デジタルツインを活用した体験型コンテンツの展示
| 実施事業者 | 株式会社アブストラクトエンジン |
|---|---|
| 実施場所 | 2025年大阪・関西万博 ギャラリーWEST |
| 実施期間 | 2025年5月 |

イントロダクション
Project PLATEAUが整備を進める3D都市モデルが持つ様々な情報とその有用性については、まだ一般市民に十分認知されるまでには至らず、まちづくりをはじめとした関連する業界での利用に留まることが多いのが現状である。さらなる認知度向上のためには、3D都市モデルへの興味・関心を高めるコンテンツの制作が求められる。
今般、2025年大阪・関西万博において、未来のコミュニティとモビリティ - テーマウィークでのイベントブースにProject PLATEAUが出展することとなった。本機会を、国内だけではなく海外からの来訪者にもProject PLATEAUの取り組みをPRできる好機と考え、Project PLATEAUについてのパネル展示に加え、3D都市モデルを活用した体験コンテンツを開発し出展した。
体験コンテンツの内容と作成方法
1.コンテンツ概要
本コンテンツでは体験者が3D都市モデルを活用したデジタル空間に没入し、リアルとバーチャルを行き来できる体験の開発を行うこととした。
そこで、体験者を”没入”させるためのツールとして、Apple Vision Proのヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)を用いる設計とした。ここで、HMDを用いたコンテンツで没入感を感じるかどうかは、映像そのものももちろん重要であるが、音楽が果たす役割も重要である。体験者が立体的に音楽を感じ取れるように、体験者を囲む配置でスピーカーを4方向に設置した。4方向からの音楽で、没入感を体験者に提供するのみならず、観覧者へもコンテンツを体感してもらうことも目指す。
加えて、HMDだけではなくライド系のコンテンツとすることで、映像、音楽、振動、そして慣性(スピード)の4次元の体験装置として、さらなる没入体験を実現した。
体験者の前には大型のLEDビジョンを設置。これはコンテンツ内の演出を放映するもので、迫力のある映像と音楽が融合したオーディオビジュアルを観覧者も楽しむことができ、体験者以外もProject PLATEAUに興味・関心をもてる接点づくりを試みた。
本編では、PLATEAUの3D都市モデルのデータを用いてレーシングコンテンツを制作するうえでの手法、問題点を確認する。
2.作成方法
映像
コンテンツにおける映像は渋谷と京都の2都市を舞台として作成した。
渋谷においては、スクランブル交差点からスタートとして、渋谷109 - 東急文化村 / 西武百貨店 - センター街 / 明治通り - 宮益坂を走行するルートとした。
京都においては、清水寺 - 花見小路通 - 先斗町通 - 三条大橋を走行するルートとしている。
2都市とも2分ほどの所要時間のコンテンツとしており、この時間は体験者の十分な満足度と、イベントへの出展として回数を実施することを両立できる設計として企図した。
作成は2段階に分けて行った。
まずHMD上で動作するレーシングコンテンツのプロトタイプを開発。ここではPLATEAUの3D都市モデルは使用せず、オリジナル空間のコースを制作。このプロトタイプを基にレーシングコンテンツそのものの体感設計と、1回の体験におけるコンテンツの所要時間を検討した。
その後、実際の体験内容や都市を舞台としたルートの検討を進め、PLATEAUの3D都市モデルを用いたコンテンツを開発。前述のとおり渋谷と京都の3D都市モデルを活用しコンテンツの舞台としている。

