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委員長記者会見要旨(令和3年10月26日

令和3年10月26日(火)14:00~14:25
国土交通省会見室
武田委員長

発言要旨

 運輸安全委員会委員長の武田でございます。
 ただいまより、10月の月例記者会見を始めさせていただきます。

1.事故等調査の進捗状況  

 はじめに、前月の定例会見から新たに調査対象になった事故及び重大インシデントは、航空、鉄道モード合わせて4件ありました。
 航空モードは、10月7日に神奈川県秦野市で発生した回転翼航空機の墜落事故、10月10日に熊本県阿蘇市で発生した滑空機が着陸時に機体を損傷した事故、10月12日に北海道美瑛町で発生した動力滑空機の墜落事故の3件です。
 鉄道モードは、10月7日に発生した日暮里・舎人ライナーの列車脱線事故の1件です。

 このうち、日暮里・舎人ライナーの列車脱線事故について、当委員会は翌8日及び10日に鉄道事故調査官3名を現地に派遣し、車両及び軌道施設等の損傷状況、指令員からの聞き取り、運転状況及び地震の記録などの調査を行いました。
 これまでの調査において、車両や軌道施設の一部に損傷が確認されましたが、今後さらに損傷状態の詳細な調査や当時の地震の揺れ方等の情報収集並びに運転状況記録装置のデータの解析などを進めてまいります。

 事故等調査の進捗状況については、資料1をご覧ください。

2.安全啓発資料の公表    

 次に、安全啓発資料の公表について、2点ご報告します。

 まず、運輸安全委員会ダイジェスト第37号として、小型船舶の衝突事故に関する分析集を本日公表しましたのでご報告します。お手元の資料2をご覧願います。
 この分析集では、死亡者や行方不明者を伴う船舶の衝突事故が、小型の漁船やプレジャーボートに多いことから、それらの調査実例の内容を分析し、小型船舶の衝突事故の防止に向けたポイントを提言しています。
 また、沖縄県の漁業協同組合のご協力を得て、各船舶において周囲の船舶の位置を把握できるAIS(船舶自動識別装置)の有効性についてアンケートを行ったところ、約8割の方からAISにより他の船舶と接近することが少なくなったと回答があったことから、常時適切な見張りを行うことの重要性に加え、小型船舶でもAISを設置して活用することを呼び掛けています。
 このAISについて、当委員会は、平成24年に金華山沖で発生した貨物船と漁船の衝突事故の経過報告にあわせて、国土交通大臣と水産庁長官に対し、事故防止のためAISの早期普及に必要な施策の検討を行うよう意見を述べるなど、これまでにもその普及について提言を行ってまいりました。
 当委員会といたしましては、本資料を、主に小型船舶を操縦される皆様に役立てていただくとともに、個々の事故調査結果に基づく提言と併せ、こうした分析集などによる周知啓発によって、より多くの船舶にAISの設置、活用が進むことを期待しています。

 次に、地方事務所の安全啓発資料の公表についてご報告します。お手元の資料3をご覧願います。
 当委員会の門司事務所が管轄する関門海峡と響灘における小型船舶の船舶事故の原因、再発防止について分析したものです。
 この安全啓発資料では、全体の原因等を分析するとともに、同じ事故が発生している海域、「事故発生からみた海の難所」と言える海域での事故を分析しています。
 当委員会がホームページで公表している「船舶事故ハザードマップ」には、これまでの船舶事故の発生場所や事故種別などが地図上に表示されています。この安全啓発資料の作成にあたり、このハザードマップの情報をあらためて分析したところ、関門海峡と響灘では、衝突事故や乗揚事故が多発する海域が5か所あることが分かりました。こうしたことから、それらの海域の事故の傾向や事故防止に向けてのポイントを紹介しています。
 これらの海の難所に関する情報は、関係者の皆様により広く知っていただくために、「船舶事故ハザードマップ」に注意喚起情報としても掲載することとしています。
 関門海峡及び響灘を航行される皆様に、この資料を活用していただくとともに、他の海域を含めて当委員会の「船舶事故ハザードマップ」を活用して事故防止に役立てていただきたいと思っています。

3.ITSA(国際運輸安全連合)ウェブ会合    

 最後に、今年度2回目の国際運輸安全連合(ITSA)委員長会議についてご報告します。

 ITSAは、米国、フランス、オーストラリア等18の国・地域の事故調査機関の委員長級をメンバーとし、航空、鉄道、船舶など複数の輸送モードをカバーする国際的な組織です。
 主な活動目的は、毎年、各国機関の代表が集まる会議において、事故調査から得られた様々な教訓や現在の取組課題等の情報を共有し意見交換を行うことにより、運輸の安全性を向上させることにあります。
 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、昨年5月以降ウェブ会合の形で年に数回開催されており、10月12日に今年度2回目の会合が開催されました。

 今回は、5月のウェブ会合で新たに議長国となったフィンランドが主催し、コロナ禍における事故調査への取組状況などについて、各国が報告を行いました。
 我が国からも、職員のテレワーク実施などの取組の説明や、法令改正などの最近の活動報告、公表した調査報告書についての事例紹介を行いました。例えば、今回は、私から小型ヘリコプター事故の例をお話ししたところ、ニュージーランドでも最近事故が目立つということで、早速、過去の事故調査報告書を先方に送りました。今後、共同研究など事例を紹介して交流を深めることにも使えるものだと思っています。
 それから、ITSAの関係では、インドや台湾に対してはこれまでも鉄道事故の調査について、当委員会の委員や調査官の講義などによる研修を行ってまいりましたが、シンガポールからも依頼があり、実施をする方向で進めています。今後もこのような交流は必要と考えております。
 このほか、感染症の影響が落ち着いていれば、次回はフィンランドの首都ヘルシンキで来年の6月に開催することが決まりました。

