気候変動に伴い、河川の氾濫等のリスクが増大している中、洪水から国民の生命・財産の被害を防止・軽減するため、国土交通省では、ダムに堆積した土砂の撤去、既存ダムの機能の回復・増強を行うダム再生等に取り組んでいる。

本記事では、各地で行われているダム再生の取り組みの中から、岐阜県の新丸山ダム建設事業に注目。DXを駆使し、難工事に挑むこのプロジェクトから、将来の国土強靱化の取り組みの姿を紹介する。

洪水から流域の住民を守る――流域治水の視点で捉え直すダム再開発

新丸山ダムは、一級河川 木曽川の中流部に位置する。木曽川は、昭和58年9月の台風第10号と秋雨前線により、洪水が発生。岐阜県美濃加茂市、坂祝町、八百津町、可児市等では川の水が堤防を越える「越水」により、4,588戸が浸水する被害が発生した。

この洪水を契機として、新丸山ダム建設による洪水調節能力の強化が強く望まれるようになった。

事業実施前後の氾濫想定図
事業実施前後の氾濫想定図

昭和61年から建設事業に着手し、令和3年からダム本体の工事に着手。ゼロから新設するのではなく、既存の丸山ダムの立地と施設を活かし、コスト・工期・環境負荷の各側面で合理性を追求している。新丸山ダムに期待されている役目は以下の3つである。

1. 洪水調節の強化
木曽川で戦後最大となる昭和58年9月洪水と同規模の洪水を安全に流下させ、河川氾濫による浸水被害を防ぐ。洪水時には、丸山ダムと比べて約3.6倍の貯水が可能となる。

2. 流水の正常な機能の維持
渇水時には、上流のダムと合わせて、河川環境の保全と既得取水の安定化に必要な河川流量の一部を確保する。

3. 発電量の増量
ダム湖の水面上昇に伴い、丸山発電所および新丸山発電所における最大出力は188,000kWから210,500kWに増加し、再生可能エネルギーの活用拡大に寄与する。

主な事業内容は、ダム本体の工事にとどまらない。ダム湖の水位上昇により水没する国道418号などの付け替えや、事業実施による環境への配慮など多岐にわたる。

使いながら、つくりながら、守る――国内最大級のダムかさ上げと「段階的施工」

新丸山ダム建設事業の特徴としてまず挙げられるのは、「使いながら、つくる、守る」という点である。丸山ダムの洪水調節機能や発電機能を維持しながら、新丸山ダムの施工をする。

既存の丸山ダムと建設中の新丸山ダム
既存の丸山ダムと建設中の新丸山ダム

新丸山ダム建設事業は、木曽川の河口から約90㎞に位置する丸山ダムを20.2mかさ上げして機能アップを図る。

かさ上げは、丸山ダムの下流側47.5mの位置に、新丸山ダムが丸山ダムに一部重なる形で行い、新丸山ダムの堤体が完成した段階で、ダムからの放流をスムーズに行えるよう、丸山ダムの上部を一部撤去する。

この工法だと、新規で建設するダムに比べ工事区域が小さいため、周辺環境の改変を小規模にできる。

貯水池容量配分図
貯水池容量配分図

既設ダムの機能維持と、新ダムの施工の同時進行を可能にしたのが「段階的施工」である。

国土交通省 中部地方整備局 新丸山ダム工事事務所の担当者は、段階的施工を選択したことについて、「既設の丸山ダムの機能を維持しながら工事を進めるという難易度の高い工事です」と語る。

