介護福祉関連データ等の活用による建築物等の福祉対応性評価の見える化
| 実施事業者 | 株式会社エンタケア研究所 |
|---|---|
| 実施協力 | 新潟県三条市 / 株式会社ビーライズ / 株式会社ナカノアイシステム / ナンバーエックス株式会社 / クオン株式会社 |
| 実施場所 | 新潟県三条市北三条駅南側 |
| 実施期間 | 2026年1月〜2026年2月 |

建築物や都市空間の福祉対応性をスコアとして定量的に可視化するWebアプリケーション「CareScore」を開発。行政や事業者の改善判断を客観化し、施策立案から合意形成までのプロセスの高度化、ならびに福祉まちづくりの社会実装加速に寄与する。
本プロジェクトの概要
日本では高齢化が進む一方、建築物・道路・生活圏に潜在するリスクや移動負荷を客観的に把握する仕組みが不足しており、誰もが安心して移動・生活できる都市空間の実現が喫緊の課題となっている。福祉まちづくりの推進においては、既設の建築物や歩行空間等に対し、「どこから、どの程度」優先的に改善・改修対応すべきかを判断する定量的指標が存在せず、施策の優先順位付けや予算投入の合理性を示すことが困難となっている。その結果、庁内調整や住民説明が難航し、危険箇所の暫定運用の長期化や改修時期の遅れによるコストの増大による社会的・経済的損失が顕在化している。
本プロジェクトでは、建築物・道路・エリア単位の「福祉対応性」を定量評価し、カラーマップとして直感的に可視化するWebアプリケーション「CareScore」を開発した。建築物屋内の動線や歩行負荷、道路幅員、および道路と建築物を統合したエリア全体のバリアフリー法への準拠状況をインプットデータとして集約。これらを重み付き平均をベースとした独自のアルゴリズムによって解析・数値化し、3D都市モデル上に可視化することで、「介助者・被介助者双方の視点に立った移動・活動の円滑性(福祉対応性)」を明示。エビデンスに基づく施策立案や改修優先度の最適化など、行政や事業者における意思決定の迅速化を強力に支援する。
本サービスは、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下「バリアフリー法」という。)」や「道路の移動など円滑化整備ガイドライン」にて定義された情報設計をシステム内に実装しており、広域かつ高精度な評価の迅速な算出を可能としている。これにより、行政内部の部局間調整や地域住民等のステークホルダー間における合意形成の迅速化、および説明責任の高度化を図る。本実証を通じて、改修優先順位の精緻化等、行政や事業者におけるデータドリブンな意思決定を支援するシステムとしての有用性を検証する。

実現したい価値・目指す世界
日本では高齢化が急速に進展する一方、誰しもが安心して移動・生活できるバリアフリー化やユニバーサルデザインを導入した都市空間をつくることは優先度の高い社会課題となっている。しかし現状、建築物・道路・生活圏に潜在するバリアや移動負荷を客観的に把握する仕組みが整備されておらず、バリアフリー化やユニバーサルデザインを導入した都市空間構築のボトルネックとなっている。 福祉まちづくりの推進には既存建築物や道路を「どこから、どの程度」改善すべきかを判断できず、まちづくり・建築設計の現場で具体的な行動につなげられない状況にある。 現状課題の吸い上げのための自治体の計画立案や意思決定は、主観的判断や限定的なヒアリングに依存する傾向が強く、施策の優先順位づけや予算化の合理性を説明しにくい状況が続いている。また、福祉視点を必要とする施設整備やまちづくりおいては、施策効果を定量的に示すデータが不足していることで、庁内調整や住民説明が難航し、結果として事業着手の遅延や追加コストの発生につながる。さらに、不動産開発事業者や設計者においても、福祉的価値を裏付ける指標が乏しいため、提案の説得力や再現性が担保されにくい。こうした状況はEBPM(エビデンスに基づく政策立案)の推進を阻害する構造的課題となっている。
本プロジェクトでは、建物内部データの属性情報を整理し、空間の福祉対応性を定量評価・可視化するエンジン「CareScore」を開発する。本エンジンは、独自に測量した建物屋内データをインプットとして集約。「バリアフリー法」や「道路の移動等円滑化整備ガイドライン」に定義された基準・幅員等の指標に基づき構築した、重み付き平均アルゴリズムによって介護福祉適応性を算出する。
解析結果は、3D都市モデルジオメトリ上にスコアおよび直感的なカラーマップとして提示される。これにより、施策立案や改修計画における整備優先度の設定に直接的な根拠を与え、行政、設計者、介護福祉専門家の三者が共通のエビデンスに基づいて議論できる環境を整備する。法令に準拠した基準による自動評価により、算出リードタイムを最小化しつつ、都市空間の改善判断を客観的かつ定量的に支援する。
