「PLATEAU AWARD 2022」初代グランプリは実在の街をスノードームで楽しむ『snow city』
「PLATEAU AWARD 2022」最終審査会・表彰式レポート
2022年度PLATEAU NEXTの最後を飾る3D都市モデルを活用した開発コンテスト「PLATEAU AWARD 2022」の最終審査会・表彰式が2023年2月18日、東京・御茶ノ水のaxleで開催された。ハッカソンやライトニングトークから参加となったチーム(作品)も含め、一次審査を通過した17チームが会場に集結し、プレゼンを行った。
- 文:
- 大内 孝子(Ouchi Takako)
- 編集:
- 北島 幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
- 撮影:
- 平原 克彦(Hirahara Katsuhiko)
当たり前に3D都市モデルが使われる世界。PLATEAUが示した一つの到達点
3D都市モデルを整備してオープンデータとして活用する、2020年度にスタートしたPLATEAUのプロジェクトは3年目のいま実装フェーズへ進もうとしている。
その動きを加速するため、2022年度は、8月にヒーローズ・リーグとコラボして都内で行われた「PLATEAU Hack Challenge 2022 in ヒーローズ・リーグ」を皮切りに、福岡、呉、仙台にて各地のエンジニアコミュニティとコラボした形でハッカソンイベントを開催。また、ライトニングトークやハンズオン、ピッチイベントも開催し、PLATEAU NEXTと題した一連の取組として、さまざまな切り口で開発者コミュニティにおける実装のきっかけ作りを進めてきた。
こうしたイベントを通して感じられたのは、「PLATEAUをいかに活用するか」という視点でのPLATEAU側に主軸を置いた作品作りというよりも、「地域の社会課題の解決にPLATEAUが使えないか」「PLATEAUを使ったらこんなおもしろいことができるのでは」といった、PLATEAUとクリエイティビティの融合だ。
2022年度の集大成となった今回の「PLATEAU AWARD 2022」でもそのような姿勢が表れている17作品がファイナリストとして集結。発表会場はオフィスフロアとシェアオフィス、コワーキングスペースが1つのビルに格納された複合施設・axle(御茶ノ水)のイベントスペース。観覧はオンライン視聴のみであったが、最終プレゼンの参加チームが集まり、初開催となったAWARDの会場は熱気であふれていた。
審査委員長は川田十夢氏(開発者 / AR三兄弟 長男)、審査員に千代田まどか:ちょまど氏(ITエンジニア兼漫画家)、小林巌生氏(Code for YOKOKOHAMA共同代表)、松田聖大氏(Takram Japan株式会社)、内山裕弥氏(国土交通省)。次の5つの観点から評価を行った。
(1)3D都市モデルの活用
(2)アイデア
(3)UI・UX・デザイン
(4)技術力
(5)実用性
プレゼン時間は5分、全70作品の応募の中から一次審査を通過した17チームがプレゼンに臨んだ。
グランプリは、実在の街をスノードームで楽しむ『snow city』
初代グランプリに輝いたのは『snow city』(チーム名:シマエナガ)。実在の街をスノードームの中に入れてしまおうという作品で、UI/UXデザイン賞も受賞した。
snow city(プレゼンテーション資料)
「実在の街をスノードームに入れる」というコンセプトで、3D都市モデルを活用して生成した街のスノードームをブラウザ上で鑑賞したり、ダウンロードして他のモデルと組み合わせたオリジナルのモデルの作成ができる。
デモでは、ブラウザ上であらかじめ設定された街を選ぶとスノードーム内に表示される様子や、背景を切り替える様子が示された。また、地図から好きな範囲を選んでスノードームに入れることもできる(現状では札幌のみ)。
PC版、スマートフォン版があるが、いずれも世界観が統一されたUIになっている。そうした全体の印象を支えているのが、スノードームのガラスの表現、雪のパーティクルなど細部の作り込みだ。また、3D都市モデルのデータ量を軽減するため、重複テクスチャの削減や解像度の調整を行って、パフォーマンスの向上につなげている。
今後、対応可能な都市の拡大、道路など他のPLATEAUデータ活用も実装していく予定だ。将来的には、スノードームを手元で楽しめるように3Dプリンターと連携することも考えているという。