段階的施工のイメージ1
段階的施工のイメージ2
段階的施工のイメージ3
段階的施工のイメージ4
段階的施工のイメージ5
段階的施工のイメージ

国内最大級のかさ上げ工事には、丸山ダムの洪水調節機能確保、施工中の堤体安定性と作業員の安全確保のために気象・水位変動への即応が重要だ。

このため新丸山ダム建設事業では、3次元シミュレーション、施工機械の自動化、詳細工程計画、計測の高頻度化などを活用し、進めていく。

高難度の建設現場を支える新しい試み――確実な施工を支える最新技術や高度な設計計画

新丸山ダム工事事務所は、国土交通省による「i-Constructionモデル事務所(全国14事務所(R7.4時点))」の一つとして選定されている。

新丸山ダム建設事業では、3次元データ(BIM/CIM)と統合施工管理システムを中核としたDX基盤を構築。高難度の再開発事業に取り組んでおり、こうした取り組みが今後のダム再生やインフラ整備を先導する役割が期待されている。

統合施工管理システム
統合施工管理システム

新丸山ダム建設事業でのDXの取り組みを担う、新丸山ダム工事事務所の担当者は、「継続的に3次元データを活用して、業務プロセスの改善や建設生産管理システム全体の効率化に向けて効果の検証を行い、そのノウハウを蓄積して、今後の事業へ展開していくことが想定されています」と語る。

新丸山ダムの建設現場では、「確実な施工を支えるDX」と「安全と品質を両立する技術」が導入されている。ここからは、その主な取り組みを紹介したい。

自律型コンクリート打設システム
新丸山ダム建設事業では、コンクリートに使用する骨材の製造からコンクリート打設までの一連の工程を集中監視室で制御する自律型コンクリート打設システムの導入を目指し、建設現場の生産性の向上を図り、建設労働者の負担軽減や安全性の向上を目指している。

新丸山ダム工事事務所では、受注者と協働でシステムの構築に取り組んでおり、令和5年2月からこれまで4回の実証実験を実施してきた。また、この技術は建設現場の生産性向上に加え、建設労働者の負担軽減や安全性向上により魅力ある職場環境の実現にも寄与する。

新丸山ダム工事事務所の担当者は「自動・自律化を進めることで、省人化や建設現場の安全性、建設技術者の不足の解消にもつながります。昨今は熟練技能者の減少が課題ですが、このシステムなら若手も熟練技能者と同様の施工が可能になると考えています」と語る。

統合型CIM
ダム周辺の地形や地質、ダム本体、放流施設等の詳細等を3次元モデルで可視化することで、設計や施工手順の検討に活用。工事期間中のみならず、新丸山ダム完成後の維持管理にも活用を予定している。

統合施工管理システム
土工事における一連の作業である、積込・運搬・敷き均し・転圧の最適な施工計画を自動作成。設計図書データを取り込み、建機の台数や施工日数を設定すれば、最適な施工計画を自動的に作成し、その施工計画データを建機FMS(建機フリートマネジメントシステム)に伝達する。

新丸山ダム本体建設工事を受注している新丸山ダムJV工事事務所の担当者は、「統合施工管理システム」を用いたケーブルクレーンの自律運転や、コンクリートの締め固めへの取り組みについて、「ケーブルクレーンを座標にあわせた際、どこに何を、何の配合のコンクリートを何m³、どのタイミングで打設し、そのコンクリートの柔らかさ(スランプ)をどう管理するか分かるように、3次元モデルとケーブルクレーンの自動・自律化の紐付けを目指しています」と述べている。

土工CPS
土工CPSの基礎となるモデルを3次元CAD及びUAV測量点群データを用いて構築。重機等にGPSを搭載し、CPS上にリアルタイムで表示させることで、車両の運行管理ができるようになった。

施工を担う、新丸山ダムJV工事事務所の担当者は、「担当している原石山では、ダンプカーに『バスマップ』という運行管理システムを実装しています。これにより、今、ダンプカーがどの道で、どの速度で、どの位置で走っているのが、逐一チェックできます」と業務での活用を語る。

今後は地質情報モデルをCPSへ反映させて、掘削箇所の想定地質情報を把握。地質情報を事前に想定できることで、コンクリートに適した地質状況を把握して、施工効率化への寄与が期待されている。

自動自律化施工で活躍する建機
自動自律化施工で活躍する建機
自動自律化施工で活躍する建機
自動自律化施工で活躍する建機