専門家の経験や事例に基づく定性的判断に依存してきた福祉対応性評価を、3D都市モデルの属性情報や建物屋内データを活用した客観的指標へと転換し、行政・事業者・住民が共通の根拠をもって対話可能な形でアウトプット算出することで、バリアフリーが標準実装されたデータ主導のEBPMを推進するまちづくりの実現を目指す。



検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
本プロジェクトでは、3D都市モデルのジオメトリを可視化基盤とし、建築物LOD2.2、建築物LOD1、道路LOD1、地形LOD1を活用して、建築物・道路・エリア単位の「福祉対応性」を定量評価・可視化するWebアプリケーション「CareScore」を開発した。
本システムは、3D都市モデルが保持する属性情報に対し、独自に取得・統合した屋内・屋外のバリアフリー詳細データ(段差、通路幅、勾配等)を付加することで、高齢者や障がい者の移動・生活における安全性を判定する高精度なデータ基盤を構築する。判定ロジックには、「バリアフリー法」および「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」に基づく基準を全面的に採用。これらを基に、重み付き平均を用いた独自の解析アルゴリズムを実装し、客観的な「介護福祉スコア」の算出を実現した。
これにより、従来は住民意見や限定的なヒアリング結果に依存していた都市空間の評価を、同一基準による定量的な比較が可能な形へと転換する。建築物や道路の改修優先度が可視化されることで、行政、不動産事業者、地域住民といった多様なステークホルダー間の合意形成における「共通言語」としての説明材料を提供。エビデンスに基づく意思決定を行う、データ主導のEBPMを強力に支援する仕組みを確立した。
本システムは、ユーザーがWebブラウザ上で直感的に操作可能な「CareScoreビューア(フロントエンド)」と、高度な空間解析および評価ロジックを担う「サーバー(バックエンド)」の二層構造で構成されている。
ユーザーは、ビューア上で評価対象となる建築物・道路・エリアを指定することで、即座に評価プロセスを開始できる。システム内部では、3D都市モデルの属性情報と独自に取得した屋内測定データが動的に統合・処理され、独自の「福祉対応性算出アルゴリズム」に基づき、環境の適応度を定量化する100点満点のスコアが算出される。
解析結果は3D空間上にカラーマップ形式で即時レンダリングされ、視覚的な把握を容易にしている。また、定量的な内訳スコアや具体的な改善推奨事項を網羅した評価レポートのアウトプット機能を標準装備。スコア算出に至った詳細な根拠データのダウンロードが可能な仕様となっており、行政内での意思決定、事業者との調整、住民への説明資料としてそのまま活用できる実務的な設計を実現した。
本システムは、ユーザーがWebブラウザ上で直感的に操作可能な「CareScoreビューア」と、高度な空間解析および評価ロジックを担う「バックエンドサーバー」の二層構造で構成されている。
フロントエンドの開発には「Unity」および「PLATEAU SDK for Unity」を採用し、WebGLビルドによって一般的なブラウザでのシームレスな閲覧を可能とした。今年度3D都市モデルを新規整備した実証地、新潟県三条市の3D地図描画には「Cesium OSM Buildings」を併用することで、PLATEAUデータ未整備エリアの補完を行うなど、可視化やUIの綺麗化を実現している。
バックエンドの空間データ管理・解析には、「PostgreSQL」および空間拡張機能である「PostGIS」を活用。システム内部では、3D都市モデルの建築物・道路・土地利用の属性情報(LOD1 / LOD2)と独自測定した屋内データを動的に統合・処理する。評価ロジックにおいては、バリアフリー法の「基準適合」や「誘導基準適合」といった区分を、重み付き平均の理論に基づき数値モデル化。法的重要度を加味した客観性の高いスコアリング処理を実装した。

解析結果は3D空間上にカラーマップ形式で即時レンダリングされる。建物単体にとどまらず、道路や地形も統合的に解析することで「まち全体の移動しやすさ」を定量的な100点満点のスコアとして算出可能な形としている。内訳スコアや改善推奨事項を含む評価レポートの出力機能を備えており、算出根拠を透明化した状態で、行政内での意思決定やステークホルダーへの説明資料としてそのまま活用できる実務的な設計を実現した。



本実証実験では、システムの技術的安定性およびアルゴリズムの妥当性を評価する「技術検証」と、実務における有用性および市場性を確認する「ビジネス検証」の両面からアプローチを展開した。
