1)責任・役割の明確化
危機管理の基本は、住民や市町村等からなる地域社会による自衛措置である。住民や企業には、自己防衛や相互の助け合いを自らの使命と認識し、自発的に警戒・避難活動を行うとともに、防災・減災活動に寄与するよう努める責任がある。
市町村には、主体となって地域住民の生命・財産を保護する地域防災計画を作成し、実施する責務がある。
国及び都道府県には、市町村の実施する防災業務を助け、総合調整を実施する責務の他、河川管理者及び公共土木施設等の管理者としての責務がある。
マスメディアには、地域社会による自衛措置を支援するよう、国、都道府県及び市町村と協力して、災害に対する警戒の呼びかけ、洪水予報等の周知、防災意識の啓発等の災害回避・軽減のための報道や、被災者支援に関する現場で役立つきめ細かな報道の一層の充実を図ることが望まれる。
このように、住民、企業、マスメデイア及び行政機関が、災害時及び災害の発生のおそれがある時における自らの責任と役割を明確に認識し、それぞれの責任と役割に基づいて適切に行動することが重要である。
2)あらゆるレベルでの連携の強化
大河川の氾濫や、大規模な津波・高潮、火山活動・地震に起因する大規模な土砂災害等の災害時には、市町村の処理能力や対応能力を超えることが想定される。その場合には、市町村相互の支援に加え、都道府県が調整・支援を行い、さらに都道府県の範囲を越えての対応が必要な場合には、都道府県相互の支援に加え、国が調整・支援を行う必要がある。したがって、日頃から、国、都道府県、市町村等の関係機関間の連携を強化しておくことが重要である。
阪神・淡路大震災においては、住民相互やボランティアによる被災者の救援・支援活動、マスメデイアによるきめ細かい情報提供がきわめて大きな役割を果した。
災害時における危機管理について、行政、住民、マスメディア、ボランティア団体等のあらゆるレベルでの連携を強化することが重要である。
3)情報の開示と共有
洪水氾濫や土砂災害に対する危険区域、避難経路・避難場所等の情報や、雨量、河川水位、河川氾濫、土砂災害の発生等の刻々と変わる情報及びこれらの予測に関する情報は、安全な避難、被災者の速やかな救助等に不可欠である。そして、これらの情報は住民と行政機関との間や行政機関相互で共有されることにより、それぞれの主体のより的確な行動を可能とし、危機管理及び減災に大きく寄与する。
このため、国、都道府県及び市町村は、水災害、特に氾濫流のきめ細かな情報や土砂災害に係る情報を日常から住民に積極的かつ徹底的に開示する必要がある。
防災インフラの整備と自然環境、さらには危機管理施策及び減災対策と日常の生活や社会・経済活動等との間ではトレード・オフの関係になる場合がある。この場合、行政機関は情報を徹底的に開示し、一方で住民は行政機関から開示された情報に基づいて、自然災害の危険性を十分把握しつつ、両者のトレード・オフの関係について主体的に判断し、自己責任の下で災害と共存していくことが求められる。
4)日常に根ざした危機管理
水災害や土砂災害の発生時に住民や行政機関が的確に行動するためには、日常からの備えが必要である。しかし、災害体験は風化しやすく、特に都市部においては住民の移動もあって災害体験の継承も困難であり、災害への日常の備えの重要性が忘れられる傾向にある。
このため、学校教育や地域の社会教育活動等において、水災害や土砂災害に関する防災教育や防災訓練等の充実を図り、防災意識の啓発と高揚を図っていく必要がある。
また、地域社会による自主防災活動を円滑に実施するためには、活力ある地域コミュニティーが形成されていることが重要である。
このような日常の地域社会活動に根ざした危機管理を充実させ、展開することが重要である。