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委員長記者会見要旨(平成23年9月28日)

平成23年9月28日(水)14:00~15:00
国土交通省会見室
後藤昇弘委員長

発言要旨

運輸安全委員会委員長の後藤でございます。ただいまより、9月の月例記者会見を始めさせていただきます。
本日は、最初に運輸安全委員会年報2011の発行について、次に航空案件2件の事故調査の進捗状況及び情報提供についてご報告いたします。

1.運輸安全委員会年報2011の発行

お手元に年報を配付させて頂きました運輸安全委員会年報2011をご参照下さい。
本年報は、昨年1年間の当委員会の活動状況をコンパクトに取りまとめたものであります。国民の皆様には、当委員会のホームページから全文ダウンロードできますので、各方面でご活用いただければありがたく存じます。
2011年版の概要としましては、冒頭の特集として、JR西日本福知山線事故調査報告書に関わる検証メンバー会合によります一連の検証結果と運輸安全委員会の今後のあり方についての提言につきまして、その概要を掲載しております。
先月の記者会見で説明させていただきました当委員会の業務改善有識者会議の設置は、本検証メンバー会合からの提言によるものでありますが、そこに至る議論経過などを取りまとめております。
本特集のほかは、平成22年に発生した航空、鉄道、船舶の事故等の調査状況や22年に公表した報告書の概要、事故防止への国際的な取り組みなどについて掲載しております。
平成22年に発生した事故等の調査件数につきましては、航空事故が前年比7件減の12件、航空重大インシデントが前年比1件増の12件、鉄道事故が前年比2件減の9件、鉄道重大インシデントが前年比3件増の7件、それに船舶事故が前年比209件減の1,186件、船舶インシデントが前年比102件減の144件でありました。
また、運輸関係の事故調査は、実は非常に国際的な分野で、各国との協力が進んでいます。年報では、事故防止への国際的な取り組みについても紹介しております。年報の78ページをご覧下さい。通常アイサッシ(ISASI)と呼んでおりますが、国際航空事故調査員協会の年次セミナーが22年9月に初めて日本、札幌において開催され、当委員会も積極的に参加いたしました。
また、ISASIのアジア版であるアジア航空事故調査員協会、通称アジアサッシ(AsiaSASI)と呼んでおりますが、これが21年に設立され、先に述べましたISASIの札幌開催に合わせて同協会の設立会議が開催され、当委員会も主要メンバー、すなわち副会長として積極的に参加しております。
さらに、マイファ(MAIFA)と呼ばれておりますが、アジア船舶事故調査官会議が平成10年から毎年開催され、我が国は先導的に関わってきております。平成22年は10月には東京で開催され、首席船舶事故調査官が議長を務めたところであります。
以上、概略をご紹介いたしましたが、本年報に関するご質問等がございましたら、当委員会事務局までお寄せいただければ、ありがたく存じます。

