海上輸送機能の停止による貿易等への甚大な影響を回避し、社会活動を機能不全に陥らせないようにするため、国土交通省では、大規模地震に対応できる港湾施設の耐震・耐波性能の強化等に取り組んでいる。

大分港では、貨物需要の増加や船舶の大型化が進む一方、既存埠頭の岸壁水深が浅く満載の状態で入港できないことや、埠頭用地が限られ貨物が分散していることなど、物流面での課題が顕在化していた。

こうした背景を踏まえ、平時・非常時を通じて港湾機能を確実に発揮できる体制を構築するため、国・大分県・民間が連携して進めているのが、「大分港(大在西地区)複合一貫輸送ターミナル整備事業」である。本事業は、物流機能の高度化と防災機能の強化を一体的に進める取り組みとして、国土強靱化の観点からも重要な位置づけを持つ。

本記事では、本事業の概要と現場での取り組み、関係機関の連携、そして「九州の東の玄関口」としての大分港のポテンシャル向上に向けた歩みを紹介する。

日本の物流ネットワークを支える存在を目指して――九州の物流の要、大分港が抱える課題と挑戦

港湾においては、コンテナやばら積みなど、さまざまな輸送形態がある。そのうちトラックやトレーラーが自走で乗り降りする貨物専用船舶、RORO船(ロールオン・ロールオフ船)は効率的な荷役作業が実現でき、近年のトラックドライバー不足等に伴う「モーダルシフト」の受け皿となっている。

大分港
大分港

九州から関東方面へのRORO船の便数では九州1位である大分港においては、貨物需要の増加と船舶の大型化が進む一方、水深7.5mの既存岸壁では水深が浅く、大型のRORO船が満載の状態で入港することができない状況であった。そのため、喫水調整を行い、積載制限をかけていることから、荷物の積み残しが発生するなど非効率な荷役が課題となっていた。

さらに課題は、RORO船での輸送に不可欠である陸上のシャーシ置場にもあった。従来はシャーシ置き場が点在していた上、増大する貨物需要に対し面積も不足していたため、効率的な荷役が困難であった。

こうした課題を解決するため、国と大分県は抜本的な港湾機能強化に乗り出した。それが、「大分港(大在西地区)複合一貫輸送ターミナル整備事業」である。平時には物流の要としての機能を最大限発揮することはもとより、災害時にも緊急物資輸送の機能を維持できる港湾を構築することに重きを置いている。

まず、大在地区の西隣に位置する大在西地区に新たな埠頭を計画し、港湾施設の整備に着手した。事業期間は令和2年度から12年度まで。水深9mの耐震構造の岸壁や泊地、埠頭用地などを整備する大型プロジェクトである。計画されている2つの岸壁のうち、1つ目が完成し、令和7年5月に供用を開始した。

では、大分港の施設整備により、どのように改善されるのか。主に期待される効果は以下のとおり。

1. 大型船への対応による海上輸送の効率化
大型船の喫水調整が不要となることにより、1隻の船舶で輸送できる貨物量が増加し、積み残し貨物が無くなることで、海上輸送の効率化が図られる。また、陸上輸送から海上輸送への「モーダルシフト」が期待される。

2. シャーシ置き場の集約による荷役作業の効率化
点在していたシャーシ置き場を集約するとともに十分な面積を確保することで、荷役作業の効率化が図られる。

3. 大規模地震の発生時における緊急物資輸送機能の確保
耐震強化岸壁として整備することにより、大規模地震の発生時においても輸送機能を確保することができ、緊急物資の搬入などの災害時対応が可能となる。

港湾の強靱化と複合一貫輸送ネットワークの形成を推進する国土交通省 九州地方整備局 港湾空港部 計画企画官の井上翔太氏は、本事業を、国土強靱化の理念を港湾分野で具体化する重要な取り組みと位置づけている。

大分港の配置図
大分港の配置図

井上氏は物流面での意義について、「九州の東の玄関口である大分港において、ドライバー不足や労働環境の改善、CO₂排出量の削減といった課題に対応するため、モーダルシフトを進めることは、広域的な物流ネットワークの強靱化に有効です」と語り、さらに防災の観点からは「南海トラフ地震をはじめとした大規模な災害に備え、港湾の防災機能を強化することは喫緊の課題です。能登半島地震の際に耐震強化岸壁が緊急物資輸送の拠点として機能したことからも、その重要性が改めて認識されています」と、その必要性を強調する。

