標記の9水系の河川整備基本方針の策定につきましては、河川法第16条第3項に基づき、国土交通大臣から社会資本整備審議会会長へ意見を求め、同審議会から河川分科会に付託されました。その後、社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会において審議を行ったのち、平成19年1月31日及び平成19年2月27日に開催した社会資本整備審議会河川分科会の審議を経て平成19年3月30日付けで、河川整備基本方針を策定し、同日付で官報に公表されることとなりました。
<常呂川・名取川・物部川・十勝川・関川・肝属川・荒川・揖保川・太田川の河川整備基本方針の概要
>
平成9年に河川法が改正され、豊かでうるおいのある質の高い国民生活や良好な環境を求める国民のニーズに的確に応えるため、制度を見直し、それまでの工事実施基本計画に代え、新たに、河川整備の基本となるべき方針に関する事項『河川整備基本方針』と具体的な河川整備に関する事項『河川整備計画』に区分されました。
河川整備基本方針は、各水系における治水、利水、環境等に関する河川管理の長期的な方針を、総合的に定めるものであり、河川整備の基本となるべき事項等を定めます。
今回策定した9水系についても、各水系の地形、降雨、環境等の特性を踏まえた治水・利水・環境に関する整備の方向性を示しています。また、治水計画の基本となるべき事項として、目標とする洪水の流量である基本高水のピーク流量(計画の基本となる洪水の流量)を最新の水文データ等も加えてその内容を検証した結果、9つ全ての水系で既定計画と同様とすることとしました。
【河川整備基本方針・河川整備計画について】
・https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/index.html
【社会資本整備審議会河川分科会について】
・https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/bunkakai/index.html
今回策定する9水系の河川整備基本方針の主な特徴的内容は次のとおりです。
●常呂川(ところがわ)水系(流域面積:1,930km2、幹線流路延長:120km)
常呂川は、その源を北海道常呂(ところ)郡置戸(おけと)町三国(みくに)山(標高1,541m)に発し山間部を流下し、置戸町勝山において、仁居常呂(にいところ)川を合わせ置戸町、訓子府(くんねっぷ)町を経て、北見市内において無加川を合わせ、北見盆地を貫流し、狭窄部を流下し仁頃(にころ)川を合わせ、常呂平野を経てオホーツク海に注ぐ一級河川である。
流域内には、オホーツク圏の拠点である北見市等があり、農業、水産業が盛んで、中下流部は農地として明治初期からひらけ、河口沿岸ではホタテの養殖などの漁業が行われており、タマネギや甜菜、ホタテの全国有数の産地となっている他、国の天然記念物であるオジロワシ、オオワシが数多く確認されており、サケ、サクラマス、カラフトマス等が遡上するなど、豊かな自然環境に恵まれている。
沿川地域を洪水から防御するため、流域内の洪水調節施設により洪水調節を行うとともに、堤防の新設・拡築及び河道の掘削等を行い河積を増大させる。なお、河道掘削は、河道の維持、大きく蛇行する低水路など良好な河川環境の保全に配慮しつつ、河道の平面形及び河岸等の樹木が流水に与える影響を把握、考慮しながら実施する。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点北見において1,900m3/sとし、河道と洪水調節施設への配分についても工事実施基本計画と同様にそれぞれ、1,600m3/sと300m3/sとした。
●名取川(なとりがわ)水系 (流域面積:939km2、幹線流路延長:5km)
名取川(なとりがわ)は、その源を宮城・山形県境の神室岳(かむろだけ)(標高1,356m)に発し、奥羽(おうう)山脈から発する碁石川(ごいしがわ)、広瀬川(ひろせがわ)等の大小支川を合わせて仙台平野を東流し、名取市閖上(ゆりあげ)で太平洋に注いでいる。左支川広瀬川は、宮城・山形県境の面白(おもしろ)山に源を発し、大倉川(おおくらがわ)、斎勝川(さいかちがわ)等の大小支川を合わせて流下し、仙台市袋原(ふくろばら)で名取川に合流している。
