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委員長記者会見要旨(平成27年3月24日)

平成27年3月24日(火)14:00~14:35
国土交通省会見室
後藤昇弘委員長

発言要旨

 運輸安全委員会委員長の後藤でございます。
 ただいまより、3月の月例記者会見を始めさせていただきます。   

1.事故調査の進捗状況等報告

 現在、運輸安全委員会が調査を行っている事故及び重大インシデントの調査の進捗状況についてですが、モード別にみますと、航空は調査中の案件が34件ありまして、そのうち審議中のものが21件、鉄道は調査中の案件が20件、審議中のものが5件、船舶は調査中の案件が19件、審議中のものが5件となっています。詳細は資料をご覧ください。
 本日、私からご説明するものは、以上です。
 何か質問等があればお受けします。

2.質疑応答

(年度末を迎えて)

問: 年度末最後なので、振り返って、今年度の調査についての所感と、来年度の抱負、こんな調査を心がけたいというようなことがありましたらお聞かせ下さい。
答: 各モード別になりますが、航空の方では今年度、特別に社会的に注目を集めるような事故は起こらなかったと思っております。鉄道については、JR北海道の問題がいくつかありまして、引き続き調査中であります。審議中も含めまして、できるだけ早く報告書を出すように努めたいと思っております。船舶の方は、地方を含めますと、例年通り非常に件数が多いわけですが、重大案件ではあまり事故が起こっていません。できるだけ事故が少なくなるように、我々も事故の結果を公表して、再発防止に努めたいという気風をあげたいと思っております。来年度もそのように努めて、できるだけ事故が少なくなるように、報告書をよく読んでいただいて、我々の出す教訓なり再発防止のためのやり方が広く長く伝わるようにしたいと思います。問題がひとつありまして、再発防止策を出すわけですが、何年それが保つかということです。いろいろなものを公表しまして、世間に伝わるようにPRに努めていますが、人間ですから何年か経つと忘れてしまうのです。それをいかに防いでいくかということが、課題のひとつでありまして、今後そのための方策を検討していきたいと思っております。

(鑑定嘱託について)

問:  昨日、パイロットの乗員組合の方がいらっしゃったと思います。それで、鑑定嘱託の問題、これは運輸安全委員会だけではどうしようもない面がありますね。運輸安全委員会としては、この問題についてどうお考えでしょうか。
答: 世界的に見ましても、完全に分離しているところがあるかといいますと、なかなか難しいですね。オーストラリアやカナダなどは、完全に分離しているようですが、アメリカを始めとして日本を含めてですが、なかなかそうはいかないところがあります。運輸安全委員会の行う事故調査と警察の行う犯罪捜査については、いずれもそれぞれの公益実現のための重要な役割でありまして、一方が他方に優先するという関係にあるものではありません。このため、両者は事故現場において、それぞれの使命達成に支障を生ずることのないよう、従来から覚書を締結し、十分調整を行っており、それぞれが円滑に実施されてきているところです。引き続き、それぞれの公益実現のため、調整・協力していく所存であります。

問: これからも覚書に則って協力体制をとっていくということでしょうか。
答: 完全に分離というのはなかなか難しいですね。体制の問題もあります。

問: 日乗連の方から、ICAO条約違反だという指摘がありましたけれども、この事実関係のご認識はどうなのかということと、ICAOから問題を指摘されたことが過去にあるのでしょうか。
答: ICAOから問題を指摘されておりません。ICAOの条約違反ではということですが、ICAOに加盟しているから全部従わなければならないというわけではありません。それぞれ国の事情があり、アメリカでもNTSBの場合は、司法長官が犯罪に関連していると判断した事案については、調査を捜査機関に引き継ぐことができるということがありまして、完全に分離するというのは、なかなか難しいことです。今後の課題ではありますけれど、現在先ほど申し上げたように、調査と捜査の関係というのはお互いに十分調整を行っているところでありまして、それぞれが円滑に実施されているところでありますので、引き続きしばらくこれを続けたいと思っております。
 国際民間航空条約本文中には、公表された事故調査報告書を刑事裁判に使用することを禁止する規定はありません。条約の付属書の規定に照らしてどうかということなのですが、付属書の規定についても事故報告書を刑事裁判に使ってはいけないという規定はありません。国際民間航空条約の第13付属書で規定しているのは、事故調査で得られた、例えば口述であるとか管制交信記録というものは、事故の解析に必要なものは最終報告書で公表すること、最終報告書で公表しないものについては他に公表してはいけないということで、公表された事故報告書について刑事裁判との関係の取り扱いを定めているものではありません。ICAOの事務局も事故報告書を刑事裁判に使ってはいけないという解釈は行っていません。現実にフランスであるとかドイツであるとかは、日本と同じように刑事裁判に事故報告書が証拠として使われています。ですから、ICAO条約に違反しているということではありません。