 ウェブ形式であっても、こうした会議を行い、各国の委員長の顔を見ながら、各国が直面する課題とその対策や事故調査から得られた教訓を共有し、直接意見交換を行うことは大変有意義です。
 今後とも各国の委員長との信頼関係の醸成と当局間の協力関係の強化を図ってまいりたいと思います。

 本日、私からは以上です。
 何か質問があればお受けします。

4.質疑応答

(日暮里・舎人ライナー列車脱線事故関係)

問: 先ほどご発言のありました日暮里・舎人ライナーの脱線ですけれども、当該の列車はポイントの切り換え部分を走行中だったという話もあるのですが、事故の発生した場所についてどういう場所であったかというのを、把握している範囲で伺いたいのと、それが事故に対してどういう影響があったかというのは現在調査中だとは思いますが許される範囲でもしあれば教えていただきたいです。
答: これまでにご報告したとおり、車両や軌道施設の損傷状態や運転状況記録のデータの解析などをしているところですからあまり今の段階では言えないのですが、そうした損傷と地震の揺れ方との関係、それから地震と高架との関係というファクターもあると思っています。ご質問のポイントの切り換え部分であったかということについてと、自動運転であったこととそれを止めたことについても現在調査をしているということです。
 それから、お怪我をされた方が3名おられて、そのお怪我がどういう状況で起きたかということも、乗車の位置とか姿勢とか、今後の安全性を向上するためにどうしたら良いかという面から見ていかなくてはいけないと考えていますが、今何が重要であるかはお話しできない段階です。

(香川県坂出市沖旅客船浸水事故関係)

問: 2020年11月の香川県坂出市沖で起きた旅客船が岩礁にぶつかって沈んだ事故について、現在の進捗状況と原因につながる部分等で見えてきたものがあれば教えていただければと思います。
答: この事故は、修学旅行の小学生60人ほどをのせた旅客船が航行中に乗り揚げたという事案です。現在も聞き取りや船体に関する調査を行っているところです。出来るだけ早く報告書を公表したいと思っていますが、この事故ではお一人の方が重傷を負われたものの、全員が救助されたという例でありまして、救助した方々の行動によるところもあると思いますが、どういった要因によって負傷者を少なくできたのかという観点からの提言も重要ではないかと思っています。

(調布飛行場小型機墜落事故関係)

問: 先日、東京高裁の裁判の関係で、調布の住宅街に飛行機が落ちた事故について、運輸安全委員会の報告書が証拠で出ていて、一部が判決で裁判官の方が原因の部分を否定されたということがあったと思いますが、受け止めをお願いします。
答: 本件は平成27年7月26日、調布飛行場から離陸した小型飛行機が住宅地に墜落し、住民1名及び搭乗者2名がお亡くなりになったほか、住宅が全焼するなどの被害が生じたものです。改めて、この事故でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆様と被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。この事故について、運輸安全委員会は、平成29年7月18日調査報告書を公表し、事故の原因について、最大離陸重量を超過状態で飛行したこと、低速で離陸したこと、過度な機首上げ姿勢を継続したことから、離陸上昇中に速度が低下し、失速したと推定しました。この事故に関して、13日に民事裁判の控訴審判決があり、運輸安全委員会の調査結果とは一部異なる認定がなされたという報道があったことは承知しております。しかしながら、運輸安全委員会として、司法判断に意見を述べる立場にはございませんので、私からコメントすることは差し控えさせていただきます。
 当委員会において算定した機体の離陸時の重量は、報告書においても最大離陸重量を超過していると「推定される」という言い方を用いているとおり、このことは「ほぼ間違いないもの」と考えております。いずれにしましても、運輸安全委員会として、司法判断に意見を述べる立場にはございませんので、これ以上のコメントは控えさせていただきます。

(安全啓発資料の公表関係)

問: 安全啓発資料の方のAISの関係で、先ほど金華山沖の事故の関係で平成24年に意見書を出したと言うことですが、それを契機に漁協などで簡易AISの普及がある程度進んでいると思うのですが、今回こういう資料をもう一回出したということは、まだ普及が足りないということでしょうか。
答: AISは外航船ですと300トン以上に、内航船では500トン以上の船舶に搭載が義務づけられています(※)が、義務化されていない100トン、200トンの漁船も金華山沖の事故のように外洋にまで航海して行きますので、こうした船にもAISがあれば同種事故を防止できる可能性が高いのではないかということで提言したところです。
 水産庁をはじめとする関係機関の取組により、簡易AISの普及も進められていますが、少人数乗りの漁船など、小型船舶のさらなる普及についても引き続き取り組んでいきたいと考えています。

※「船舶自動識別装置:AIS(Automatic Identification System)」とは、船舶の識別符号、種類、船名、船位、針路等に関する情報を自動的に送受信し、船舶相互間、陸上局の航行援助施設等との間で交換できる装置をいう。国際条約により、全ての旅客船と国際航海に従事する300トン以上の船舶及び国際航海に従事しない500トン以上の船舶に搭載が義務付けされている。

資料

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