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大規模複合施設における人流カウントと建物屋内モデルを用いた可視化

実施事業者株式会社日建設計総合研究所 / 株式会社日建設計
実施場所神奈川県横浜市西区 「クイーンズスクエア横浜」(みなとみらい駅~地上階の共用部分)
実施期間2021年2月~3月
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赤外線センサーによる人流解析技術を用いて屋内の混雑状況を3D都市モデルで可視化する技術を検証。さらに、3D都市モデル上にデータをリアルタイム配信する新たな可視化手法に挑戦した。

実証実験の概要

赤外線センサーを活用した人流カウント技術は、小型のセンシング機器によって対象地点の通過人数を計測する技術であり、プライバシーに配慮しつつリアルタイムな人流データを取得できるため、低コストかつ簡易に人流モニタリングが可能である。今回の実証実験では、大規模複合施設であるクイーンズスクエア横浜において、みなとみらい駅からまちへの動線上に赤外線センサーを設置し、リアルタイムの人流量を把握するとともに、建物屋内モデルと重ね合わせて表示することで、不特定多数の人が行き交う施設内の状況を3Dで可視化することを試みた。

実現したい価値・目指す世界

新型コロナウイルス感染症の影響により「3密を避けた行動」が求められている中で、エリアの混雑状況を低コストかつ効率的に把握し、市民に行動変容を促すことが重要となっている。とくに、不特定対数の人が行き交う駅や大規模複合施設では、ラッシュアワーなど時間帯によって混雑状況が大きく変動するため、リアルタイムの混雑状況を把握することが有効である。

今回の実証実験では建物内に設置した赤外線センサーを用いて対象エリアの通行人数を測定し、公共空間のリアルタイムの混雑状況を一般に提供することを試みた。対象エリアは地下鉄駅(みなとみらい駅)から地上階までを含む立体的な複合施設である「クイーンズスクエア横浜」を選定し、人流の縦動線・横動線を把握するため、フロアごとに複数の赤外線センサーを設置し、解析データを組み合わせることで、時間帯、場所ごとの⼈流、混雑情報を把握した。さらに、地下部分を含む建物内部をCADベースのデータから建物屋内モデル(CityGML形式)としてモデリングし、リアルタイムの人流を建物屋内モデル上で可視化することを試みた。

本実証実験で実施した人流可視化の手法ならびに情報発信の手法を、自治体における新しい生活様式に対応したエリアマネジメントや都市政策に活用することを目指すほか、将来的には、災害時の避難誘導、施設の維持管理、事業者向けのマーケティング等への活⽤が期待される。

実証エリアの3D都市モデル
機器設置箇所を示す図

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

「クイーンズスクエア横浜」において、建物内に設置した赤外線センサーを用いて対象エリアの通行人数を測定した。赤外線センサーは、赤外線を受光することで物体の位置の特定を可能とする機器であり、人の発する遠赤外線を感知することで、人の流れも把握することができる。今回計測したデータはセンシング機器側で集計したJSON形式のファイルとして、約5分間隔で可視化環境に送信した。

また今回、可視化環境として、地下部分を含む建物内部をCADベースのデータから建物屋内モデル(CityGML形式)としてモデリングし、リアルタイムの人流を建物屋内モデル上で可視化することを試みた。可視化環境である3D都市モデル上では、受信したデータを用いて、建物屋内の場所ごとの人流量をリアルタイム配信し、通行方向および人流量に応じたアロー(矢印)で表現した。

利用した機器(赤外線センサ)
利用した機器(リアルタイム情報配信に用いたモニタ)

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、計測した人流データをリアルタイムに取得し、実証箇所に設置したモニタや情報発信用の特設Webサイトにおいて表示するシステムを構築。このシステムを用いることで、3D都市モデルへ重ね合わせるデータのリアルタイム配信を実現することができた。また、計測したデータをその場で人数の実数値のみにエッジ処理して配信するなど、データ構造を簡素化することで、高頻度(約5分間隔)でタイムラグの小さいデータ配信が可能となった。

さらに、建物内部を再現した3D都市モデル上にリアルタイム人流を重畳することで、平面図や地点別の人流グラフに加えて、建物屋内における時間帯別の混雑箇所をわかりやすく情報発信できることが確かめられた。フロアが複層的に重なる大規模施設では、従来の平面図による可視化よりも、ポイントごとの混雑状況を3Dマップ上に重畳する手法のほうが直観的にわかりやすくデータを可視化することができると考えられる。

一方で、今回の実証実験を通じて、実証箇所である施設管理者との事前調整(データ取得時間帯、混雑度の表現方法等)、送受信するデータモデルのフォーマット策定や3D都市モデル上の可視化箇所(アローの配置位置)と現場におけるセンサ位置の整合性担保など、3D都市モデル上でのスムーズなリアルタイム情報配信を行うために改善すべき事項も明らかにすることができた。

3D都市モデルへの重畳結果
3D都市モデルへの重畳結果
現地写真とPLATEAU VIEWの比較イメージ
3D都市モデルへの重畳結果

今後の展望

センシング機器でリアルタイムに計測したデータは、施設管理者にとって混雑回避やマーケティングの観点で有用であるほか、施設利用者においても混雑を回避した移動を選択する情報の一つになるなど、さまざまな主体が活用可能な情報して期待される。ただし、計測したデータの利活用を促進するうえでは、データをどのように収集し加工するかということに加えて、データを利用者にとってわかりやすい形で可視化することが必要である。

今回実施した3D都市モデル上でのリアルタイム人流データ配信は、平面図や地点別の人流グラフなど既存の表現方法とは異なり、地下部分を含む建物内部の縦動線・横動線上の混雑状況を立体的に把握可能とするものであり、新型コロナ危機を踏まえたエリアマネジメントや都市政策への活用、災害時の避難誘導、施設の維持管理、事業者向けのマーケティング等への活用が期待される。

施設利用者に向けた情報発信を行う際には、可視化に耐えうるビジュアルのクオリティを担保するため、CADデータをベースとした屋内のモデリングが必要となった。また、リアルタイムの人流データの可視化には、センシング機器の設置や機器が取得したデータの処理・通信システムの構築も必要である。このように、同様のサービスを展開していく上では、サービス提供者と施設管理者等の十分な連携が必要になる点に留意が必要である。