uc25-06

地下埋設物データを活用した都市開発のDX v3.0

実施事業者エヌ・ティ・ティ・インフラネット株式会社 / 株式会社日建設計 / 株式会社日建設計総 所 / 日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社
実施協力実証地協力・実証協力:藤沢市/ 玉名市
実施場所藤沢駅前再整備エリア / 玉名市内
実施期間2025年8月〜2026年1月

都市の再開発事業における地下埋設物モデルの活用と、地方公共団体における職員主導の地下埋設物モデル整備の支援を実施。地下埋設物モデルの実業務への導入と、持続的なデータ運用体制の実現を目指す。

本プロジェクトの概要

再開発事業における地下埋設物の移転協議では、2D図面を用いて情報を補完しながら協議を行うため、埋設管の位置関係に関する認識の齟齬が生じやすい。このことから合意形成の難易度が高く、多大な労力・時間を要している。これらの課題に有効な対策が3D都市モデル(地下埋設物モデル)(以下単に「地下埋設物モデル」という。)の活用であるが、地下埋設物モデルの整備は専門的な技術を要する上、整備実績が少ないことから広く普及している状況とは言えない。

本プロジェクトでは、地下埋設物モデルの社会実装を推進するため、都市の再開発事業における活用支援と、地方公共団体のインフラ部門(水道・下水道)における職員主導のモデル整備・運用の支援を行う。
再開発事業における地下埋設物モデルの活用支援では、建設設計での地下埋設物の移設検討における合理化・効率化への寄与を検証する。地方公共団体の支援では、職員が自らモデル整備・更新することを目的とした勉強会を実施し、内容をハンドブックにまとめることで自主的かつ広範なモデル整備・活用を促す。

実現したい価値・目指す世界

現在、都市の再開発事業において、支障移転会議等でインフラ事業者各社が地下埋設物の2D図面を用いて協議を行うことが一般的である。支障移転会議とは、都市の再開発事業などにおいて、既存のインフラや施設などが新しい計画と干渉する場合に、その移転や調整方法を検討するために開催される会議である。この際、移転対象やその位置に関する情報を参加者が2D図面から読み取り、各自で補完しながら議論を進めるため、実際の位置関係に関して認識の齟齬が発生しやすく合意形成に時間を要する。これを解消するためには、地下埋設物を3D可視化することが極めて有効であり、共通の形式が存在しない現状においては地下埋設物モデルの活用が最も有力な手段であると言える。

しかし、地下埋設物モデルの整備には高い専門性が求められるため、現状では整備実績が限られており、整備自体の難易度が高いことから専門の事業者でないと整備が困難である。地下埋設物モデルの整備ツール自体はオープンソースソフトウェアとして公開されているものの、地方公共団体職員等を含む幅広いユーザーがシステムを活用できるような具体的な利用手順が公開されていない。

2024年度の「地下埋設物データを活用した都市開発のDX v2.0」では、上下水道、ガス、電力、通信などのインフラ設備の維持管理業務を行う事業者向けに地下埋設物モデル化ツールを開発し、地下埋設物モデルの効率的な整備・更新手法を確立した。一方で、既存のツールだけでは技術的な専門性が高く利用者が限られていることからカバレッジが広がらず、再開発事業において地下埋設物モデルが活用された事例はほとんど見られない。地方公共団体職員が自ら整備・更新を継続できる環境の構築に向けた要望もあり、今後は教育・支援策のさらなる充実が求められている。

本プロジェクトでは、再開発エリアを対象とした①開発事業合理化支援と、地方公共団体の上下水道を対象とした②地下埋設物モデル化支援を行い、地下埋設物モデルの社会実装に向けた実証とスキームの構築を進める。

①開発事業合理化支援では、施工中の再開発事業を対象に、地下埋設物(電気、ガス、通信、水道、下水道等の配管、建築物や橋梁の基礎を含む)を移転する必要性がある区域を選定しモデル整備を実施する。整備した地下埋設物モデルを活用した業務支援を行い、施工計画段階での支障移転の検討などにおける有用性を明らかにすることで関連業務の合理化を図る。

