるような形で公開されているデータしかオープンデータと呼べないので、一定の利用条件・利用規約は必要なものの、例えば、商用利用目的はNGとか、一定の人しかアクセスできない等、データのアクセスや利用に一定の制約がある場合、そのような形だとオープンデータと呼べない問題はあるかもしれません。

内山

オープンデータ化を進めていても、「事前に利用目的や住所を申請させよう」となりがちで、結局誰も使わなくなります。確かにPLATEAUを使って変なものを作る事例は現れると思いますが、それは利用者の責任の問題。オープンだからどんな使い方をしてもよくて、利用の責任はデータ元にはないという考え方を貫き通すだけです。

水野

基本的には「非保証・免責」がオープンデータやオープンソースの思想で、利用規約はそれなりに作らなきゃいけないものの、それで足りるのがオープンデータ。しかし、日本の政府の考え方は安心安全の欲求が強く、良くも悪くも考えなくてもいいところまで考えてしまって、何かあったら責任を取らなきゃいけないという発想になりがちです。

齋藤

オープンデータを推進するために自治体がデータを出したと言ったら、エクセルでその日の気温が入っているだけなんてこともあります。PLATEAUも含め、オープンデータをもっといろんな人に使ってもらうために足かせになってる法律、もしくはもっと推進するために法律的な立場でやるべきこととは?

内山

2020年の3月の著作権法の改正で、「写り込み」に関する考え方が改められ、著作権侵害が成立しないとされる「写り込み」の範囲が広がりました。また、デジタル社会形成基本法が2021年に施行されましたが、その中に改正個人情報保護法があります。どこまでやれるのかは探りながらですが、ガイドラインを最初から作っておいて、グレーゾーンをなくしていく流れは活発になってきている印象があります。

水野

そうですね。近年グレーゾーン解消制度や規制のサンドボックス制度などが少しずつ整備されてきました。また、今まさにデジタル庁が、行政や民間のデジタル改革と規制改革、行政改革を一体で議論する「デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)」や「デジタル法制局」といった部門や機能を作ろうとしていて、そのなかで、デジタル完結原則やアジャイルガバナンス原則といったデジタル原則を徹底していこう、という議論をしています。個人的には、デジタル社会形成基本法にあるオープンデータ化の理念を具体的に実践に移せるようにするために、官民データ活用推進基本法をテコ入れしていただきたいと思います。

齋藤

PLATEAUは国土交通省のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を体現しています。法律の中で推進していくのは難しいので、PLATEAUを利用してもらう流れをさらに引き寄せたい。デジタル完結原則では、デジタルで全部完結してくださいとガイドラインを縛って、例えば確認申請もデジタルで提出、環境アセスメントもデジタルで検証といったかたちを推進していくべきなのかなと。

水野

確認申請も全部BIM等のデータのみで指定してしまえば、シンガポールのように一気に導入が進みそうです。また、図面なども残っていない建物の老朽化が問題化していますが、建物に関するデータ一式を確認申請時にアップロードして、そのデータ一式があると、ちょっとした容積率緩和を可能にするなど、インセンティブも一緒に考えられるといいですよね。

内山

デベロッパーと話していると、デジタル推進本部みたいな組織をどこも作っているけど、コストがかかる割に現場でのメリットがそれほどないそうなんです。日々変わっていく施工のデータ更新を誰がするのか、コストをどこが持つかといった話になると、作ったとしても使い道がないから動きが止まってしまう。

水野

金融機関に対して、そういう建物に関するデータが揃っている場合、ローンが付きやすくするなどのアプローチもあり得そうですよね。整備しやすい、管理しやすいというメリットがあるので。不動産価値としても建築物の価値としても、情報が一式用意されている方が値段が高くなる。

齋藤

会社として掲げている環境フレンドリーと矛盾が無いように、国土交通省が主導で作った建築物の環境性能評価システム「CASBEE」に各デベロッパーが取り組んでいます。自然素材を使ってリサイクル可能でCO2の排出を減らして……プラチナランク認定!みたいになると、大きなインセンティブになるのでは。

内山

そのプラチナを得ることにベネフィットを見いだせるかですよね。デベロッパーも本腰入れつつも懐疑派も多くて、特に管理効率化って実際どれくらいの金を生むかが不明なところはある。標準化の話は法律にならないとしても、ちゃんとルール設定をしなきゃいけないと思います。

水野

流動性を持たせなきゃいけないでしょうし、その標準化を法律でやるのは難しそうですね。だけどある意味、デフォルトのルールを決めることはできそうです。

齋藤

デファクト・スタンダードにしていかなきゃいけないなと思って。オープンデータ界隈でこういった地図データだけではなく、フォーマットを合わせようという動きはどうでしょうか?

