蒜山地方の非公式なマスコットキャラクターになっている、地元の怪物、すいとんに会ってみよう。観光客は、すいとんが、赤い口をあんぐり開けて、ヘビのような目を威嚇するかのごとく光らせ、幹のような一本の足でバランスを取りながら、このエリアの至る所で待ち伏せしている(場所によっては、そびえ立っている)のを見つけることだろう。
地元の言い伝えによると、すいとんは、心を読むことができる。そのため、よこしまな考えや悪い企てを心に抱く者がいたならば、いつでも、それを見抜くことができる。彼の名前は、何かが空気中をすっ飛ぶ音、スイーと、下降して着陸するときの打撃音、トンという、日本語の2つの擬音語からなる。悪い考えを心に抱く者を見つけるや否や、すいとんは、その人のところに飛んで行き、ドシンと着地し、瞬時にその犯人を食いつくす。
日本の超自然界の生きもの(妖怪)の多くと同じように、すいとんには容赦ない処刑人としての側面と、地域の守り手としての二つの側面がある。蒜山で子どもを育てる母親は、すいとんを使って、行儀の悪い子どもを脅すことがある。しかし、住民の口からは、すいとんに対する驚くべき愛情がうかがえる。すいとんの言い伝えは、内容自体はぞっとするようなものだが、地元民が地域社会において伝統的に築いてきた、新参者への友好的な態度(孤立した山間の町において、このような態度はあまり一般的なものではない)を説明する際、引き合いに出される。飛んで来る怪物が悪い心を隠し持つ者を素早く殺してしまうため、蒜山の市民は、通行を許された旅人は全員、平和な心を持っているはずだと考え、事なきを得ることができる。観光客は、すいとんが、小さな飾りやキーホルダーになったり、地元のレストランの外に立っていたり、さらには、高速道路のインターチェンジを降りてすぐの場所に巨大なトーテムポールのごとくそびえ立っていたりするのを目撃するであろう。