UI/UXデザイン賞の受賞理由として、審査員の松田氏は、しっかりとしたユーザー体験を考え、それを実現している点を評価した。また、世界観を支える音楽や3Dの表現を使ってデータとユーザーをつなぐことができている、とした。
そして、グランプリ受賞の理由を審査委員長・川田氏は、「どの作品もすばらしかったが、長い目で見た時にこの作品はおそらく『売り物』になると思った。観光に使えば人を呼ぶ力になるでしょうし、3Dプリンターで実際に持ち帰れるモノを作ってもいい。根本に『こだわり』があったこともそうだが、総合的に見て大賞にふさわしい作品」と評した。まだ実装には至っていないが、ビジネスにつながる将来像が見える点が評価のポイントとなった。
5つの部門賞に加えて、マッドデータサイエンティスト賞が追加
イノベーション賞、エモーション賞、データ活用賞、UI/UXデザイン賞(前述のとおり『snow city』が受賞)、PLATEAU賞という予定されていた各部門賞に加え、当日急きょ追加されたのが「マッドデータサイエンティスト賞」だ。まずは、この賞から紹介しよう。
マッドデータサイエンティスト賞は『都市環境を対象としたクラウド解析ツール群「PLATEAU Tools」』(チーム名:株式会社大林組 上田博嗣)が受賞。
PLATEAU Tools(プレゼンテーション資料)
『PLATEAU Tools』はPLATEAUを使って都市環境評価を自動解析するクラウド解析ツール群だ。都市のデジタルツインには物理情報との融合がカギとなるが、現状、物理情報の解析には専門知識が必要で、そのほとんどが手作業で行われている。それを自然言語から取り出すことができないかという試みだ。
現在、PLATEAUの3D都市モデルから解析用の形状を取得・加工するツール(PLATEAU -Geometry)、都市の風環境解析ツール(PLATEAU-Wind)等の実装、さらにAIによる自動化を進めている。その他、日射状況や眺望などのツールも開発しているということだ。
「人柄も含めてすばらしく、淡々とすごいことを言っているのにグッときた」と川田氏は受賞理由を説明した。
PLATEAUで空間情報に基づいた立体音響を構築した『PLATONE プラトーン』
イノベーション賞を受賞したのは『PLATONE プラトーン』(チーム名:ORSHOLITS Alex)。「VRに聴覚体験を」というコンセプトで、空間情報に基づいた立体音響を構築するシステムだ。
PLATONE プラトーン(プレゼンテーション資料)
PLATEAUの3D都市モデルを使って実際の物理環境を取得し、空間オーディオにマッチさせれば、あたかもその場でリアルに発生・伝搬してきた音のような体験ができる。
PLATEAUのCesium対応3Dタイルセットを利用して音の伝搬をシミュレーションし、Unreal Engineの中でSpatialized Audioを生成する。また、RTK-GNSSと9DoF IMUを用いて、ユーザーの位置と方位をリアルタイムに取得するためのトラッキングデバイスをプロトタイプとして開発。さらに低遅延のネットワークを構築するなど、デバイスからインフラまでさまざまな技術が組み込まれている。一例として「日本橋観光ウォーク」のデモ動画が紹介されたが、音で直感的に伝えるアプローチはアーティストのツールとして、あるいは視覚障害のサポートといったユースケースが考えられる。
受賞理由として川田氏は、新たなユーザー体験として「日向でしか聞こえないポカポカラジオ」など新しいコンテンツの可能性に言及した。また、『PLATEAU Tools』とコラボしてもおもしろいと語った。
現実の世界でロボットを操縦できる『VARAEMON』
エモーション賞は、『マルチプレイ対応VR/AR連動アプリ「VARAEMON」』(チーム名:きっポジ@KITPOSITION)。「現実の世界でロボットを操縦したい」というモチベーションから始まった作品だが、VRとARを融合・同期させるというスゴ技が実現されている。
VARAEMON(プレゼンテーション資料)
一次審査時はシステム内部に3D都市モデルを持つ形だったが、その後、リリースされたCesium for Unityを使って座標を同期しリアルタイムに生成する形に変更している。その他、一次審査時の技術的課題をこの数か月で解決へと開発を進めてきた。
