JSTB 運輸安全委員会

委員長からのメッセージ

運輸の安全文化醸成のための地道な貢献を

(写真)武田委員長
 運輸安全委員会委員長を拝命して二年を迎えます。昨年は新型コロナ禍の影響を受け、これまでと同様なやり方での調査活動が制限されがちな状況に見舞われました。当初は関係者との直接の面談が困難になるなどの支障も見られましたが、事故調査官と、これをサポートする事務局の地道な努力や工夫により、通常に近い調査活動を継続できるようになりました。コロナ禍においても運輸分野での事故や重大インシデントはそれほど減ってはいません。このような状況においても日本の運輸安全が損なわれてはなりません。これまでにも増して、航空、鉄道、船舶の事故等の調査、再発防止、被害軽減のための施策・措置などを担当し、公正・中立の立場から、運輸の安全を守る要となる重要な役割を担う責任の重さを、ひしひしと感じております。

 事故調査官は、事故等発生時の初動調査から、事故関係者への口述聴取、事実情報のまとめを通して事故の分析を重ね、報告書案の作成、部会審議、意見照会、公表に至るまで、大きな負担があるものの責任感をもって精力的に業務に励んでいます。私を含め各分野の委員は、事務局の協力を得つつ詳細に検討・議論して、運輸の安全性向上に資する報告書に仕上げていくことに貢献できることを誇りに思っています。

 2008年10月に、航空、鉄道、船舶の三つのモードに渡る事故調査を行う機関として発足した運輸安全委員会に対する社会の期待は、今なお大きく、2021年を迎えて更なるステップアップが必要であると考えます。航空、鉄道、船舶の三つのモードごとにそれぞれ事故に至る背景や特徴などは異なりますが、事故等の原因究明と再発防止策の策定という目的は皆共通です。一方、ヒューマンファクターや構造・破壊解析、デジタル化した運行管理・モニタリングシステム、自動化・無人化システム等では共通する部分も数多くあります。三つのモードで培ってきた独自の安全文化を大切にし、お互いを認め合いつつも刺激しあうことが重要です。各モードがお互いによく学びあうことにより、解析能力を高め、安全性の向上に更に資するよう努めて参りたいと考えています。

 また、事故調査報告書の早期の公表や、経過報告書、事実情報の積極的な発信とともに、これまで蓄積してきた事故調査報告書を分析し、事故防止の啓発に役立てるべく「運輸安全委員会ダイジェスト」を逐次発行しています。八つの地方事務所からは、主に漁船やプレジャーボート等に関する地方分析集を発行しています。本年も、過去の調査結果の精査分析から得られた安全対策や、社会情勢等への対応に有益な示唆について広く周知すると共に、事業者、行政機関、教育・研究機関等での講習会やセミナーでの利用促進を図ってまいります。

 昨年7月にモーリシャス共和国において発生したばら積み貨物船の座礁事故に際しては、5名からなる調査団を派遣して調査を実施しました。他国の沿岸で発生した日本船籍以外の船舶の事故調査という点で初めてのケースとなりましたが、条約に基づく国際協調の取組が実現できたことは、意義あるものと考えています。一方、国外の往来が制限された状況では困難な面も多くありますが、国際民間航空機関(ICAO)や国際海事機関(IMO)での安全輸送関係のルール作りへの貢献、国際運輸安全連合(ITSA)委員長会議を始めとする国際協力・意見交換、インドの鉄道の安全性向上の支援は継続的に行っていく必要があると考えています。

 運輸安全委員会としては、事故等調査においては事実情報を着実かつ地道に積み重ねつつ、より的確な分析を行い、早期に報告書を取りまとめるほか、安全上必要な情報は随時提供するなどして事故等の防止に寄与することにより、日本の運輸安全文化の醸成に資するよう努力して参りたいと考えています。
 今後とも、皆様のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

 

     令和3年1月

運輸安全委員会委員長 武 田 展 雄