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交通事故発生リスクのAI評価・可視化による事故の未然防止

実施事業者三井住友海上火災保険株式会社 / MS&ADインターリスク総研株式会社
実施場所愛媛県松山市
実施期間2022年10月~2023年3月
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3D都市モデルを活用し、交通事故発生リスクを評価・可視化AI技術を開発。交通事故の未然防止を目指す。

社会実装の概要

近年、交通事故の死傷者数は減少傾向にあるが、高齢者の死傷者割合の高止まり、通学路等における交通安全の確保などが依然として課題となっている。

今回のプロジェクトでは、愛媛県のデジタル田園都市国家構想の一環として、三井住友海上火災保険株式会社及びMS&ADインターリスク総研株式会社が開発した交通事故発生リスクの評価・可視化システム「事故発生リスクAIアセスメント(リスク評価)」をベースに、3D都市モデル(建築物モデルLOD1)を活用した交差点上の死角推定「死角パラメータ」を開発。交通事故発生リスク評価をさらに高精度化し、要対策箇所の抽出や優先順位付けを行うことで、交通事故の未然防止への貢献を目指す。

実現したい価値・目指す世界

交通事故は重要な社会課題の一つであり、官民連携のもと様々な対策が講じられている。

しかし、現状の交通安全対策では、交通調査や安全点検に多大な費用や時間を要するため、結果として、再発防止型の対策が中心となっている。また、危険性の評価や対策の数値的な裏づけが難しいため、対策箇所の優先順位づけが困難であること等の課題がある。

本プロジェクトでは、3D都市モデルを活用し、三井住友海上火災保険株式会社及びMS&ADインターリスク総研株式会社が開発した、速度帯や事故履歴等から交通事故発生リスクの評価・可視化を行う「事故発生リスクAIアセスメント(リスク評価)」の高精度化を目指す。具体的には、3D都市モデル(建築物モデルLOD1)を用いて交差点等の死角を考慮した見通しの良さ・悪さを数値化する「死角パラメータ」を生成。同システムに死角パラメータを組み入れる。

AI解析によるリスク評価では、交通事故発生箇所だけでなく、地形や道路の情報等の事故と相関関係の高い要因のデータを活用することで、新設道路など、まだ事故が起きていない場所でも評価が可能となり、低費用・省力・短時間で事故発生リスクを確認することができる。これにより、予算・要員等を最適化・有効活用しながら、潜在的危険箇所を含めた全公道・全交差点に対し、根拠に基づく対策の検討、未然防止型の対策が可能となる。

この仕組みの有用性を検証するため、まずは愛媛県松山市をパイロット都市として、松山市内の全公道、全交差点の事故発生リスクを評価・可視化を行う。これにより、EBPM(証拠に基づく政策立案)を支援し、交通事故未然防止型の安全対策を実施する。その効果を検証し、県全体での対策につなげていくことで”県民誰もが安心して暮らせる社会”を目指していく。

対象エリアの地図(2D) 出典:国土地理院
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

本プロジェクトでは、「事故発生リスクAIアセスメント(リスク評価)」(三井住友海上火災保険株式会社/MS&ADインターリスク総研株式会社)と3D都市モデル(建築物モデルLOD1)を組み合わせ、交通事故発生リスクの評価を行った。

事故発生リスクAIアセスメント(リスク評価)は、MS&ADインシュアランスグループの損害保険グループならではのデータ、ノウハウに、事故発生起因性の高いデータを加えた、独自のリスク評価・分析モデルである。

実際の交通事故発生箇所だけでなく、地形(勾配、カーブ等)、道路構造(車線数等)、道路情報(一時停止規制有無、制限速度等)やドライブレコーダーデータ(急加減速等)、人口・人流等、事故と相関関係の高い要因のデータを組み合わせ、AIを活用したリスク評価・分析が可能である。

事故発生リスクAIアセスメント(リスク評価)Viewerイメージ
事故実績や、AIで評価・分析した交通事故発生リスクの複数のモデル(年齢別、天候別、時間帯別)をViewer上で可視化