アプリというよりも、システムとしての提案であり、あくまでゲームは1つのユースケースとしての提示だ。利活用のイメージは、現状ではARを起点にする構成であるため大掛かりなイベントになると考えている。また、教育用途、映像制作などに活用できるとする。
ちょまど氏は、すばらしい情熱とすばらしい作品だと評価。きっポジ氏は、「ARとVRの融合にはさまざまな可能性がある。アイデアがあればぜひ声をかけてほしい」とコラボを呼びかけた。
CityGMLに属性情報を付加するWebアプリ『情報加算器』
データ活用賞を受賞したのは、PLATEAUの3D都市モデル(CityGML)に属性情報を付加するWebアプリ『情報加算器』(チーム名:HollowByte合同会社 米田 将)。
情報加算器(プレゼンテーション資料)
PLATEAUのCityGMLデータはそのデータ形式自体は優れた構造を持っているにもかかわらず、用途によってはセマンティクス(属性情報)が不足している場合がある。そこで、他のオープンデータから情報を加えようという発想だ。Webアプリとして提供することで、インストール&プログラミング不要で、誰でも情報を追加できる。PLATEAUに詳細な情報を持つオープンデータを加えることで、よりリッチな都市情報データベースを構築できるとする。
ちなみに上図に示したものは一次審査の時点で提出していたもので、その後、よりスマートにブラッシュアップしている。あらかじめオープンデータを整理しておき、どの情報を読み込むかノーコードで指定できるようにしたいという。
データ活用賞の受賞理由として、小林氏はオープンデータ連携のための新しい提案になり得るという点を挙げた。
新居の風景を見てみたい思いから生まれた『PLATEAU Window』
PLATEAU賞は『PLATEAU Window』(チーム名:PLATEAU Window's)。
PLATEAU Window(プレゼンテーション資料)
2022年8月に開催されたPLATEAU Hack Challenge 2022 in ヒーローズ・リーグで生まれた作品で、場所と階数、向きを入力すると「窓のある部屋」に移動し、窓から見える風景を体感できるというものだった。それが今回、大幅にバージョンアップされ「時空を越えて、ココロつながる」というコンセプトを中心に、機能が大幅に追加されている。例えば、周囲の飲食店情報やTwitter検索で周辺の情報を表示できる。
TwitterやWikipediaなどから取得した情報を使って「コンパス」から場所を指定する仕掛けもある。また、会場では、持ち込んだViveトラッカーを使ってVR機器なしに窓の景色を見渡せるデモが行われた。
内山氏は、ハッカソンの時点では実装はまだまだという状態から仕上げてきた点、3D都市モデルのセマンティクスを十分に活用しているところを受賞理由として挙げた。また、PLATEAU Window'sチームの二人はPLATEAUハッカソンで出会ってプロジェクトを継続しており、PLATEAUのコミュニティがあったからこそできた作品だと位置づけた。
PLATEAUのポテンシャルを引き出すバラエティに富んだ作品群
ここからは残る11作品を紹介していこう。惜しくも受賞を逃がしているが、いずれもクオリティーが高く、今後も期待できるものばかりだ。
●すPLATEAU~ん(チーム名:すPLATEAU~ん)
こちらも2022年8月のPLATEAU Hack Challenge 2022 in ヒーローズ・リーグで生まれた作品。コンセプトは「インタラクティブな体験を通して都市の魅力を再発見する」。スマホをかざして見えている映像を元にPLATEAUのデータを重ねて、インタラクティブな表現ができるというもの。ハッカソン後のバージョンアップとして、位置情報付きの動画の録画再生機能に対応している。
すPLATEAU~ん(プレゼンテーション資料)
質疑応答では、川田氏の「提案としてどこを推していきたいか」という質問に対して、「推したいのは、仕組み。スマホからの緯度・経度・高さ・方向情報はJavaScriptを利用して取得しており、UnityやUnreal Engineが使えない方でも応用利用が可能」だと答えた。
●都市の分布を見る(チーム名:齊藤 佑太郎)
齊藤氏は、Geoff Boeing氏の道路の方角や長さを街ごとに集計する研究「Urban spatial order」の東京23区版として、PLATEAUを使ってビルの向きや大きさを集計している「PLATEAUから街の構造を見る」。