井上氏はまた、こうした港湾機能の強化が、港湾の近辺に立地する企業にとって、サプライチェーンの強靱化にも大きく寄与するとの認識を示した。

物流の効率化と災害時の機能維持という二つの役割を担う大分港。
大在西地区で進められている本事業は、平時・非常時を通じて地域と広域物流を支える港湾機能の強化を目指す取り組みとして位置づけられている。

国・県・民間企業の力が結集――“強くしなやかな”港にするための協働

10年にわたる本事業を担うのは、国土交通省港湾局、九州地方整備局、大分県、そして若築建設株式会社をはじめとした施工会社である。それぞれが緊密に連携することで、計画段階から施工、供用開始に至るまで、関係者間で情報共有を徹底し、物流と防災の両面で機能する港づくりを目指してきた。

大在西連絡協議会
大在西連絡協議会

大分県 土木建築部 港湾課 課長の山口 甲一郎氏は、県の立場から本事業の連携体制をこう振り返る。

「国と県は、令和6年度末を目標に1バース目の工事完成を目指していましたが、令和6年度の第2・3四半期にかけて複数の工事が同時稼働し、現場は錯綜していました。そこで国(別府港湾・空港整備事務所)、県(大分土木事務所)、施工業者(最大23工事)の3者による工程調整会議を、月1回の頻度で計8回実施しました」

会議では、個別工事の内容や工程を関係者全員で共有。材料搬入時期が集中して供給不足に陥らないよう、関係工事間で工程調整するなどリスク回避を図りながら円滑な事業進捗に努めた。

国土交通省 九州地方整備局 別府港湾・空港整備事務所 副所長の平野隆幸氏は、施工時の現場環境について次のように語る。

「大分港(大在地区)は、コンテナ船やバルク船、漁船など多くの船舶が出入りする狭隘な場所です。こうした環境の中で、ポートラジオの情報を活用しながら、安全に配慮して施工を進めました」

そのうえで、岸壁整備にあたっては、岸壁を利用するRORO船のサイドランプと係船柱が接触しないよう配慮する必要があり、利用船舶との調整を行いながら工事を進めたと説明する。

最新技術の活用で事業をサポート――現場の創意で築く、安全と効率の両立

港湾工事は自然条件との戦いであり、潮流や波浪、気象変動に対応する柔軟な施工管理は欠かせない。そのため施工計画は、海象条件を踏まえて緻密に策定し、安全性と作業効率の両立を追求した。

また、個々の工事でも工期短縮のための試みが行われ、ICT施工技術や最新の建設機械の導入は、精度と効率を高めることに貢献した。

大分県 土木建築部 港湾課の山口氏は、「中でも、ICT施工(舗装)を活用したことにより、業務量が3割程度縮減できました」と成果を語る。

ICT重機
ICT重機
ICT重機
ICT重機

若築建設株式会社も港湾整備の最前線で培った知見を活用。若築建設株式会社 九州支店 現場代理人 松本 康希氏によれば、施工期間が5か月と短かったため、効率性と安全性が担保できるICT重機を導入したという。

3D設計データとGNSSによる3D位置情報を利用したICT重機を使って、水中部の法面均しに活用し、法長が長い区間では法尻まで届くエクステンションアームを取り付けて作業を実施。これにより、水中部の不可視部分の均し作業が可能となり、潜水士による人力作業を省略することで、安全性と作業効率の向上が図られた。

松本氏は、「人力作業を減らせたことで、安全かつ効率的に進められたと考えています」と振り返る。

エクステンションアームによる作業
エクステンションアームによる作業

さらに、現場では作業員の安全確保を最優先に、リスクアセスメントを徹底。大型重機の稼働や水中作業など、危険を伴う工程においても、最新の安全管理手法を適用した。

安全確認の様子
安全確認の様子

新しい技術は、岸壁の背後に集約したシャーシ置き場にも用いられている。大分県は、敷地面積が5.9ha(移転前)から14ha(全体計画21ha)へと約2.4倍に拡張した置き場に対応するため、DX 技術によるシャーシ管理システムを導入した。

入退場時の受付の省人化や乗船シャーシの駐車位置をシステムで管理することで、RORO船ターミナルの高度化を図っている。大分県 土木建築部 港湾課 山口氏は、「シャーシ管理システムにより、さらに荷役作業の効率化が進み、モーダルシフトの受け皿として機能できればいいですね」と期待を寄せている。