近年、都市化の進展に加え、短時間強雨や大型台風、線状降水帯に代表される気候変動の影響などにより、各地で内水氾濫と呼ばれる浸水被害が頻発しており、国土交通省では、下水道による浸水対策により、市街地の内水氾濫や地下空間の浸水被害を未然に防ぎ、災害時にも都市機能の停滞を最小限に抑える取り組みを推進している。

一方で、気候変動の影響による降雨特性の変化や、不浸透域の拡大、施設の老朽化などを背景に、浸水リスクは従来よりも複雑化・高度化しており、各自治体ではハード・ソフトの両面から、より総合的な浸水対策が進められている。

本記事では、そうした全国的な課題を踏まえ、激甚化する豪雨に向き合いながら、浸水対策計画の見直しに挑む富山市の取り組みを紹介する。

富山市の地勢と浸水リスク――激甚化する豪雨と計画見直しの必然

北陸の中核都市である、富山市。まずは、その地形と環境、浸水リスクについて説明する。

富山市は神通川、常願寺川の洪水氾濫により形成された扇状地が広がる富山平野に位置しており、地表勾配が緩やかで雨水が流れにくいのが特徴だ。

したがって、内水氾濫が発生しやすく、都市化の進展に伴う不浸透域の増加も、浸水リスクを高めている。さらには、近年の気候変動の影響で降雨量は増加し、短時間強雨の頻度も上昇している。

このような状況下、富山市は令和4年8月、さらには令和5年7月、集中豪雨に見舞われ、市内各地で床上・床下浸水の被害が発生した。

富山市の地形・地勢図
富山市の地形・地勢図
市内の浸水状況(令和4年8月)
市内の浸水状況(令和4年8月)
市内の浸水状況(令和5年7月)
市内の浸水状況(令和5年7月)

これまで市が進めてきた浸水対策は、平成18年度に策定の「富山市浸水対策基本計画」だ。雨水幹線や貯水池等の施設整備を実施していたが、過去の降雨実績に基づくハード対策に重点を置く計画内容であった。

だが、近年の豪雨はその想定を超えている。従来型の対策のみでは十分ではない状況であった。

こうした状況について、富山市 建設部 河川整備課 課長代理の飯島直人氏は、本市にはもともと既存の浸水対策基本計画があったものの、近年の水災害の激甚化・頻発化に対しては、気候変動を踏まえたハード対策の強化のほか、地区ごとの計画降雨の設定、事前防災・減災の観点や地域特性を考慮した下水道整備の優先順位の設定に不足を感じていたと説明する。

また、計画を上回る降雨に対するハード・ソフト面の総合的な対策計画の位置づけについても検討が必要であると考え、令和4年、5年の集中豪雨での被害も含め、新しい課題に立ち向かうべく、計画の見直しに挑んだという。

また、全国の雨水管理総合計画策定のために技術的な支援などを行っている国土交通省 上下水道審議官グループ 大臣官房参事官(上下水道技術)付 水害対策係長の長谷川智明氏は、大雨による浸水に対しては、ハード・ソフトの両面から対策に取り組み、被害の最小化を図ることが重要であると説明する。

その上で、国土交通省では、令和元年12月に下水道による気候変動の影響等を考慮した取り組みを推進するため、「気候変動を踏まえた都市浸水対策に関する検討会」を設置し、令和2年6月には同検討会より提言がとりまとめられたこと、さらに、気候変動の影響を踏まえた下水道による浸水対策を実施すべき区域や対策目標等を定めた「雨水管理総合計画」の策定が必要であることが示されたと述べている。

これらの動きを受け、富山市においても計画の見直しの動きが進められたとの認識を示した。

ハード面とソフト面。両輪で進めることが大事――新計画の位置づけと長期ビジョン

災害に強い都市構造の構築を目指す新たな計画では、流域全体を俯瞰し、行政・関係機関・地域住民が協働する「流域治水」の考え方を方針として導入することになった。

また、従来の「過去降雨実績に基づくハード偏重型」から脱却すること、それはハード・ソフト両面からの強化を進めることである。

市は過去の浸水実績や地形・地勢を詳細に調査し、シミュレーションを活用して浸水リスクを定量的に評価した。これにより、地域特性を踏まえた事前防災・減災の方向性が明確になった。

