全国の都市部には、戦後の都市化の過程で形成された密集市街地が今も多く残っている。
これらの地域では、火災時の延焼や地震発生時の避難路確保など、防災上の課題を抱えるケースも多く、対策の検討と推進が求められてきた。

地震時等に大規模火災の発生の危険性が高い密集市街地等において、防災性の向上や住環境改善を図るため、国土交通省では、道路や公園の整備、老朽建築物等の除却・建替え等により、地震時等に著しく危険な密集市街地の解消に向けた取り組みを進めるとともに、関係機関と連携して、より一層の安全性を確保するため、防災設備の設置(消防水利、防災備蓄倉庫等)や防災マップの作成、消火・避難訓練の実施等のソフト対策を推進している。

本記事では、国土交通省が推進する「防災街区整備事業」の取り組みの中から、東京都品川区の事例を紹介。行政・専門機関・地域住民がどのように協力し、「災害に強いまちづくり」を進めているのか、その取り組みの様子をたどる。

「防災街区整備事業」とは?――国と品川区が進める防災まちづくり

密集市街地とは、老朽化した木造住宅が密集し、道路幅員が狭く、避難経路の確保が困難であるなど、防災上の課題を抱えているエリアを指す。火災や地震が発生した際には延焼や道路閉塞のおそれがあるとされており、住民の生命・財産を守るための対策が求められている。

国土交通省はこうした地域の防災性を高めるため、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(以下「密集法」)」に基づき、「防災街区整備事業」という制度を設けている。

この事業は、地方公共団体や住民等が密集市街地の防災機能の確保と土地の合理的かつ健全な利用を図るための法定手法であり、不燃化の促進、道路や公園の再整備などを総合的に進めることを目的としたものだ。

さらに国は、平成30年12月に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」や、令和2年12月の「5か年加速化対策」を通じて、防災対策の着実な推進を図ってきた。

国土交通省 関東地方整備局 建政部住宅整備課 課長補佐 小池 要氏は、「これらの計画の中では、密集市街地対策が位置づけられており、継続して支援を行ってきました。危険密集市街地の面積は令和2年度末で約2,220haであったものが、令和6年度末に1,347haとなっています。引き続き密集市街地の整備改善に取り組んでいく必要があります」と国の姿勢を述べている。

また小池氏は令和7年6月に閣議決定された『第一次国土強靱化実施中期計画』にも触れ、「密集市街地解消の達成率は指標を定めており、令和5年度については71%でしたが、令和12年度を目途に100%を達成することが目標」と国の目標値を語った。

本記事で取り上げる東京都品川区も、老朽木造建築物が密集している地域を抱えており、住環境・防災の観点から課題が指摘されてきた。そのため品川区では、「密集住宅市街地整備促進事業」や「防災街区整備事業」を計画的に推進している。

計画では、密集市街地において防災機能の確保と土地の合理的かつ健全な利用の促進を目指し、地元住民と協力しながら、老朽建築物の建て替え促進や防災広場・生活道路の整備を進めるなど、安全で快適なまちづくりに取り組んでいる。

品川区旗の台四丁目周辺の航空写真(写真提供:品川区)
品川区旗の台四丁目周辺の航空写真(写真提供:品川区)

こうした取り組みは、社会資本総合整備計画「東京都における安全な市街地の形成」に位置づけられ、国の交付金を活用して進められている。

これにより、品川区は事業を円滑に進めるための基盤を整え、計画を着実に前へ進めている。

“燃えない・燃え広がらない”まちづくりで防災機能を強化――旗台小学校前地区の取り組み

では、品川区ではどのような密集市街地対策が行われているのか。この章では、具体的な取り組みを紹介する。

品川区では「旗台小学校前地区防災街区整備事業」に基づき、旗台小学校前地区の老朽木造建築物の除却や道路整備を通じて、安全で持続的なまちづくりを進めている。

旗台小学校前地区は、品川区の南西部に位置し、戦後の住宅需要に対応して建設された、長屋構造の木造住宅が多く残る地域である。建物の老朽化や接道条件が十分でない宅地が多いことから、災害時の安全確保が課題として指摘されてきた。

そこで、品川区は本地区を主体的に改善に取り組むべき地区として位置づけ、平成元年の「密集住宅市街地整備促進事業」の導入以降、さまざまな防災まちづくりに取り組んできた。しかし、個別の改善では対応が難しい課題も残されている。

このような状況を改善するため、品川区は令和5年8月に本地区において、都内初となる密集法に基づく防災街区整備推進機構を指定し、事業の具体化に向けた体制整備に着手。

長屋構造の老朽木造建築物の除却や共同建て替えに向けた検討が始まり、住民等との協議を重ねて、令和6年7月に「旗台小学校前地区防災街区整備事業準備組合」の発足にこぎつけた。

この取り組みでは、火災時の延焼を防ぐための基盤整備が重要となる。道路幅員の拡幅や、空地の確保により、火が広がりにくい環境を整えるとともに、避難経路を明確にすることで、災害時の安全確保につなげる。

また、老朽木造建築物を耐火・準耐火建築物へ建て替える整備を促進し、地域全体の不燃化を進めることで、防災性の向上も目指している。

整備地区計画図(画像提供:品川区)
整備地区計画図(画像提供:品川区)

防災街区整備事業における合意形成と権利調整――住民に寄り添い、ともに描く「生活再建」の未来

「防災街区整備事業」の特徴は、市街地再開発事業と同様に、土地・建物から建築物への権利変換による共同化を基本としつつ、土地から土地への権利変換も可能とする柔軟な手法が認められている点にある。こうした枠組みを活用し、老朽化した建築物の除却や防災機能を備えた建築物・公共施設の整備を進めることで、木造住宅密集地域の解消を図っている。

旗台小学校前地区の取り組みでも、共同建て替えや生活再建に配慮した取り組みを円滑に進めるため、権利変換や合意形成に力を注げる体制を整えた。暮らしに直結する事業であるため、住民の理解と協力を得ながら進めることが不可欠となる。

こうしたプロセスについて、品川区役所 都市環境部 木密整備推進課 小川 晋氏は次のように説明する。

「『防災街区整備事業』の計画段階では、老朽建築物が集積し改善が必要と判断される街区を抽出します。職員が現地に赴き、まず共同化の意向を直接伺います。その後、アンケート結果などを踏まえて、共同化に向けた意向が見られた地区を把握し、地区の皆さまと勉強会を立ち上げるという流れになります」

勉強会は、事業内容の共有と意思疎通の場として位置づけられ、理解が深まった段階で、準備組合の設立へと進む。さらに準備組合の合意を得て、事業が本格的にスタートする。

一方、密集住宅市街地整備促進事業の取り組みでは、住民との協議も重視。住民主体のまちづくり協議会を設け、町会、自治会のほか、公募で参加を希望した地元の土地・建物の所有者も参画して協議を重ねている。

さらに区内の進捗状況について小川氏は、「品川区内で7地区が『密集住宅市街地整備促進事業』に取り組んでおり、そのうち4地区ではすでに『地区独自のまちづくりのルール』となる地区計画が取りまとめられています。また、現在2地区において、勉強会、説明会等を重ねながら計画策定を進めています」と説明した。

勉強会の様子(画像提供:品川区)
勉強会の様子(画像提供:品川区)