道路行政マネジメント研究会

提言「『成果主義』の道路行政マネジメントへの転換」
平成15年6月
道路行政マネジメント研究会


はじめに
1. 提言の背景
2. 成果主義の道路行政マネジメントに向けた3つの柱
(1)毎年度のマネジメントサイクルの確立
(2)わかりやすさと実現性の両立
(3)国民と行政とのパートナーシップの確立
3. 実践のための5つの戦略
(1)目標と指標の設定
(2)効率的なデータ収集
(3)毎年度の業績計画の策定及び達成度の把握
(4)予算・人事のしくみへの反映
(5)アカウンタビリティ・評価の妥当性の確保
4. 実行にあたっての留意点






 国土交通省では、社会資本整備審議会に対し、新しい課題に対応した道路政策のあり方等に関して諮問し、平成14年8月、同審議会より中間答申「今、転換のとき」が答申された。
 同答申においては、まず、道路整備について、戦後一貫した着実な整備の結果、一定の量的ストックは形成され、以前のような画一的な量的整備システムでは、今後の成熟型社会におけるすべての地域にとって必ずしも最適なシステムではなくなってきているとしている。
 その上で、慢性的な交通渋滞、過去最悪の交通事故件数等、依然として課題は残っているため、国民の期待と整備効果との間にギャップが生じている等の課題を指摘し、道路サービスによる成果(アウトカム)を重視し、道路ユーザーが満足する道路行政に転換することが重要であるとしている。

 本提言は、これらを受け、ユーザー志向で成果を重視した新たな道路行政を実践に移すにあたって必要な事項について、主に行政マネジメントの観点から提言するものである。




1) 成果志向の行政運営への潮流

 行政が肥大化し、国民の声が届かなくなるとともに、行政の効率自体が低下しているのではないかという批判は、我が国に限らず、多くの国において共通の問題として古くから認識されており、これを解決し、行政部門の効率化を図るため、様々な取り組みが行われてきた。
 このため、1980 年代より、一部の国では、経営学的手法を採用した、いわゆるニュー・パブリック・マネジメント(NPM)といわれる一連の行政改革を進めている。例えば、米国や英国においては、その一環として、成果を表す指標であるアウトカム指標等を用いて政策目標を設定し、毎年度、業績を分析、評価し、以後の施策、事業に反映する制度を、道路行政も含む、政府全体として導入している。
 我が国においても、平成14年度より、「行政機関の行う政策の評価に関する法律」が施行され、成果志向の行政への転換が推進されている。また、特に公共事業については、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002(平成14 年6 月25 日閣議決定)」において、「計画策定の重点を(略)従来の「事業量」から計画によって達成することを目指す成果にすべき」とされるなど、成果志向の行政への転換が叫ばれている。
 国土交通省においても、「平成13年度国土交通省政策評価年次報告書(平成14年6月公表)」において、成果主義の行政運営への転換を進めるべきであることを示しており、そのためには、「予算、組織、人事等の内部マネジメント、すなわち業務運営面での改革と『車の両輪』で推進していく必要」等、部局ごとの取り組みの必要性について指摘している。


2) 道路のおかれている状況

 道路は、経済社会活動の根幹である人や物の流れを支える重要な社会資本である。
 また、道路は、地域に根ざし、納税者である国民の一人ひとりが利用者であり、沿道の住民である、最も生活に密着した社会資本の一つである。
 しかしながら、道路行政については、事業採択の不透明感や、事業の効率性に対する不信感も根強く存在しており、これらの不信感を払拭し、国民のニーズに応え、成果を重視した、透明性の高い、効果的かつ効率的な行政運営へと転換することが急務である。


