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委員長記者会見要旨(令和2年12月16日

令和2年12月16日(水)10:00~10:33
国土交通省会見室
武田委員長

発言要旨

 運輸安全委員会委員長の武田でございます。
 ただいまより、12月の月例記者会見を始めさせていただきます。

1.事故等調査の進捗状況  

 はじめに、前月の定例会見から新たに調査対象になった事故及び重大インシデントは、航空と船舶モード合わせて3件ありました。
 航空モードは、12月4日に宮城県東松島市で発生した東邦航空のヘリコプターがつり下げた物件が飛行中に意図せず落下した重大インシデント、同日、那覇空港を離陸し上昇中に発生した日本航空ボーイング777型機のエンジンが損傷した重大インシデントの2件です。
 船舶モードは、11月28日に茨城県鹿島港付近で発生した貨物船と遊漁船が衝突した事故の1件です。

 このうち、鹿島港付近で発生した貨物船「はやと」と遊漁船「第五不動丸」の衝突事故では、釣り客の方お一人が亡くなられています。亡くなられた方のご冥福を心よりお祈りいたします。当委員会では、本事故発生当日に船舶事故調査官3名を現地に派遣して調査を開始し、これまでに両船の損傷状況などの確認や当時の状況について関係者からの聞き取りなどを行っております。
 また、12月4日の日本航空ボーイング777型機の重大インシデントについては、翌5日に航空事故調査官3名を現地に派遣して調査を開始し、エンジン及び機体の調査、飛行記録装置等の回収、当時の状況について乗員からの聞き取りなどを行っております。
 いずれの事案につきましても、今後、収集した情報の分析を進め原因を究明して参ります。

 事故等調査の進捗状況については、資料1をご覧ください。

2.小型旅客船の安全啓発資料の公表    

 次に、小型旅客船の安全啓発資料の公表についてご報告します。本日「運輸安全委員会ダイジェスト35号」として、船舶事故分析集「小型旅客船の安全運航に向けて」を公表しました。お手元の資料2をご覧下さい。

 当委員会は、先月、小型旅客船の旅客負傷事故について調査報告書を公表いたしましたが、本件のように、船体が上下に動揺して旅客が脊椎を骨折する事故は、平成20年の委員会設置以降18件発生しており、昨年は4件で13人の方が重傷を負っています。
 本分析は、これらの旅客の脊椎骨折事故について、その発生状況や負傷の状況等を精査、分析し、小型旅客船の安全運航に向けた注意点などについて、挿絵を加えるなどして分かりやすく取りまとめたものです。

 18件の調査報告書を分析した結果、旅客の脊椎骨折事故は、
・ 10ノット程度の比較的低速であっても発生していること、
・ 波高が1m未満で発生している場合があること、
また、
・ ほとんどの場合、船体の上下動の大きい船首部で発生していること、
がわかりました。
 さらに、先月公表した事故の調査において行った負傷の軽減に関する解析により、「十分な減速」と「後方の位置への着席」が、脊椎骨折事故の防止に重要であることがわかりました。

 当委員会といたしましては、小型旅客船の事業者や関係団体の皆様に、本資料を役立てていただくことを期待しております。

3.令和2年を振り返って    

 さて、本日は、本年最後の定例記者会見ですので、この1年を振り返ってみたいと思います。

 初めに、事故等調査報告書の公表について、11月までの件数になりますが、航空が18件、鉄道が16件、船舶の重大案件が13件の計47件の事故等調査報告書を公表しました。

 主な報告書を紹介させていただきますと、航空では、2月に、2018年8月に発生した群馬県防災航空隊ヘリの山の斜面への衝突事故調査報告書を公表し、併せて国土交通大臣に対して、捜索救難活動を行う航空機操縦士の空間識失調の対策に関する勧告を行いました。気象状況が変化しやすく、かつ局所的な気象の予測を行うことが困難な山岳地域を飛行することが多い、消防・防災ヘリの事故を防ぐことの重要性を改めて感じました。
 本件では、ビデオカメラの映像をもとに、詳細な事実認定を行うことができました。世界的にも、小型機やヘリ内のビデオや音声記録装置の設置が検討されているところです。本件のような事故の再発防止・啓発に向けて、先月、運輸安全委員会ダイジェスト34号「VFR機の雲中飛行等に関する事故」を公表しております。消防・防災ヘリやドクターヘリ、更には警察、海上保安庁のヘリ等、国民の安全のために重要な役割を担っておられる方々を始め、多くの方に活用していただけることを期待しております。

 鉄道では、11月に、2019年8月に発生した南海電鉄特急ラピートの台車亀裂発生インシデントに関する調査報告書を公表しました。本件は、台車枠に取り付けられた主電動機の受座を補強する目的で溶接された補強リブの溶接不良による欠陥から、亀裂が進展した事案でした。補修や補強を施した箇所の強度保証法や、検査・モニタリングの重要性を強く認識しました。

 船舶では、3月に、2019年3月に佐渡島沖で発生した旅客船ぎんがの水中浮遊物衝突事故に関する調査報告書を公表しました。この事故では多くの方が重傷を負われたことから、特に重大な事故として総合部会を開催し、海事分野の委員のみならず航空、鉄道分野の委員も加わって審議を行いました。調査の結果、強い衝撃を受けたことによる腰椎骨折が顕著であったことから、国土交通大臣に対し、事故発生時の乗船者の負傷被害軽減措置等について勧告を行い、これに基づいた指導が行われております。