2.事故調査の進捗状況報告及び情報提供

それでは次に、事故調査の進捗状況報告として、お手元の資料に沿って、2件ご紹介します。いずれも航空の重大インシデントであります。
まず1件目が、北海道エアシステムの奥尻町上空での重大インシデントについて、調査の進捗状況を報告させていただきます。資料1をご覧下さい。
はじめに重大インシデントの概要ですが、株式会社北海道エアシステム所属サーブ式SAAB340B型JA03HCは、平成23年6月4日、同社の定期2891便として、機長の操縦により函館空港を離陸し、奥尻空港へ向かいましたが、奥尻空港滑走路31へ進入中、滑走路が視認できなかったため進入復行をしました。
進入復行開始直後には少し上昇したものの、その後高度が低下し、対地接近警報装置が作動したため、回避操作を行った後、函館空港に引き返しました。
対地接近警報装置の作動に従った回避操作が、航空法施行規則第166条の4第5号、飛行中において地表面又は水面への衝突又は接触を回避するため航空機乗組員が緊急の操作を行った事態であることから、重大インシデントとして取り扱われることとなりました。
本日は主に、DFDRの記録から推定される飛行の経過を中心に報告させていただきます。
資料の2ページをご覧ください。右の写真はEADI、電子式姿勢指示器であります。左上の表示はフライト・コントロール・コンピューターの横方向のモード、右上は縦方向のモードを表します。赤い細長い2本のひげがありますが、これはフライト・ディレクター・コマンドバーと呼ばれており、先程の横方向、縦方向のモードに対して、「右に傾けよ」、「左に傾けよ」、あるいは「機首を上げよ」、「下げよ」、と適正な操縦量を視覚的に指示するものであります。2本の赤いひげの下に黒い三角形がありますが、これは自分の飛行機であり、図のように赤い細長い2本のひげに、黒い三角形を合わせるよう操縦することにより、操縦士が選択した所望のモードに対して正しい姿勢を保つことができます。
3ページをご覧ください。上の図は、通称エーパ(APA)、Altitude Preselect Alerterと呼ばれるもので、所望の高度を設定する操作パネルのことで、セットされた高度をフライト・コントロール・コンピューターに入力します。下の図はエムエスピー(MSP)、Mode Select Panelと呼ばれ、フライト・コントロール・コンピューターの横方向、又は縦方向のモードを選択するパネルです。
11ページをご覧下さい。シミュレータを使った調査結果ですが、前もってAPAに進入復行高度をセットしてゴーアランド・スイッチを押しますと、左側の図のように計器の1番上にあります2つのGA、ゴーアランドモードが表示されます。ゴーアランド・スイッチを押すことにより自動操縦装置はオフとなり、フライト・ディレクター・コマンドバーはピッチ+6.4°と現在の磁方位を維持するよう指示を出します。このフライト・ディレクター・コマンドバーに従って操縦すると機体は上昇することになります。
しかし、同機は進入復行を開始し、一旦上昇したにもかかわらず、降下に転じております。このことについて、DFDRの記録から推定されることをご説明させていただきます。
APAに進入復行高度をセットせずに、機体の現在の高度がセットされたまま、ゴーアランド・スイッチを押しますと、左の図の右上の表示は一瞬GAに変化いたしますが、すぐに右の図のようにALTSという表示に変わります。ALTSとはAPAにセットされた高度を維持するモードです。すなわち、この場合は600フィートを維持するモードになってしまいました。従って、フライト・ディレクター・コマンドバーは左の図のようなゴーアランド・ピッチである+6.4°を一瞬指示いたしますが、すぐにAPAにセットしてある高度に向かうように指示を出します。
機体が上昇していると、右の図のようにフライト・ディレクター・コマンドバーは下に動き、APAにセットされた高度へ降下するよう指示を出すことになります。