今回のプロジェクトでは、これまで利用してきた事故実績データ・事故関連データに加え3D都市モデル(建築物モデルLOD1)を用いた「死角パラメータ」を分析データとして追加した。「死角パラメータ」は、交差点の死角等を考慮した1.6mの目線の高さでの見通しの良さをパラメータ化したものである。これを事故発生リスクAIアセスメント(リスク評価)のモデルに組み込んで分析を行った。

死角パラメータの有無によるリスク値の変化量別の分布図
出典:愛媛県「都市リスクの解析等業務」(2023年3月)

また、分析した交通事故発生リスクデータを愛媛県のデータ連携基盤にて活用するためのAPI及び基盤開発を実施。愛媛県の情報アプリを活用し、県民向けに事故発生リスクの発信にも取り組んだ。

検証で得られたデータ・結果・課題

交通事故発生リスクの算出では、3D都市モデル(建築物モデルLOD1)を用いて算出した死角パラメータを事故発生リスクAIアセスメント(リスク評価)のモデルに組み込んで分析した結果と、3D都市モデルを用いていない交通事故発生リスク評価結果を比較し、リスク値変化傾向の検証を行った。

80%超の箇所においてリスク値評価変化量は±0.1未満(リスク値は0~1までの数値で評価)であった。これらの地点では事故実績等の既存パラメータで十分評価が出来ていたと考えられる。一方で、リスク値が大きく増減した箇所も見られたことから、双方について現地調査も含めた評価を行った。

例として、死角パラメータを活用することでリスク値評価が上昇した交差点(従来の算出方法でのリスク値:0.23⇒死角パラメータを活用した算出方法でのリスク値:0.74に危険度が上昇)について現地調査を実施したところ、当該地は幅員が狭く、実際に車両・歩行者の視点でも見通しが悪いことが確認できた。また、幹線道路の抜け道となっており、車両については、法定速度(30km/h)以上の車両も見受けられた。人通りが多く、歩行者向け注意喚起の足跡マークは有るが、車両向けの一時停止規制はない状況であったため、死角パラメータを活用したリスク値の方が、実状に即しているリスク値であるだろうということが確認できた。

死角パラメータを組み込むことでリスク値評価が上昇した交差点
出典:愛媛県「都市リスクの解析等業務」(2023年3月)

死角パラメータを活用してもリスク値評価が変化しなかった交差点(リスク値 0.98から変化なし)についても現地調査を実施した。当該地は、人流は日中の生活道路にしては多く、車両挙動も一時停止が不完全な車両が複数見受けられ、リスクが高い場所であった。見通しも車両からの視認性が特に悪い状況であり、死角パラメータを活用したリスク値も高止まりしている結果は実状に即していることが確認できた。

死角パラメータを組み込んでもリスク値評価が変化しなかった交差点
出典:愛媛県「都市リスクの解析等業務」(2023年3月)

その他複数個所での現地調査等による統計的検証を行った結果からも、3D都市モデルから作成した死角パラメータをリスク値評価に組み込むことで事故リスク値算出の精度が上がることが確認できた。

参加ユーザーからのコメント

愛媛県の職員から以下のコメントがあった。

・(Viewerについて)事故リスクの客観的な可視化が可能となり有益だと感じている
・(本取り組みについて)市民の行動変容を促す意味ではいい機能だと感じている

今後の展望

今回は3D都市モデルのうち建築物モデルLOD1を用いた交通事故発生リスク算出の精度を確認した。実際の交差点には植栽や塀などの要素が存在するものの、建築物モデルLOD1の壁面位置が死角評価へ活用できることが実証できた。

このことから、本実証は愛媛県のみならずPLATEAUに参画する全国の都市の、都市全体で容易に適用出来るため、より多くの自治体や事業者に本事例を認知して頂くとともに、実例を積み重ねて精度の向上を図りたい。

これにより、根拠に基づく交通事故発生リスクのEBPM(証拠に基づく政策立案)への活用や、分析データのアプリへの配信等を通じて地域の方々が誰でも都市リスクを確認できる社会を実現し、交通事故の未然防止に取り組んでいく。

そして、多くの官庁や事業者と共に、潜在的危険箇所を含めた全ての道路・交差点について、信頼度の高い根拠に基づく交通安全対策の検討・対策を進めていくことで、「人優先の交通安全思想」に基づき交通事故のない社会を目指していく。