水野

規格はだんだんデファクト・スタンダード化していくのが実情だと思います。例えば3Dプリンティングのデータ規格も当初は色々あったけど、だんだん集約されていきましたよね。

フォーマットを合わせようという動きはあると思います。CityGMLだってそうですし、クリエイティブコモンズもライセンスの標準化という意味で同じと言えます。オープンソース界隈ではデータ規格やライセンス種別が氾濫してしまうと、せっかくオープン化された情報が広まっていくことを阻害するという問題意識が強いので、データ規格やライセンスの標準化には意識的な人が多いように思います。

齋藤

ベンダーによってフォーマットが変わってしまうと、一度構築したものをまたやり直すロスが発生しがちです。PLATEAUのフォーマットが整備されたのは大きな一歩だと感じますが、ガバメントオープンデータ界隈のベンダーロックにまつわる話はどうでしょう?

内山

既存のソフトウェアでオープンデータを読み込むだけのユーザにとっては、オープンフォーマットにはあまり関心はなく、流通しているフォーマットであれば問題はありません。むしろ、ベンダーフリーの名のもとに新しい規格が生み出され、自分の持っているシステムで読みこめないことのほうが問題です。

ですが開発者、例えば3D都市モデルを使ってゲームを作りたい人からすると、特定のソフトウェアに依存して暗号化されたフォーマットでは自由な開発ができない。新しいサービスを開発するという観点からはベンダーフリーの方が絶対に使いやすい。黎明期にネイティブ対応できるソフトが少なくなる問題はあるものの、スケールに合わせてだんだん増えてくるからそのうち解消するでしょうし、イノベーターから求められるのはベンダーフリーだと思っています。

都市情報はどこへいくか

齋藤

PLATEAUをエコシステムとして、プラットフォーム化しないといけません。PLATEAUを継続するために必要なこととは?

水野

オープンデータ化をより強く推進すること自体が、PLATEAUを継続していくためにも有用な気はします。どんどん使われるものになっていくこと。あとは当然の前提ですがオープンソース化していることが重要ですね。

齋藤

例えばここに経済原理を少し持ち込むと、地図は航空測量会社だけではなくて土木の会社でドローンを飛ばして点群データでつくることもできる訳じゃないですか。3Dcel.を公開したときに、これはもしかしたらブロックチェーンで儲けられるんじゃないかって思って(笑)。

ドローンを飛ばして取った点群データをアップロードすると、ちょっとお金になる。ギグエコノミー的な仕組みの中に入れるとかオープンデータ化の中でもそういう例もある訳です。インフラデータを取ってきた人たちがベネフィットをもらえる、など。

水野

近い将来、スマホをはじめあちこちのデバイスにLiDARが入り、ユーザーが都市データを生み出し、そのデータを使ってサービス化する海外企業が出てくると思います。そうなると、いまはディベロッパーが自分たちの街だと思って都市開発している街の都市データは、米国や中国の企業が完全に握っているかもしれません。都市に関するデータを日本政府や日本の企業が持っているべきなのか、海外企業が持っていく形でも仕方ないのか、という議論もありそうです。

内山

Google Mapは情報も充実しているし精度も高い。単にナビゲーションやお店探しだけでなく、自動運転などの文脈でもGoogle Mapを使おうという話がどんどん進み、このままだとGoogle Mapがないと日本が成り立たない未来が来る。それって一番強力なベンダーロックで、それを避けるために我々はオープンにする発想でやっている。要するに海外の大企業にプラットフォームを独占されないためのオープンデータという意味です。

齋藤

自動運転の実証実験を始めた時に、物理演算ができるプラットフォームが必要ということは、精密なスキャンデータがないといけないけど、本来国や行政が整備すべきデータは地図だと思うんです。だからPLATEAUはあるべき姿だし、このままだと自動運転が走るときにGoogleに月々2万円払うってこともありえますよね。

内山

インフラデータでマネタイズしちゃいけないとは思っています。例えば1ダウンロード100円とかにしても誰も使わない。また、従量課金制にするコストが高過ぎて、それがペイできるのがいつになるのかと。安易なマネタイズ発想はオープンデータによるメリットの障害になるなと。

