樹木データを活用した温熱環境シミュレータの開発
実施事業者 | 東日本電信電話株式会社 / Pacific Spatial Solutions株式会社 |
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実施協力 | 東京都千代田区 / 東京都港区 / 三菱地所株式会社 / 株式会社三菱地所設計 / 株式会社石勝エクステリア / 東京大学 / 国土技術政策総合研究所 |
実施場所 | 千代田区全域 / 港区ポートシティ竹芝周辺 |
実施予定 | 2025年10月〜2025年12月 |

3D都市モデルを活用した樹木管理機能及び緑の効果の定量的評価を支援するツールを開発。官民双方に効率的な緑地管理と科学的根拠に基づいた緑化計画を推進し、都市緑地の量的・質的な確保に貢献する。
本プロジェクトの概要
都市緑地は環境保全、防災、地域の魅力向上など多面的な価値を持つ重要な都市基盤であるが、気候変動の影響や都市化の進行により都市緑地は減少傾向にあり、量的・質的な確保および維持が喫緊の課題となっている。地方公共団体では、「緑の基本計画」等の取組が進められているものの、計画策定や緑地管理に必要なデータの収集・分析を自ら行う必要があり、十分な対応が困難な状況である。加えて、2024年に良質な緑地の整備・保全を促進するための「優良緑地認定制度(TSUNAG)」も創設された中、本制度申請に際しては、緑地の整備効果を定量的に示すための、各種データの準備や積算、必要に応じたシミュレーションの実施等、専門性や知見が求められるため、それらを支援・補完する仕組みの整備が、自治体や事業者による制度活用を促進する上で重要となる。
本プロジェクトでは、樹木データを一元管理する樹木管理データベースや、緑化効果の定量的分析を可能とする緑の評価指標算出機能・温熱環境シミュレーション機能を開発する。これらのシステムを活用し、地方公共団体や民間企業の樹木管理の効率化と緑化計画策定業務やTSUNAG申請の支援を行うソリューションとして、社会実装の実現可能性を検証する。

実現したい価値・目指す世界
近年、猛暑や集中豪雨など気候変動の影響が顕在化する中、都市部ではヒートアイランド現象の緩和や二酸化炭素の吸収源としての緑地の重要性が一層高まっている。こうした状況において都市緑化や適切な緑地管理の必要性は増しているが、「効率的な緑地管理」と「緑化効果の測定・分析」には依然として多くの課題が残されている。
「効率的な緑地管理」の観点では、管理を担う多くの地方公共団体や民間事業者において紙の台帳による管理が主流であり、デジタル化は十分に進展していない。街路樹や公園樹木の管理業務では、位置情報、樹種、樹高、樹齢、剪定履歴、病害虫の有無などを紙の台帳に個別に記録・管理する例が一般的である。紙の台帳に手作業で記入すること自体の負荷に加え、データをアナログで管理していることによる情報の更新漏れや重複、検索性の低さなどの非効率性が生じている。
「緑化効果の測定・分析」の観点では、2024年に施行された「都市緑地法等の一部を改正する法律」により創設された「優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)」の活用が期待されている。同制度は、緑地の整備効果を定量的に示し、それに基づいて評価・認定を行う仕組みであり、良質な緑地の整備・保全を促進することを目的としている。申請にあたっては、データの整備や積算、必要に応じたシミュレーションの実施が求められ、制度を有効に活用するには技術的な支援体制の構築が不可欠である。
これらの背景を踏まえると、緑地管理における課題の解決には、デジタル技術を活用した樹木管理システムの導入と、緑の効果を定量的に可視化する仕組みの整備が不可欠である。こうした基盤の整備により、業務の効率化と精度向上を図るとともに、持続可能な都市緑化の実現に向けた取り組みを着実に推進していくことが重要である。
本プロジェクトでは、これらの課題を解決するために①樹木管理機能、②緑の評価指標算出機能、③温熱環境シミュレーション機能の大きく3つのシステムを開発する。
①樹木管理機能では、地方公共団体や民間企業等がこれまで紙やPDFなどで管理し、形式や所在が統一されていなかった緑地関連データを、一元的にデータベースで管理する機能を整備することで、効率的な樹木管理を実現する。
②緑の評価指標算出機能では、優良緑地確保計画認定制度など国の制度との連携を想定し、緑化の評価指標を算出し、指定したエリア内での緑地面積の自動算出機能や日陰シミュレーションの可視化、登録された緑地データに基づくCO₂吸収量の算出機能、生物多様性ネットワーク解析機能などを提供する。これにより、事業者の申請に係るデータ収集・取りまとめの効率化を図る。
③温熱環境シミュレーション機能では、建築物モデル(LOD1、LOD2)および樹木管理台帳データベースから生成した植生モデル(LOD1、LOD2)を活用し、温熱シミュレーション機能の開発を行う。ウェブ上で植生モデルを含む3D都市モデルに対し、日射や地表熱伝導率などの外力を設定し、対象エリアの温熱環境をシミュレーションできる機能や、その結果を可視化・データ出力する機能を構築する。これにより都市空間における緑地の温熱環境への影響を科学的に把握し、緑化施策の効果を定量的に評価することが可能となる。
さらに、都市開発や再開発における緑地配置の最適化や、ヒートアイランド現象の緩和に向けた戦略的な都市設計の支援にもつながる。加えて、3D都市モデルを活用することで、建築物や樹木などの立体的な空間構成をリアルに再現し、視覚的・定量的に都市環境を分析できる点が大きな利点であり、関係者間での合意形成が円滑になり、都市計画や環境施策の立案・評価・説明において高い説得力と実効性を持たせることができる。
本システムは、地方公共団体の緑地管理業務や緑化計画・施策検討のエビデンスや民間事業者による優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)への申請に活用可能であり、地方公共団体・民間事業者双方の効率的・効果的な緑地管理や科学的根拠に基づいた都市計画や緑化施策の推進に寄与する。本システムの社会実装を進めることで、都市緑地の量的・質的な確保および維持を目指す。