今回の作品は、区ごとに集計したグラフのエントロピー(乱雑度)を計算し、色分けして見ることができるようにしたアプリだ。
都市の分布を見る(プレゼンテーション資料)
松田氏からの「Geoff Boeing氏の集計方法と比較したときの見え方の違いはあったか?」という質問には、「Boeingさんは道路を集計している。道路と建物は一致するだろうと考えていたが、道路に対して直角ではないビルが多数あったのは面白い発見だった」と回答。今回は建物の辺の長さから集計していたが、今後は高さについても集計してみたいそうだ。
●点群×PLATEAU(チーム名:imgee株式会社)
PLATEAUの魅力を十二分に生かした映像作品。Touch Designerに東京の3D都市モデルデータをすべて入れ込み、朝日航洋株式会社が提供する高精度3次元データサービス「good-3D」の点群データをマッチングさせ、8Kで映像を制作した。
点群×PLATEAU(プレゼンテーション資料)
質疑応答では内山氏が「OBJからCloudCompareを通じてPLATEAUの3D都市モデルを点群に戻せることはご存じか?」と聞くと、「実際にPLATEAUデータを点群に変換してみたが、生の点群データとは質が異なる。点群データの面白さは、構造物としてはフラットでも実際の壁はフラットではないので、質感を感じられるところで、詳細部は点群データを使うほうが良い表現ができた」と話した。
●Plateau Blender Importer(チーム名:國岡 洵季)
CityGMLデータをBlenderに読み込むためのツール。PLATEAU Hack Challenge 2022 in ヒーローズ・リーグで生まれた「サイレント・シブヤ」チームで使用されたものがもとになっている。開発のきっかけはOBJデータの扱いにくさで、「緯度経度を原点に指定できること」「モデルのデータ量を軽くすること」に主眼を置いた。
ハッカソン後、データ量の大きい地形データ・道路データを範囲制限できるようにし、またファイルごとにコレクションを作成するなど改良している。ユースケースとして、動画や2Dイラストの背景、ARコンテンツへの活用が考えられる。
Plateau Blender Importer(プレゼンテーション資料)
質疑応答では、実際にImporterを使用してコンテンツを作成してみた感想を聞かれ、「スライドで示したものしか試作していないが、AI作画と組み合わせたらいろいろできると考えている」と答えた。審査員のちょまど氏は「クリエイティビティを加速させる素晴らしい作品」と評価した。
●PLATEAU CityGML LOD1をOpenStreetMapにインポートしてみた!(チーム名:YouthMappersAGU)
もっとPLATEAUを使いやすくということで、OpenStreetMapにいったん読み込み、OpenStreetMapのAPIを経由して読み出すことで扱いやすくしようというものだ。作業マニュアルも日英バージョンで作成している。
PLATEAU CityGML LOD1をOpenStreetMapにインポートしてみた!(プレゼンテーション資料)
OpenStreetMapからCity GMLへの変換はまだ試していないとのことで、審査員の小林氏は「OSMは都市設備含め細かく再現されているところもあるので、OSMからCityGMLへ変換するという逆に流れもできるとよい」と話した。
●SUNABA MAP MR(チーム名:株式会社スタジオ・デジタルプラス)
PLATEAUの3D都市モデルを使って砂場遊びをするMRコンテンツ。建築物(bldg)および地形(dem)を取り込みゲームエンジンで仮想空間を作り、現実空間である砂場にプロジェクターで画像を投影する。さらに、赤外線センサーを使って砂の高さを取得し、投影に反映することで双方向な体験も実現。「砂を掘ったところは海になる、盛ったところは山になるといった遊びができる」という。
今後、都市空間のカメラで取得した情報を仮想空間へ反映させたり、高さの逆マッピング、ハイトマップに対応する予定だという。
SUNABA MAP MR(プレゼンテーション資料)
質疑応答では、小林氏の「なぜ砂を選んだか。また、今後やっていきたいアイデアがあれば教えてほしい」という質問に対し、「砂場遊びがなくなっているという課題と、砂場であれば自由に地形を作成し、山の起伏、水の流れを体感できる。まだ実装されていないが、作成した地形をスキャンして3Dモデルにし、それをプリントする、といったリアルと仮想空間を行き来する体験を子どもたちに提供したい」と答えた。
