uc20-009

屋内センサーによる人流モニタリング

実施事業者株式会社三菱総合研究所
実施場所北海道札幌市 札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)及びさっぽろ地下街(ポールタウン・オーロラタウン)
実施期間データ計測:2020年6月~11月 / 解析:2020年12月~2021年2月
Share

センシング技術を用いて地下空間における人の動きの可視化を検証。地上部と連動した空間設計やマーケティングへの活用を目指す。

実証実験の概要

屋内の⼈流を解析することは、混雑回避・賑わい創出の観点からも重要となるが、特に地下空間では、GPSデータの取得が難しい場合があるため、より正確に人流を計測するには別途センサーを設置する必要がある。

今回の実証実験では、札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)及びさっぽろ地下街に設置している人流センサーから収集した人流データを3D都市モデル上で可視化することで、地上と地下、屋内と屋外の一体的なまちづくりへの活用方法を検討した。

実現したい価値・目指す世界

札幌市では、札幌圏におけるデータの協調利用によるまちづくりを実現するため、札幌市ICT活用プラットフォーム(DATA-SMART CITY SAPPORO)を構築して、オープンデータを用いた様々なサービスやアプリのアイデアを創出する取組を推進している。昨今のコロナ禍の状況を踏まえ、混雑を回避するには、正確に混雑状況を可視化する等、さらなるデータの利活用が求められる。

今回の実証実験では、地下であるためGPSデータの収集が困難な札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)及びさっぽろ地下街の3D都市モデル上において、人流データを表示・公開する方法やその活用方法について検証する。 実証実験の成果は、市民に混雑状況をわかりやすく伝えるなど、密を回避するよう促す情報発信の一環としての活用が期待される。また、チ・カ・ホ及びさっぽろ地下街の出店者・広告事業者等への人流の情報提供を行うことで、混雑を避ける誘客の仕組みづくりなど新たな市民サービスが創出されることも期待される。さらに、屋内外の空間から得られる様々なデータを活用することで、地上と地下、屋内と屋外を一体的に捉えるまちづくりへの活用が期待される。

チ・カ・ホ、地下街の3D都市モデル
チ・カ・ホの様子

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

北海道札幌市では、札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)及びさっぽろ地下街の人流の傾向を把握するため、音波センサーや無線式センサーを設置し、人の通過データを計測している。センサーは、天井と床、もしくは壁と壁の間に人が通過したことを検知するものだが、個人を認識・識別するものではないため、個人情報を取得しない計測が可能となる。また、これらのセンサーは、GPS測位が困難な地下空間においても、人流の傾向を把握することができるという特長がある。

チ・カ・ホでは、地下鉄駅コンコースに接続する出入口と、地上道路の交差点部分にあたる箇所及びチ・カ・ホから西向きに接続する北1条地下歩道の接続部分の天井部に、総計数百個の音波センサーを5列に分けて設置し、その直下を通過する人の数を通行方向別に計測している。

さっぽろ地下街では、ポールタウンの地下鉄大通駅コンコースの付近及び地下鉄すすきの駅付近と、オーロラタウンの大通駅コンコースの付近及びテレビ塔付近の通路の両側壁面(計4ヵ所)に、無線式センサーを設置している。

これらのデータは、札幌市ICT活用プラットフォーム(DATA-SMART CITY SAPPORO)にて公開されている。

設置センサー
設置センサー

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、まちづくりへの活用等を目的に、3D都市モデル化した札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)及びさっぽろ地下街に人流データを重畳した。人の通過ポイント(合計9か所)にセンサーを設置し、人の移動の方向と量を、矢印の向きと色により表現した。

3D都市モデル上に人流を可視化することで、2Dと比較してより視覚的に混雑状況を把握することができ、札幌駅に接続する出入口が他の場所と比較して混雑していることや、それらの混雑した人流がすすきの駅方面に向かい、チ・カ・ホやさっぽろ地下街を推移していく様子が確認できた。

一方で、これらの人流データと3D都市モデルの重ね合わせた可視化手法は、大まかな人流の傾向を把握することに向いているが、実際に出店者・広告事業者等へマーケティングのための情報提供を行うためには、年齢別/性別といった属性情報があることが望ましいこともわかった。人流の属性データを取得するためにはカメラ映像等の解析のための新たな計測機器の設置が必要となる。このような発展的なデータ取得を進めていくためには、その目的や実現したい価値、受益者と費用負担者の考え方等を整理することが重要である。

また、さっぽろ地下街では壁面にセンサーを設置しているが、掃除や待ち合わせのために人がそのセンサーを塞いでしまうと計測が途切れてしまうなど、センサーの正確性も課題として浮かび上がっており、これに対応するため、センサーを組み合わせる手法の開発や断続的なデータから拡大推計処理を行うこと等の必要性も明らかとなった。

札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)及びさっぽろ地下街における人流データの可視化結果
札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)内部の 人流可視化イメージ
PLATEAU VIEW上でのデータ確認
センサー設置位置(チ・カ・ホ)

今後の展望

今回の実証実験では、2020年6月~11月の過去データを活用して重畳を行ったが、今後リアルタイムデータを重畳することができれば、混雑状況をリアルタイムに可視化し、市民に密を回避するよう促すことができる。常時リアルタイムデータを取得することで、事故や災害などの検知に活用することもできる。

また、来街者の属性情報を備えるデータや地上部分のデータと組み合わせることで、地上と地下を一体として捉えた空間整備・空間設計、エリアマネジメント活動の可視化、まちづくり団体等のマーケティング等に活用することが期待される。今後、地上と地下の3D都市モデルを充実、データ取得範囲や取得情報の拡大等を通じて、札幌市におけるスマートシティの取組を更に加速させることを目指していく。