3) 道路行政の努力

 道路行政においては、より効果的かつ効率的な事業執行のため、平成9年度より、新規事業採択時評価を取り入れるなど、費用便益分析等に基づく個別事業の評価システムを積極的に取り入れている。
 加えて、事業の計画段階よりも早い構想段階において、市民参画型の道路計画プロセスを導入するなど、透明性、公正性を確保し住民等の理解と協力を得るため、構想・計画・実施・管理等の事業過程を通じた住民参加の取り組みを推進している。
 また、道路行政全体の運営にあたっても、道路整備五箇年計画の策定にあたり、事業費や、高速道路の延長といった事業の量のみでなく、成果を表す指標(アウトカム指標)を用いた目標設定を行うとともに、成果の測定に不可欠な交通量、旅行速度といった基礎的なデータの収集にも、積極的に取り組んできた。


4) 成果主義の道路行政の実践

 道路行政は、道路のおかれている状況を鑑み、また、これまでの蓄積を活用し、成果志向の行政マネジメントのしくみを実践に移すべきであり、平成15年度より、率先して、成果主義の行政運営への転換を目指すべきである。




 国民の視点から見た、成果志向の行政マネジメントを実現し、より透明性の高い、効果的かつ効率的な道路行政運営へ転換するには、そのための形式的な理論を構築するのみではなく、実効性のあるマネジメントを継続的に実践することが必要である。また、国民に支持される道路行政運営のためには、行政内部にとどまるのではなく、様々な関係者と連携した取り組みも必要である。
 本提言では、そのために為すべき事項について、以下の3つの考え方に基づき、次章で述べる5つの戦略として次頁の図の通り整理し、提言する。


(1) 毎年度のマネジメントサイクルの確立

 継続的な道路行政マネジメントのためには、上位の計画等に基づく毎年度の計画を策定し、その中で、事前に定量的な成果目標を定めた上で、事後的に達成度の評価を行うとともに、評価結果を以降の行政運営に反映する「マネジメントサイクル」を確立することが必要である。


(2) わかりやすさと実現性の両立

 実現性のある道路行政マネジメントのためには、道路ユーザーのニーズに即したわかりやすい成果目標を掲げると同時に、行政運営に不可欠な目標を同時に設定し、実際の行政運営において予算・人事のしくみに反映することができるようにすることが必要である。


(3) 国民と行政とのパートナーシップの確立

 実効性の高い道路行政マネジメントのためには、事前の目標設定、事後の評価の結果に加え、背景のデータも積極的に公開し、透明性を高めることが重要である。一方で、行政のみで対応可能な範囲は限られていることから、国民の参画も図り、国民と道路行政のパートナーシップを確立することが必要である。



図 成果主義の道路行政マネジメントの実践に向けた3つの柱と5つの戦略



(1) 目標と指標の設定

1) 体系的な政策目標の設定

 成果志向の行政運営を行うためには、まず、道路行政の使命、政策目標を体系的に設定する必要がある。その際、バリアフリー化や交通安全など、他部局や他の行政機関にまたがる横断的な政策目標についても、積極的に採用するべきである。


2) 数値目標及び手段に至るプロセスの明確化

 その上で、国民の立場に立ち、道路行政の成果を定量的に表わす指標(アウトカム指標)を政策目標ごとに定め、各年度の数値目標を設定することが必要である。また、数値目標と併せ、それを実現するための手段である施策、事業に至るまでのプロセスを明確化する ことが必要である。


3) 体系的な指標群の設定

 成果主義を運営レベルにまで広げ、実効性のある行政マネジメントを行うためには、生活実感にあったわかりやすい指標(最終アウトカム指標)、目標を実現するための施策の進捗を表す指標(中間アウトカム指標)、事業の量を表す指標(アウトプット指標)等の、階層的な指標群を体系的に設定すべきである。
 また、これらの指標について、各地域や部局ごとの責任を明確にするため、必要に応じて、地域ごとや部局ごとの目標設定も行うべきである。
 例えば、渋滞に関しては、渋滞による損失時間といったわかりやすい指標に加え、渋滞の原因となる路上工事の縮減目標といった中間的な指標や、渋滞対策の実施箇所といった事業の量を表す指標を体系的に設定し、それぞれについて、各地域や部局ごとの数値目標を設定するといった取り組みが必要である。


