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委員長記者会見要旨(令和5年12月19日

令和5年12月19日(火)14:00~14:26
国土交通省会見室
武田委員長

発言要旨

 運輸安全委員会委員長の武田でございます。
 ただいまより、12月の月例記者会見を始めさせていただきます。

1.事故等調査の進捗状況 

 はじめに、前月の定例会見から新たに調査対象になった事故及び重大インシデントは、鉄道、船舶モード合わせて4件です。

 鉄道モードは、11月28日に静岡県の大井川鐵道において、走行中に機関車と客車が分離し停止した重大インシデント、12月5日に岡山県のJR西日本の山陽線において、地上にいた係員と貨物列車が接触した鉄道人身障害事故、及び12月12日に札幌市交通事業振興公社において、運転士不在の状態で乗客を乗せた路面電車が逸走した重大インシデントの3件です。

 船舶モードは、12月6日に宮崎県宮崎市の大淀川河口で遊漁船五六丸が転覆し、乗組員1名及び釣り客1名が死亡した事故の1件です。

 運輸安全委員会は、いずれの事案についても事故調査官を派遣し、調査を開始しています。今後、必要な調査を行い、収集した情報や資料の精査、分析を進め、原因を究明してまいります。

 事故等調査の進捗状況については、資料1をご覧ください。

2.安全啓発資料の公表 

 次に、仙台事務所における安全啓発資料の公表についてご報告します。お手元の資料2をご覧ください。

 仙台事務所の管轄区域は東北6県及び新潟県を含んでおり、海岸線が長く、また、景勝地も多くあり、マリンレジャーが盛んに行われております。プレジャーボートに関連する船舶事故及びインシデントは、2012年から2022年までの11年間に155件が発生しており、このうちの34件(事故等全体の約22%)が、人命にも関わる「転覆事故」となっております。

 仙台事務所ではこの現状を踏まえて、管内で発生したプレジャーボートに関係する事故のうち、特に「転覆事故」に絞ってその発生原因などの傾向を分析し、その結果をまとめた安全啓発資料を本日公表しました。

 分析の結果、発生した転覆事故のうち約32%で死傷者が発生しており、また、救命胴衣を着用していない者が落水した場合には、特に死亡又は行方不明となる可能性の高まることが判明しております。今回の資料では、これらの情報に加え、実際の転覆事故の事例を紹介するとともに、プレジャーボートの転覆事故防止のためのポイントをまとめております。

 「転覆事故」は、ひとたび発生しますと尊い人命に関わる重大な事態に発展する可能性がございます。プレジャーボートを運航される方々においては、是非当資料をご覧いただき、事故の防止に役立てていただきたいと考えております。

3.令和5年を振り返って 

 最後に、本日は、本年最後の定例記者会見となりますので、この1年を振り返ってみたいと思います。

 初めに、事故等調査報告書の公表について、これは前月公表分までの件数になりますが、本年は、航空が34件、鉄道が13件、船舶の重大案件が12件で計59件の事故等調査報告書を公表しました。

 各モードの主な報告書について紹介させていただきますと、航空モードでは、令和4年4月に小型機が訓練飛行中に九州の有明海に不時着水し、機長及び同乗者の2名が死亡した事故について、機長が自機の位置を見失い、その後、そのまま飛行を継続したため、燃料が枯渇したことによると考えられる旨の調査報告書を、本年3月に公表しました。

 鉄道モードでは、令和3年10月に千葉県北西部を震源とする地震の地震動により発生した日暮里・舎人ライナーの列車脱線事故の調査報告書を2月に公表するとともに、東京都交通局長に対して「勧告」を行いました。勧告の内容は、「事故現場付近の施設に、地震動の影響により列車の案内輪や分岐輪が案内軌条に乗り上げないようにするための対策を講ずること」などです。

 船舶モードでは、令和2年7月にモーリシャス島で発生した貨物船WAKASHIO乗揚事故、令和4年4月に北海道知床半島西側で発生した旅客船KAZUⅠ沈没事故について、いずれも9月に公表しています。

 当委員会の8つの地方事務所では797件の船舶事故等の調査報告書を公表しております。このうち、横浜事務所から公表した、令和4年1月4日に神奈川県横須賀市観音埼沖で発生した遊漁船第十五須原丸釣り客負傷事故については、「都道府県知事に対し、釣り客の安全確保に必要な事項の実施を遊漁船業者等に指導するよう助言すべき」との意見を水産庁長官に対し述べました。

 いずれの事案につきましても、報告書としてまとめた調査結果に基づき、関係の方々が必要な安全措置を講じていただき同種の事故等を防止していただきたいと考えています。

 次に、今年発生し、これまでに当委員会が調査対象とした事故等についてです。

 航空モードでは、6月に下地島空港で発生した、当委員会として初めて調査を行う無操縦者航空機の事故や、これも当委員会として初めて調査を行う、7月に大分県で発生した無人航空機の事故など、事故が16件、重大インシデントが14件発生しています。

 鉄道モードは、8月にJR東日本 東海道線の大船駅構内において、走行中の列車と電化柱が衝突し、乗客3名、運転士1名の計4名が負傷した事故など、事故が11件、重大インシデントが2件発生しています。

 船舶モードは、3月に京都府亀岡市の桂川で川下り船が岩に乗り揚げ衝突して転覆し、乗組員2名が死亡した事故や、8月に和歌山県沖の紀伊水道において日本の貨物船とリベリア船籍のコンテナ船が衝突し貨物船が転覆、沈没し、貨物船の乗組員1名が死亡、1名が行方不明となった事故など、本部が取り扱う重大な事故が10件発生しています。