これはまだ調査中でありますけれども、進入復行するための上昇高度がセットされていなくて、現在維持されている高度、つまり600フィートを保つような指示が出されたために、いったんは上昇したものの、その後、そのフライト・ディレクターのコマンドに従って操縦したため降下を始めたということが考えられる訳であります。
次に12ページをご覧ください。これもシミュレータを使用して行った調査結果ですが、それぞれの写真の右上の表示が、左の写真のALTSから右の写真のVSに変化しています。これはAPAにセットしてある高度に向かっている時に、APAにセットしてある高度を変更したことによるものであります。VSに変化することにより、その時点の降下率を継続するようフライト・コントロール・コンピューターは指示を出します。
14ページをご覧ください。DFDRの記録ですが、一番下に書いてある時刻を見てください。11時37分50秒頃をずっと上にたどっていくと、一番上にA/Pと書いてあります。これは自動操縦装置のオン、オフの記録で、trueがオン、falseがオフです。ちょうど37分50秒頃falseからtrueになっており、この時、自動操縦装置がオンとなったことが分かります。次に下から7番目のCorrected Pressure Altitude、飛行高度の記録をご覧ください。自動操縦装置がオンとなった37分50秒頃は機体は降下中であることが分かります。
次に上から8番目の縦のモードの一つであるVSをご覧ください。自動操縦装置がオンとなった後、37分55秒頃にVSモードがオンになっていることが分かると思います。つまりtrueになっています。このことから、自動操縦装置はその時点の降下率を維持して降下を継続したものと考えられます。なお、VSがオンとなった後、直ぐに三角形が下の方に向かってオフになっていますが、このことについては、配布資料の8ページの(5)及び(6)をご覧下さい。なお、この配布資料の1につきましては、今述べたようなシミュレータを使った、今回のインシデントに関わる飛行についての細かい解析結果が全て文書で書き表されておりますので、これを読んでいただきますと分かるかと思います。聞いただけではなかなか分かりにくい飛行システムになっておりますので、是非読み返していただきたいと思います。8ページの(5)、(6)のところに何が書いてあるかと言いますと、(5)のところに11時37分51秒頃、自動操縦装置がオンになっています。11時37分54秒頃、設定高度追随、それから補足状態が解除され、その約3秒後に設定高度待機状態、ALT Preselect ARM状態となっておりますが、これはAPAがセットされていた高度が600フィートから変化したためと推定されます。つまり、設定高度を変えたと思われます。設定高度追随補足状態が解除された後、一時的にVSモードになりました。(6)に行きまして、同機は降下を継続し、11時37分55秒頃、対地接近警報装置の注意喚起が発せられました。11時38分00秒には、VSモードが解除されクライムモードとなりました。これは、MSPでクライムスイッチが押されたためと推定されます。7番目で同機は11時38分01秒頃、高度400フィート、電波高度計で約92フィート、27.8メートルまで降下して、11時38分03秒頃、対地接近警報装置の2回目の注意喚起が発せられて、これとほぼ同時に同機が上昇に転じたということになると思います。推測しますに、パイロットは最初ゴーアランド・スイッチを押して、ゴーアランドモードに一瞬入りましたが、上昇する高度をセットしていなかったために、結果的にフライト・ディレクターは600フィートを維持する指示を出します。その指示に従って操縦すると高度が低下していった。降下中、自動操縦装置がオンとされ、600フィートに向けて設定高度捕捉状態にある時に、APAのセット忘れに気付いたのか、APAの高度セットを変えたためにVSモードになった。そのため自動操縦装置はその時の降下率で降下を続けました。そういう飛行の経過が推定される訳であります。という訳で、このような適正な手順を踏まないと、フライト・コントロール・コンピューターはパイロットが望むコマンドを必ずしも発出しないことに注意する必要があることを、9月22日付けで、本運輸安全委員会事務局より航空局へ航空安全情報を提供いたしました。その詳細は資料1の18ページをご覧ください。