問: 再発防止に目的を限るという条文があるのではないですか。
答: それはそのとおりです。再発防止というのは調査をしないとわからない。どういう再発防止策が得られるか、調査をした上で再発防止策が得られるわけです。
 事故調査の目的は、事故の再発の防止であって、その他の目的に使うのではないのはそのとおりです。ただ、一旦公表されたものについての取り扱いについては、先ほど言った国際民間航空条約の付属書の中で刑事裁判で使ってはいけないという規定がないのは事実です。

問: 条約の読み方について、たぶんパイロット組合と言い分の違いが出てくると思うのですが、それはさておき、刑事捜査に調査結果が使われるということで、事故関係者が訴追をおそれて、口述で詳しいことを言いたがらないという問題は現実にあるでしょうし、委員会の中でも鑑定嘱託については議論があると伺っていますけれども、完全に分離するのは難しいとして、この問題を今後どうしていけばいいのでしょうか。
答: 現状どうしているかと言いますと、我々は、もし鑑定嘱託の要望がありますと、公表した報告書を渡しています。それが捜査のために使われる、あるいは裁判のために使われるということは考えた上で報告書を作成しているわけですけれど、それぞれ公益のためにやっているわけでありまして、先ほど申し上げたように調整・協力しているということです。

問: 関係者からすれば運輸安全委員会に対して説明すれば報告書になってそれが刑事裁判で使われてしまうという認識になってしまうと思うのですが、鑑定嘱託をしなければ関係者から率直な再発防止策に役立つ情報を聞き出せるのではないですか。
答: それは調査にもよると思います。難しい事案だとそういうこともあるかもしれせん。しかし、現在までにそのような支障を生じるような状態になったことはありません。
 公表された報告書の取り扱いについてですが、最終報告書が公表され県警などから鑑定嘱託があって最終報告書だけを渡しています。そのこと自体、ICAO条約に違反していないことはICAOの事務局に明確に確認しています。ただ、ご質問されているようにパイロットや原因関係者から懸念が生じるのではないか、昨日パイロット組合の方が来られましたが、そのような懸念があることは我々も承知しています。そのような懸念がないようにどうしているかと言いますと、具体的には報告書の中にも、責任追及と分離した事故調査報告書ですと明記していますし、報告書の書きぶりについても個人の責任追及とならないように、客観的な記載を行っていますし、鑑定嘱託の回答書も事故責任を問うために行ったものではないということを明記しています。このような懸念については、安部座長や有識者懇談会でもどうするのかということは言われていますが、最終的な検討結果がでた訳ではありません。このことは我々の問題だけではなく過失犯を含める刑事司法の問題でもあり、警察との協力関係をどのようにしていくかなど、他機関が関係する問題なので、現時点でこうすれば鑑定嘱託のやり方を変えられるという段階には、まだきていません。ただパイロット組合からのご懸念は意識しています。 

