災害時でも、国内、国際的な人流・物流の拠点となる主要空港の機能の停止を回避し、社会活動を機能不全に陥らせないようにするため、国土交通省では、空港施設の浸水対策・老朽化対策や滑走路等の耐震対策を推進している。

本記事では、北海道の航空交通ネットワークを支える新千歳空港における空港施設の耐震化事業を通じて、その背景や現場で重ねられてきた工夫を、関係者の声とともに紹介する。

航空ネットワークの拠点・新千歳空港で進む液状化対策

新千歳空港は国内線・国際線を合わせて年間約15万回の離発着があり、北海道経済と観光を支える基幹空港である。貨物輸送でも重要な役割を果たし、災害時には緊急物資輸送や救急・救命活動の拠点となる。こうした空港機能が停止すれば、地域社会全体に大きな影響を及ぼす。

新千歳空港(写真提供:北海道開発局札幌開発建設部)
新千歳空港
(写真提供:北海道開発局札幌開発建設部)

北海道では、平成15年十勝沖地震、平成30年胆振東部地震で液状化被害が確認され、地盤変形が生活・交通インフラに影響を及ぼし得ることが明らかになった。

こうした事例を受け、重要インフラである空港においても同様のリスクに備える必要性が改めて認識され、新千歳空港において耐震対策が進められている。

本事業はその一環として滑走路直下の地盤改良を行い、地震時の液状化リスク低減を図る取り組みであり、全国的に推進されている「空港施設の耐震化事業」に位置付けられている。

国土交通省 北海道開発局 札幌開発建設部 千歳空港建設事業所 所長の伊東 敦史氏は「新千歳空港は北海道の基幹空港であり、災害時には緊急輸送拠点としての機能だけでなく、経済活動を維持するためにも重要な施設です」と語り、基幹空港として果たす役割の重さを強調した。

国・施工者の連携で進める“供用中の空港整備”

本工事は、空港運用に影響を与えないよう空港管理者と調整したうえで、B滑走路(1号沢函渠横断部)の直下を対象に実施された。航空機の離発着に支障が出ないよう、施工は滑走路の運用制限が可能な夜間(23時〜翌朝6時)に限定されている。

夜間作業の様子(写真提供:株式会社山田組)
夜間作業の様子
(写真提供:株式会社山田組)

施工を担当した株式会社山田組は「翌朝7時までに必ず滑走路を開放しなければならない」という限られた時間内で作業品質と安全性を確保するため、綿密な工程管理と情報共有体制を構築。

工程表を大型スクリーンで共有し、作業員全員が進捗を把握できる体制を整えた。さらに、重機の故障に備えて大型クレーンを待機させ、緊急時には速やかに撤去できる仕組みを構築した。

こうした準備を重ねることで、夜間の非運用時間帯を活用し、日々の運航に影響を与えず地盤改良を進めることが可能となった。

株式会社山田組 常務取締役 田端 徹也氏は「限られた時間の中で安全に最後まで成し遂げるために、発注者の方と密に話し合いながら工夫を重ねてきました」と振り返る。

さらに田端氏は、冬季は夜間の気温が氷点下になることも多く、雪が降れば滑走路の除雪を最優先とする必要があるため、雪の予報が出た際には無理に滑走路へ入らず、いつでも速やかに退避できる体制を取っていると、北海道ならではの大雪や寒さへの対応について語った。

現場の創意で築く、安全と効率の両立

地盤改良には、既存構造物の直下でも実施可能な浸透固化処理工法が採用された。

浸透固化処理工法は、既存構造物の直下で地盤の改良を行う際に用いられてきた工法であり、地盤中に配管などの構造物が存在する場合でも、低圧で薬液を浸透させることで周辺への影響を抑えながら施工できる点が特長である。

新千歳空港では、この特長を生かし、滑走路直下の限られた空間で地盤改良を行っている。

新千歳空港で実施された施工内容は以下のとおり。

  • 削孔延長2,532m
  • スリーブ注入190本
  • 浸透固化注入量2,843m³
  • 防護キャップ190箇所

施工中は、滑走路の隆起を防ぐため、薬液の注入速度を厳格に管理。
ワイヤレス沈下センサーを用いて滑走路面の微細な変位をリアルタイムで監視し、一次管理値5mm、二次管理値10mmという基準を設け、最大隆起も4mmに抑えられた。

株式会社山田組 現場監理技術者 井塚 洋樹氏は「ワイヤレス沈下センサーで隆起を検知し、そのうえで人の目でも確認するようにしました。そうすることで、安全と効率の両立が実現できたと思います」と現場ならではの工夫を語った。

薬液注入の作業の様子(写真提供:株式会社山田組)
薬液注入の作業の様子
(写真提供:株式会社山田組)
ワイヤレス沈下センサー(写真提供:株式会社山田組)
ワイヤレス沈下センサー
(写真提供:株式会社山田組)

現場では、天候や地盤の状態によって注入状況が変化するため、その日の状況を踏まえた判断も求められるという。

計測結果を確認しながら注入速度を微調整し、管理値内に収まるように施工条件を調整することで、滑走路への影響を抑えつつ、必要な改良効果を確保している。こうした細かな対応の積み重ねが、安全で安定した施工につながっている。

さらに、油圧機械の養生や空圧機材の活用により、油漏れリスクを低減。光るカラーコーンや警報装置を設置し、作業車両の接近を警告するなど、細部にわたる安全対策が徹底された。