ソフト対策と地域防災の深化――「川辺復興プロジェクトあるく」がつなぐ地域の力
ハード整備と並行して、地域の防災力を高めるためのソフト対策も進められた。その中心的な存在となったのが、被災住民が立ち上げた「川辺復興プロジェクトあるく」だ。
避難所が不足し、支援も情報も十分に届かなかった混乱期に、住民自身が「まずは地域の居場所をつくろう」と動き出したのが始まり。
行政や岡山河川事務所とも連携し、住民同士が安心して相談できる場をつくり、支援受入や情報発信、学び合いの場を通して地域の絆をつなぎ直してきた。
川辺復興プロジェクトあるく 代表 槙原 聡美氏は「安心して暮らすためには防災活動が欠かせません」と強調している。活動は行政や岡山河川事務所と連携し、被災後の不安を抱える住民をつなぎ、地域の絆を再生させる拠点として継続され、具体的には以下の取り組みが行われた。
- 月7回から10回程度のサロン活動による居場所づくり
- 行政や河川事務所との連携拠点としての情報発信と支援受け入れ調整
- 「逃げキッド」を使ったマイ・タイムライン作成支援と防災教育
災害時の避難行動を時系列で整理できる「マイ・タイムライン」の普及が進む中、あるくでは子ども向けのマイ・タイムライン検討ツールである「逃げキッド」を防災教育に取り入れ、住民が自らの命を守る行動を考える機会を提供している。
これらの活動は住民一人ひとりが自らの避難行動を考え、命を守る意識を育むきっかけとなった。槙原氏は、高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所の閉所の際、今後の地域防災に大きな不安があったことに触れつつ、「今では、倉敷市もお手伝いしてくださり、頼りにしています。行政が真摯に向き合ってくれていると感じています」と振り返っている。
活動の進展に伴い、住民の意識は「行政に任せるもの」から「自分たちでつくるもの」へと変化した。
このように、住民主体の取り組みはハード整備を補完するもう一つの治水基盤として機能し、地域に根差した防災力の向上につながった。
協創の治水モデルとして全国へ――真備が示した国土強靱化の姿
真備緊急治水対策プロジェクトは、ハードとソフトの両面が一体となった“協創型の流域治水モデル”として全国から注目が集まっている。
小田川合流点付替えや堤防強化などの整備により洪水時の水位が低下し、浸水リスクが軽減された。地域全体の治水安全度が向上し、技術と人の力を結集した新しい流域治水の事例として示されている。
真備緊急治水対策プロジェクトが全国的に注目された理由は、従来の河川整備にとどまらず、行政・施工者・地域住民が一体となって取り組んだ点にある。
大規模な合流点付替え事業を短期間で完成させた技術的成果に加え、住民説明会や地域活動を通じて信頼関係を築いた過程が評価され、流域治水の新しいモデルとして紹介された。こうした背景から、全国の自治体や建設業者が視察に訪れ、今後の治水事業の参考事例として位置付けられている。
災害直後から構築された住民との信頼関係は、工事完了後も地域に持続する防災力として根付いている。被災当時には、高梁川・小田川緊急治水対策事務所の所長室に住民が気軽に訪れ、立ち話のなかから改善案が生まれる場面も多く見られた。そこで培われた「顔の見える関係」や対話の積み重ねが、今も地域に受け継がれている。
今後も住民主体の防災活動を継続的に支援し、行政・企業・地域が一体となった協働の仕組みを全国に広げていくことが期待される。真備で培われた「協創の治水」の経験は、単なる事業完了にとどまらず、今後の流域治水の方向性を示すものとして全国で活かされることが期待される。
取材にご協力いただいた方
※取材内容、所属、役職は取材当時(2025年11月)のものです。
- 国土交通省 中国地方整備局 岡山河川事務所 流域治水課
課長 田宮 子良氏 - 株式会社荒木組
清水 明氏 - 川辺復興プロジェクトあるく
代表 槙原 聡美氏