こうして、従来の計画からの見直しを図り、新計画では以下の視点を取り入れて進めていくこととした。

  1. 気候変動を踏まえた、計画降雨の見直し
  2. 定量的な評価に基づく、ハード対策エリアの選定
  3. 多様な主体と連携する、ソフト対策の位置づけ

新たな計画は、流域全体を俯瞰した長期的な浸水対策方針として策定されたため、計画期間は20年(令和9~28年度)。その対象は市内の下水道事業計画区域の338排水区(9,288.7ha)である。

これにより、限られた財源を有効に活用し、段階的な整備を進めることで、持続可能な防災体制を構築することを目指すこととなった。

気候変動を見据えた、新たな浸水対策計画――流域全体を俯瞰した「流域治水」の導入

では、前章で挙げた視点は、どのように方針へと深化したのか。各視点のその内容にクローズアップする。

1. 気候変動を踏まえた、計画降雨の見直し

新計画では、令和3年11月に国土交通省が定めた「雨水管理総合計画ガイドライン(案)」を踏まえ、気候変動による降雨量増加を考慮した計画降雨を設定。

降雨量変化倍率1.10倍を適用し、従来の計画より厳しい条件で今後、ハード対策を強化していく。

松川貯留管内部
松川貯留管内部

また、ハード面、ソフト面、両対策への基本方針も定めた。雨水幹線などの施設整備の基準となる「計画降雨」に対しては、ハード対策により浸水被害の防止を図る。

計画降雨を上回る「照査降雨」については、令和4年8月に市内で観測した既往最大の降雨98mm/hを基準とする。この照査降雨に対しては、ハード・ソフト対策により浸水被害の軽減を目指していく。

2. 定量的な評価に基づく、ハード対策エリアの選定

富山市 建設部 飯島氏によると、「まずは、市民の命を守るという観点に主眼を置き、床上浸水地区の解消を第一優先する」と定め、ハード対策エリアの見直しを行ったという。

浸水の実績、シミュレーションによる浸水リスクの算出から、「浸水のしやすさ」を評価。さらに、人口や要配慮者利用施設等に加えて、都市マスタープランとの整合を留意して、公共交通軸と居住推進地区を評価指標として設定し、「都市機能集積度」を導き出した。

これらを基に、優先度の高い47排水区(約4,000ha)を「浸水対策実施区域(通称:A地区)」に設定。まずは床上浸水対策に取り組み、さらには段階的に床下浸水や道路冠水の低減に着手する。

対策目標としては、第1期(令和9~18年度)でA地区の床上浸水を解消。第2期(令和19~28年度)でA地区の床下浸水の低減を目指している。

ハード対策01
ハード対策02
ハード対策03
ハード対策04
ハード対策05
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ハード対策の事例

3. 多様な主体と連携する、ソフト対策の位置づけ

地球規模の課題である気候変動に対応していくには、従来のハード対策などによる「公助」のみでは限界がある。

そのため、住民自らが自分や家族の命と財産を自分で守る「自助」、地域の方々で助け合う「共助」の促進が必要不可欠だ。

市では、地域のあらゆる関係者が協働して取り組む「流域治水」の観点に基づき、多様な主体が連携するソフト対策(29施策)を計画に位置付けた。これにより市は、地域における災害対応力の強化・後押しを図る活動を担うこととなる。

国土交通省 上下水道審議官グループ 長谷川氏もまた、自助、共助、公助が、三位一体となり、連携を強めるのが重要なポイントだと指摘する。

「流域治水の考え方に基づき、流域のあらゆる関係者が、浸水対策に取り組むということが、非常に重要かと思っています。下水道、河川の整備だけでなく、その地域の学校や公園など多様な主体と連携するとともに、ハードとソフトの組み合わせた総合的な浸水対策に取り組むことが必要と考えます」

こうした考え方を踏まえ、具体的には、雨水幹線や貯留施設の整備を進める一方、ハザードマップの周知、防災教育、グラウンド貯留、止水板設置支援などのソフト対策を組み合わせる。

これにより、計画を上回る降雨にも対応し、早期に浸水対策効果を発現させていく。

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