(2) 効率的なデータ収集

1) 必要なデータの収集

 常に成果を意識した行政マネジメントを、十分な技術的合理性に基づき実施するためには、成果の把握に必要なデータを、少なくとも毎年度収集する体制を整備することが必要である。その際、情報通信技術等も活用し、より低コストに、より高精度なデータを、体系的に収集、分析する手法の開発・導入に常に努めるべきである。


2) 月次データ等の収集

 加えて、即応性、柔軟性のある行政マネジメントのためには、指標値及び関連データについて、毎年度のデータに加え、月次データ等、より速報性のあるデータの収集にも注力することが必要である。特に、交通量、旅行速度等の道路行政にとって基礎的なデータについては、データ収集にあたっての費用等に留意しながら、原則として毎月、収集するべきである。


3) データの公表

 また、把握した成果の精度等を明らかにするため、指標ごとにどのようなデータを用いたのか明らかにするとともに、収集したデータ及びその分析結果についても、指標値と同時に公表するべきである。


(3) 毎年度の業績計画の策定及び達成度の把握

1) 毎年度の業績計画の策定

 成果志向のマネジメントサイクルを確立するためには、まず、毎年度、指標ごとに数値目標を定めた「業績計画」を策定することが必要である。業績計画には、数値目標に加え、目標を達成するための手段である施策、事業に至るまでのプロセスについても記載するべきである。また、実効性のある行政マネジメントのためには、本省・地方の各部局ごとにも、数値目標及び目標達成のための手段を明確にするべきである。


2) 毎年度の達成度の把握と翌年度以降への反映

 毎年度のマネジメントサイクルを確立するためには、数値目標の設定に加え、毎年度終了後、指標ごとに達成度を把握、評価することが必要である。評価にあたっては、目標とした成果が適切かつ効率的に発現されているかを評価するのみならず、目標を達成するための手段に至るまでのプロセスの妥当性についても確認するべきである。
 その上で、評価結果を以降の施策、事業に反映し、行政プロセスそのものの改善につなげていくことが重要である。
 また、毎年度の評価に加え、恒常的な成果のモニタリングも実施し、分析した結果を、可能な範囲で当該年度の施策展開に反映するべきである。


3) 地域における業績計画及び達成度把握

 地域の特性や、地域ごとのニーズに応じた、即地性のある道路行政マネジメントを進めるため、また、出先部門まで成果主義を徹底するため、都道府県ごと等、地域レベルにおいても、業績計画を策定した上で達成度を把握、評価し、その結果を以降の施策、事業に反映するしくみを構築するべきである。その際、地方公共団体等、他の行政機関における取り組みとも可能な限り連携するべきである。
 それにより、それらの地域における取り組みによって得られた知見が、全国的な取り組みにもフィードバックされるといった、双方向性のある行政マネジメントシステムとすることが重要である。


(4) 予算・人事のしくみへの反映

1) 成果を反映するシステムの構築

 予算の設定にあたっては、成果の数値目標に見合ったものとするべきである。
 そのためには、事業執行環境等に加え、目標と施策、事業との関係や、これまでの成果の発現状況を考慮し、より客観的、総合的な判断を行うことが必要である。予算の決定要因を全て定量的に表現し、目標や達成度に基づき、機械的に予算を立てることは不可能であるものの、目標や達成度は、予算の設定にあたっての総合的な判断に際しての、重要な判断材料の一つとすることが重要である。
 また、達成が見込まれる成果に対して予算をつける、いわゆる成果買い取り型の予算運用等について、積極的に導入を図るべきである。
 成果主義を徹底するためには、組織、人事等の内部マネジメント、すなわち業務運営面の改革を推進していく必要がある。


