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景観まちづくりDX

実施事業者株式会社シナスタジア
実施場所愛媛県松山市
実施期間2022年10月〜2023年2月
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都市の景観と開発を調和させるための検討支援ツールをゲームエンジンを用いて開発。全国の景観まちづくりDXを推進する。

実証実験の概要

都市の景観と開発を調和させる「景観まちづくり」を進めるためには、行政、デベロッパー、住民など関係者が都市の将来像についての議論を深め、イメージを共有することが重要である。このため、従来はイメージパースやCG、動画などが作成され、近年は3DモデルをベースとしたVR空間の作成なども行われているが、わかりやすさや製作コストなどに課題があった。

今回の実証実験では、3D都市モデルを活用し、景観計画や開発計画をVR空間で容易に再現可能なツール開発。景観計画策定の支援や景観協議の円滑化を目指す。

実現したい価値・目指す世界

景観まちづくりとは、良好な景観の保全・形成を目指し、地方公共団体による景観計画等の策定による開発コントロールと、これに準拠した開発事業者による開発行為によって形成される。

従来、地方公共団体は、保全・形成すべき区域や基準(建築物の形態意匠、高さ、色彩など)を定めた景観計画を都市にどのように導入すべきかを2D図面をベースとして検討していたが、施策効果をイメージしづらく、関係者との合意形成に課題があった。また、開発行為を行おうとする開発事業者は、イラストのパースなどを利用して景観計画との整合性を地方公共団体や住民などに説明するプロセスを行ってきたが、実際の建築物が周辺環境に与える影響の把握などに課題があった。近年は3DCGを利用したVR空間や動画の製作なども行われているが、「一品もの」になりがちであり、コストが高いため普及していない。

今回の実証実験では、愛媛県松山市を実証地として、ゲームエンジンをベースにオープンデータである3D都市モデルを用いた景観計画の立案や開発計画の説明等を支援するツールをOSSとして開発する。地方公共団体は、高さ制限や色彩制限、眺望規制等の効果や影響範囲、他の規制エリアとの関係等を三次元的に把握したり、VR空間を用いて景観計画を検討・説明することが可能となる。また、デベロッパー等の開発事業者も、このツールを用いることで、開発予定の建築物を都市に配置し、周辺景観との調和を確認することが可能となる。これにより、解像度の高い景観計画の検討や景観協議の円滑化を実現し、景観まちづくりのDXを目指す。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本実証実験では、景観計画策定支援ツールと景観協議支援ツールから成る景観まちづくり支援ツールを開発した。開発には2D・3D対応可能なゲームエンジンであるUnityを活用し、ユーザーがUnity内でツールを扱えるよう、UnityのSDKとして機能を提供した。

景観計画策定支援ツールは、従来は景観計画を立案するための材料として行政が事業者に外注していた景観規制計画の可視化作業の低コスト化や、行政職員自身で景観計画の可視化が可能になることを目的とし、景観計画の検討過程で生じる2D・3D情報を簡単に作成・出力可能になること目指した。具体的な機能としては、既存の都市を3D都市モデルを用いて再現し、視点場規制や高さ制限エリア、色彩制限エリアなどを新規で作成可能にするとともに、作製した景観計画の高さや色などのパラメータを3D都市モデルに反映できるようにした。また、既存の景観規制情報についても、Unity内で可視化・編集が可能となるよう、Shapefile形式のデータを読み込めるようにするとともに、編集された景観計画の案をGISデータ(Shapefile形式)で出力可能とした。

景観協議支援ツールは、主に開発事業者が行う住民への開発計画の説明・協議プロセスの効率化・高度化及び住民理解度の向上を目的として開発し、開発計画情報を住民が視覚的に理解しやすい形で簡単に2D・3D表示可能になることを目指した。具体的な機能としては、景観計画策定支援ツールやその他従来ツールで作成された景観計画情報をShapefile形式で読込・編集可能にするとともに、BIM・CADソフトで作成されたFBX形式の建築物データのインポートやProBuilderの活用による、新規建築物の作成・編集を可能にした。また、より現実に即した表現が可能となるよう、建築物の意匠(色彩)や天候を変更可能にした。これらツールで設定された3D表現やUIをUnityの既存の機能を活用し、Webアプリとして配布可能にした。

