パートナーシップによる河川管理に関する提言 | |
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3.基本提案―パートナーシップによる河川管理の実現のために |
(1)多様な主体による河川管理のしくみづくり (2)各主体の役割と取り組み (3)市民と行政の協働 パートナーシップによる河川管理は、市民・企業・地方自治体・河川管理者等のそれぞれの特性を生かし、主体性と信頼関係を基礎として、適切な役割分担のもとで、納得して取り組むことが重要である。 パートナーシップによる河川管理は、価値観の多様な主体があることを前提とするため、関係者が様々なレベルで情報を共有し、コミュニケーションを活発にしながら取り組むことが大切である。 実験的・試行的な取り組みや計画策定から整備、維持管理までの一連のプロセスを通じて、様々な段階に市民がかかわれるしくみが不可欠である。 そのために、各河川で市民と行政との日常的な意見交換のレベルから、議論を行い合意形成を行うレベル、さらに市民が整備や維持管理など河川管理の一部を担うレベルまで、市民が参加できる機会を積極的に設ける。
行政がもつ情報を広く公開するとともに、市民の情報を積極的に収集し、関係者がお互いの情報を提供し、共有することが大切である。このために、広報誌・パンフレットの充実やインターネットなどによる情報提供等の工夫を行う。また、情報の収集にあたっては市民の持つ日常的な川の情報を活用する。 市民と行政は、情報の共有を通じて互いの立場や考え方を理解することで、信頼関係を築くことができる。
様々な人々が川と多様なかかわりを持つことができるようにすることは、多彩なパートナーシップを育てていく上で重要である。日常的に市民が川に親しみ、市民の川への関心を高めるために、水辺の魅力を高め、市民が川を知り、川に学ぶことができる機会や場を増やす。
市民・行政等は、様々な機会を通じて互いにコミュニケーションを積極的に図ることが重要である。日ごろから市民相互、市民と行政との間で交流や話し合いの機会をもつことは、互いの意思疎通を図り信頼関係を築くことに役立ち、結果として計画づくりへの市民参加もスムーズになる。 さらに、継続的な話し合いや情報交換の機会・場を設け、お互いが持つ課題やビジョンについて十分に議論し、共有していくことが重要である。 また、行政と市民とが、シンポジウム、フォーラム、啓発イベント、情報誌の発行などを共同で行ったり、懇談会やパートナーシップを推進するための交流拠点などを共有することが望まれる。
川に関する様々なテーマについて、誰もが参加でき公開で議論できる場を設置し、ここで議論を十分尽くし、合意形成を図りながら河川管理を行うことが望まれる。そのためには、運営のあり方や議論の仕方・場などについてルールをつくることが必要である。例えば、流域単位で川にかかわる市民、自治体、河川管理者が自由に意見を出し合い、共通のテーマを探し、議論や活動を通じて合意をつくっていく場を市民と行政で運営することが考えられる。 一方、市民は様々な考えを持っており、市民同士の交流などを通じて緩やかなネットワークをつくることで、市民相互の合意を形成することが期待される。 計画策定における市民間の意見調整や市民と行政間の調整を行うために、審議や意思決定を行う第三者的な機関や調整のしくみも検討する価値がある。 また、各河川での取り組みを情報交換し、全国や広域レベルでの合意形成や制度的検討、政策提案などを行うことのできる場についても今後議論する必要がある。
河川の計画策定は、一般的に、地域の意向・要望の把握、情報の整理・提供・共有、計画案提示(代替案を含む)、意見調整という一連の合意形成プロセス、意思決定の手順で進められる。 河川整備計画の策定については、新河川法で示された考え方に基づき、市民参加やフィードバックの仕方等の具体的なしくみが地域ごとに議論されているところであるが、これ以外の河川管理にかかわる計画についても、市民の意見や要望を聞き内容に反映させることが必要であり、市民が合意形成プロセスに積極的に参加できるような様々な工夫を行う。 重要なことは、先に示した計画策定の各段階でそのつど議論の経過と結果を公開し、市民の意見がどのように反映されるのかが理解されることである。また、意思決定されたことが話し合いや学習の場、市民による河川管理の現場へフィードバックされ、検証できるしくみが用意されることである。 合意形成の手続きや制度については、今後も継続して検討していくことが必要である。また、意思決定のしくみについても今後同様に議論していく必要がある。
川の環境学習やイベント、観察会等の市民による日常的な川へのかかわりは、従来河川管理者が行ってきた河川管理の対象・内容の範囲を越えて広がっている。こうした市民の川にかかわる活動を河川管理にきちんと位置づけ、河川管理者と市民が協力・連携して多様なパートナーシップによる河川管理を展開していくことが必要である。 また、環境調査、環境保全・管理等については、市民の要望を踏まえ、市民が河川管理に参加、あるいは積極的にその一部を担っていくしくみをつくる必要がある。 パートナーシップによる河川管理をすすめるにあたっては、各主体が各々の役割を担い協力・連携した取り組みが求められる。ここでは、河川管理を担う主体として、河川管理者、市民、地方自治体、企業を取りあげ、各主体が特に今後求められる重要な役割について提案を行う。 1)河川管理者
河川管理者は、市民のニーズや意見を理解・認識するため、市民と対話することが重要であり、従来のしくみの活性化も図りながら、日常的な交流を促進する。 また、河川管理者は、市民活動や市民感覚を理解するよう努める。