水野

オープンデータってあらゆる分野に開かれていることがすごく重要で、それによりブリコラージュで偶発的な新しいサービスや表現が生まれる可能性があるという点が肝だと思うんです。

齋藤

オープンデータのエコノミーサイクルについて、オープンデータのあり方として、直近のベネフィットも考える必要があります。

水野

2021年7月に静岡県熱海市で起きた大規模土石流災害はオープンデータの価値を知らしめた面はあると思うし、防災は自治体にとっても市民にとっても明瞭に価値化しやすいですね。

内山

熱海も結局オープンデータを普段から触っていたからさっと集まってやれたという点はありますよね。災害が起こったから無料にします、では間に合わない。

集合知が正になる

齋藤

データのオープン化に付随して、ブロックチェーンのようなセキュリティの話題も出てくると思います。オープンデータとブロックチェーンの関係について思われることは?

内山

ブロックチェーン化できるぐらいの軽量データだったらいいんですけどPLATEAUは1ファイル3ギガぐらいありますし、そもそも複製されても大丈夫です。

水野

さきほどの測量法の話にもありましたが、ベースレジストリのような、国の公的な正データだけはブロックチェーンで担保するのもあり得ますかね。

内山

自然に流通し始めると、本当のデータが揺らぐ話はあるかもしれません。

齋藤

PLATEAUの話をすると、絶対に「どのように更新するんですか」と質問が来るんです。都市計画基礎調査をベースにしているので、データ更新って5年や3年に1回になります。だけど、渋谷を見ていても銀座線の駅もJRの駅もぽんと変わる。PLATEAUの中にあるデータは一体いつのデータで、誰が更新するのか、更新性についていかがでしょう。

内山

バージョン管理そのものはメタデータを入れればいいだけですが、そもそも偽装する理由としてなにが考えられますか?

水野

例えば自動運転の元データとして使われた時に、最新のものではないが故に事故が起きた場合などの議論はあるかもしれません。さきほども申し上げましたが、オープンデータ界隈は「透明性があるので、集合知で正しい情報が見つかる」という思想です。あとはGitなどでバージョン管理をしていくことも考えられるでしょうか。

齋藤

オープンデータ界隈とシビックテックは切っても切り離せない。それ自体はCOVID-19でも震災でも、彼らが率先してオープンストリートマップをつくってきた。PLATEAUの親和性で思われるところは?

水野

シビックテックとは相性がいいと思いますし、PLATEAUの活用という意味で本筋ですよね。シビックテック発で地域課題を解決するユースケースがボトムアップでどんどん出てくれば。

齋藤

地図がトゥルーかどうかの判定も、シビックテックができる可能性が高いのではと思うんですよね。

内山

我々もまさに取り組む予定なのですが、5年に一度だと頻度が遅い。でも毎年飛行機を飛ばすわけにもいかないので、クラウドソーシング的な更新も想定されます。さまざまなレベルでデータを取った上で、膨大なスキャンデータをどのように統合してPLATEAU規格に変えるか。

PLATEAUって、要は品質保証なんです。そのために不要なデータも含めてクレンジングして正規化する技術を開発していかないといけません。点群データから属性ごとに分けるAI解析技術などは一般化してきていているものの、ポリゴン化がなかなか難しい。その上で属性データを入力するのもまだAIではできませんが、そこができてくるとクラウドソーシングで誰でもPLATEAUを作れるようになると見込んでいます。

齋藤

PLATEAUを活用したくても自治体でとなると、全国津々浦々でやれる大規模のベンダーに発注がいって、地域に落ちないことも考えられます。落とす方法で考えられること、もしくはあるべき理想構造とは?