本ツールのユーザビリティの検証のため、想定ユーザーである開発事業者に実際にツールを体験してもらう機会を設け、モニターとして機能や使いやすさ等についての評価アンケートを実施した。また、有用性の検証のため、愛媛県松山市主催のイベントにて、本ツールを用いた景観説明の分かりやすさ等について住民アンケートを行った。

「松山城眺望景観めぐり」イベントにてツールを用いて松山城周辺の景観について説明
「松山城眺望景観めぐり」イベントにてツールを体験中の参加者

検証で得られたデータ・結果・課題

ユーザビリティの観点では、ターゲットユーザーである地方公共団体、開発事業者向けのモニターアンケートで66.7%が「使いづらい」と回答するなど、スムーズに使いこなせる状態には至らなかった。想定していたユーザーペルソナと実際のユーザーとの間で、ゲームエンジンに関連する技術的な習熟度に乖離があったことが原因であると考えられる。具体例としては、モニタリングの過程において、そもそもゲーミングPCが用意できない・ツールデータをUSBからPCに移せない、などの初歩的な導入ハードルでつまずき、ツールの中身の利用を通したモニタリングに至らないケースもあった。また、マニュアルが「とてもわかりにくい」という回答が50%を占めた。基本的な説明を含む、より詳細なマニュアルを合わせて提供する必要がある。一方で、本支援ツールによって景観に関する計画や協議がより網羅的に実施できそうと答えたユーザーが67%、本支援ツールによって景観計画の将来ビジョンや景観イメージを関係者と共有しやすくなると答えたユーザーが67%となるなど、ツールを使いこなせるようになれば、景観まちづくり検討時の網羅性が上がり、関係者間のイメージが共有しやすくなることが期待される結果となった。

ツールの有用性の観点では、住民理解度の向上という目的において一定の成果を得られた。具体的には、愛媛県松山市における松山城をめぐる景観規制の検討の過程で開催された「松山城眺望景観めぐり」イベントにおいて、景観計画策定支援ツールによって、松山城の眺望景観の現状や将来の松山城の風景をイメージできたと回答した参加者は86.5%と大多数を占めた。技術的な課題として、ツールのUIの改善や、建築物の意匠変更のバリエーションの充実化、バードビュー表示機能の追加、より高LODな3Dデータの配布等が挙げられる。

建築物の意匠変更画面
高さ制限エリア作成画面

参加ユーザーからのコメント

「松山城眺望景観めぐり」に参加した地域住民より、以下のコメントがあった。

・ツールを使うことによって何パターンものシミュレーションができるので街作りに役立つと思う。
・都市開発の速度が上げられそう。
・実際に建設前に景観にどう影響するか分かって良いと思いました。
・立体的に仮設で表示・非表示にできるなど操作しやすく分かりやすい。もっと広めて多くの人が知れるようになったらいいと思う。

景観まちづくり支援ツールを使用したモニターより、以下のコメントがあった。

・イメージの共有が図りやすい、外部発注していた分のコスト削減、事務作業の時間短縮につながる。
・景観検討の上で、従来利用していたBIMデータにPLATEAUデータを組み合わせることで、より具体的な景観検討情報が作成できる。
・景観や眺望等の共有が容易にできた。
・CityGMLデータを3Dモデルとして取り出すことができるようになった。
・景観を確認したい視点を自由に選択できた。
・簡単には使いこなせない(時間をかけて使い方を覚える必要あり)。

今後の展望

景観まちづくり支援ツールの有用性については、一定の評価を得ることができたため、松山市以外の景観まちづくりでの利用普及やツールの更なる機能追加や利便性向上を目指したい。

ツールの機能追加の観点では、例えば、精細な街路樹の3Dモデルを配置できるようにすることで、景観イメージが更に付きやすくなることが期待できる。また、利便性向上の観点では、住民が自身のスマートフォン等で簡単に2D・3Dの景観イメージを表示・視点切り替え等行えるようにすることで、ユーザビリティの向上につながることが期待される。

ツールの普及のためには、より分かりやすいUI設計を目指すとともに、ツール自体やマニュアルの簡易化による導入ハードルの低下を行うことも重要である。より技術習熟度のあるユーザーに対しては、様々な機能を付加したツールを提供するなど、習熟度に応じたツールを設計することで、幅広い層のユーザーの取り込みも可能になると考えられる。