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河川局

審議会等の情報
河川審議会について


2.河川整備の現状と課題



 2.1 水管理における総合性の欠如

 河川は水循環系を構成する一つの要素であり、河川水は、地下水等の自然に存在する 水や、下水処理水等の人工的に存在する水と連続して循環している。

 一方、水の管理についてみると、河川内の水は河川法に基づき河川管理者が管理する が、河川の外へ取水された水は、利用目的ごとに、又、水質規制等についてそれぞれ個 別の法律により管理が行われている。このため、地下水の過剰な採取による地盤沈下の 防止、水利権の柔軟かつ効率的な運用、河川水や地下水等の水質保全等の原因が複雑か つ広範にわたる課題に対しては個々の法律や管理者だけでは適切に対応できない現状に ある。


 2.2 水害・土砂災害の被害ポテンシャルの増大

(1)治水の現状

 我が国の歴史は、水害・土砂災害との闘いの歴史であり、近年においても平成5年の 鹿児島県甲突川、平成7年の関川・姫川水系などで大規模な水害・土砂災害が頻発して いる。これまでの治水事業により、沖積平野における生活、経済の基盤が形成されるの に伴い、洪水による人命損失数は減少してきたが、依然として安全度は低い水準にあり、 全国において昭和61年から平成7年までの10年間で約9割の市町村が水害・土砂災害を 受けている状況にある。特に、都市化の進展等により約 450市町村(平成6年末)で慢 性的に床上浸水被害が生じている。
 こうした中で、大河川については、100年から200年に1度発生する規模の降雨に対す る治水施設整備を計画目標に置き、当面の目標として21世紀初頭までに30年から40年 に一度発生する規模の降雨に対する整備を目指している。中小河川については、30年か ら100 年に1度発生する規模の降雨に対する整備を計画目標に置き、当面の目標として 21世紀初頭までに5年から10年に1度発生する規模の降雨に対する整備を目指してい る。土砂災害対策については、100年に1度発生する規模の降雨を対象とした計画目標の もとに、当面の目標として21世紀初頭までに5年から10年に1度発生する規模の降雨 に対する整備を目指している。
 しかしながら、当面の目標に対しても、氾濫に対する防御範囲は全氾濫区域の2分の 1に達していない状況にある。また、今後目標達成に長期を要し、完成への見通しが立 ちにくい状況にある。

(2)水害・土砂災害への危険性の増大

 我が国では、戦後の経済の急成長の中で、河川の氾濫の危険性の高い沖積平野を中心 に都市化が急速に進展してきた。このため、都市部において特に経済、文化機能等が集 中するとともに、人口・資産が著しく増加した。急増した人口に対処するため、農地、 森林等が宅地として開発され、無秩序な市街地の拡大が進行した。この過程で、流域の 保水・遊水機能が失われたため、洪水時の河川流量の増大を招き、水害の危険性を増大 させた。また、丘陵・山地の開発に伴い、土石流、地すべり、がけ崩れなどの土砂災害 のポテンシャルが急速に増大した。
 また、治水対策の成果により被害が減少するほど、氾濫原に都市の中枢機能や住宅が 集積し、かえって被害ポテンシャルが増大してきた。こうした流域の変化のため、治水 の進展による水害発生件数の減少にもかかわらず、依然として被害額は減少していない 状況にある。

(3)壊滅的な災害の危険性

 我が国の経済・社会は、高度な都市活動や産業活動に依存しており、これらの活動の 中枢を支えるハイテク機器が浸水したり、大規模な水害や土砂災害によって交通・通信・ ライフラインなどの都市機能が長期にわたり麻痺すれば、計り知れない影響を国民生 活・経済に与えることは明らかである。また、高齢社会の到来により、災害弱者の増加 が懸念される。こうしたことから、都市部では、壊滅的な水害や土砂災害の発生は許さ れない状況にある。
 このため、都市部を中心として当面の目標とする降雨に対する安全性を早急に確保す る必要がある。また、自然の力には際限がないが、治水施設の能力を超える洪水や土石 流による被害を可能な限り少なくするとともに、速やかな復旧が可能となるような手だ てをあらかじめ講じておく必要がある。阪神・淡路大震災の教訓からも明らかなように、 自然災害の被害を完全に防ぐには限界があることから、人命等の被害をいかに最小化し、 壊滅的な被害を防ぐかという視点が重要である。