映像に用いる3Dデータの作成手法
コンテンツで使用したリアリティのある都市の映像を作成するにあたり、今回は「3Dガウシアン・スプラッティング(3D Gaussian Splatting)(以下、3DGS」)という手法を採用した。
自由視点画像生成技術である3DGSは、限られた視点の画像データを基に3Dモデルを構築し、新しい視点からの画像を生成可能とするレンダリング技術。入力画像を基に数百万のガウス分布を重ね合わせて3Dモデルを表現する手法で、リアルタイムで高品質な3D映像をレンダリングすることを可能にしている。
画像データの取得に当たっての撮影機材は、カメラ「Sony α6400」とレンズ「Super Wide 15mm F4.5」を使用した。またレンズについては、広域撮影が可能で、かつ歪みの出にくい 24mm 程度のレンズを採用している。
■ 渋谷での撮影箇所と枚数
スクランブル交差点 / 渋谷109 1762枚
東急文化村 / 西武百貨店 1474枚
センター街 / 明治通り 1866枚
宮益坂 906枚
■ 京都での撮影箇所と枚数
清水寺 3184枚
花見小路通 1382枚
先斗町通 2634枚
三条大橋 1305枚
3DGSを用いた空間表現の再構成には postshot v0.6.0 を使用し、Splats3 モデルで学習を実施した。
入力画像は3000x2000pxにダウンサンプリングした画像群を使用し、トレーニングは50,000 Steps 、およそ3時間を要した。これにより、空間構造およびテクスチャ情報を保持した三次元モデルを生成した。
なお、生成された3DGSによる三次元モデルは、後工程であるUnity環境へ取り込み可能な形式に変換し、リアルタイム描画が可能な状態で運用している。
映像作成の手順
1. Houdini によるカメラパス作成
まず、Houdini上にPLATEAUの3D都市モデルを配置し、カメラアニメーションを作成した。都市スケールに基づく空間配置の中で移動経路を設計し、最終的な視点移動を決定している。
作成したカメラパスは Alembic(.abc)形式で書き出した。Alembic形式はカメラの位置・回転・アニメーション情報を保持したまま他のソフトウェアへ受け渡すことが可能である。

2. Unity による空間統合およびレンダリング
Unity上では、3DGSにより生成した三次元モデルと PLATEAU の3D都市モデルを同一空間上に配置した。両者の座標およびスケールを調整し、3D都市モデル上に三次元モデルを重畳可能な状態に整合させている。
そこに、Houdiniで作成したカメラパス(Alembic形式)をUnityへインポートし、設計したカメラワークをそのまま再現した。
レンダリングは全天球(Equirectangular)形式で実施し、渋谷および京都の仮想空間内を移動するシーンを360度映像として出力している。

3. 3D都市モデル上でのVFX Graphによる演出
UnityのVFX Graphを使用し、3D都市モデル上にパーティクルエフェクトを構築した。都市のジオメトリの形状情報を基準としてパーティクルを発生・制御するシーンを作成している。
VFX GraphはGPUベースで動作するため、大量パーティクルのリアルタイム描画が可能であり、都市空間と一体化した演出を構成している。
4.Apple Vision Proアプリケーションへの実装
アプリケーション側では、原点に固定されたカメラの周囲に球体メッシュを配置し、レンダリングした全天球映像を球体内側へテクスチャとして貼り付ける方式を採用している。
全天球映像はH.265(HEVC)形式でエンコードした。H.265は高圧縮率かつハードウェアエンコード/デコードに対応しているため、高解像度映像を効率的に扱うことが可能である。
動画ファイルはHMD内のストレージへ保存し、アプリケーション側からパス指定で読み込む構成としている。これにより、アプリケーション本体に動画をバンドルせずに運用でき、容量制限を回避している。
HMD
今回体験に採用したHMDは、Apple Vision ProとMeta Quest 3を比較した結果に基づいて選定した。
まず、解像度とディスプレイの品質を比較した。
Meta Quest 3は液晶ディスプレイ(LCD)であり、解像度は高いが、暗いシーンでは画面全体が白っぽく浮いてしまうことが分かった。また、目を凝らすとドットの網目(スクリーンドア効果)が見えてしまう。
一方、Apple Vision ProはマイクロOLED(有機EL)であり網膜解像度(=片目あたりの画素数)は4Kテレビ以上ある。また、ドットの粒が肉眼では視認できず、CGのテクスチャや文字がまるで印刷物や実物のように見えるというメリットがある。体験者が「ディスプレイを見ている」という感覚を喪失し、体験コンテンツの世界に完全に没入することを可能とする。
また、コンテンツ再生時のスペック面において、Meta Quest 3はモバイル用チップ(Snapdragon)で動いており、スマートフォンよりは高性能だが、たくさんの光の表現や大量のポリゴンを表示するには、軽量化(ポリゴン削減など)の作業が必要となる。
一方、Apple Vision ProはMacBookが搭載するものと同じ M2チップ を搭載している。これはPC端末級の性能で、完全ワイヤレスの単体機でありながらもPCでのVR映像に近い、大量のポリゴン、高解像度のテクスチャをそのまま表現することが可能となる。そのため、制作した映像を「HMDの性能に合わせて画質を落とす」ことをせずとも、複雑なビジュアル制御を行っても処理落ちしにくい状況を達成できる。
結論として、Apple Vision Proを採用し、PC端末級に 匹敵する演算能力と画質を両立することで、没入感の高い体験コンテンツとした。