具体的には、実証地である新潟県三条市の実際に計測した高精度な建物屋内・屋外データをシステムへ投入し、実環境下での稼働状況を検証した。その上で、介護福祉専門家、自治体担当者、不動産事業者といった主要ステークホルダーを対象に、システムを用いた操作デモおよびアンケート・ヒアリングを実施。算出されたスコアに対するロジックの納得感や、既存業務フローへの導入可能性、合意形成ツールとしての有効性について多角的な評価を行った。
検証で得られたデータ・結果・課題
本実証では、開発した「CareScore」の有効性を多角的に検証するため、システムの有用性ならびにビジネスモデル・社会実装に向けた事業化の検証という二つの観点からアプローチを実施した。検証にあたっては、想定利用者である自治体担当者、不動産事業者、および介護福祉専門家の計五名を対象に、開発システムを用いた具体的な活用方法の提示や操作体験の機会を設けた。その上で、アンケートおよび対面ヒアリングを通じて詳細なフィードバックを収集し、多角的な分析を行った。
システムの有用性および妥当性の検証においては、独自に開発した介護福祉スコア算出アルゴリズムによる算出結果と、介護福祉専門家が抱く現場感覚や既存の公的基準との整合性を精緻に比較検討した。その結果、従来は定性的な経験則に頼っていた評価を定量的な指標へと変換するプロセスの妥当性を確認した。
本システムの核となる介護福祉スコア算出アルゴリズムの妥当性については、公的評価手法である「多基準分析(MCDA)」における「AHP(階層分析法)」の理論との整合性確認を実施した。数理的な重み付けにおいて、バリアフリー法上の義務基準と努力義務基準を100対50の比率で評価するなどの手法を踏襲しており、学術的観点からも納得感のあるモデルであることが確認された。
本実証におけるシステム開発では、複雑なバリアフリー基準を直感的なスコアへ変換する「解析処理の最適化」と、独自ノウハウの流出を防ぐ「事業秘匿性の維持」を最優先した設計思想を採用した。算出アルゴリズムの背景にある基準やガイドラインは明示しつつも、詳細な算出プロセスをブラックボックス化し、説明を簡略化したインターフェースを採用することで、まずは広域的な概略可視化における有用性を検証することに主眼を置いた。しかし、ステークホルダーヒアリングにおいて「算出ロジックが関連ガイドラインを適切に反映しているか」との問いに対し、「ある程度そう感じた」との回答が40%に留まり、残る60%が「どちらともいえない」と回答する結果となった。自由記述では、「自身の感覚と点数が概ね一致する一方、現地未確認のため判断が難しい点や、法基準との差異に課題がある。」といった指摘が寄せられており、現在の提供形態は広域的な状況把握には資するものの、専門家や実務者が具体的な事業判断を下すためのエビデンスとしては、提示情報の詳細さが不十分であることが浮き彫りとなった。
算出手法への納得感はサービスの信頼性に直結する不可欠な要素であり、現状のブラックボックス化が導入検討における慎重な姿勢を招く要因となっている。そのため、今後の社会実装フェーズにおいては「説明可能なアルゴリズム」への刷新を最優先事項として推進し、スコアがいかなる形で「バリアフリー法」や「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」をパラメータに組み込んでいるのか、その数理モデルの妥当性を論理的に提示するプロセスを組み込む必要がある。
具体的には、知的財産の保護と透明性の確保を両立させるため、算出手法の特許取得によって技術的優位性を法的に保護すると同時に、土木学会等の専門家による学術的承認の獲得を並行して実施する。これにより、独自の技術保護と第三者機関による客観的な裏付けを両立させ、自治体におけるEBPM(エビデンスに基づく政策形成)や民間事業者の投資判断を支える確固たる根拠を構築していく。これらのステップを経て、介護福祉分野における標準的な評価基盤としての地位を確立し、商用化および自治体・事業者への本格導入を強力に後押ししていく。
さらに、インプットデータそのものの信頼性確保についても課題が示唆された。ステークホルダーヒアリングにおいては、「測定者による数値のばらつきがスコアに影響する懸念がある。」といった、現状のフィールド調査(人手による実測)に基づく屋内情報の取得手法や、その客観性に関する指摘が見られた。
これらの課題に対し、今後は屋内データの入力手法を多角化し、技術的な拡張を図る。具体的には、各建物保有者が管理する図面データや、建物内部の詳細情報を包含する3D都市モデル「建築物(LOD4)」の活用を見据え、デジタルデータを直接システムへ取り込めるバックエンドの構築を検討する。