問: 責任追及に関係ないと書いてありますが、運輸安全委員会の意思ではないとしても実際は関係していますよね。書いてあるから問題ありませんというのは言い訳にしかならないのではないですか。
答: 完全に分けようとすると大変難しい。カナダ、オーストラリア等の実情を聞いていますが、大変な人数がいるし、予算が必要です。完全に分離した調査ができるかというと、例えば飛行機が落ちたとき現物が1つある場合に、それをどちらの取り合いにするかの問題から始まります。これは協力せざるをえないのです、最初は。そこまでの協力関係を言っているのであって、その調査結果は、警察庁の判断と我々の判断があるわけです。一つしかないものを両方から取り合いをするわけですから、これを完全に分けた形でやるのは非常に難しいことです。現在、マレーシア航空のmissing airplane(行方不明)でオーストラリアの事故調が調べていますが、実際は軍の関係が現場に行って調べているわけです。そこを事故調が行ってどう結果をだすか大変苦労しているようです。きちんと分けろと言うのは簡単だが、実情として現物は1つしかない。それを両者がそれぞれ原因や背景の責任を調べていくことは難しいことで、言葉だけではなかなか言えないことがありますので、オーストラリアやカナダの実情を調べながら今後どうしたらよいか検討していきたいと思っています。
 責任追及に使うというのは使う側の問題であり、我々は事故再発防止の観点からよくない行為はよくない、安全でないことは安全でないことを言っていかなければならないので、そういう観点で報告書を書いています。責任追及する側はそれをもとに責任追及すると思うが、報告書自身は責任追及を目的としていません。

問: それを気にするあまり奥歯にものが挟まったような表現の報告書になってしまう懸念もありませんか。
答: そのような懸念もあります。本来は使われないことを我々も望んでいますが、一般に公表されたものを使うことを止められないので、難しい問題です。

問: 安部先生の有識者懇談会で、情報漏洩問題の後に出た提言では調査と捜査の分離をあげていたと思いますが、その提言に対して、今の話を聞いていると対応の必要性を感じておられないように聞こえるのですが。
答: そういうことではありません。我々が言っているのは公表された報告書は、鑑定嘱託があれば出さざるをえないということです。
 安部座長の有識者懇談会においては、鑑定嘱託の取り扱いについて検討するとあり、ホームページでも載せています。有識者の先生方との議論では、関係機関との間で鑑定嘱託に代わるやり方を検討していましたが、現時点ではなかなかそれに代わる案に至っていないということで、検討は終了しなかったという段階です。組合の懸念があるということは認識していますので課題があることは認識しています。

問: この問題について運輸安全委員会の中で継続的に話は続いているのでしょうか。
答: 要望があったときには公表した報告書を使ってもらうように、ある度に話しています。

問: ある度にとはどういうときですか。
答: 鑑定嘱託の要望があるときです。報告書は我々の立場で作成しているので、捜査のために協力しているわけではないことをお互い理解していくようにしたい。

問: 報告書以外にも出したということはありますか。
答: 私が知る限りないと思います。対外的にも日本の事故調査当局は裁判所の命令がない限り、公表した報告書以外の関連する安全情報は公開することはありません。

問: 裁判所の命令を受けたことはあったのですか。
答: 命令があったわけではありませんが、仮に命令があったとしてもICAO条約の第13付属書で原則として口述や管制交信記録は事故報告書で公表したもの以外は公表してはいけない。ただし、司法当局の判断があればこの限りではないと条項がついていて、どこの国でも大きなテロがあったら事故調査情報でも司法当局に情報を開示するのは当たり前のことですし、日本の事故調査当局も裁判所の明確な命令があった場合には開示することになります。それ以外は外に対して公表することはしないということを、AIPという世界中のパイロットが読むような情報のなかで世界的に公示しています。

(福知山関連)

問: 今年4月25日で福知山線の事故から10年を迎えることになりますが、この10年間で、鉄道に限らず、日本の事故調査のあり方がどう変わってきたか、ご所見いかがでしょうか。
答: 鉄道に関しては、鉄道の事故等を我々が扱うようになってから間もなくして福知山線の事故が起こりました。そういう意味で福知山線の事故以来、鉄道の事故調査というのは、まさに事故調の歴史になっているわけです。それ以前のものと比較したらどうかといいますと、それはなかなか難しいところがあります。なかったわけですから。
 航空の場合は1974年に発足して以来、多少変化があったと言ってもいいかもしれませんけれども、原則としてできるだけ調査と捜査は分けて、我々の調査は我々の判断で行っていくということを、基本線として守ってやってきたと思います。
 福知山線事故調査に係る情報漏洩問題があって以来、その点はさらに強化して、我々は何をすべきかと言うことを、調査と捜査は分けるべきだということは常に念頭において調査を継続してきた、そういうところの意識の持ち方が少し違うという気がします。