河川管理者は、川に関する情報を広くわかりやすく公開する。そのために、担当窓口や情報コーナーの設置、手続きの簡素化、インターネットによる情報提供等の手段を地域ごとに工夫する。また、市民の協力によって日常的な川に関する情報収集に努める。
市民の要望を踏まえて、市民が日常の活動を通じて河川管理に積極的にかかわってもらうしくみを工夫する。そのために、河川管理者は、その人材、情報、ノウハウ、資金などを活用し、こうした市民の取り組みを積極的に支援するとともに、広く市民・企業・自治体にPRし、河川管理における市民参加を促進する。 パートナーシップによる取り組みにおいては、市民間の意見・活動の調整や市民と行政間の調整を行うコーディネーターの存在が重要であり、関係する自治体と連携・協力してこのコーディネーターを積極的に応援する。
水にかかわる関係機関(関係行政機関、自治体、水利権者等)は多岐にわたっている。また、市民の川へのかかわりは川の空間にとどまらず、水を媒介として市民生活全般にわたっている。したがって、市民とのパートナーシップによる河川管理を推進するために、関係機関は、市民の協力を得ながら、各々の施策を調整・連携して取り組むことが必要である。 また、河川管理者は、流域自治体との情報交換を密にし、データベースの共有化や共同事業など連携して取り組むことができるよう体制づくりを促進する。 2)市民
市民は、行政の行う事業や計画を十分把握するとともに、行政や企業の役割を理解し、行政・企業とのパートナーシップによる取り組みを積極的に行う。
市民は、日常の市民活動を通じて、行政や企業では得難い市民ならではの川や地域にかかわる様々な情報を蓄積している。こうした市民情報を市民同士や行政・企業に対して、積極的に発信し情報交換することは、パートナーシップによる取り組みを推進する上で重要である。
自発性に基づいた市民の活動は、市民相互に情報を交換し協力し合う関係を育て、ネットワークをつくっていくことにつながる。市民ネットワークの形成を促進することは、市民が自らの位置を自覚し役割を認識することに役立つとともに、市民相互の協力関係を広げ合意形成を促し社会的な役割を担っていくことにも貢献する。そして、行政等とのより良好なパートナーシップによる取り組みを行うことができる。 こうしたネットワークの形成を推進することにより、市民活動が活性化し、市民相互の意見や活動を調整する能力が養われ、市民の中に自ずとコーディネーターが育ってくることが期待される。
市民は、自ら川について学習し、自立した活動資金をもち、市民活動の能力やノウハウを身につけることによって、活動を継続し発展させていくことが望まれる。 また、市民は市民活動の領域を拡大、変革していくことで、河川管理に新たな領域を生み出したりその内容を変えたりしていくことが期待される。 3)地方自治体
市町村は、地域づくり・まちづくりの主体であり、また、市民にとっては最も身近な行政組織であることから、水にかかわる情報収集・発信等の総合的な拠点となることが期待される。 パートナーシップによる河川管理は、地域づくり・まちづくりの一環であり、市町村はこの責任を持つ行政機関として積極的に参加するとともに、それらの活動を支援することが期待される。
流域や水循環の視点から、川にかかわる自治体が相互に情報交換し連携した取り組みを展開することが期待される。 また、都道府県の役割として、関係自治体や河川管理者に呼びかけ、川・流域を単位とした水に関する施策を一体的に調整する広域的、総合的な組織づくりを担うことも考えられる。 4)企業
市民・行政は、企業が社会貢献活動の一環として、川や地域づくりへ参加することを望んでいる。企業は、その人材、情報、ノウハウ、資金など企業ならではの特徴を活かして、市民と行政が取り組む河川管理に参画することが期待される。 各河川の現状や課題を踏まえて、市民と行政とがまずできることから一緒に取り組むことが重要である。そして、ひとつひとつ成果を積み上げ、パートナーシップによる河川管理を段階的に実現することが望まれる。 また、パートナーシップによる事業の進め方や市民参加の手法については、まだ十分に確立されているわけではなく、今後それぞれの地域で試行しながら現場で検証し、適切な手法を開発していく努力が必要である。
市民と河川管理者等は、一緒に取り組むことができる事業や活動を、できることから段階的に行う。特に、既存の事業の中で市民が参加できる機会を積極的に工夫し活用する。 市民の要望を受けて、情報収集と提供、普及啓発(イベント、セミナー、スクール等)、意見交換の場の運営(シンポジウム、フォーラム等)、環境調査、環境保全・管理の活動と整備(動植物の保護、育成、モニタリング等)、維持管理、環境モニタリングなどの河川管理の一部を市民が行えるよう工夫する。
具体的な計画づくりでは、市民提案の公募やワークショップなどを活用して、できるだけ市民が参加できるような内容やプログラムを積極的に工夫し、整備後も継続して市民が環境管理にかかわることができるようにする。これらの計画づくり等では、市民間、市民と行政とのコーディネーターの存在が重要である。そこで、川の体験や学習を行うスクールやセミナー等を推進することによって、こうした人材を発掘し支援していくことが考えられる。
こうした各地域での模索と経験を蓄積することを通じて、常にパートナーシップによる河川管理のあるべき姿を追求し続けることが大切である。
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