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河川審議会について


2.水災害・土砂災害における危機管理の課題

 我が国で発生した既往の水災害・土砂災害の経験等から危機管理上の課題を抽出してみると、以下のとおりである。


2.1 危機管理の体制

 市町村の水災害・土砂災害に対する体制は、災害対策本部の設置を基本としている。一般的に、市町村では常設の部署を有することは少なく、さまざまな形態を有する水災害・土砂災害に対する経験・知識をもった職員が少ない場合が多い。したがって、防災行動、救援対策等の責任者である首長をサポートする体制が脆弱である。また、災害対策の経験を有する首長も少ない。このため、地域防災計画に沿った住民への指示・支援や災害の状況に応じた臨機の措置を十分に実施できない事例も生じている。

 大河川の氾濫や広域的に同時多発する土砂災害への対応のように、市町村の範囲を越えるような災害に対しては、この被災地域に関係する機関が一体となって対処する必要がある。しかしながら、防災計画は市町村を単位として立てられるのが基本であり、水防、消防、警察等の防災関係機関も基本的に行政区域内が活動範囲として規定されている。市町村の範囲での対応能力を超えた大規模災害に対して、どのような形で協力、連携体制をとればよいのかなど、そのルールは災害対策基本法にいくつか散見できるものの、十分には検討されていない。

 例えば利根川等のように、一度破堤氾濫が生じれば、その被害は利根川に面していない市町村にまで及ぶような条件下であっても、水防活動は河川に面した市町村がその行政区域内で行っている状況にある。また、利根川に面していない市町村では、利根川からの氾濫水への対策が想定されていないなど、市町村の範囲を越えた災害に対する防災計画は立てられていないのが実状である。

 災害対策本部も各機関ごとに設置されることとされている。大規模災害の場合は、合同の対策本部を設置することが有効であるが、どの機関においても合同対策本部の設置を念頭に置いた防災計画の規定は置かれていない。

 大規模氾濫等に対処するためには、日頃から、共通の災害が想定される地域の関係機関が意見交換、意志疎通を行い、有事の対策を調整しておくことが重要である。そのための検討、協議の場が必要であるが、現状ではそのような場は設置されていない。

 また、大規模災害の場合には、災害対策の専門家の支援も求められるが、防災エキスパート制度、砂防ボランティア制度等、復旧・復興段階における専門家によりサポートする制度はあるものの、発災時や発災のおそれがある時における市町村等の対応をサポートする制度は、専門家の人数確保も含め十分に整備されていない。

 水災害・土砂災害には、洪水、高潮、津波、土石流、地すべり、がけ崩れ、火山噴火や地震に伴う土砂災害等、さまざまな形態がある。それぞれの形態によって災害の特性があり、必要な情報、伝達の仕方、適切な行動の方法等が異なっている。したがって、災害の現象ごとに区分してきめ細かな危機管理計画を立案しておく必要があるが、現状では、地域防災計画等における明確な災害形態ごとの計画策定はなされていない。

 また、地域防災計画は行政単位ごとに策定されるのが基本であるため、例えば隣接市町村に身近な避難場所がある場合や、隣接地域からの救援活動が有効である場合でも、当該市町村の行政区域内において完結するような防災計画が作られている状況にあり、近隣行政区域との連携、相互補完は必ずしも十分ではない。

 
2.2 情報伝達の課題

 災害対策には、それぞれの地域に係る正確な情報が迅速に収集・伝達されることが重要である。しかしながら、洪水氾濫が起こった場合の氾濫状況についての情報の収集・伝達体制が整備されていない。火山噴火に伴う火砕流、土石流や大規模崩壊とこれに伴う天然ダムの形成・決壊等の大規模な土砂災害に対しては、即時に各現象に対応した土砂災害の予想区域図等の予測情報を状況変化に応じて作成し、住民に提供することが必要であるが、現状では、十分な対応がなされていない。

 大規模災害になるほど、その対応に関する関係機関は多くなり、相互の情報交換、連絡調整が重要となる。現状では、災害現場における情報収集、整理、報告等の業務が多くなり、本来の災害対応への取り組みが阻害されることもみられる。このため、災害現場に負担をかけない情報共有システムの整備が必要となってきている。近年、情報伝達関連技術は飛躍的に進歩しているが、これら技術の導入・活用は緒に付いたばかりである。

 水災害・土砂災害による被害を最小限にくい止めるためには、住民が行政やマスメディアからの情報を基に、自ら避難等の防災行動を的確に起こすことが必要である。このためには、住民が日頃から自身の身の回りの災害の危険性について認識し、災害に対する備え、行動規範を身につけておかねばならない。しかしながら、水災害・土砂災害の危険性について、居住する地域の自然条件に即して住民にわかりやすく伝えることはほとんどなされていない現状にある。かつては地域ごとに水災害・土砂災害に備える知恵が伝承されていたが、災害体験が少なくなっていることから、現在、住民の防災意識はきわめて低い状況にある。