その流域は、仙台市、名取市などからなり、沿川には、東北新幹線、JR東北本線、JR仙山線(せんざんせん)、JR仙石線(せんせきせん)の他、仙台市の南北を結ぶ地下鉄(南北線)の整備に加え、仙台東部道路、仙台南部道路、国道4号、45号、48号等の基幹交通ネットワークが形成されるなど、交通の要衝となっている。
また、上流部は蔵王(ざおう)国定公園や二口峡谷(ふたくちきょうこく)等の県立自然公園の指定、磐司岩(ばんじいわ)や秋保大滝(あきうおおたき)等の景勝地、河口部一帯は国指定仙台海浜鳥獣保護区や仙台湾海浜自然環境保全地域(宮城県)の指定に加え、井土浦(いどうら)は「日本の重要湿地500」(環境省)に選定されるなど、豊かで貴重な自然環境が随所に残されている。
昭和25年8月の計画高水流量を大幅に上回る未曾有の洪水により、昭和29年の第1次改定計画の契機となった。近年においても、昭和61年8月洪水、平成6年9月洪水、平成14年7月洪水と相次いで洪水が発生し、下流部において家屋の浸水被害が生じている。
このような状況等を踏まえ、それぞれの地域特性にあった治水対策を講じることにより、水系全体としてバランスよく治水安全度を向上させるため、名取川の豊かで貴重な自然環境に配慮しながら、堤防の新設、拡築及び河道掘削を行い、河積を増大し、計画規模の洪水を安全に流下させる。また、気象予測の情報技術の進展、水文観測や流出解析精度の向上等を踏まえた、より効果的な洪水調節の実施と総合的な運用により既設洪水調節施設の治水機能向上を図るとともに、洪水調節施設を整備する。
なお、支川広瀬川における河道掘削にあたっては仙台市中心部における水辺空間をできる限り維持するよう努めるとともに、本川河口部の河道の整備にあたっては井土浦及び貞山運河周辺の豊かで貴重な自然環境、景観、歴史性等に配慮する。
また、内水被害の著しい地域においては、関係機関と連携・調整を図りつつ、必要に応じて内水被害の軽減対策を実施する。
河道内の樹木については、下流河川を渡河する橋梁等の構造物への影響を踏まえ、河川環境の特性に配慮しつつ、洪水の安全な流下を図るため、樹木の繁茂状況等をモニタリングしながら、計画的な伐採等適正な管理を実施する。また、河道内の州の発達や深掘れの進行等についても、適切なモニタリング及び管理を実施する。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
名取川の基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点名取橋で4,700m3/sとし、このうち流域内の洪水調節施設により900m3/sを調節して河道への配分流量を3,800m3/sとした。
また、広瀬川の基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点広瀬橋で4,000m3/sとし、このうち流域内の洪水調節施設による1,200m3/sを調節して河道への配分流量を2,800m3/sとした。
●物部川(ものべがわ)水系 (流域面積:508km2、幹線流路延長:71km)
物部川は、その源を高知県香美市(かみし)の白髪山(しらがやま)(標高1,770m)に発し、途中、上韮生川(かみにろうがわ)、舞川(まいかわ)、川の内川(うちのがわ)等を合わせ西流し、香美市神母ノ木(いげのき)において香長(かちょう)平野に出て南流し、太平洋に注ぐ。
典型的な扇状地が形成されており、一度氾濫すると拡散型の氾濫となるが、右岸側には、高知龍馬空港、高知大学等の重要施設と住宅地等が多くの資産が集中しているため、被害は甚大となる。また、下流域には、高知県最大の穀倉地帯である香長平野が広がり、野菜を中心とする施設園芸や稲作が盛んであるとともに、上流域には剣山国定公園(つるぎさんこくていこうえん)、別府峡(べふきょう)等があり豊かな自然環境に恵まれていることから、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。
