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委員長記者会見要旨(平成31年3月26日)

平成31年3月26日(火)14:00~14:18
国土交通省会見室
中橋和博委員長

発言要旨

 運輸安全委員会委員長の中橋でございます。
 ただいまより、3月の月例記者会見を始めさせていただきます。

1.航空法及び運輸安全委員会設置法の一部を改正する法律案

 最初に「航空法及び運輸安全委員会設置法の一部を改正する法律案」が3月8日に閣議決定されましたことをご報告します。
 運輸安全委員会設置法の一部改正については、2020年の国産航空機MRJの就航に当たり、国際民間航空条約上の航空機の設計国及び製造国としての役割を確実に果たすため、所要の措置を講じるものであります。詳細は資料1をご覧ください。

2.事故等調査の進捗状況報告

 次に、前月の定例会見から新たに発生した事故及び重大インシデントは、各モード合わせて6件ありました。
 航空モードは、平成29年9月25日に薩摩硫黄島で発生した新日本航空機の機体損傷事故及び本年2月27日に仙台空港で発生した海上保安庁機の機体損傷事故の2件です。
 鉄道モードは、3月21日にJR横須賀線逗子駅構内の4種踏切で発生した踏切障害事故及び3月25日にとさでん交通伊野線で発生した保安方式違反の2件です。
 船舶モードは、3月9日に新潟県佐渡島沖で発生した高速船ぎんがの衝突事故及び3月11日に名古屋港で発生したタンカーと貨物船の衝突事故の2件です。
 事故等調査の進捗状況については、資料2をご覧ください。

3.委員長所感(3年を振り返って)     

 さて、本日は、私の最後の会見となりますので、3年間を振り返って簡単に所感を述べさせていただきます。
 まず最初に、今月9日に新潟県佐渡に向かっていた旅客船ぎんがが何かにぶつかる事故がありました。幸いにも死亡者は出ませんでしたが、沢山の方が重傷を負われました。
 運輸安全委員会運営規則では、事故の内、20人以上の死亡者・行方不明者・重傷者が発生した場合に、特に重大な事故として、総合部会を招集することになっており、その第1回を先週に開催しました。今後、総合部会において、海事部会の委員のみならず、航空、鉄道部会の委員も加わって原因等の審議を行います。総合部会の対象となる事故の発生は、私が就任して3年間で初めてのことですし、平成20年10月に運輸安全委員会が設置されてからも初めてのことです。ともかくも、負傷された方々の早期の快復を願っています。
 今述べましたように、私の任期中の3年間で、航空、鉄道、船舶ともに、特に重大な事故、という定義に当てはまるのはこの1件のみでした。このことは、ひとえに事業者を始めとする関係者の安全への取り組みのお陰であると言えます。

 委員長在任中、航空、鉄道、船舶の事業者の方々とお話する機会を得、あるいは安全訓練施設等の見学もさせていただきましたが、各事業者それぞれに安全について真剣に取り組んでおられる様子を拝見し、この普段からの継続的な取り組みが大きな事故を防いでいるのだと思った次第です。また、昭和49年からの航空事故調査委員会、平成13年からの航空・鉄道事故調査委員会という、運輸安全委員会の先輩の方々が非常に沢山の事故調査報告書を公表されており、それらから得られた知見なり教訓が我が国の運輸の安全に活かされてきた結果だと言えます。それら事故調査報告書を報道して下さったマスコミの役割も大きいものがあります。3年間、運輸安全委員会委員長の職務を遂行できることに、あらためて、すべての関係者にお礼申し上げたく思います。

 さて、とは申しますものの、在任中に様々な事故がありました。
 航空では、一昨年から昨年にかけてヘリコプターの墜落事故が3件相次ぎ、22名もの方が亡くなられました。3件のうち、2件はまだ調査中なので詳しくは述べられませんが、3件とも発生状況は異なるようです。関係者の皆様には、これらの事故原因を貴重な教訓として再発防止に活かしていただきたくお願いします。
 鉄道では、熊本地震による新幹線の脱線に関する審議が印象に残っています。地震や構造物などの著名な先生に専門委員をお願いして脱線に至る分析を科学的に丁寧に報告書にまとめています。またこの新幹線脱線では、脱線した後の列車の挙動も部会で長く議論しました。高速走行する列車では脱線させないことが一番大事ですが、たとえ脱線しても、軌道を大きく逸脱しないようにして被害を最小限にする対策も必要です。
 船舶では、台風で油タンカーが走錨して関空連絡橋にぶつかった事故について、調査官が当時大阪湾にいた他の船の状況も調べて、その情報を公表しました。あの強い風の中でも走錨せずに持ちこたえた船も調べることで、今後の再発防止には非常に貴重なデータになると思います。油タンカー事故調査の範囲外ではありますが、船舶調査官は非常に良い仕事をしてくれました。