②地下埋設物モデル化支援では、地方公共団体の水道・下水道部門を対象に、職員主導による地下埋設物モデルの整備・更新の支援と、精度向上のための位置補正手法の検証を行う。地方公共団体が保有する台帳や3次元点群データを既存の整備ツール(オープンソースソフトウェア)に取り込み、地下埋設物モデルを整備・活用するまでの工程を、勉強会等を通して支援し、支援内容をまとめたハンドブックを作成・公開する。また、整備対象エリアの試掘を4か所程度行い、地下埋設物モデルの位置正確度を検証する。これにより、専門知識を有さない地方公共団体の職員でも独自に高精度な地下埋設物モデルの整備を実施することが可能となる。

モデル整備のための手順を詳細化したハンドブックを作成・公開することで、幅広いユーザーが地下埋設物モデルを整備・更新できる環境を構築するとともに、再開発事業等の実業務における有用性を明らかにし、地下埋設物モデルの社会実装を加速させる。

対象エリア(神奈川県藤沢市)の地図(2D)
対象エリア(熊本県玉名市)の地図(2D)
対象エリア(熊本県玉名市)の地図(3D)

検証で得られたデータ・結果・課題

本実証では、「開発事業合理化支援(神奈川県藤沢市)」と「地下埋設物モデル化支援(熊本県玉名市)」の二つの実証を通じ、地下埋設物モデルの業務上の有用性及び整備可能性を検証した。

神奈川県藤沢市の再開発事業を対象とした実証では、本プロジェクトの実施事業者が道路台帳等の既存データから地下埋設物モデルを整備し、支障移転会議を想定した有用性検証を行った。アンケートの結果、回答者の95%が「従来の2D図面に代えて、地下埋設物モデルを含む3D都市モデルを支障移転会議で使用できる」と評価した。

エスカレーターの建設に伴う地下埋設物の支障移設における業務工程を比較したところ、従来の2D図面を用いた検討フローでは、13.0日(102時間)を要していた作業が、地下埋設物モデルを利用したフローでは約7.0日(55時間)となり、約46%の時間短縮効果が試算された。この試算は、活用可能な地下埋設物モデルが事前に整備されている運用環境を前提としたものであるが、特にインフラ事業者各社が多大な時間を費やしていた地下埋設物資料の収集工程において、20時間から2時間へと大幅な短縮を実現しており、検討初期段階における劇的な効率化が確認された。一方、従来は移設計画を平面図・断面図に反映する必要があった地下埋設物の移設検討作業についても5.0日(40時間)から4.5日(36時間)へと短縮されており、地下埋設物モデル活用による一定の効果が確認された。また、3D可視化により地下空間の立体的な位置関係を共有できることから、干渉状況の把握が容易となり、関係者間の認識共有や合意形成の円滑化に寄与するとの評価も得られた。

一方で、占有者会議や支障移転会議等、関係者間での合意形成が求められる協議の場で活用するためには、地下埋設物モデルの更新主体の明確化が必要であるとの指摘もあり、今後の地下埋設物モデル等の管理体制を含む運用設計の必要性を改めて確認した。

開発事業合理化支援(神奈川県藤沢市) の実証の様子
再開発事業(神奈川県藤沢市)での活用を想定した地下埋設物モデル(3D可視化)の確認及び実証参加者間での意見交換の様子

熊本県玉名市では、地方公共団体職員の主導による地下埋設物モデル整備・更新の可能性を検証した。オープンソースとして公開されている「データ整備ツール」を活用した結果、ツールの環境構築には一定の習熟を要するものの、整備作業自体は実施可能であるとの評価を得られた。また、試掘結果との突合を実施することで、専門知識を有さない地方公共団体の職員でも独自に高精度な地下埋設物モデルの整備を行うことができた。また、整備手順やノウハウをまとめた「地下埋設物の3D都市モデル作成ハンドブック」により、地下埋設物モデルの導入手順の理解が庁内で促進され、今後の活用検討に有効であるとの評価が得られた。

