人工衛星データを活用した大規模震災地域の建物被害等推定システム
| 実施事業者 | 株式会社WHERE |
|---|---|
| 実施協力 | 株式会社スペースシフト / 金沢市役所 資産税課・危機管理課 |
| 実施場所 | 石川県金沢市粟ヶ崎町 |
| 実施期間 | 2026年1月 |

3D都市モデルと衛星データを組み合わせた物件単位の災害被害度分類システムを開発。従来は難しかった災害被害エリアの早期把握や物件オーナーへの早期フォローを可能にし、地方公共団体/民間企業双方の災害復旧早期化を促進。
本プロジェクトの概要
近年、地震をはじめとする自然災害が全国各地で頻発しており、大規模災害発生時における初動対応力の強化は、社会全体の喫緊の課題となっている。特に大規模震災の発生時には、地方公共団体および民間事業者は、罹災証明書の早期発行といった住民支援や事業継続(オーナーサポートや自社物件管理、各種生産管理、施工管理を想定)の観点から、被害状況を迅速かつ網羅的に把握することが強く求められる。
本プロジェクトでは、既存の不動産取引支援SaaS『WHERE』に、発災直後の建物と道路の被害状況を即座に可視化する機能を実装する。具体的な手法として、3D都市モデル(LOD1)の「フットプリント(建物形状)」と「高さ」を被災前の基準データとして活用し、発災後に取得したSAR画像から推測される高さとの差分を分析する。これにより、全壊・半壊・一部破損といった被害推測の精緻化を目指す。このシステムについて、想定ターゲットである地方公共団体やハウスメーカーへのヒアリングを通じ、実務上の有用性と収益性を評価することで、災害対策ソリューションとしての社会実装に向けた課題を検証する。



実現したい価値・目指す世界
大規模災害発生時の初動において、地方公共団体や民間企業が被害状況を把握する手段は、テレビ報道やSNSといった断片的なメディア情報に依存しているのが実情である。発災後、地方公共団体は住民へのヒアリングを通じたマップ集約を行い、ハウスメーカーなどの民間企業は顧客への電話フォロー等で状況確認を進めるが、これらの手法は属人的かつアナログな側面が強く、全体像の把握までに多大な時間を要する。
このように災害直後の網羅的な情報取得手段が欠如していることで、建物や道路の被害状況の集約は極めて限定的なものに留まっている。その結果、地方公共団体側では適正な応援要請の判断が遅れて罹災証明書の発行遅延を招き、民間側では迅速な対応を要する顧客の優先順位付けが困難になるなど、復旧支援の最適化が著しく妨げられている。
本プロジェクトでは、既存の不動産取引支援SaaS『WHERE』を基盤とし、発災直後のSARデータと3D都市モデルに格納された被災前の建物情報を照合・差分分析することで、被害状況を即座に可視化するシステムを開発する。
技術開発においては、二つのアプローチを統合した高度な建物被害判定システムを構築する。第一に、大型SAR衛星の干渉情報および強度情報を活用し、広域を対象とした中解像度での判定アルゴリズムを開発する。第二に、小型SAR衛星データからDSM(Digital Surface Model)を生成し、特定の狭域に対して高解像度な判定を可能にするアルゴリズムを開発する。これら特性の異なる二つのアルゴリズムを統合することで、広域把握と詳細分析を両立させた高精度な判定体制を実現する。
本システムは震災発生前の状況を把握する3D都市モデルの建築物モデル(LOD1)におけるフットプリント、最高高さ情報および道路ネットワークを環境地図として取得する。そこに震災発生後のSAR衛星データを物件単位で集約し、3D都市モデルの属性情報を正解データとして比較することで、建物単位の被害度推定に加え、道路の通行可否情報の推定・表示を行う。本システムの導入により、地方公共団体において従来は申請ベースで行われていた罹災証明書発行業務の能動的な発行による迅速化と職員の負荷軽減を実現し、民間企業においては管理物件の被害状況把握に基づく初動・復旧計画の高速化に寄与する。
このような被災直後の衛星データを活用した被害度分類システムが普及することで、被災直後の被害状況が迅速かつ網羅的に把握できるようになり、官民双方における災害後の早期復旧・復興がスムーズに進む世界を目指す。



検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
本プロジェクトでは、震災発生前の3D都市モデルにおける建築物モデルのフットプリントおよび高さ情報と、震災後のSAR観測データを組み合わせた被害判定アルゴリズムにより、物件単位の災害被害度分類システムおよび道路通行可否判定システムを開発した。
本システムの核心となる被害判定アルゴリズムは、震災前の情報である3D都市モデルと、震災後の情報であるSARデータを突合し、その変化を抽出する点に特徴がある。具体的には、震災後の小型SARデータから作成した高解像度なデジタル表面モデルと、震災前の既存モデルとの差分を算出することで、建物ごとのミクロな被害を抽出する。併せて、大型SARデータから強度差分や干渉情報を生成し、地盤変動や土砂災害等のマクロな被害状況を把握する。これらを3D都市モデルの建物形状をベースとして統合および比較することで、広域でありながら物件単位での精緻な被害状況把握を実現した。
なお、災害被害度の判定は罹災証明書の被害区分に基づき、全壊、半壊、一部損壊の3段階で行う仕様とした。実際の能登半島地震における罹災証明データを用いたパラメータ調整を実施することで、実務に即した判定精度を追求している。