問: この間、事故調査委員会から運輸安全委員会に組織も変わりましたけれど、体制面であるとか、遺族であるとか、被害者などの対応ですとか、そういったところで、この10年間で進歩したものはありますか。
答: 遺族の要望もあり、遺族に対する対応というのは福知山の事故以来、我々が今後やるべき課題としてあげており遺族対応はずいぶん変わってきました。我々は事故が起こった後で、遺族の対応として公表したものをそれぞれに説明に上がるというようなことをきちんとやっておりますし、そういう面では遺族からも評価を受けていると考えております。

問: それだけでなく、機構改革などもあったと思うのですが。
答: 船舶事故の調査が加わったことが大きなところです。船の事故というのは、ご承知のとおり、日本は海に囲まれておりますので、インシデントを含めまして、年に1000件以上起こっており、船の部会長などは相当苦労されています。今後、事故が起こったときには、それに合わせた力が出せるような人事配分、あるいは予算配分ができるようになればと思っています。今のところ、そう問題もなく進んでいます。

(新日本ヘリコプター墜落事故関連)

問: 3月6日に三重県で起きた新日本ヘリコプターの墜落なのですけれど、送電線にワイヤーがひっかかったんじゃないかと言われていますけれど、乗員2人が亡くなっている状況で、どういったところが調査のポイントでしょうか。
答: 現在、調査をしておりますけれど、ヘリコプター自身はこわれたまま残っていますし、どこにひっかかったとか、つまり現状分析ですね、事故が起こったところでどういうことが起こっているかということを今きちんと調べているところであります。あわせて、当時の運航の状況、どういう運航がされていたかということを我々なりにきちんと把握していきたいと思います。現在、調査を進めているところです。

問: 主眼になるところは。
答: まだ何とも申し上げられません。

(B787高松事案関連)

問: B787の高松事案で、FAAに対する安全勧告でFAAからのリアクションはどうですか。
答: FAAから1月に検討中であるとの連絡はいただいております。時間がかかっているようで、まだもらっておりません。受け取りしだい、できるだけ速やかにお知らせしたいと思っています。

問: 期限からどれくらい過ぎているのですか。
答: 出してから90日の規定の日数はすでに過ぎております。

問: 日本から催促するということはしていないのですか。
答: これはお互いの自由意思で、我々が出したものに対して、現在まさに対応を練っている最中だと思います。

問: なぜ遅れているのかの説明はないのですか。
答: 聞いておりません。

問: ただ、逆の立場であれば、日本は期日内に出そうと努力するわけですよね。
答: 努力はしますが、遅れる場合もあります。結構、遅れている場合があります。

(踏切事故関連)

問: 昨年の4月から、踏切事故の拡大があって、3種4種踏切の拡大があって、今年度5件程度の調査をしていると思いますけれど、それですでに報告書も公表されたものもありますが、もともと拡大に関して、一定程度の事故の事例がまとまった段階で、共通するような背景についても何らかの提言を言うようなこともあったと思うのですが、この1年やってみて、まだそこまでは至っていないということでしょうか。
答: そうですね。現状を報告しますと、昨年4月1日より、遮断機のない踏切道における死亡事故について、運輸安全委員会の調査対象に追加し、これまでに扱った件数が4件です。うち2件については調査報告書を公表したところであります。
 1件は平成26年4月12日に発生した東海旅客鉄道の飯田線、もう1件が6月9日に発生した関東鉄道の常総線で、ともに第4種の踏切です。
 それぞれ事案によって、踏切道の設置状況や踏切道内に車や人が進入した経緯が様々であり、それぞれ異なった要因が関係していて、今後、調査事例を積み重ねていくことで、事故の再発防止及び被害軽減に寄与してまいりたいと考えているところであります。

問: どれくらいを目処に。
答: 今年度は新たに加わったものと、もともと対象だった脱線した事例と5件あります。いろいろファクターがあって難しいという感じがしていますけれど、ある程度知見を得られた時点で、安全上のまとまった発信ができれば行いたいと思っています。

資料

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