本件は、いずれ経過報告を出し、あるいは本報告は、1年位後になると思われますが、そこで詳細な解析を報告したいと考えております。よろしいでしょうか。ご質問があれば後で承りたいと思います。
それでは2件目のエアーニッポン株式会社の重大インシデントの説明をいたします。本件については資料の2をご覧ください。
平成23年の9月6日、エアーニッポン株式会社が運航するボーイング式737-700型であります。(模型を示しながら)ちょうどこんな格好をしておりまして、翼端にウイングレットが付いていて、これは800ですが、700型はちょっと短いんですけどね。こういう飛行機であります。那覇空港から羽田空港に向けて飛行中、太平洋上において、浜松市の南の方でありますが、飛行姿勢が異常な状態になり、約1,900メートル急降下したうえ制限速度を超過しました。
飛行中に機長が一時離席し、操縦室に戻る際、副操縦士がドアスイッチを操作すべきところ、ラダートリムコントロールスイッチを操作したことで、飛行姿勢が異常な状態となったものと推定されます。
当委員会では9月7日、航空事故調査官を3名指名しまして、事故原因の調査を開始しました。本日はその進捗状況について報告するものであります。
本件はスイッチの操作間違いにより発生したものと推定されますが、その間違いによりどのようなことが起きたのか、当委員会が作成したアニメーションをご覧いただきたいと思います。
その前にちょっと説明を加えますが、これからお見せするアニメーションは、本重大インシデントがスイッチの誤操作から機体が異常な姿勢になったこと、それにより急降下したことで、速度や重力加速度が制限値を上回ってしまったことを、運輸安全委員会が詳しく解析し、再発防止等に役立てることを目的で作成したものの一部を切り出したものです。
今回は、通常の飛行とは異なる大きな姿勢変化が起きたため、DFDRのデータだけでは航空機の挙動がわかりにくいと考えて、このアニメーションを公表することにしました。
さて、それは、今からお示ししますが、その前にどういうことが起こったかということを、スイッチで何が動いたかということを簡単に説明いたします。ラダートリムコントロールスイッチというものがありまして、それは副操縦士の左横のパネルに付いております。資料2の3ページをご覧ください。上の写真を見るとドアスイッチが下の方にありまして、それから上の方にラダートリムコントロールスイッチというものがあります。本来はドアスイッチを操作してドアを開けて機長を入れたかったんですが、間違ってラダートリムコントロールスイッチを操作してしまったと考えられます。
ラダートリムコントロールスイッチを、この場合、左に回したのですが、左に回しますと、ラダーというのは垂直尾翼の後ろに付いている方向舵でして、それが左に曲がります。すると機首は左に回転する、それを右に曲げますと機首は右に回転するということになります。
通常はこのラダーはパイロットの足下に付いているペダルで操作をいたしますが、このラダートリムコントロールというのは、例えば、(模型を示しながら)こう飛んでいて、左のエンジンが停止したとしましょう。そうすると右のエンジンが動いていますから、機首はこう左に回転していく訳ですね。それを止めてまっすぐ飛びたいと思いますと、パイロットは右へラダーを曲げまして、それでこちら向きの力を出してやる訳です。
これをペダルでいたしますと、左エンジンが停止したままの状態では、常に右ラダーペダルを踏んでなければいけないんです。そうするとパイロットには大変負担がかかる。踏まないでいいように、これを一定角度左側へ傾けておいて、そういう平衡状態を作っておく。そういう働きをするのがラダートリムです。そのラダートリムコントロールを間違って操作してしまったという訳であります。その結果、どういうことが起こったかというのを、今からスクリーンで紹介いたします。