 行政は、身近な河川がどの程度の安全度を有するのか、その河川が氾濫した場合、氾濫流はどこまで達するのか、またその水深や到達時間はどれくらいなのかといった情報を公開する必要がある。主要河川の浸水実績図、洪水氾濫危険区域図や土石流危険箇所図は公表されているが、住民には十分認知されているとはいえない状況である。また、土石流、地すべり、がけ崩れの危険箇所等では、現地に危険性を周知するための標識の設置が進められているが、その整備は十分ではなく、その他の災害形態については、現地での表示は皆無に近い状況である。

 また、実際に豪雨等が襲来した場合、住民には、防災行動としてどのような行動をとればよいのか、避難場所、避難経路、避難の際の心得はどうかなどはほとんど意識されていない。土砂災害の発生はその予知・予測が困難であり、現場において前兆現象を把握することは、人的被害を未然に防止・軽減するための重要な手段の一つであるが、災害の前兆を現地でつかむ知恵も忘れられつつある。

 
2.3 避難体制の課題

 水災害・土砂災害による被害を最小限にとどめるためには、市町村の行う住民の避難、誘導に関する判断、対応が重要となる。その際に、結果的に洪水氾濫、土石流等が発生しなかったいわゆる「空振り」を懸念して、市町村が判断を逡巡してしまう場合がみられる。また、市町村が避難勧告等の措置を執っても、住民の災害体験、防災意識が希薄なため、十分な防災行動がとられなかった場合もある。

 発災時の一次避難場所に関しては、その設定が震災対応を中心とし、かつ、公共施設の使用を念頭に置いたもので、水災害・土砂災害を十分に考慮したものとなっていない場合がみられ、実際に避難場所で被災した事例も生じている。

 
2.4 氾濫流、火山泥流等の制御の課題

 大規模な河川氾濫、火山泥流や高潮等が発生した場合、氾濫流、火山泥流等の拡散を制御し、また、速やかに排除することが被害を最小限にくい止めるために有効である。過去に氾濫流を制御するため堤防開削等の措置が執られた事例があるが、いずれも、発災後にその対処が検討実行されたものである。超過洪水等計画で想定している規模を超えた洪水等が発生する可能性があることに鑑みれば、あらかじめ氾濫を想定し、その氾濫流による被害を最小にくい止めることが課題となっている。

 
2.5 日常に根ざした防災活動の課題

 阪神大震災の事例でも、日頃から地域のコミュニティー活動が活発であった地域では、被災時の防災行動もこのコミュニティーを通じて活動が展開されている。かつては、このような地域の活動は一般的なものであったが、特に都市部を中心に旧来型のコミュニティーは空洞化してきており、このことが防災対応の面においては、地域の自主防災機能を脆弱なものとしている。

 また、日常の生活や暮らしの中で、地域の川や山を知り、災害について考える機会を持つことが住民の防災意識の啓発に重要であるが、学校教育、社会教育の場での川や山地を学ぶ機会は少ないのが現状である。

 さらに、災害は日頃体験できるものではないため、災害時の行動は実践的な訓練によって身につけることが有効であるが、水災害・土砂災害に関しては、地震や火災のような住民や市町村の防災担当者が参加できるような実践的防災訓練はほとんど行われていない現状にある。

 
2.6 被災者支援における課題

 災害時には、高齢者、障害者、病人、乳幼児、妊産婦等、防災行動に特別な配慮を必要とする者への対応が重要である。その対応について、地域防災計画できめ細かく配慮している例はいまだ少ない状況である。

 大規模災害になると、支援を必要とする被災者が多数にのぼり、かつ、その被災程度は一様ではない。支援を必要とする事項も多様となり、的確できめ細かな対応が求められるが、被災程度と支援の関係のルール化やそれを判定する多数の専門家やボランティア等が求められている。

 
2.7 ボランティア活動の課題

 阪神・淡路大震災では、ボランティアが本格的に活動したが、その成果とともにボランティア活動を円滑に機能させるための課題も提起された。ボランティア活動により、行政の手が届きにくいところできめ細かな活動を展開することが可能であるが、地域のニーズとボランティアの活動をマッチングさせるためにはコーディネートが必要となる。

 災害時に特に必要となるのは、被災者救援・支援、二次災害防止、地域復旧・復興等のための各種分野の専門家である。防災、医療、福祉等の専門家がボランティアとして迅速かつ組織的に活動できる体制が求められている。

 
2.8 土地利用上の課題

 我が国では、国土条件の制約等から、水災害・土砂災害を考慮して土地利用を行うことは一部でしかなされていない状況である。また、社会の基盤となる交通、電力、通信、水供給等のライフライン施設についても、大河川の氾濫、同時多発的な土石流等の土砂災害、異常な高潮等を想定した防災対策は施されていない状況である。しかしながら、大規模災害が、我が国の経済社会に与える影響が甚大であることに鑑みれば、制約条件下にあっても、災害に対して強靱な土地利用を目指す必要がある。





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