標記の4水系の河川整備基本方針の策定につきましては、河川法第16条第3項に基づき、国土交通大臣から社会資本整備審議会会長へ意見を求め、同審議会から河川分科会に付託されました。その後、社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会において審議を行ったのち、平成18年7月31日に開催した社会資本整備審議会河川分科会(第20回)の審議を経て平成18年9月1日付けで、河川整備基本方針を策定し、同日付で官報に公表されることとなりました。
<雲出川・釧路川・黒部川・山国川の河川整備基本方針の概要>
平成9年に河川法が改正され、豊かでうるおいのある質の高い国民生活や良好な環境を求める国民のニーズに的確に応えるため、制度を見直し、それまでの工事実施基本計画に代え、新たに、河川整備の基本となるべき方針に関する事項『河川整備基本方針』と具体的な河川整備に関する事項『河川整備計画』に区分されました。
河川整備基本方針は、各水系における治水、利水、環境等に関する河川管理の長期的な方針を、総合的に定めるものであり、河川整備の基本となるべき事項等を定めます。
今回策定した4水系についても、各水系の地形、降雨、環境等の特性を踏まえた治水・利水・環境に関する整備の方向性を示しています。また、治水計画の基本となるべき事項として、目標とする洪水の流量である基本高水のピーク流量(計画の基本となる洪水の流量)と計画高水流量(河道での分担流量)を最新の水文データ等も加えてその内容を検証した結果、雲出川、釧路川、山国川の3水系は既定計画と同様とすることとしました。黒部川については、基本高水のピーク流量は、既定の計画と同様としていますが、下流の河道の特性を踏まえ、計画高水流量を増加させました。
流水の正常な機能を維持するため必要な流量については、雲出川、釧路川、黒部川、山国川の4水系で、既定計画では定められていなかったものを新たな検討を行い設定しました。
【河川整備基本方針・河川整備計画について】
・https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/index.html
【社会資本整備審議会河川分科会について】
・https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/bunkakai/index.html
今回策定する4水系の河川整備基本方針の主な特徴的内容は次のとおりです。
●雲出川(くもずがわ)水系 (流域面積:550km2、幹線流路延長:55km)
雲出川は、その源を三重県津市と奈良県宇陀(うだ)郡御杖(みつえ)村の県境に位置する三峰(みむね)山(標高1,235m)に発し、伊勢平野に出て波瀬(はぜ)川、中村川等を合わせて、その後、雲出古川を分派して伊勢湾に注ぐ。流域は、典型的な扇状地形をなし、雲出川の蛇行した流れは浸食と堆積を繰り返し、河岸段丘や沖積平野を形成している。
昭和57年8月洪水では本川上流部及び中村川で計画高水流量を上回る観測史上最大流量5,400m3/sを記録し、浸水面積977ha、被災家屋1,426戸となる甚大な被害が発生した。また、平成16年9月洪水においても浸水被害が発生した。
このような状況に鑑み、沿川地域を洪水から防御するため、本川及び中村川において流域内の洪水調節施設により洪水調節を行う。その際、関係機関と調整しながら既存施設の有効活用等を図るとともに、本川の中村川合流点から長野川合流点付近までの区間において遊水機能を活かした洪水調節を行う。
また、河道掘削による河積の確保にあたっては、河道の安定・維持、河岸等の良好な河川環境、遺跡等に配慮する。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準点雲出橋で8,000m3/sとし、河道と洪水調節施設への配分についても工事実施基本計画と同様にそれぞれ、
6,100m3/s、1,900m3/sとした。
●釧路川(くしろがわ)水系 (流域面積:2,510km2、幹線流路延長:154km)
釧路川は、その源を藻琴(もこと)山(標高1,000m)など屈斜路カルデラの外輪山に発し、屈斜路湖(くっしゃろこ)から流れ出て、弟子屈(てしかが)町、標茶(しべちゃ)町を流れ、釧路湿原に入り、釧路市街地を貫流し太平洋に注ぐ一級河川で、上流の屈斜路湖などは阿寒国立公園に、下流の釧路湿原はラムサール条約登録湿地及び釧路湿原国立公園に指定されているなど豊かな自然環境に恵まれている。