このような状況を踏まえ、沿川地域を洪水から防御するため、流域内の洪水調節施設により洪水調節を行う。その際、関係機関と調整しながら、効果的な操作ルールの採用、ダム放流能力の向上等を図る。また、自然豊かな河川環境の保全にも十分配慮しながら、堤防の新設、堤防の引堤、河道掘削等により河積を増大させ、計画規模の洪水を安全に流下させる。特に、急流河川特有の流水の強大なエネルギーにより引き起こされる洗掘や侵食に伴う破堤被害等を防ぐため、高水敷造成及び水制工や護岸の整備等の必要な対策を行う。
また、中、下流域における濁水とその長期化を改善するため、関係機関と連携し、土砂流出の抑制等の流域対策等を推進するとともに、ダムでの濁水の有効な排出方法の検討を行う。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準点深(ふか)渕(ぶち)で5,400m3/sとする。
河道と洪水調節施設への配分については、工事実施基本計画でそれぞれ4,740m3/s、660m3/sとしていたが、下流河道の特性を踏まえ、できる限り河道で分担するよう検討し、河道流量を160m3/s増加させ、それぞれ4,900m3/s、500m3/sとした。
●十勝川(とかちがわ)水系 (流域面積:9,010km2、幹線流路延長:156km)
十勝川は、その源を大雪(だいせつ)山系の十勝岳(標高2,077m)に発し、山間峡谷を流れて十勝平野に入り、佐幌(さほろ)川、芽室(めむろ)川、美生(びせい)川、然別(しかりべつ)川等の多くの支川を合わせて帯広市に入り、音更川、札内川、利別川等を合わせ、豊頃(とよころ)町において太平洋に注ぐ一級河川であり、流域は、かつて十勝川本川の河口部であった浦幌十勝川及びその支川流域を含んでいる。
流域内には、広大な十勝平野が広がっており、そのほぼ中央に道東の拠点である帯広市街があり、その周辺では大規模な農業が営まれ、小麦、甜菜、馬鈴薯、小豆、いんげん等の畑作や酪農、畜産が盛んで、日本有数の食料供給地となっている他、大雪山国立公園、阿寒国立公園、日高山脈襟裳国定公園をはじめとする豊かな自然環境に恵まれている。
沿川地域を洪水から防御するため、流域内の洪水調節施設により洪水調節を行うとともに、堤防の新設、拡築及び河道の掘削等により河積を増大させ、護岸・水制等を設置し、計画規模の洪水を安全に流下させる。
十勝川は、人口、資産等が集積する帯広市街地において、急勾配で流下する音更川、札内川が相次いで合流する。このため、急流河川特有の土砂を含んだ流水の強大なエネルギーにより引き起こされる洗掘や侵食に伴う破堤氾濫等を防ぐため、現象の十分な把握を目的とした監視、調査を継続的に実施し、その結果を踏まえ必要な対策を行う。
また、流域内の全ての市町村は、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域に指定されており、防災等関係機関と連携を図りながら、情報連絡体制や必要な施設整備等について検討を進め、地震・津波被害の軽減を図る。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点茂岩において
15,200m3/s、同じく帯広において6,800m3/sとし、河道と洪水調節施設への配分についても工事実施基本計画と同様にそれぞれ、13,700m3/sと1,500m3/s、6,100m3/sと700m3/sとした。
●関川(せきかわ)水系 (流域面積:1,140km2、幹線流路延長:64km)
関川は、その源を新潟県妙高市(みょうこうし)の焼山(やけやま)(標高2,400m)に発し、野尻湖から発する池尻川や渋江川、矢代川等の支川を合わせた後、河口付近で保倉川を合流して日本海に注ぐ河川である。また、保倉川(ほくらがわ)は、上越市の野々海峠(ののみとうげ)に源を発し、山間部を流下した後、桑曽根川(くわそめがわ)、飯田川(いいだがわ)等の支川を合わせ、河口付近で関川に合流する関川最大の支川である。
その上流域は、妙高火山群等の山地から一気に流れ出す急流河川の様相を呈するが、丘陵地と海岸砂丘に挟まれた下流域は、低平地が広がる水害の常襲地帯であり、度々甚大な被害が発生している。沿川地域を洪水氾濫による被害から防御するため、矢代川合流点付近等の豊かな自然環境に配慮しながら、河道掘削や固定堰の改築等を行い計画規模の洪水を安全に流下させる他、保倉川については現川を最大限掘削するとともに放水路の整備により必要な流量を調節する。