 運輸安全委員会といたしましては、いずれの事案についても丁寧かつ的確な調査・分析を重ね、できる限り早期に原因を明らかにし、同種事故等の防止に必要な施策または措置について提言を行うとともに、事故等調査から得られた教訓や知見を蓄積し、それを分かりやすく発信するなど、運輸の安全に寄与してまいりたいと考えています。

 本日、私からは以上です。
 何か質問があればお受けします。

4.質疑応答

(知床半島沖 旅客船沈没事故関係)

問: KAZUⅠの件ですが、9月に結果が出て、課題として事故をいかに風化させずにという部分が非常に重要だと思っていますが、運輸安全委員会として、できることがあればお願いします。
答: 本事故は当委員会の船舶モードの事故としては非常に重要なものでありますし、この教訓をいかに生かしていくのかが一つの課題であります。航空モードではJAL123便の事故、鉄道モードではJR西日本福知山線の事故がありますが、JALは事故の歴史の教訓を蓄えられており資料にもされている。また、JR西日本は関係施設を作られるという計画もあるようです。今回の事案についての教訓を今後ずっと保っていけるかということは、よく考えておかなければいけないと思っております。当委員会においても調査官が替わったときにも教訓は蓄積され続けないといけないですし、報告書をとりまとめるプロセスで内部で議論をしてきたところであります。また、報告書の中で、何点かこれまでとは違い科学的、道筋立ってできる部分が、船体を計測したり、モデル化したり新しく進めたことによって、実際の沈没のプロセスをある程度科学的に明らかにした部分もありますので、それらに関しては資料として残し、記録する施設が、もしできたとしましたら、当委員会が資料提供できるような形とし、教訓として生きるようにしたいと思います。
問: KAZUⅠの事故で科学的な道筋をモデル化して計測したものについて、資料で伝えていくということでしたが、何らかの施設ができたときのために作るのでしょうか。
答: そういうわけではございません。他の方法ではやりにくかった方法で事故を再現できるように工夫した例として、どこまでがうまくいって、どこまでが足りなかったかを明らかにして残しておきたいというものであります。
問: それは内部でされているのでしょうか。
答: そういうことです。
問: 施設ができるできないに関わらず、報告書にあるもの以上のものを公表されていくということでしょうか。
答: そういう意味ではありません。報告書に記載されていることをわかりやすくしていくということです。長い報告書でもありますので、わかりにくい部分もあります。例えば、ハッチ蓋が開きました、船底の開口部を通って水が入りましたということを、更にわかりやすく説明できるようなものとして、当委員会が残せるものは残していこうということであります。
問: KAZUⅠについて、令和3年に発生した事故の調査報告書がまだできていないということですが、普通、1年を原則として報告書を作成している相場観だと思うのですが、この異例の長さをどう受け止めているか。令和4年の事故の報告書はできているのにというギャップというか、事故発生から随分経過していますが、どうお考えなのか。
答: 沈没事故の前年に発生した2件につきましては、沈没事故の調査の中で判明することと重なる部分もありますので、併せて調査を実施してまいりました。沈没事故については非常に重大ですので、そちらの方をなるべく早く公表できるように注力しておりまして、並行して前年に発生した事案の報告書案とりまとめを行っていたということです。
問: 令和3年5月、6月に事故が発生し、翌年の4月に沈没事故が発生したわけで、この期間10ヶ月から11ヶ月程度あったわけですから、この間に報告書がまとめられていて、何か安全委として提言できるようなことがあれば沈没事故を防げたというのは言い過ぎかもしれませんが、何か寄与する部分があったのではという問いは立てられるかと思うのですが。
答: 当委員会は、できるだけ早く調査した結果をとりまとめるよう努めているところであります。今回の事案においては、沈没事故の発生の前に公表することができなかったわけですから、一体として同じ船舶、同じ会社に対する調査として進めてきたということであります。
   また、沈没事故の前年の2件の事案が早くとりまとめできていたらという仮定の話については、お答えは差し控えさせていただきたいと思います。常に早く公表できるように調査していきたいと心がけております。
   沈没事故との直接的な因果関係は無いと思います。安全に対する監督に対しての関係はあったかと思いますが、沈没の段階で明らかになっていたわけではなかったので、沈没事故の調査を先行して進めていたということであります。
問: 常に報告書は適切に早く取りまとめたいという意識は持っているという理解でよろしいでしょうか。
答: そのとおりです。

(無操縦者航空機及び無人航空機関係)

問: 今年発生した事故で、無操縦者の事故と無人航空機の事故がありましたが、人が操縦していない、人が乗っていない事故に対する調査というものが、新しいところでもあり難しいところでもあると思うのですが、今後どのように調査していくのか。
答: 一般論になりますが、無操縦者航空機も無人航空機も操縦者がいない、または離れたところで操縦しているわけなので、地上からの指示・命令の通信が機上に届いたのか、届いたが作動しなかったのか。有人航空機に比べて自動操縦が操縦のカバーする部分が多いので、その自動制御プログラムに問題はなかったのか、その特性を操縦者が理解して操縦していたのか、そういった視点が有人航空機と違う点になるかと思います。
   また、記録装置が整っていないとわからないことが多いのでその点も重要であると思います。

資料

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