体験コンテンツ設計のまとめ
• 映像
PLATEAUの3D都市モデルをそのままを用いるパート、リアルさのある 3DGS を用いるパート、完全バーチャルなワイヤーフレームパートを組み合わさることでコースを設計。技術的な要素の検証を行った後に、エフェクト等を追加することで、さらに没入感を高めている。
• HMD
HMDには Apple Vision Pro を採用。運用を考慮して、バッテリーホルダーも調達した。
・その他
慣性チェア
ライド系のコンテンツの要であり、座り心地や安心感を向上させるため慣性チェアのデザイン面でのアップデートを行った。チェアの設計はトヨタ紡織株式会社が担当した。アップデートするにあたり、デザイン面の変更だけでなく機能面でもアップデートを行い、椅子に振動子を埋め込むことによって、映画館の4DXのような臨場感のある体験を実現した。
音楽
スピーカーは、Eastern Sound Factory 社のカスタムスピーカーとウーハーを選択。大きなスピーカーが体験者の四方を囲み、圧倒的な音圧で体験者を包み込むことで、体験の質を向上させた。
開発における課題
開発を進める中で問題となったのは大きく2つあり、1つはHMDを扱うコンテンツによる「VR酔い」の問題であった。プロトタイプ時点では被験者の多くが開始から数秒で酔う傾向が見られ、この酔いを改善することが大きな課題であった。
原因の1つとして、3D都市モデルのテクスチャをそのまま利用した低解像度のコンテンツのみでは、視線移動の際に酔いが激しくなる傾向が見られた。そのため、映像に使用するデータの解像度を高めるため、一部3DGSを用いた映像化、およびワイヤーフレームによる表現の導入などで、低解像度のコンテンツが流れるパートの時間を極力少なくするようにした。
また、Apple Vision Proは360度視線を移動できることが特徴の一つのHMDであるが、そのことにより普段の視線移動と全く異なる視線移動が発生した場合に「酔い」が発生していることが分かった。この原因に対しては、なるべく体験中の視線を固定できるようなガイドを映像中に入れることで解決した。
また、体験する映像コンテンツの動きと慣性チェアの連動という点ももう一つの問題であった。HMDで視界を覆ってしまっている状態で椅子を大きく動かしすぎると、それは恐怖を伴う体験となってしまう。そのため、作成する映像を細かく調整する必要があり、試行を何度も繰り返すことで、恐怖を感じさせず、かつ速度を感じられるような最適なチェアの動きへと調整を進めていった。




まとめ
本コンテンツは2025年大阪・関西万博 ギャラリーWESTで予定通り展示され、開放した予約枠はすべて埋まるなどの盛況ぶりを見せた。
なお、本コンテンツは大阪・関西万博以降もJAPAN MOBILITY SHOW2025でも展示された。今後も積極的にProject PLATEAUの認知拡大を推進していきたい。