一方、河川環境の整備と保全に関しては、妙高連山(みょうこうれんざん)を背景に関川の流れが生み出す良好な河川環境を保全するとともに、多様な動植物の生息・生育する豊かな自然環境を次世代に引き継ぐよう努める。このため、アユ等の良好な産卵場の保全や回遊性魚類等が生息できる縦断的に連続する河川環境の保全・再生に努める他、冠水頻度等を考慮した河道掘削を行い湿地環境を好む動植物の生息・生育環境についての保全・再生に努める。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に関川の基準地点高田で3,700m3/s、保倉川の基準地点松本で1,900m3/sとする。
河道と洪水調節施設への配分については、関川の高田地点では既定の工事実施基本計画と同様に3,700m3/s全量を河道に配分した。保倉川は松本地点での河道配分流量を
1,200m3/sとし、既定の工事実施基本計画と同様に700m3/sを洪水調節施設(放水路)に配分した。
●肝属川(きもつきがわ)水系 (流域面積:485km2、幹線流路延長:34km)
肝属川は、その源を鹿児島県鹿屋(かのや)市高隈(たかくま)山地御岳(おんたけ)(標高1,182m)に発し、下谷(しもたに)川、大姶良(おおあいら)川、姶良(あいら)川、高山(こうやま)川、串良(くしら)川等の支川を合わせて肝属平野を貫流し、志布志(しぶし)湾に注ぐ。
流域内の大隅(おおすみ)半島の拠点都市である鹿屋市では、国道220号、269号等の基幹交通施設に加え、東九州自動車道が整備中であり交通の要衝となっている。また古くからシラス台地に起因する湧水が多く、豊かな水を利用した稲作が営まれ、さらに笠野原(かさのはら)台地では近年畜産や畑作が盛んとなるなど、この地域における社会・経済・文化の基盤をなし、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。
流域の地質は、山間部が花崗(かこう)岩・四万十(しまんと)層群で形成され、中下流部の大部分は、姶良カルデラ等から噴出した入戸(いと)火砕流等による灰白色の火山噴出物であるシラスが分布している。
このような状況を踏まえ、沿川地域を洪水から防御するため、肝属川に残された豊かな自然環境に配慮しながら、堤防の整備や質的強化、河道掘削等により河積を増大させ、計画規模の洪水を安全に流下させる。特に、堤防の質的強化については、築堤材料として使用されているシラスの特徴を踏まえ、堤防の詳細な点検及び質的強化に関する研究、対策を実施する。河口部については、高潮による災害の防除を図るため、高潮対策を実施し、地震・津波対策を図るため、堤防の耐震対策を講ずる。内水被害の著しい地域においては、関係機関と連携・調整を図りつつ、必要に応じて内水被害の軽減対策を実施する。
直線的で単調な河川空間となっている区間については、これまでの河岸侵食等を考慮の上、治水上影響の無い範囲で、多様な自然環境の創出を図る。また、堰の改築等にあたっては、関係機関と調整した上で、魚道を設置するなど魚類等の生息場の連続性の確保に努める。
人と河川との豊かなふれあいの確保については、情報発信拠点を活用しながら流域の交流を促進するとともに、地域のまちづくりと一体となった川づくりを促進する。
水質については、肝属川の現状を踏まえ、関係機関とともに策定された水質改善目標及び行動計画に基づき、関係機関や地域住民と役割分担しながら、計画的に水質の改善に努めるとともに、水質に関する啓発活動を行うなど、水環境改善に向けた総合的な取り組みを推進する。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点俣瀬(またせ)において2,500m3/sとし、河道への配分流量についても2,500m3/sとした。
●荒川(あらかわ)水系 (流域面積:2,940km2、幹線流路延長:173km)