●PLAYTEAU(仮)(チーム名:株式会社CHAOSRU)
エントリー時の作品名「TOKYO 昭和97年」を「PLAYTEAU(仮)」と改め、現実社会とリンクしたデジタルツインのオープンワールドを舞台にしたゲーム作品。特徴としては、爽快感のあるキャラクターの動き、例えば「会社の終わらない会議」という社会の闇を斬るというような、現実世界とリンクした内容を扱うところだ。社会課題だけではなく、美術作品や都市計画なども扱う。キャラクターのタッチ、動き・エフェクト、画面デザインなど非常に統一感のある作品になっている。
PLAYTEAU(仮)(プレゼンテーション資料)
小林氏は「3D都市モデルにこんな使い方があったのかと感動した。現実世界の闇と戦うには、現実の舞台が必要で、3D都市モデルを活用することでリアリティが増している」と評価。川田氏は「現実と連携しているので、薬を待っている時間に医療事務の人の計算を手伝うと薬が早く出てくるなど、現実とつながったインターフェースになると面白い」と語った。
●Own東京(チーム名:小関 健太郎)
『Own東京』は、1人、あるいは数人で使えるマイクロデジタルツインだ。デジタルツインは企業が作って公開するという形がほとんどで、一般のユーザーが使えるようなツールがない。そこで、オープンデータであるPLATEAUを使って小さなデジタルツインが作れないかというところがモチベーションになっている。
実際、小関氏はWebサービスとして公開し、誰でもアクセスしてデジタルツインを構築できるようにしている。
Own東京(プレゼンテーション資料)
内山氏からの「動作が軽く裏側の仕組みも工夫されていて素晴らしい。利用シーンはどのように考えているか」という質問には、「私自身はデータそのものに関心がある。防災など活用シーンはあると思うが、そこは他の方を巻き込んで考えていきたい」と答えた。
●(おそらく)世界初の位置情報と連携した3Dキャプチャー作品コンテスト みんキャプ(チーム名:みんキャプ運営委員会)
みんなで3Dキャプチャを楽しもうというエクスペリエンスに主眼を置いたエントリー。「みんなで作る3Dモデル=みんキャプ」という動きを通じて街に関心を持つカルチャーを作っていこうという活動だ。
また、みんキャプは、3Dモデルプラットフォーム「toMap」にスマホなどで取得した3Dデータをアップロードし位置情報を設定すると、PLATEAU VIEWの互換ビューワーで公開され、ほかのユーザーとシェアできる仕組みを構築している。
第1回(2021年)、第2回(2022年)、第3回(2023年)と作品コンテストを重ね、コミュニティも着実に形成されている。
(おそらく)世界初の位置情報と連携した3Dキャプチャー作品コンテスト みんキャプ(プレゼンテーション資料)
川田氏は「3Dキャプチャという孤独な作業を共有し合うプラットフォーム、コミュニティが広がっているのが素晴らしい」とその取組みと評価した。
●PLATEAUで日本全国の自動運転シミュレーションを可能にする(チーム名:株式会社ティアフォー)
自動運転シミュレーションにおける地図作成の課題(作成のコスト、データのバリエーション、反射強度シミュレーション)をPLATEAUで解決してしまおうというもの。
数百~数千万円かかる高精度な地図データの作成も、既存のPLATEAUのLOD3データを使うことで無償となり、開発期間も数か月のところを数日に抑えられる。またPLATEAUの属性情報を使えば建物のマテリアルを自動で設定可能だ。今後は、定量的な評価、検証を進めていきたいとした。なお、これらはすべてオープンソースであるため、誰でも開発に参加できる。
PLATEAUで日本全国の自動運転シミュレーションを可能にする(プレゼンテーション資料)
質疑応答では、内山氏の「シミュレーションだけではなくて実際のオペレーションでも使えるか?」との質問に対して、「まだ確認できていないが、実機で走ったロケーションとPLATEAUのロケーションを重ねることで可否を定量的に検証していきたい」と答えた。
●キッズ向けさいがいMAP(チーム名:東北工業大学 小野 桂介)