本システムの開発技術の検証として、大型・小型SARのカバレッジ評価を実施することで精度評価を実施し、有用性検証として、1地方公共団体(石川県金沢市)の2部署(資産税課/危機管理課)の職員及び、3社の民間ハウスメーカーを対象としたシステム操作体験と事後ディスカッション及びアンケートを実施した。
検証で得られたデータ・結果・課題
本実証実験では、開発技術の精度検証に加え、将来の社会実装を見据えたビジネスモデルの検証を並行して遂行した。実証実験は、主に「物件単位被害判定アルゴリズムの適合性検証」および「社会実装に向けたビジネスモデルの検証」の2軸で構成している。
前者のアルゴリズム検証では、大型および小型SARのカバレッジ評価を通じた技術的な精度確認を行うとともに、想定ユーザーである5団体(金沢市の資産税課および危機管理課、民間ハウスメーカー3社)の担当者を対象としたアンケートとヒアリングを実施し、解析結果の有用性を検証した。
後者のビジネス検証では、これら想定ユーザーを対象に本システムの操作デモを通じた機能評価を行い、実務への導入可能性や市場ニーズについて深度ある意見を募った。操作体験後のディスカッションや調査を通じて得られた知見を技術評価の結果と合わせることで、開発システムが実業務において有効に機能することを多角的に確認した。
本プロジェクトでは、大型SAR衛星データによる「広域把握」と、小型SAR衛星データ(DSM)による「詳細分析」を統合した建物被害判定アルゴリズムを開発した。解像度や特性の異なるこれら二つのアプローチを組み合わせることで、広域把握と物件単位での詳細分析を両立させた、高精度な判定体制の構築を目指したものである。
システムの有効性を確認するため、統合前の各アルゴリズムにおいてインプットの基礎となる「カバレッジ(物件検出率)」を測定した。検証の結果、広域SARのカバレッジは100%を記録した。これは、広域解析に用いた干渉SARおよび強度差分の手法が、全物件に対して一律に適用可能なアルゴリズムであることによると考えられる。
一方で、狭域SARのカバレッジは22%に留まり、当初想定の30%を下回る結果となった。これは、SAR衛星の撮影角度の影響により、建物密集地域におけるエッジ検出が不十分であったためと分析される。本結果は採用したDSMの特性に起因するものであるが、今後、地方公共団体が発行する罹災証明書データを判定精度の検証および最適化の指標として直接活用できれば、被害判定アルゴリズムにおける「全壊・半壊・一部破損」の判定閾値を精緻にチューニングできる。これを地域ごとの被災特性を反映した変数として組み込むことで、判定精度のさらなる向上に寄与することが期待される。
また、システムおよびアルゴリズムの実用性をさらに検証するため、想定ユーザーである5団体(金沢市の資産税課および危機管理課、民間ハウスメーカー3社)の代表者を対象としたアンケート・ヒアリングを実施した。「被災判定結果が実務経験や現場知識に照らして妥当か」という問いに対し、4割の回答者が「そう思う」と回答した。一方、残る6割は「どちらともいえない」との回答であったが、これは対象エリア(石川県金沢市粟崎町)の判定結果を客観的に評価する手段が検証時点で不足していたことが主因と考えられる。しかし、該当エリアに精通した金沢市資産税課の担当者からは「最も被害の大きかった通りを正確に予測できている」といった肯定的な評価を得ることができた。
以上の通り、技術的なカバレッジ評価において課題は見られたものの、実務者からは「被害の集中箇所の特定」という重要な局面において一定の支持を得た。これら定量・定性の両側面からの検証により、本システムおよびアルゴリズムが実業務において有効に機能する妥当性を備えていることが確認された。
本プロジェクトのビジネス検証では、民間ハウスメーカー3社および実証地方公共団体を対象に、ヒアリングとアンケートを実施した。本システムは、地方公共団体向けには迅速な状況把握を支援する「無償提供モデル(基本判定)」、民間企業向けには各社の業務に合わせて活用を最適化できる「有償サービスモデル(高度オプション)」としての展開を予定しており、本検証を通じてそれぞれのモデルの妥当性を確認した。なお、「無償提供モデル(基本判定)」とは、解析により建物ごとの被害種別「全壊・半壊・一部破損」を判定するのみに機能を絞った標準的な情報提供を指す。一方、「有償サービスモデル(高度オプション)」は、各事業者の必要に応じて、基本判定の結果に加えて特定の解析項目や属性情報を付加・カスタマイズできる拡張サービスと定義している。
初動対応における有償サービスの活用余地について検証したところ、サブスクリプション形式での導入に関する設問において、民間企業3社全社から「有償での活用を希望する」との回答を得た。適正価格帯については各社で幅が見られたものの、「部署単位で検討しやすい金額範囲に収まっている」との定性コメントを得ており、民間市場におけるビジネスモデルの成立性が確認された。これらの評価の背景として、実務面では、特に「能動的な顧客フォローアップの実現」が高く評価された。具体的には、「被害直後は顧客からの問い合わせを待つしかない現状において、エリアごとの被害傾向を早期に把握することで、能動的な初動対応が可能になる」という趣旨の回答が複数寄せられた。これは、あらかじめ整備された3D都市モデルの発災前のデータと、発災後の衛星データを迅速に突合できる本システムの構造が、解析の速報性と物件特定における高い信頼性を両立させていることを示唆している。
また、実証地方公共団体へのヒアリングでは、罹災証明発行業務の高度化に関する重要な示唆が得られた。具体的には、「従来の申請待ちスタイルではなく、被害状況を事前に判別し、能動的に罹災証明書を発行していく新たな業務フローの検討に資する」との評価を受けた。現状の制度とは異なるものの、将来的な「あるべき業務の姿」を実現するデータとして、地方公共団体側でも極めて高いニーズがあることが浮き彫りとなった。
一方で、実用化に向けた「即時性」の課題も明確になった。「情報取得までの作業時間は実用水準であったか」という設問に対し、2割が「あまりそう思わない」と回答している。本年度開発したシステムでは、発災から1週間での結果提供を可能としているが、回答者の4割からは「発災後1週間以内の提供でも有用」との意見があった一方で、「最速2日後でも遅く、翌日には結果が欲しい」という切実な要望も寄せられた。今後、民間・地方公共団体を問わずターゲットを拡大していくためには、衛星画像の撮像オペレーションを最適化し、発災後24時間以内(翌日中)の判定結果出力を視野に入れた体制構築を検討すべきという指針が得られた。