 運輸安全委員会の活動につきましては、報告書の公表までに時間がかかりすぎているということが、就任当初からの懸念でした。ようやく、事故発生から2年以上経過している事案は無くなりましたが、重大な事故・インシデントなり、あるいは公表までに時間がかかりそうな事案については、経過報告を早めに出すことも心がけて参りました。ただ、報告書のもっとも大事なところは正確性です。早く公表しようとして、間違った内容、あるいは原因解明が上っ面にとどまることは絶対に避けなければなりません。
 特に航空モードでの小型機やヘリの事故では、データレコーダーを搭載していないために、事故原因を特定するのに手間取り、あるいは原因を断定できず、これこれの可能性が考えられる、としているものもあります。これらについても、正確性を優先して何度も審議にかけて議論を尽くしたものであり、公表までに長時間かかったことについては、致し方ないものと思っております。

 最後になりますが、あっという間の3年間でした。この間、運輸安全委員会発足10年という節目に在任させていただきました。昨年10月に開催した記念シンポジウムでは、ヒューマンファクターについて、関係者皆さんの関心が高いと改めて感じたところです。実際のところ、航空、鉄道、船舶ともにヒューマンファクターが関与した事故がかなりの割合を占めており、委員会でも、ヒューマンファクターに関する分析力を高めるべく勉強会などを開催しておりますが、更に力を入れていくべき課題ではないかと思います。
 我が国の運輸の安全を守るために、運輸安全委員会には、事故・インシデントの分析力を更に高め、正確な情報を可能な限り早く発信する等、これまで以上に組織一丸となって取り組んでいただきたいと期待しております。

 本日、私からは、以上です。
 何か質問があればお受けします。

4.質疑応答

(委員長所感関係)

問: 改めて、運輸安全委員会への期待と課題について、お尋ねします。
答: 事故の原因を正確に解明して、再発防止につなげていくことと思います。そのためには、できるだけ早く報告書を公表することが重要です。しかしながら、調査にはどうしても時間がかかる場合がありますので、その際は、途中経過報告等を積極的に行って、再発防止につなげていく必要があると考えています。

問: 委員長の在任期間中、大きな事故と呼べるようなものは、先般の佐渡島沖の件を除けば、実質的にありませんでした。長期的にも見ても船舶事故の件数は右肩下がりで、鉄道・航空でも本当に多数の死傷者が出るような事故は相対的に減っていると思います。委員長として運輸安全委員会の活動が事故の減少に寄与しているという実感はありますでしょうか。
答: 全体的に安全意識がかなり広まっているのではないかと思います。特に各モードの事業者の方々については、安全に対し非常に気を配られているということを、この3年間、いろんな方とお会いして実感したところです。ただ、小型機や地方鉄道等については、まだ、不十分なところもあるかと思いますので、運輸安全委員会としても、ダイジェストなど様々な情報を発信していくことが重要と考えています。

(高速船ぎんが衝突事故関係)

問: 佐渡島沖での高速船ぎんがの衝突事故について、シートベルトを着用していた乗客の中にもけがをされた方がいるような状況が見受けられますが、今回の事故を受けて、何か対策など考えていることがあれば教えてください。
答: まだ、調査中で詳しくは述べられませんが、高速で航行する船舶について、どうしたら再発防止ができるか、これから部会で審議して行く必要があると考えています。

(とさでん交通重大インシデント関係)

問: 昨日、とさでん交通で起きました重大インシデントについて、2016年にも同様の事案があり、その報告書では通票から信号に方式を変えることを求めていたかと思いますが、今回、同様の事案が発生したということに関して、どのようにお考えでしょうか。
答: まだ、初動調査にとりかかったばかりで、詳しい状況は分かりませんけれども、同種の事案ということであれば、再発防止のためにも、意見を述べる必要もあるかと考えています。

(報告書のあり方)

問: 最近、技術力の低下ということが現場での課題になっていますが、それに合わせて、運輸安全委員会の報告のあり方も、少しずつ変化させていく必要があるのではないでしょうか。
答: 報告書については、正確性を期し、できるだけ早く公表できるようにと努力して参りました。しかしながら、どうしても1年以上かかる事案もあります。これにつきましては、再発防止のため、適切なタイミングで経過報告を行っていかなければと考えています。
 そういう意味におきまして、今回の運輸安全委員会設置法の改正案には、調査を終える前に、経過報告に合わせて勧告を行うことができるということも入っており、その様な形でスピーディに対応していくことが運輸安全委員会には求められていると考えています。

 

資料

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