アニメーションの放映開始>

これは後ろから見ている図ですね。ラダートリムコントロールスイッチを押した結果、こういうふうに機首を左へ向けながら、それで降下していきます。左に向くのは、揚力のベクトルが、揚力の向きがまっすぐ、自分の重量を支えてたのがこうなって、少し左を向きますから、自分の重量を支えきれなくなって落ちていく訳ですね。だから機首を左に向けながら、らせん状態になって落ちていきます。今、後ろから見た図ですが、今度、前から見ていただくと、どういうふうに飛行機が異常な姿勢になったのかということが、よりはっきり分かります。ほとんど背面飛行になっています。ここで131.7°の角度でひっくり返っています。それで副操縦士が回復操作をして、ほぼ元の姿勢に戻っていきますね。この間に、ほぼ1,900m位降下しております。よろしいでしょうか。

<アニメーションの放映終了>

 ご覧いただいたアニメーションは、専用のプログラムを用いて作成したものでありますが、アニメーションで再生された機体の挙動一つ一つが、実際の機体の挙動を詳細に再現しているとは限りませんので、その点ご理解をお願いしたいと思います。
次に、操作した記録が残っていたスイッチの位置です。資料2の3ページの上、この写真の操作パネルは機長の座席と副操縦士の座席の間あり、機長が左に、副操縦士が右に座っております。ドアスイッチが下の方にあって、上の方にラダートリムのコントロールスイッチがある。
調査の状況でありますけども、機長、副操縦士及び客室乗務員の口述を聴取いたしました。また、運航会社の整備部門、運航部門、安全推進室から事実情報の収集をいたしております。
更にこのアニメーションを作るに当たっては、もちろん、フライトレコーダーの解析に着手しておりますが、それによって作成したものが先程のアニメーションであります。
現時点で明らかになった事実は、この資料の1ページに、下の方、項目3にまとめております。
かいつまんで説明いたしますと、異常姿勢になる前の水平飛行中から、急降下し、その後リカバリーされるまで、自動操縦装置はオンとなっておりました。
次に、DFDRのデータ解析を元に説明しますが、資料の3ページの下の方をご覧ください。これは発生場所を示したもので、浜松市のちょうど南の方向に当たってることが分かると思います。
続いて資料4ページをご覧いただきますと、DFDRのデータから、発生時5分間の航空機の挙動が分かるものを抽出してグラフにしたものがこの4ページの記録であります。
まず、4ページの一番下のグラフをご覧ください。赤と青の線で、ヨートリムコマンドレフトライトというのが書いてあります。これがラダートリムコントロールスイッチの操作状況を示しておりまして、赤色の部分はスイッチを左側に回している状態です。青い部分は、これは回復操作と思われますが、右側に回している状態であります。すなわち、このスイッチを左に回している間は、ラダーがずっと左に動いている訳ですね。それでパイロットが手を離しますと、スプリングでスイッチが元の中立位置へ戻っていきますが、ラダーはその操作で止まったところの位置で保持されております。いったん左へ回して、また回してということをやって、その後気が付いて、逆の方に回し回復操作をしているものと思われます。
この赤色のラダートリムの操作をきっかけにして、機体が左に傾いていきまして、機首が左へ向きながら下向きになり、急降下したものと思われます。
急降下する中で、スピードが上がり制限速度、それはマッハの0.82というものですが、それを超えてマッハ0.828が記録され、垂直加速度も制限値を超えたプラス2.68という値が記録されております。この4ページの下から3番目の緑色で書いた、マグネティックヘディングというのが書いてあり、これは機首方位を表すものですね。これはラダーコントロールトリムに直接関わってくるものですが、なんか階段状に飛び上がってるのが見えますけども、これは360°で、0°と360°同じものなんですが、これはどういうふうになっているかというと、実際の飛行機ではですね、52°。だいたい北東の方向から北の方向へ機首をずっと向けながら、北の0°、360°を回って、そして西の方、257°まで、おおよそ155°の機首の変化をしているということです。機首を左方向に変化させながら、右の主翼が上がっていって、先程申しましたように揚力の方向が変わってきますので、自分の重量を支えきれなくて、ずっと落ちていく。このように131.7°まで、背面飛行になるまでという飛行状況であります。幸いケガ人は、キャビンアテンダントが軽傷を負われましたが、重傷者はありませんでした。それは真夜中で乗客がほとんど席に着いていたと思われること。それともう一つは、乗客はみんなシートベルトを締めておりますので、かつ旋回していくに従ってジェットコースターのように、自分の体が椅子に押さえつけられるような状態だったので、投げ出されることはなかったということで、不幸中の幸いと申しますか、乗客にケガ人はなくて済みました。ということで、2件目の重大インシデントの進捗状況についての報告を終わりたいと思います。

最後に、現在運輸安全委員会が調査を行っている事故及び重大インシデントの調査状況について、ご報告致します。資料3をご覧頂きたいと思います。
航空では、調査中の案件が現在37件ありまして、審議中のものが8件、意見照会中、これはICAOの規定に従って関係国に対して全部意見照会をするというものでありますがこれが5件です。
鉄道が、調査中の案件が現在21件ありまして、審議中のものが6件、意見照会中、これは鉄道の場合は外国の関係がありませんので意見照会中は0件です。
船舶では、調査中の案件、これは重大な事故に関するものでありますが42件あります。審議中がそのうち2件、それから船の場合もやはりIMOのコードに従って関係各国に意見照会をすることになっておりますので、外国に意見照会中のものが5件あります。そういう状況になっております。

ということで、今日の私からの報告は以上とさせていただきたいと思います。何か質問があればお受けします。

主な質疑応答

(運輸安全委員会年報2011関係)
問: 運輸安全委員会年報について、このようなスタイルで出されるのは今回が初めてでしょうか。
答: 2年前から発刊して、3冊目です。

(北海道エアシステムJA03HCの重大インシデント関係)
問: 奥尻空港の件ですが、航空安全情報を出されていますが、これは、適切な手順を踏まないで設定するとこうなるということはあまり知られていないということでしょうか。こういうケースというのはあまりないのでしょうか。
答: いや、しかるべき教育はなされていると思いますが、それがどうして適切な手順が踏まれなかったのか、その辺が調査のポイントなのです。それを今調査中でありまして、いろんな角度から調べてみたいと思っています。

問: 航空局の方はどのような対応をされたのでしょうか。
答: 航空局の方からは、こういうことがありますので、モードの変化等の手順については十分注意して下さいという通達が各エアラインへ流されたと思います。現在この飛行機、サーブの340型機は、全国で16機動いておりまして、北海道エアシステムが3機、日本エアコミューターが11機、海上保安庁が2機、同じタイプの航空機、そういう運航しているところへこういうことには注意して下さいという注意がなされたと思います。これは、再発防止のため急ぐものですから出したという、そういう観点からのものでありまして、本来は経過報告等で出すものかもしれませんが、注意を喚起しておきたい、一刻も早く知らせておきたいというものに関しては、このように情報提供というかたちで関係する局へ情報を流していくということです。