2) ベンチマーキングの採用

 支分部局や事務所が、自らの業務運営に際し、上位部局や外部に指摘されてから取り組むのではなく、自律的に課題に気づき、自ら解決するようなしくみの構築が必要である。
 そのため、達成度について、支分部局や事務所ごとにも明らかにし、他の支分部局や事務所に対する相対的な位置を把握することで、低位業績の支分部局や事務所へ改善インセンティブを付与する等、競争原理を活用する、いわゆるベンチマーキングのしくみを取り入れることが必要である。


(5) アカウンタビリティ・評価の妥当性の確保

1) 評価の妥当性の確保

 成果主義の徹底のためには、組織全体として、成果を重視した「高い志」を保つことが必要である。そのため、評価は、一次的には、各部局における自己評価(セルフアセスメント)によるべきであるが、評価の妥当性を確保するためには、自己評価のみでは限界があることも認識するべきである。
 そのため、評価担当部局において、成果の測定手法や評価結果について、二次的なチェックを実施するべきである。
 さらに、国民の視点からのチェックを可能とするため、業績計画及び達成度については、毎年度「業績計画書」「達成度報告書」として、関連するデータとともに、生活実感に沿った、国民にわかりやすい形でとりまとめ、公表することが必要である。


2) アカウンタビリティの確保

 数値目標及び達成度を、それぞれ事前、事後に公表することは、単なる情報公開にとどまらず、国民との間でいわば「約束」を事前に交わした上で、事後に真摯に評価する、対話型の行政運営のための重要なツールであることに留意するべきである。
 また、生活実感にあった行政マネジメントのためには、政策目標、指標の設定にあたって、幅広い関係者の参画を求め、反映していくしくみを構築するべきである。


3) 国民との新たなパートナーシップの確立

 道路は国民一人ひとりの生活に密着した社会資本であり、道路に係る課題の中には、行政による取り組みだけでは解決が困難なものも存在することを認識することが必要である。例えば、国民の行政に対する期待が先行する一方、行政からの説明が不足するなど、国民と行政の十分な協力関係が得られず、課題の達成に至らない結果となる場合がある。そのため、国民に対し、数値目標や達成度、現状を示すデータを公表することで、国民と行政が課題と目標を共有し、協働して解決を図る、新たなパートナーシップを確立することが重要である。




1) 国民とのコミュニケーションの手法

 「業績計画書」「達成度報告書」等の公表にあたっては、道路行政評価サイト(「道路IRサイト」)等、インターネット等を活用し、国民にとって必要な情報が容易に入手できるよう配慮するべきである。
 生活実感にあった行政マネジメントのためには、利用者の意見を把握し、行政運営に反映するための顧客満足度調査についても、毎年度実施し、結果を公表するべきである。


2) 地域性への配慮

 都道府県等地域レベルにおける「業績計画書」「達成度報告書」については、具体的な例示も交え、地域住民にわかりやすい説明を果たすものとするよう、努めるべきである。
 また、地域性に配慮した指標も取り入れるなど、地域ごとの課題にも、随時、対応していくべきである。


3) 地方公共団体との関係

 都道府県等地域レベルにおける「業績計画書」「達成度報告書」の策定にあたっては、地域の自主性、独自性を重んじるとともに、地方公共団体において独自に進められている行政評価制度等との整合性を保たなければならない。


4) 行政マネジメントシステムの継続的改善

 実効性のある行政マネジメントのためには、完璧なデータの収集や、上位の計画の策定等を待つのではなく、平成15年度より速やかに業績計画を策定、公表する等、まず、実践に移すべきである。
 その上で、社会情勢や上位の計画の変化、取り組みの積み重ね、必要なデータの収集状況等を踏まえ、マネジメントシステムの見直しを継続的に行うことが必要である。


5) 職員一人ひとりへの浸透

 成果主義の道路行政運営の実効性を高めるためには、押しつけのシステムではなく、内部での議論等を通じ、成果志向の道路行政マネジメントの必要性を職員が認識する、職員の意識改革が必要である。そのためには、実務を通じた教育、訓練のほか、研修制度等も活用し、職員の一人ひとりが成果を意識した行政マネジメントを推進するように努めることが重要である。





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