今後の展望
本実証を通じて、3D都市モデルと衛星データを活用し開発した被害判定システムは、実務における高い有用性と、社会実装へのポテンシャルを有していることが確認された。
技術面では、3D都市モデルのフットプリントを解析単位としたことで、広域SARカバレッジ100%の達成と、実地と乖離のない正確な被害検知を実現した。あらかじめ整備された「正解の形状」と発災後の衛星データを迅速に突合する本手法は、物件特定の信頼性と解析スピードを両立させており、初動対応に耐えうる高度な技術的ポテンシャルを証明している。
ビジネス面では、民間企業全社から有償導入の意向を得るなど、極めて高い市場ニーズを確認した。特に、従来の「申請待ち」から「能動的なフォローアップ」や「プッシュ型地方公共団体サービス」への転換を可能にする点は、実務上の核心的な価値として評価されている。今後は24時間以内の結果提供という即時性の課題を解決することで、災害初動を支える新たな社会インフラとしての実装が期待される。
一方で、物件単位被害判定の実運用に向けては、①小型SARのカバレッジ向上と②初動対応に必要な即時性の確保の2つの課題が残されている。小型SARのカバレッジ向上については、本実証では大型SARが全物件に適用可能でカバレッジ100%であった一方、小型SARは撮影角度の影響により建物密集地のエッジ検出が不十分となり、カバレッジ22%に留まった。統合アルゴリズムの精度向上は統合前のカバレッジに依存するため、小型SARの適用範囲拡大がボトルネックになりうる。今後は、撮像条件・適用条件の最適化(観測計画の調整、小型SARが効くエリアの事前推定)と、地方公共団体から罹災証明書データ等の提供が得られる場合には突合データに基づくチューニングを進め、物件単位に加えて一帯エリア変数としての活用も含めた形で、実務価値が最大化する判定手法へと進化させていくことが重要である。初動対応に必要な即時性の確保については、民間企業は有償サブスクリプションでの利用意向を示し、網羅的に被害傾向を把握して能動的なフォローを可能にする点が評価された一方、作業時間の実用性に懸念があり、翌日レベルの結果提供を求める声も確認された。今後は、撮像オペレーションを含む提供体制の整備(関係者調整による撮像・提供の短縮)と、判定〜配信までの処理パイプラインの自動化を進め、必要に応じて速報・確報といった段階提供も組み合わせることで、1日以内での判定結果出力を実現可能な運用へと昇華させていくことが重要である。
将来的には、本ツールが数多くの地方公共団体・民間企業の災害対応部署において導入され、災害直後の衛星データが、直感的に、かつ、各社の管理物件や地番といった情報と紐づいて確認できることで、官民双方の災害初動対応の迅速化、早期復旧・復興の支援につながることを目指す。