 2.3 頻発する渇水

(1)水資源に恵まれない国土条件

 我が国は、年間平均降水量が約1,750mmで、世界平均の2倍近い量であるが、年間降水 総量を人口1人当たりに換算すると約5,500m3と世界平均の5分の1にすぎない。また、 その降水量は、梅雨期や台風期に集中している。それに加えて、山地は急峻で国土の約 7割を占め、河川の延長が短く、急流であるという国土条件のために、降水が河川を通 して短時間で海に流れてしまい、降水を安定的に水資源として利用することが容易では ない。

 こうした状況の下で、戦後の経済の急成長、人口の増加、都市化の進展による水需要 の急増に応えるため、ダム等の建設による水資源開発が行われてきた。しかしながら、 ダムの建設適地が少なくなってきたこと、移転補償等に大きなコストと長期間を要する こと、水資源開発が進むにつれて建設コストに比して開発水量が少なくなる、いわゆる 水資源開発効率が低くなってきていること、国民の自然環境への関心の高まり等を反映 して、今後、ダム等の建設による水資源開発をとりまく状況は厳しさを増すものと予想 される。 

(2)渇水の頻発

 水利用の3分の2を占める農業用水の取水量は、水田面積の減少にもかかわらず、用 排水の分離や水田から畑作に転換が進んでいることもありほぼ横ばい傾向にある。工業 用水についても産業構造の変化や回収率の向上により、現在のところ横ばい傾向である。 また、生活用水は、家庭風呂、水洗トイレ等の普及による水消費型生活の定着に加え、 近年では核家族化の進行、シャワーなど水利用機器の普及により、増加を続けている。

 一方、近年少雨化の傾向が続いており、計画上水需給の均衡がとれている地域でも渇 水が頻発している。地域的には、首都圏、中部圏及び西日本で多く発生しており、また 最近では平成6年に生じた渇水は、ほぼ全国にまたがる大規模かつ深刻なものであった。

(3)水資源開発の現状

 現在の水資源開発は、概ね10年に1度発生する規模の渇水を対象に立てられた計画目 標のもとに行われている。しかし、この計画目標を国際的にみると、例えば欧米の主要 都市が既往最大渇水や50年に1度発生する規模の渇水を対象とした計画目標としている のと比べると低い水準にある。
 また、近年の少雨化傾向により、実質の計画目標はさらに低い水準となっている。
 さらに、首都圏では、水供給が水需要に追いつかない結果、取水の不安定な状況が続 いており、早期に安定的な水資源の確保により解消する必要がある。

(4)渇水に弱い社会構造

 水利用の増加とともに我が国の経済・社会活動は、渇水に対して脆く、水消費型生活 の定着、高齢者等の渇水に対する弱者の増加により、特に都市部は渇水にきわめて弱い 構造になってきている。渇水がひとたび発生すれば昭和39年のオリンピック渇水や昭和 53年の福岡渇水等にみられたように、我が国の経済・社会活動や国民生活に深刻な影響 を与えることが懸念される。  


 2.4 悪化する河川環境

 人口の増加、産業の発達等の急速な社会変化は、流域における水と緑の減少を招いた。 また、治水・利水事業を緊急かつ効率的に推進した結果、環境への配慮が足りなかった 面があることも否定できない。このため、次のような環境上の問題が生じている。

(1)生物の多様な生息・生育環境の減少

 これまで、治水への社会的要請に緊急かつ効率的に対応するため、洪水を安全に流下 させることを主眼に、限られた空間の中で、主として直線で構成された河道断面とコン クリート護岸により整備を行ってきた河川が多い。また、ダムや堰が設置されて上下流 方向の環境の連続性が損なわれてきた河川もある。一方、都市化の進展によって流域の 水と緑が減少し、河川と流域との連続性も失われてきている。このように、流域におけ る開発の進展や河川の改修整備により生物の多様な生息・生育環境が減少しつつある。

