近年の大雨により、各地で土砂災害が頻発する中、土砂災害から国民の生命・財産の被害を防止・軽減するため、国土交通省では、土砂・洪水氾濫や土石流に対して土砂・流木の捕捉効果が高い砂防堰堤の整備を進めている。
富山県を流れる常願寺川の上流に広がる立山カルデラには、約2億m³ともいわれる不安定土砂が堆積し、地域の安全を揺るがす要因となっている。そのため、これまで数々の土砂災害を引き起こしてきた。
本記事では、立山の砂防事業がどのように土砂災害リスクを低減し、地域の国土強靱化を支えているのか、背景と現在の姿を関係者の声とともにたどっていく。
立山カルデラを守る、120年の砂防事業
常願寺川上流に位置する立山カルデラは、安政5年(1858年)の飛越地震による「鳶崩れ」によって生じた約2億m³もの不安定土砂が堆積している。
豪雨等によりこの不安定土砂が常願寺川を通じて流域下流にある富山平野等の河道に流出・堆積し、土砂・洪水氾濫等による甚大な被害を富山平野等に引き起こしてきたことから対策の必要性が認識されてきた。
このような背景のもと、立山カルデラ周辺では明治39年(1906年)に、富山県による県営砂防事業が始まった。
県営砂防事業により山腹工や砂防(空石積)堰堤、石張水路工等の砂防施設が整備されたが、建設資材の供給が少なく作業条件も非常に厳しかった。さらに、土石流により建設した砂防施設が何度も破壊されたため技術的にも経済的にも厳しい状況となり、富山県は県営砂防を断念し、政府による直轄事業を要望した。
その後、1924年の砂防法の改正により、莫大な費用がかかる場合や高度な技術が必要な場合は、1つの県内でも、直轄事業で実施できるようになったことから、大正15年(1926年)からは国による砂防事業が進められている。
現在の事業は、国土交通省 北陸地方整備局 立山砂防事務所が立山カルデラを含む湯川流域や真川の常願寺川上流域、常願寺川中流域を対象とし、土砂・洪水氾濫等の災害から下流の常願寺川流域や富山平野を守ることを目的に砂防施設の整備等を実施している。
事業は、単発の対策ではなく、長期にわたり土砂の動きを管理し続けることが求められるものであり、砂防堰堤や山腹工などの施設整備に加え、施工方法や現場運営の工夫を通じて、長期的かつ継続的な対策が進められている。
「水系一貫」の砂防事業
立山砂防事務所 水谷出張所 出張所長 新谷 紘平氏は「立山カルデラ等の上流域で発生する土砂を適切にコントロールすることが、下流域の安全につながります」と述べ、砂防事業の重要性を語る。
事業の特徴の一つが「水系一貫」の考え方に基づく総合的な砂防体系である。上流域だけで対策するのではなく、常願寺川の源流から中流域・下流域までを一体としてとらえ、全体のバランスを見ながら対策を進めている点が特徴的だ。
上流域の立山カルデラ内では、斜面・渓岸の崩壊や河床の侵食を抑えるための砂防堰堤や、斜面の安定化と植生の回復を図る山腹工が整備されている。
代表的な施設は泥谷砂防堰堤群と白岩砂防堰堤であり、不安定土砂の生産抑制および流出抑制に寄与してきた。
泥谷砂防堰堤群は立山カルデラ内の荒廃著しい泥谷に築かれた堰堤20基、床固3基の連続的な階段式砂防堰堤であり、侵食防止および渓岸の山脚固定により土砂の生産抑制の役割を果たしている。
また白岩砂防堰堤は立山カルデラ出口に設置され、本堰堤の高さ63m、7基の副堰堤を合わせると落差108mと日本一の高さを有する立山砂防の主役的存在の砂防堰堤であり、カルデラ内の不安定土砂の流出抑制の役割を担っている。
中流域では、洪水時に流下する土砂を一時的に貯留し、平常時に少しずつ流すための調整機能を持つ砂防堰堤が整備されている。
その中でも本宮砂防堰堤が代表的な施設であり、日本最大級の貯砂量500万m³を有し、土砂の流出調整の役割を果たし、大量の土砂が一度に下流へ流出することを抑え、河道の安定や洪水時の負荷軽減につなげている。
このように立山の砂防事業はカルデラ内の土砂生産および流出抑制の対策、流出土砂の調整などを総合的に常願寺川一体で土砂のコントロールを図っている。
技術と挑戦の歴史――白岩砂防堰堤から無人化施工・ICT施工へ
立山の砂防事業は、長い歴史のなかで多様な技術的挑戦を重ねてきた。なかでも白岩砂防堰堤は、日本の砂防の技術史を語るうえで欠かせない存在である。
白岩砂防堰堤の建設が進められた当時、立山カルデラは急峻な地形と厳しい自然条件により、資材の運搬や施工そのものが極めて困難な現場であった。こうした環境下で工事を進めるため、専用軌道による資材運搬や、当時としては先進的であったコンクリートの使用など、最新の土木技術が導入された。
山岳地での施工が難しい時期に、このような規模の砂防堰堤を整備したことは、近代砂防技術の確立にもつながっている。
その後も、泥谷砂防堰堤群、本宮砂防堰堤などが整備され、立山カルデラ内外での土砂の生産抑制や流出抑制、河道の安定化に寄与してきた。さらに近年では、無人化施工やICT施工の導入により、施工方法の高度化と安全性の向上が図られている。
たとえば、斜面崩壊の危険度が高い有峰二の谷では、あらかじめ無人化施工を前提として計画し、無人バックホウや無人クローラーダンプを活用して堆積土砂の除去や砂防施設の整備を行っている。
また別の現場の滝谷では、土石流の発生により既設砂防堰堤上流部に異常に土砂が堆積した状況を受け、現場条件に応じて無人化施工に切り替え、安全性を確保しながら除去作業を進めた事例もある。
こうした無人化施工の進め方について、立山砂防事務所の新谷氏は「計画的な無人化施工と、災害発生後の対応として導入する無人化施工では、必要な準備や課題が異なります」と述べ、現場の状況に応じて技術を使い分ける重要性を説明した。
現場を支える施工会社でも、インフラDXやICT技術の活用が進んでいる。水谷協力推進会会長の松嶋建設株式会社 脇坂 和宏氏は「現場の写真や図面、手順書をタブレットに集約し、作業員がいつでも確認できるようにしています」と話し、情報共有の工夫を紹介。
同会 副会長の辻建設株式会社 山尾 亮介氏は、三次元データやタイムラプス映像を用いて作業の流れを整理し、新たに現場に入る作業員にも作業内容を共有しやすい環境を整えていると説明する。
また、同会 副会長の株式会社高田組 橋場 洋平氏も、ICT建機や三次元データの活用を通じて、限られた施工期間のなかで生産性の向上を図ってきたと話した。
立山カルデラの現場は、山岳地域特有の気象条件の変化や短い施工期間など、さまざまな制約を抱える。その中で、無人化施工やICT施工、インフラDXを取り入れながら、安全性と効率性の両立を図る取り組みが行われている。