地下埋設物モデル化支援(熊本県玉名市) 地下埋設物モデル及びハンドブックの確認並びに意見交換の様子

本実証を通じて、社会実装に向けては体制面・運用面の課題が整理された。特に、地下埋設物モデルの継続的な更新体制の確立が重要であり、更新主体や役割分担の明確化が求められている。また、開削工事等の際に取得される3次元点群データを活用した地下埋設物モデルの高精度化については、施工事業者の負担や取得条件の整理が必要であり、公共工事の仕様や業務フローへの組み込み方を検討する必要がある。さらに、地下埋設物モデルを庁内横断的に活用するための体制整備も今後の課題といえる。

参加ユーザーからのコメント

■開発事業合理化支援

・埋設物調査に長時間を要するため、3D都市モデルが使えるようになれば時間削減につながると思う
・土被り等も記載があるため、収集の効率化となる
・2D図面より直感的に判断できるため、時間削減が可能と思う
・2Dデータを見慣れていない場合でも、3Dであれば理解し易い
・(他の埋設物を)避けることが出来ることが目視で確認できるので、手戻りは削減できると思う
・今後の再協議等はなくなる可能性が高いと考える
・占用事業者が多い支障移転会議で使用できれば、持ち帰り案件の減少につながる可能性がある
・埋設計画や駅舎計画などの設計段階、施工時のインフラ協議に活用できる
・誰がどのように維持・更新していくのかを明確にする必要がある

■地下埋設物モデル化支援

・地下埋設物モデルの利用にあたっては、理解や操作手順の習得に一定の時間を要する
・使い始めに戸惑いがあると思うが、継続的に利用することにより、業務に要する時間は大きく改善できる可能性がある
・何度も現地確認や測量を要しないのであれば、管理に関する時間の観点では改善が見込まれる
・施工事業者には3次元点群データ取得の負担が増えることになるため、その対応をどうしていくのかが課題
・ハンドブックを作成して終わりとするのではなく、継続的に整備を進めていきたい
・庁内で共有しながら取り組むことが望ましい
・各自治体向けにマニュアル化できるとなお良い

今後の展望

本実証により、再開発事業における支障移転協議での地下埋設物モデルの活用可能性及び地方公共団体職員による地下埋設物モデルの整備・更新の実行可能性が確認された。特に、支障移転会議を想定した検証において業務時間の短縮効果が確認され、過去2か年のプロジェクトで得られた知見を、実務に即した形で検証することができた。また、「データ整備ツール」及び「ハンドブック」を活用することで、職員主導による整備・更新作業が実施可能であることが示された点は、今後の継続的な整備・更新体制の構築に向けた重要な成果である。

一方で、地下埋設物モデルの継続的な運用に向けては、更新主体や役割分担の明確化、更新頻度や精度の考え方の整理、3次元点群データ取得の要件設定など、体制面・運用面における実務定着に向けた課題が明らかになった。

今後は、地下埋設物モデルの更新を既存の業務フローの中に位置付けるためのルールの検討を進めるとともに、庁内横断的に共有可能なデータ基盤としての位置づけを明確化していく必要がある。これにより、本実証において活用可能性が確認された再開発事業での利用に加え、インフラ施設の維持管理や将来の事業検討、さらには災害発生時における迅速な状況把握や復旧対応への活用が期待される。庁内の関係部局の連携を前提とした推進体制の構築に加え、ハンドブック等の活用を通じて、導入初期段階における支援の在り方を整理していく必要がある。

将来的には、地下埋設物モデルを継続的に整備・更新されるデータとして定着させ、再開発事業や維持管理業務、災害時の迅速な状況把握や復旧対応等における高度な活用を実現することを目指す。