問: 北海道エアシステムの航空安全情報提供の件ですが、同型機をもっているところについて注意を喚起する、それともそれ以外も。
答: 同型機(をもっている会社に対して)です。

問: このトラブルというのは、同型機の自動操縦のシステムでこのようなことが起きる、他のものでは起きないということでいいですか。
答: そんなに大きく変わったことはないのですが、基本的には別種だと考えた方が良い、タイプによって異なることもありますので、今回は同じ型式の飛行機についてであります。

問: 北海道エアシステムの件ですが、パイロットがゴーアラウンドスイッチを押した際に、上昇するべき高度を設定していなかったそのこと自体が、適切ではない動作ということでしょうか。
答: 通常ですと、進入復行する前に進入復行高度、この場合だと4,000フィートですが、最低降下高度の600フィートではなく4,000フィートに高度を設定するのが一般的にはパイロットがやっていることだろうと思われます。

問: 設定してからスイッチを押すということでしょうか。
答: そうやれば、フライトディレクターの指示は上昇の指示を出し、下がれという指示は出さないということです。

(エアーニッポンJA16ANの重大インシデント関係)
問: エアーニッポンのケースですけど、アニメーションを見る限り相当、ひっくり返るというような状況ですけれども、例えば回復操作があとどの程度遅れたら失速するとかですね、そういう危険性というのはなかったのでしょうか。
答: 資料2に書いてありますが、急降下が始まったのが41,000フィート、大体12,000mくらいですね。それで落ちた後が、34,700フィート、1万m強ということで約1,900m落ちています。だから、リカバリー操作を含めてその辺は適当であったか、あるいは時期的に正しいものであったか、その辺は今調査中であります。ただ、もう1つ問題があります。高度が1,000フィート離れて別の航空路があります。それをいくつも横切っている訳です。幸い深夜だったためそこを通過する航空機がなかったのかどうか、その辺を含めて当時の飛行状況と、リカバリーを含めた操作テクニックについて調査中であります。

問: 現時点では、その近くを飛行中の航空機はなかったということですね。
答: なかったようです。そう聞いております。まだ、詳しく調べてみないと分かりません。軍用機はわかりません。

問: エアーニッポンのケースですが、ラダートリムコントロールスイッチとドアスイッチの操作を間違える事案というのは過去に例があるのでしょうか。
答: 今調査しているところです。

問: なぜ間違ったと思われますか。
答: なぜ間違ったかということは実は調査のポイントでありまして、人間工学的な観点からきちんと調べなくてはいけないと思っています。

問: いわゆる失速状態ではないということですが、失速状態に入る前に警報は鳴っているのでしょうか。
答: 鳴っています。ただそれが本当の失速だったかどうかは分かりません。非常に急激に迎角が変わったりしますと鳴ることもあるんですね。

問: 状況としては完全に裏返しに近い状態なっていると。
答: 落ちていきますから、その時に迎角が急激に大きくなる状態ができたと思われます。

問: スティックシェーカーのところでそれをいじると、オートパイロットは外れるのですか。
答: 要するに、スティックシェーカーが作動したということです。

問: そこでオートパイロットが解除されたデータということでいいですか。
答: オートパイロットは解除されていません。ずっと動いております。これはオーバーライドする形式で、自動操縦の舵の動きにパイロットが動かした舵の動きが合わせて加わる形になっています。

問: 解除されなくてもパイロットが動かした操作によって回復したということですか。
答: そういうことです。ただ自動操縦装置は効いていますから操縦桿はかなり重かったと思われます。

問: エアーニッポンの事故ですが、ラダートリムコントロールスイッチとドアスイッチの操作の間違えの原因というのはまだ分からないということでしょうか。
答: それは調査のポイントの一つであります。現在調査を進めているところです。なぜそうなったのか焦点の一つでありますので、ちゃんと調べたいと思っております。