2022年11月に仙台で開催されたPLATEAU Hack Challenge 2022 in enspaceのグランプリを受賞した作品だ。PLATEAUに『マインクラフト』を組み合わせ、小学生に届く防災教育コンテンツを作ろうというもの。浸水している状態の街、家の状況を人気ゲームであるマインクラフト上で直感的に理解ができる。
浸水危険度の理解の向上、地域イベントや授業を通して普及促進活動を進めていく予定だ。今後、防災教育の実践、地域の防災活動の核となる人材の育成を目指すという。すでに仙台の防災関連イベントに出展し、テレビ取材を受けるなど手応えを感じているとのこと。
キッズ向けさいがいMAP(プレゼンテーション資料)
質疑応答では、データの変換について審査員から質問があり、「PLATEAUの3D都市モデルからマインクラフトのブロックへの変換は、FME Desktopを使用してCityGMLを読み込み、マインクラフト用のデータに変換している。浸水データは、PLATEAU内の浸水想定区域データ(Surface)を点群に戻し、その点群の位置にマインクラフトの水ブロックを置いている」と答えた。
PLATEAUは新しい世界を創り続ける
全体の総評として、内山氏は「PLATEAUのプロジェクトが始まって3年目。当初のハッカソンは、3D都市モデルの使い方がよくわからない、Web GISって何? というところのスタートだったが、今回は70作品すべてPLATEAUのデータを非常によく理解して、それをどう使うか、というところにコミットしていることがわかり、日本全体のPLATEAU、Web GIS、3Dに対する技術力が高まっていると感じた。またこの機会でつながったみなさんのコミュニティがPLATEAUの知識やノウハウを日本に広めていくことで、日本のDXや経済力も高まっていくと思う」とコメント。
松田氏は、「ひとつのデータを使ったコンテストとは思えないほど、ゲームやツール、NFTになりそうなものなど、いろいろな作品があった。昨年までよりうまくPLATEAUを活用したアイデアが生まれているように感じた」と作品の豊富さを評価した。
小林氏は、「皆さんが楽しんで作品を作っていらっしゃるのが伝わった。今回の皆さんの作品は何かしら街や地域が舞台になっているのが興味深く、これはPLATEAUの大きな特徴。PLATEAUを通じて、みんなが地域に注目し、地域のいろいろな人を巻き込んでいくきっかけにもなる」とオープンデータとしての展開に期待を寄せる。
ちょまど氏は、「実際にものをつくり、発表するところまで持っていけることはクリエーターとして心から尊敬している。皆さんのような方々がこれからの未来をつくっていくので、これからもがんばってください」とエールを贈った。
最後に、審査委員長の川田氏は「コンテストの歴史はPLATEAUが世の中に浸透していく歴史。初期はPLATEAUを使うことが前面に出ていたが、今回はPLATEAUをどこに使ったかは問題ではないほど、作品自体が仕上がっており、PLATEAUという技術としての成熟度、皆さんの技術力の成熟度を感じた。これはPLATEAUという一つの技術としての到達点ではないか。3年でここまできた。来年も楽しみ」と述べた。
内山氏は、70もの作品から17作品(10枠の予定から拡大)へ絞り込むのが大変だったとコメントしているが、ここまでで取り上げたファイナリストの作品だけでも非常にバラエティーに富んでいる。それぞれが異なる切り口でPLATEAUを利活用する新たなユースケースを目指している。
PLATEAUにおける2022年度の開発の集大成として開催された今回のAWARD、データのポテンシャルの高さに改めて驚かされた。
2月末には、PLATEAUのデータ活用がより容易になるPLATEAU SDK for Unity/Unreal Engineの正式版もリリースされている。また、各種開発チュートリアルも整備されており、いよいよゲームエンジンで属性情報を維持したままPLATEAUデータを本格的に扱うことが広がっていくだろう。既存の開発者に加えて、新たなコミュニティも一気に拡大するのではないか。これが、次なる新たな切り口のコンテンツやサービスにつながることを期待したい。
PLATEAUでは、今後もハッカソンやライトニングトークなどさまざまなイベントが計画されており、来年度のAWARD開催も現在計画段階にある。3D都市モデルを活用した新しい世界の創造、さらなるプロジェクトの発展に期待したい。
関連サイト
PLATEAU AWARD 2022 最終審査会・表彰式