これにより、データ構築における現地調査の工数負荷を大幅に軽減するとともに、ヒューマンエラーに起因するデータのばらつきを根本から排除する。高精度な屋内情報を基盤とした、より精緻かつ客観的なバリアフリー評価を実現することで、システムの有用性とデータに対する信頼性を一段引き上げ、本システム導入への障壁をなくすことを目指す。
ビジネスモデルおよび社会実装の検証においては、各ステークホルダーへのヒアリングを通じ、既存の業務フローにおける課題解決への貢献度や、将来的な本格導入に向けた価格受容性を詳細に調査した。
アンケートの結果、回答者の60%が「自治体内部や不動産事業者等の関係者との合意形成を進める上で本システムが有効である」と回答した。特に対象エリアにおける福祉対応性を即座に定量評価できる点は、データ主導の意思決定を支援する基盤として実効性が高く、現場のニーズに合致していることが確認された。実務上の具体的な利点としては、現地調査や詳細設計といった高コストな工程へ移行する前の早い段階において、3D都市モデル上で周辺建築物や道路、改修着工までのアプローチを統合的に評価できることが挙げられる。この早期検討を可能にするプロセスは、計画の致命的な手戻りを防止し、意思決定の迅速化に寄与するとの高い評価を得た。
価格受容性についても、単なるライセンス提供に留まらず、専門的知見に基づくコンサルティングを組み合わせた高付加価値プランに対して強い関心が示された。実際に、既に2事業者が具体的な導入に向けて前向きな意向を表明している。今後は、算出根拠の透明化という最優先課題を解決することで、潜在的な懸念層を確実な導入層へと転換し、介護福祉DX市場における社会実装の盤石化を目指す。



今後の展望
本プロジェクトを通じ、介護福祉分野における革新的な「技術基盤の構築」ニーズと、3D都市モデルを活用した業務効率化に資するシステムの利活用余地が明確となった。
技術面においては、3D都市モデルのジオメトリを活用することで、従来は定性的に語られてきた福祉対応性を客観的なスコアとして可視化する基盤を確立した。建物単体のみならず周辺道路を含めた面的な評価を実現し、Webブラウザ上で軽快に動作するシステムを具現化したことは、データ主導によるまちづくり(EBPM)を推進する上での強力な礎となると考えられる。また事業化において、バリアフリーに基づくまちづくり支援ツールへのニーズが極めて高いことを実証できた。特に、行政、事業者、専門家といった多様なステークホルダー間の合意形成を円滑化する「共通言語」としての活用に対し、多くの事業者が強い関心を示していることが明らかとなった。
本実証を通じて、社会実装に向けた最大の課題は「スコア算出アルゴリズムおよびデータの信頼性」の確保にあることが明確となった。
本実証を通じて、バリアフリー基準を可視化する技術基盤の有用性と市場ニーズが確認された一方、社会実装に向けた最大の鍵は「アルゴリズムおよびデータの信頼性」の確保にあることが明確となった。ステークホルダーヒアリングでは、算出ロジックの妥当性に対し6割が保留の回答を示しており、「自身の感覚と点数が概ね一致する一方、法基準との差異に課題がある」といった指摘や、人手による測定のばらつきを懸念する声が寄せられた。現状では事業秘匿性や説明の簡略化を優先した結果、専門家が導入判断を下すに足るエビデンス提示が不十分であり、この「透明性と客観性の不足」が本格導入への慎重な姿勢を招く主因となっていることが浮き彫りとなった。
これらの課題に対し、今後は「説明可能なアルゴリズム」への刷新を最優先事項として推進し、公的ガイドラインのパラメータ化における論理的妥当性を明文化する。具体的には、特許取得による独自の技術保護と、土木学会等の専門家による学術的承認の獲得を並行し、第三者機関の裏付けによる強固な信頼基盤を構築する。あわせて、インプットデータの精度向上のため、屋内データを保有する3D都市モデル(建築物LOD4)や図面データの直接活用による入力手法の多角化を検討し、ヒューマンエラーの排除と工数削減を両立させる。これらの施策を通じて、自治体や民間事業者が安心して意思決定に活用できる評価インフラへと昇華させ、バリアフリーなまちづくりの強力な支援ツールとして社会実装の加速を目指す。
将来的には、本実証を通じて得られた技術的・市場的成果を基にサービスの信頼性を盤石化し、CareScoreの行政認証や公的指標への制度化を推進することで、自治体および民間事業者の導入を募り、バリアフリー化に準拠したまちづくりの効率的な実装を加速させる。これにより、誰もが客観的な指標に基づき自律的に住まいや移動環境を選択し得る、『誰一人取り残さない』包摂的な社会の実現に寄与することを目指す。