 また、当委員会の8つの地方事務所では、併せて841件の船舶事故等の調査報告書を公表しております。大型船だけでなく、漁船やプレジャーボートなどの様々な態様の事故等について、これほど数多く調査している国は日本の他にありません。今後も一件一件丁寧に調査を行い、海洋国家である日本にとって重要な、漁業や海洋レジャーにおける安全の確保に寄与して参りたいと考えております。

 次に、今年発生した事故等についてです。

 昨日までの件数になりますが、航空は事故が12件、重大インシデントが9件の計21件、鉄道は事故が12件、重大インシデントが1件の計13件、船舶は重大案件としての事故が13件で、全モード合わせて47件発生しております。

 主な事案としては、航空では、先ほどご報告した日航機の重大インシデントがありました。

 鉄道では、12件の事故のうち5件が第3種及び第4種踏切道における死亡事故で、6名の方が亡くなっています。第3種及び第4種の遮断機のない踏切道の死亡事故については、個々の事案の事実調査とともに、これまでに調査の対象となった踏切道の安全対策の取組状況等も踏まえ、総合的に分析や再発防止策の検討を進めているところです。

 船舶では、7月にモーリシャス共和国において、ばら積み貨物船WAKASHIO(わかしお)が乗揚げ、燃料油が流出する事故が発生しました。当委員会では、事務局に事故調査本部を設置するとともに、佐藤委員を団長とする調査団を、モーリシャスへ派遣して調査を実施し、現在は、収集した資料等の分析等を進めているところです。本件は、当委員会にとって、他国の沿岸で発生した日本船籍以外の船舶の事故調査という点で初めてのケースですが、条約に基づく国際協調の取組が実現できたことは、意義あるものと考えております。
 また、11月19日には、香川県坂出市沖で、修学旅行中の児童多数を乗せた旅客船が乗揚げ、その後沈没する事故が発生しております。

 運輸安全委員会といたしましては、いずれの事案も事実を丁寧に積み重ねつつ、的確な分析を行い、早期に報告書を取りまとめるとともに、安全上必要な情報は、随時提供するなどして再発防止に寄与して参りたいと考えております。

 本日、私からは、以上です。
 何か質問があればお受けします。

4.質疑応答

(モーリシャス座礁事故関係)

問: 先ほども少し言及のあったモーリシャスのWAKASHIO油流出事故の関係で、現在の報告書の進捗状況とか今後の目途とか、ある程度判明していることがございましたら教えてください。
答: 先月の会見で申し上げたとおりで、付け加えることはありません。

(日本航空機重大インシデント関係)

問: 今月4日の日本航空のボーイング777型機が緊急着陸した重大インシデントに関連してなのですけれども、こういうことが、例えば羽田新ルートの上空などで起きると、人口密集地にいろんなものが落ちてくるというようなことがあるのではないかという問題意識のもとでの質問なのですが、このインシデントについて、何がどういう事態だから調査するのかというのは、運輸安全委員会としては、どの事態だというふうに考えていらっしゃるのか、発動機の破損ということだけなのでしょうか。
答: 事故または重大インシデントに該当するかということに関しましては、航空法施行規則第166条の4のいずれの号に該当するかは、航空局において判断されています。運輸安全委員会としても、初動調査によりエンジンの破損が航空機の安全性に大きな影響を及ぼした事案であると考えられますので、航空局と同様に、同条第7号の発動機の破損に準ずる事態として同条第18号に該当すると考えておりますが、発動機の部品損傷による部品及びカウリング等の落下に係る原因及び再発防止策についても、調査の中で明らかにしていく必要があると考えております。
問: 運輸安全委員会の調査対象の枠組みが、調査対象を決めたときと時代が変わっているからかもしれないのですが、必ずしも今の環境の変化とか、そういうものと必ずしも一致していないと私は感じるのですが、その辺の問題意識は委員長としてどうお考えですか。
答: このような重大インシデントの事態については、航空モードに関して言えば、国際民間航空条約第13附属書を踏まえて、航空法施行規則に規定されています。ただし、取り巻く環境は随分と変わっている面は十分認識しておりまして、特に航空法に基づく事故判定ではなく、例えば2013年1月、米国ボストン空港に駐機中のボーイング787型機の蓄電池からの出火事案に対応させるべく、航行中以外に発生した航空機の火災、発動機の損傷など、再発防止が求められる事態については、運安委で判定し調査できるよう運輸安全委員会設置法及び施行規則を改正し、社会の要請に応えられるよう対応してまいりました。
問: 今の質問に関連してなのですが、落下したと思われる部品は、まったく見つかっていないのでしょうか、だとすると洋上に落ちたという推測ができるのか。
答: 部分的に中に残っている部分もございましたが、落下した部分に関しましては海上であると今は推測しております。カウリングも含めてです。

(コンテナ船事故関係)

問: 11月30日に北太平洋上で大型コンテナ船が荷崩れ事故を起こして、今月神戸に入港して処理作業中ですけれども、この事案については調査対象になっていくのかどうか教えてください。
答: 横浜事務所が、調査を始めています。

資料

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