水野

難問ですね。シビックテックの良し悪しですが、ボランタリーであることや営利企業じゃないことによる脆弱性もあると思っていて、地域に移住したエンジニアなどがシビックテックを支えていると思うんですけど、例えば福井の福野さん(Code for FUKUI / Code for Sabae代表)はシビックテックの先駆者として貢献してきましたが、会社を何社もやって事業にもしている。鯖江も非常にオープンデータ化が進んでいるし、きちんとビジネスとして成立させていく存在もシビックテックにもっと必要なのかなと思っています。

齋藤

本当にそうですよね。PLATEAUを使って儲けてもいいのでは。

内山

いいと思います。僕ら的にも各地のCode ForなどでPLATEAUのデータを勉強する動きが生まれていることに非常に感謝しています。普段からデータを触っている、地元に根差したベンダーが育成されることで、自治体が何かサービスを開発したいと考えたときに素早く連携できます。

齋藤

シビックテックもしくはシビックテックから派生する地元企業がちゃんとビジネスをできるのはもちろん、PLATEAUの使い方で地方のデジタル化を目指していきたいですね。ギガスクール構想やIT立国と言っている割に規制があり過ぎるし、まだまだリテラシーが低い。また、オープンデータ界隈でも自治体と国なり各省庁がだすガイドラインに規制がないんです。PLATEAUを使いこなして「5年じゃなくて2年に一回絶対地図更新しよう。夏と冬に2回取って積雪がどうなっているか見よう」など、スイッチを入れる人が自治体には絶対必要です。

水野

地方分権一括法による2000年以降の地方自治法の改正により、国も自治体に独自色のある政策をどんどん進めてほしい、という建前なのですが、条例制定権や「法定受託事務」といった自治体の制度・機能の考え方もメンタリティもそうなってない。これからは自治体こそ独自色を出して生き残っていかないといけないのにもかかわらず、基本的に受け身モードなので、自治体の考え方や人材の評価基準なども変えていかないと駄目ですよね。

齋藤

エビラボさんという伊勢神宮の参道でやってる食品屋の代表取締役社長の小田島さんはもともとIT企業に勤務していました。妻の実家を継いだものの、このままだといけないと思う部分に関して、「飲食をIT化」したんです。明日の天気や今日のトラフィック、過去のデータと掛け合わせてお米を何合炊けばいいのか分析する。そこでいまIT頭ポジションをやっているのは元仲居さんで、沖縄に分社を作ってブートキャンプをやるなど、面白い取り組みをしています。

水野

そういう人が増えていけばだいぶ違いますよね。

齋藤

来年度、自治体でワークショップをどんどんやりたいんです。災害が起きてから税金を使うのではなく、市民の安全を守るためにはデジタル化しないわけにはいかず、自治体の中でデジタル隊長みたいな人を見つけていかないと、シビックテックは進んでいかないですよね。

仮想空間内での法律・倫理

齋藤

PLATEAUを表現の側面から見るとどうでしょう? いろんな人に聞くと、どう使えばいいか分からないって声もいくつかもらってはいて。

内山

技術面ではまだマニアックなニュアンスもあるので、その裾野はひろげたいですね。UnityのSDKをプラグインとして我々が作って流通させるとか。UIを工夫して、もっと気軽に使ってもらいたい計画があります。

齋藤

PLATEAUはデジタルツイン文脈でもよく話題に上がりますが、どう思いますか?

水野

デジタルツインやメタバースの可能性については、僕は結構楽観的で、現実が苦しい人にとって祝祭空間や逃避場所になる価値は見逃せないと思います。これまでの現実空間の価値を阻害せずに、新しい価値が選択肢として増える、つまり現実空間と仮想空間は二者択一の関係ではないと考えていますし、相互補完的な関係にしていくべきだと思います。ただ、現実空間と仮想空間の境界がどんどん曖昧になっていく中で起きてくる法律問題はたくさんあるだろうとも思います。

内山

最近は、仮想空間内で現実とは別の体験ができるという文脈で語られているのかなと思います。現実ではできない体験、例えば僕最近猫を飼い始めたんですけど、万が一猫が死んだ場合、猫の霊をメタバースで蘇らせて一緒に暮らしたいみたいな。ただ、倫理の線引が難しくて、亡くなった家族を同じように蘇らせるのはどうなの? となりますよね。

水野

先日『RE-END 死から問うテクノロジーと社会(ビー・エヌ・エヌ/2021年)』という書籍で、死者のデータを法的にどう取り扱うべきかについて論稿を書いたんですけど、避けられない問題ですよね。亡くなった愛娘とVRで再会するという韓国のテレビ番組企画も話題になりました。

内山

今やっていることは現実空間をデータ上に再現して、そこで実験したフィードバックを現実に返すことなので、まさにデジタルツインじゃないですか。ただ、メタバースとの関わり方はまだ決めかねています。メタバースが政策的、公共的な意味を持ち始めるのであれば何かすると思いますけど、現状は概念論争なのかなと。インターネットとはなにか、とも言えるかもしれません(笑)