(2)水環境の悪化

 流域の土地利用変化、舗装の進展、下水道の整備等により、流域の保水、遊水及び浸 透機能の低下や、水の循環経路の変化が生じてきた。この結果、湧水の枯渇、普段の河 川の水量の減少などが生じている。

 また、生活排水や畜産排水等が河川等に流入し、湖沼・貯水池等の閉鎖性水域や都市 河川の一部では水質の著しい悪化が生じている。その結果、全国で約1,700万人(平成 6年度)が「水道の水はかび臭い」などと感じていることから、安全でおいしい水が望 まれており、高度浄水処理の必要性が高まると同時にミネラルウォーターの消費量の増 大や家庭用浄水器の普及などの現象が生じている。さらに、地域によっては地下水の過 剰な採取により地盤沈下が生じたり、有害物質の地下浸透などにより地下水の汚染が進 行している。

(3)懸念される水循環の変化

 中山間地域における過疎化、高齢化の進展等による管理の不十分な森林の増加及び都 市化の進展に伴う農地の減少等は、流域における雨水の保水・遊水機能や洪水・土砂の 流出形態等へ影響を与えることが考えられ、水循環の変化が懸念される。
 また、地球温暖化の進行により、雨や雪の降り方が変化し、海水面が上昇しゼロメー トル地帯が増大する等の影響が予想される。さらに酸性雨による水質の変化や生態系へ の影響が懸念されている。

(4)土砂に関する問題の顕在化

 土砂に関する問題は、山地部、平野部、河口・海岸部等のそれぞれの領域毎に様々な 形で発生している。山地部では、荒廃山地からの流出土砂による渓流河道部での堆積や 山腹崩壊、地すべり、土石流による災害発生の問題、一部地域におけるダム貯水池の著 しい堆砂によるダムの機能低下等の問題が、また、平野部や河口・海岸部では、河床低 下、河口閉塞、海岸線の後退等の問題が発生している。
 これまでの土砂対策は、それぞれの領域内でそれぞれの目的に従い、個別になされて きたところであるが、このような個別の対応では問題の根本的な解決には至らない。


 2.5 地域と河川との関係の希薄化

(1)遠ざかる河川の存在感

 都市が発展するのと裏腹に、都市の中の河川は生物のすまない単なるコンクリートの 排水路となり、フェンスが張り巡らされ近づくことができず、蓋がされて暗渠とされて しまったものすらある。また、かつて栄えた舟を利用した輸送・交通が衰退し、水汲み や洗濯など生活の上で川と直接に接する機会が少なくなっている。

 また、河川整備が進み水害・土砂災害が減少すればするほど、人々がかつて抱いてい た川に対する畏敬や恐怖心は薄れつつあり、また地域の人々が受け継いできた水害・土 砂災害に対処する貴重な教訓や生活の知恵等が忘れ去られようとしている。

 こうした一連の現象は、地域の人々の意識から河川の存在を遠いものとしてしまった。

(2)地域と河川との関係の再構築

 都市や農地として稠密に利用された平地部を流れる河川は、山と海を結ぶ貴重な水と 緑豊かな自然のネットワークとして、あるいは自然空間として見直されつつあり、地域 の河川への関心が再び高まりつつある。また、河川は地域の風土と文化を形成する重要 な要素であり、国と地方の役割分担を明確にしつつ、地域の個性を活かした独自性のあ る川づくりが求められている。

 近年、流域等の単位で地方公共団体や地域住民等により、河川の水質保全、水源のか ん養、河川美化等に関する活動が活発化しつつある。河川を通じ、地域における自然、 社会、生活をそれぞれの立場から見つめ、新たなコミュニケーションを形成し、協調・ 連携することにより、より良い環境づくりや地域の活性化が図られつつある。こうした 地域の活動に対して、河川管理者等も積極的に支援することが必要である。

 都市部における河川の役割は、阪神・淡路大震災を契機に従来に増して、その重要性 が認識されるようになってきている。オープンスペースの少ない都市部では、河川の空 間は貴重であり、平常時のみならず地震等の災害時の防災、緊急水利用、輸送等にまで 利用が期待されている。今後はこうした観点から、地域と河川の関係を見直していく必 要がある。





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