uc20-026

物流ドローンのフライトシミュレーション

実施事業者株式会社A.L.I. Technologies
実施場所石川県加賀市 片山津温泉 / 東京都駅周辺
実施期間2021年3月モデルアップデート、3月フライトシミュレーション
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複雑な高層ビルが立ち並ぶ都心部を精緻に再現したバーチャル空間を活用し、飛行ルートシミュレーターを開発。3D都市モデル×ドローン技術による新たな価値創出を目指す。

実証実験の概要

ドローン(無人航空機)技術を用いたソリューション開発は近年ますます活発になってきており、2022年度には都心部における目視外飛行が実現する見込みであるなど、その社会実装は着実に進んでいる。

今回の実証実験では、高層ビルが立ち並ぶ都市部における安全かつ効率的なドローン航行の実現に向け、3D都市モデルを活用したフライトシミュレーションを実施し、その有用性を検証する。さらに、3D都市モデルを効率的にアップデートするため、物流ドローンが撮影する配送ルート上の航空写真を活用した3D都市モデルの更新可能性について検証する。

実現したい価値・目指す世界

A.L.I. Technologiesでは、ドローンによる過疎地域・都市部の防災物流ネットワークを構築し、平時だけでなく災害時の医療物資輸送や孤立地域との通信手段の提供などの実現を目指している。現在、遠隔医療配送ネットワークの運用に向けて試験を終え、2021年より医薬品配送を開始予定であり、さらに2025年までに都市部へのドローンによる物流ネットワークの導入を検討している。

複雑化されたビル群が立ち並ぶ都心部においてドローンを飛行させるためには、ルート上の建物等の障害物を慎重に確認する必要があり、そのための現地調査のコストや手間が課題となっている。

今回の実証実験では、都心部の建築物等を緻密に再現した3D都市モデルを取り込んだフライトシミュレーションシステムを開発し、現地調査等の工程を効率化できるかを検証する。さらに、物流ドローンが配送ルート確認用として撮影しているルート上の航空写真を活用した航空測量を実施し、ドローン物流の副産物を用いた安価・効率的な3D都市モデルのアップデートが可能かを検証する。

対象エリアの地図(2D)
対象エリアの地図(3D)

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

ドローン技術のフィジビリティの向上という観点から、3D都市モデルを活用したドローンの航路シミュレーターの開発と、物流ドローンを用いた写真測量による3D都市モデルのアップデートという2つの実証実験を行った。

航路シミュレーターについては、東京駅周辺のビル群を対象エリアとして3D都市モデルを活用したバーチャル空間を構築。このバーチャル空間をベースとして演算ロジックを製作し、離陸ポイントと着陸ポイントを指定することで、「建物との30m以上の距離の確保」等の関係規制を遵守しつつ適切な航路を算出するシステムを構築した。このシステムを既に開発済みのUAVシステムと連携させ、航路確認や運航者トレーニング等のオペレーション業務の効率化・コストダウンに寄与するかを検証した。

また、モデルアップデートについては、石川県加賀市片山津温泉を実証地として、物流UAVのオペレーションを想定した飛行ルートを設定した上で、実際に航行を実施。配送ルート確認⽤の航空写真を取得し、これを用いた3D都市モデルの整備を試みることで効率的に3D都市モデルをアップデートすることが可能かを検証した。

写真測量を行った弊社物流用ドローン

検証で得られたデータ・結果・課題

■物流ドローンのフライトシミュレーション
今回の実証実験により、3D都市モデルを活用した航路シミュレーターを用いることで、これまで要していたドローン航行のための準備時間を大幅に短縮することができ、移動費や人件費などを削減できる可能性が示唆された。

垂直・水平精度の品質が保証されている3D都市モデルを活用することで、同様の航路シミュレーターをあらゆる場所で容易に展開・構築可能であり、都心部における物流ネットワーク構築を図る上での基盤となり得る。また、特にLOD2のモデルはビジュアル面でも優れており、荷主や関係当局、ドローンオペレーターに対して航路をわかりやすく可視化することでオペレーションの円滑化に寄与することが期待される。

一方で、今後の実用化に向けては、シミュレーションにおいて考慮すべきパラメータのブラッシュアップ、離陸・着陸といった精緻なオペレーションを要する局面での利用に耐えうるシステムの高度化、管制システムとの連携といった課題も明確になった。

■物流ドローンによるモデルアップデート
今回の実証実験により、物流ドローンが撮影した航空写真を用いてLOD1及びLOD2の3D都市モデルの整備・更新が可能であることが確認できた。必要なルートの設計、対空標識の設置、地上測量等のドローンによる写真測量に必要な準備を行えば、十分なデータを取得することができる。

一方で、単に物流ルート上を通過する際に取得できる航空写真のみを用いるのでは、写真測量ほどのデータ取得が十分にできないため、補完データ等を用意しなければ必要な精度を持つ3D都市モデルの整備・更新を行うことが難しいことも明らかとなった。そのため、今後は物流飛行として合理的なルートを選択しつつ、写真測量飛行として必要なデータ取得も行えるような飛行ルート設定や機材選定、撮影手法等を検討する必要があるといった新たな論点も明確になった。

開発を行った3D都市モデルを活用したシミュレーターの東京駅周辺のキャプチャ
開発を行った3D都市モデルを活用したシミュレーターでは、離発着視点を指定することでドローンが飛行する最適ルートの算出が可能

今後の展望

今回の実証実験では、ドローンのフライトシミュレーションシステムの構築における3D都市モデルの有効性を見出すことができた。また、3D都市モデルの効率的なアップデートの実現性についても一定の知見を得ることができた。今後は、3D都市モデル×ドローンの観点から、都市部での事業化に向け検証を進めていきたい。

今後の検証ポイントとして、都市部におけるビル群の間を縫うような飛行を行う際に必要となる高精度な航路シミュレーターの開発がある。高精度なシミュレーションには精度の高い3D都市モデルの維持・更新が必要となるため、これをいかに効率的・持続的に行っていくかが肝要である。今後、物流ネットワークを活用した写真測量とこれによる3D都市モデルのアップデートのフィジビリティを高めていくことで、高精度シミュレーターの実現可能性も高まるという好循環の実現を目指していきたい。

さらに、ドローン物流ネットワークを活用した3D都市モデルのアップデートサイクルの確立に貢献するためにも、日本全国において防災物流ネットワークの構築ができるよう更に事業の加速を行っていく。

3D都市モデル×ドローンというコンセプトに基づき、双方の持続的な発展に向けて防災物流ネットワークを高度化を図ることで、都市部や過疎地域の社会を支える必要不可欠な基盤作りを目指していく。