荒川はその源を埼玉県秩父山地の甲()武()信ヶ岳(こぶしがたけ)(標高2,475m)に発し、秩父盆地を北流して長瀞()渓谷(ながとろけいこく)を流れた後、埼玉県大里郡寄居(よりい)町において南東に流向を変え関東平野に入り、武蔵野台地の北西端から埼玉県中央部の平野を流下し、途中市()野川(いちのかわ)、入間()川(いるまがわ)等の支川を合わせて、下流部の東京都区部と埼玉県の低地を流れ、東京都北区志茂(しも)において隅田(すみだ)川を分派し、東京湾に注ぐ。
荒川水系は、我が国の社会経済活動の中枢を担う東京都及び埼玉県を貫流する国土管理上最も重要な河川の一つである。沿川に人口・資産が集積しており、流域内人口は約930万人、資産は約150兆円に及ぶ。下流部には洪水等の被害に対して非常に脆弱なゼロメートル地帯が広がり、大規模な浸水時には、地下鉄等への浸水など首都圏交通網の麻痺、電力、ガス、通信等の途絶により市民生活へ甚大な被害が及ぶ。また、霞ヶ関の孤立により行政機関が麻痺し、兜町や大手町の機能麻痺により日本経済が大混乱となる可能性があり、日本全体に与える影響は甚大である。
このような状況を踏まえて、放水路として開削された下流部、広大な川幅を有する中流部などそれぞれの地域で特性にあった治水対策を講じ、上下流や本支川のバランスにも配慮しながら、堤防の新設・拡築、河道掘削、治水上支障となる橋梁等の改築による河積の増大、護岸・水制等の整備を実施するとともに堤防強化を図り、計画規模の洪水を安全に流下させる。また、人口資産が稠密な首都圏を氾濫域に抱えていることから、氾濫域の壊滅的な被害が予想される熊谷大橋から河口までの区間(中川左岸を含む)並びに当該区間に係る背水区間については、高規格堤防の整備を図る。中流部では、広大な高水敷が有する遊水機能を効果的に確保するために、洪水時の水位観測などの調査・研究を行い、洪水調節施設を整備する。高潮区間においては、関係機関と連携・調整を図り、高潮計画に沿って浸水を防止するための施設を整備するとともに、高潮情報の収集・伝達の強化等被害最小化対策の推進を図る。堤防・水門等の河川管理施設の耐震対策等を講じるとともに、 地域防災活動拠点等の施設及び緊急用輸送路の整備を行う。
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、渇水時における地下水の取水量増加に伴う地盤沈下の防止、瀬切れの防止等の河川環境の保全、近年の少雨化傾向にも対応した利水安全度の確保、都市用水及び農業用水等の安定供給、流水の正常な機能の維持のため、関係機関と調整しながら広域的かつ合理的な水利用の促進、水資源開発施設とそのきめ細かな運用などにより、必要な流量を確保する。
河川環境の整備と保全に関しては、首都圏及びその近郊に位置し、多くの人々がスポーツ、散策、自然観察等に訪れるなど人とのかかわり合いが極めて高いことを踏まえつつ、多種多様な動植物が生息・生育する豊かな自然環境及び良好な景観を次世代に引き継ぐよう努める。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準点岩淵で14,800m3/s とし、河道と洪水調節施設への配分についても工事実施基本計画と同様にそれぞれ、7,000m3/s、7,800m3/sとした。
●揖保川(いぼがわ)水系 (流域面積:810km2、幹線流路延長:173km)
揖保(いぼ)川は、その源を兵庫県宍粟(しそう)市の藤無(ふじなし)山(標高1,139m)に発し、引()原(ひきはら)川、林田(はやしだ)川などを合わせて播州(ばんしゅう)平野を流下し、河口付近で中(なか)川を分派して姫路(ひめじ)市網干(あぼし)区で瀬戸内海播磨(はりま)灘に注いでいる。
昭和45年8月洪水、昭和51年9月洪水では、浸水被害等が発生し、近年では平成16年9月洪水により400戸を上回る浸水被害が生じた。特に下流部播州平野は姫路市等の人口・資産の集積地域をひかえた扇状地が形成されており、治水の役割は重要となっている。
一方、揖保川の環境は、「丸石(まるいし)河原(がわら)」と呼ばれる礫河原環境に固有の植物が生育し、アユの生息や産卵の場となっている瀬・淵、多様な生物の生息・生育環境の場としてワンドや干潟が存在し、揖保川の原風景となっている。
また、河川水の利用では古くから農業用水として、現在では上水・工業用水・発電用水など、多岐にわたり利用され、地域の発展に欠かせない水源である。