問: DFDRをみると、ラダートリムコントロールスイッチを2回左にひねっていると思われますがそれでいいですか。
答: この記録上はそうなっておりますね。最初左に回したのですね、それで1度手を離したのかと思われますが、それからまた回したということです。1回離したときに、方向舵そのものは回っていって止まっていて戻らない。スイッチは戻ってもラダーそのものは戻らないのです。だから運動を続けていくというわけです。それに更に2度目の左へ回す操作により、そこからまた回転していったわけです。そういう動きだろうと思われます。

問: これは、これからの調査になるのかも知れませんが、機長が部屋に戻ろうとしたときに副操縦士がドアを開けるつもりで間違えて操作したということですが、そこでドアが開いていないぞというか、何か感じなかったのでしょうか。
答: よく分かりません。その辺の関係も含めて調査中だとご理解いただければと思います。1回目で気づけばよかったと思いますが、真夜中というのはなかなか気づかないですよね。外は真っ暗ですから、姿勢の変化が分からない。
有名な事故の事例がありますが、ケネディ氏の子息が米国のマサチューセッツ州沖で、これは小型機ですが、計器飛行のライセンスがないのに夜間飛行をして天と地が分からなくなり墜落し、全員が亡くなったということがあります。真っ暗なところでは、そういう錯覚が起きるのですね。
しかしこれは、基本的に計器飛行ですから、パイロットは外から見える視覚とか体にかかる力等は信用しないで、計器を見て操縦しないといけない、そういう訓練を受けているわけですから。計器を見ていれば何が起こっているか少し分かったはずなんです。しかしこの場合は分かりが少し遅いのかなと思います。そういう印象は受けます。最終的には計器を見て気づいておりますが。

問: 乗客も+2Gだから体重の2.5倍位の力がかかっているのに、背面飛行に近い状態になっているということは意外と気づかないものなのですか。
答: その辺がよく分からない。乗客も外は見ていなかったと思います。体が重くなったという感じはしているかも知れません。

問: +2G程度だとあまり感じないのですかね。-2Gだと違うのでしょうが。
答: 動いているところで貴方の体重が2倍になったときにどう感じるかですね。運動とかやっていると分かるのかも知れません。副操縦士は操縦桿を操作する手の動きが重く感じるなとは思ったようです。機長は外にいたわけですから重くなったということは感じていたと思います。

問: 機長は異常に気づいたということでしょうか。機長が入る前に副操縦士が立て直したということでしょうか。
答: そういうことです。

問: ラダートリムコントロールスイッチは、手を離すと戻るのですか。
答: スイッチそのものは戻ります。

(旅客船第十一天竜丸転覆事故関係)
問: 船舶の事故で、8月に静岡県浜松市の天竜川で発生した事故の件でお伺いしたいのですがよろしいでしょうか。2点ほどあるのですが、まず亡くなったのは5人なのですが、その亡くなった5人の方がライフジャケットをつけていたかどうかと、もう1点は、船体の右側面に大きな亀裂があったのですが、乗客の中では正面からぶつかったというような声もあるのですが、どういう経緯で右側面に大きな亀裂ができたと考えられるのかお伺いします。
答: 救命胴衣については、前回8月の記者会見で申し上げたことと基本的には変わっておりませんが、救命設備の状況から言いますと、会社が保有していた救命設備については、救命クッションを47個、救命胴衣を84個、小児用の救命胴衣を14個及び小型船舶用救命浮環3個をそれぞれ確認しております。ただし、小児用の救命胴衣は全て体重15kg以上40kg未満用のものでした。体重15kg未満の小児用の救命胴衣は確認できておりません。それから船体の損傷状況については、おっしゃったような事実関係はあるかも知れませんが、損傷と事故との関係は非常に難しいところでございまして、これは現在焦点の一つとして調査中であります。なぜ起こったかというようなことは、分析も含めてまだ発表するには早い、この点ご了承いただきたいと思います。

問: 救命胴衣は着けていたかどうかはまだ分からないということでしょうか。
答: 救命胴衣の着用状況ですが、周りの方の口述からある程度分かってはきていますが、最終的な確認がまだ取れていないので、今日ここでお話しすることは控えさせていただきたいと思います。
以 上

資料

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