このような状況を踏まえ、釧路川水系では、人と自然が共生する持続可能な社会の構築を目指し、洪水等から貴重な生命、財産を守り、地域住民が安心して暮らせるように社会基盤の整備を図る。また、地域の共有財産である屈斜路湖や釧路湿原を中心とした釧路川の豊かな河川環境を次世代に継承するとともに、これらの河川環境と地域の人々の生活、産業活動との共生を図りながら地域社会の安定的な発展を目指す。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準点標茶で1,200m3/sとし、すべてを河道へ配分することとした。
●黒部川(くろべがわ)水系 (流域面積:682km2、幹線流路延長:85km)
黒部川は、その源を富山県と長野県の県境の鷲羽岳(わしばたけ)(標高2,924m)に発し、黒薙川(くろなぎがわ)等の支川を合わせ黒部市愛本に至り、黒部川扇状地を流下し日本海に注ぐ河川である。
その流域は、標高3,000m級の急峻な山岳地形で形成されているが、地質は脆弱であり、洪水は土砂とともに一気に流出し、昭和27年、昭和44年等において流域全体で甚大な被害が発生している。 沿川地域を洪水氾濫による被害から防御するため、流出土砂が多い急流河川であることを踏まえ、砂防施設による土砂流出の抑制・調節や宇奈月ダム等による連携排砂・通砂と併せ、黒部川の自然環境を配慮しながら、堤防の整備や強化、河道掘削等により計画規模の洪水を安全に流下させる。また、あわせて、急流河川であるため、洗掘や侵食による破堤を防止する対策を実施する。
黒部川の流れが生み出した良好な河川景観や豊富な地下水を保全し、多様な動植物の生息・生育する豊かな自然環境を次世代に引き継ぐよう努める。このため、黒部川の原風景でありアキグミ群落が発達している砂礫河原や湧水箇所、霞堤内等の特有の動植物の生息・生育環境を保全するとともに、治水面との調和を図りつつ、アユの遡上環境や礫底を好むカジカ等の生息環境、コアジサシの集団営巣地となる砂州の保全等に努める。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準点愛本で7,200m3/sとする。
河道と洪水調節施設への配分については、工事実施基本計画でそれぞれ6,200m3/s、1,000m3/sとしていたが、工事実施基本計画策定以降の河床低下により河積が増大したことを考慮し、河道流量を300m3/s増加させ、6,500m3/s、700m3/sとした。
●山国川(やまくにがわ)水系 (流域面積:540km2、幹線流路延長:56km)
山国川は、その源を大分県中津市山国町英彦(ひこ)山(標高1,200m)に発し、同市山国町、耶馬渓町を貫流し、山移(やまうつり)川・跡田(あとだ)川等を合わせ、中津平野に出て、友枝(ともえだ)川・黒川等を合わせ、山国橋下流で中津川を分派し周防灘(すおうなだ)に注ぐ。
流域の下流部には、大分県北部の中心都市であり福岡県と大分県を結ぶJR日豊線や国道10号等の交通の要衝である中津市が位置し、人口や資産が集積している。また、中上流部には景勝地「耶馬渓」を生かした観光地が点在しており、これらの沿川地域を洪水から防御するため、既設耶馬渓ダムによる洪水調節を行うとともに、山国川の豊かな自然環境に配慮しながら、堤防の新設、拡築、河道掘削等の必要な対策を行うことにより、計画規模の洪水を安全に流下させる。
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、耶馬渓ダムによる供給を行うとともに、渇水等の発生時の被害を最小限に抑えるため、水利使用者相互間の水融通の円滑化などを推進する。また、河川環境の整備と保全に関しては、山国川と流域の人々との歴史的文化的なつながりを踏まえ、山国川の美しい流れとその周辺の奇岩・秀峰が織りなす良好な河川景観の保全を図るとともに、豊かな自然環境を次世代に引き継ぐよう努める。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準点下唐原で4,800m3/sとし、河道と洪水調節施設への配分についても工事実施基本計画と同様にそれぞれ、4,300m3/s、500m3/sとした。
<流域図>
<河川整備基本方針>
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