このような状況を踏まえ、揖保川水系では洪水氾濫などによる災害から貴重な生命・財産を守り、地域住民が安心して暮らせるように河川等の整備を図る。また、丸石河原、瀬や淵、ワンドや干潟などの多様な水域を有する揖保川全体の自然の営みを保全、継承するとともに、人々の生活に欠くことのできない農業用水や都市用水などを安定的に供給し、地域の営み、歴史や文化が実感できる川づくりを目指すため、関係機関や地域住民と共通の認識を持ち、連携を強化しながら治水・利水・環境に関わる施策を総合的に展開する。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点龍野で3,900m3/sとし、河道と洪水調節施設の配分については工事実施基本計画では各々3,300m3/s、600m3/sとしていたが、工事実施基本計画策定以降の河道計画を見直し、各々3,400m3/s、500m3/sとした。
●太田川(おおたがわ)水系 (流域面積:1,710km2、幹線流路延長:103km)
太田川は、その源を廿日市市(はつかいちし)吉和(よしわ)の冠山(かんむりやま)(標高1,339m)に発し、柴木(しばき)川、筒()賀(つつが)川、滝()山(たきやま)川、水内(みのち)川などの支流を集めて流下し、広島市安佐北区(あさきたく)可部(かべ)町付近で根谷(ねのたに)川、三()篠(みささ)川を合流し、その後、広島市街地で6本に分派し、広島湾に注ぐ。
その流域は、中国四国地方唯一の百万都市である広島市などからなり、下流部の狭い低平地は、市街地や商工業地として稠密に利用される一方で、上流部は、西中国山地国定公園等の豊かな自然環境、河川景観に恵まれている。
平成17年9月洪水では、玖(く)村(むら)地点において計画高水流量相当の出水を記録し、放水路や温井(ぬくい)ダムの建設、堤防整備により、浸水被害は着実かつ大幅に軽減しているが、中上流部の未改修区間などにおいて浸水被害が発生した。
また、高潮については、平成3年9月、平成11年9月、平成16年9月に度重なる被害が発生している。
このような状況を踏まえ、沿川地域を洪水から防御するため、既存施設の有効活用や洪水調節施設の整備及び、太田川の多様な自然環境に配慮しながら、堤防の新設、拡築及び河道掘削により河積を増大させ、計画規模の洪水を安全に流下させるとともに、特に、河口域においては、高潮対策も実施する。また、洪水等による被害を極力抑えるため、総合的な被害軽減対策を関係機関や地域住民と連携して推進する。
太田川の水利用は、古くから発電に利用されるとともに、呉(くれ)市や江田島(えたじま)市などの島しょ部まで水道用水や工業用水として供給され、広域的かつ合理的な水利用がなされている。今後も、発電等による減水区間の流況改善など、関係機関と協力して必要な流量の確保に努める。
中上流部は、カワラハハコなどの多様な動植物が見られる瀬、淵、礫河原、下流部にはアユの産卵床、河口域には干潟が形成され、フクドなどの塩生植物群落が見られる。
太田川の流れが生み出した良好な自然環境と河川景観を保全し、多様な動植物が生息・生育する豊かな自然環境を次世代に引き継ぐよう努める。また、河川環境の整備と保全が適切に行われるよう、地域住民や関係機関と連携しながら地域づくりにも資する川づくりを推進する。特に、下流デルタ域では、市街地に占める水面面積が全国でも1,2位を争う有数の都市、広島市では、「水の都ひろしま」構想に基づき、都市部の個性と魅力ある水辺の創出に引き続き取り組んでいく。
(基本高水のピーク流量及び計画高水流量)
太田川の基本高水のピーク流量は、既定の工事実施基本計画と同様に基準地点玖村において12,000m3/sとし、河道と洪水調節施設への配分については、工事実施基本計画においてそれぞれ7,500m3/s、4,500m3/sとしていたが、下流部の河道において最大限流下させうる流量を検討するとともに、上流部における洪水調節施設の計画を見直し、河道流量を500m3/s増加させ、それぞれ8,000m3/s、4,000m3/sとした。
<河川整備基本方針の概要>
<河川整備基本方針>
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