大規模イベントの輸送計画策定に向けた人流シミュレータの開発
実施事業者 | 株式会社フォーラムエイト |
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実施協力 | 横浜市 / 相鉄グループ / 公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会 |
実施場所 | 神奈川県横浜市瀬谷区 |
実施予定 | 2025年5月〜10月 |

大規模イベントの輸送計画を支援する人流シミュレータを開発。 3D都市モデルを活用し、歩行者の移動環境を立体的に再現することで、混雑の要因を精緻に分析し、実効性の高い計画策定を支援する。
本プロジェクトの概要
大規模イベントにおいては、住民理解や安全性の観点などから、人流予測のもと輸送計画をより精緻に検討することが重要である中、こうしたシーンで精度の高い人流シミュレーションツールが十分に整備されているとは言い難い。特に、公共交通のダイヤやバス停の待機列の状況に加え、駅構内と駅周辺を結ぶ階段や通路など、都市空間の3次元構造を考慮して、これらを通過する人流を統合的に把握・分析できるシステムは未整備である。そのため、混雑の発生要因を適切に分析できず、イベント来場者や周辺住民の交通負荷が増大するリスクがある。また、関係者間での共通認識の醸成が難しく、計画の調整や合意形成に時間を要する。
本プロジェクトでは、2024年度に開発した「汎用的な人流シミュレーションシステム」を基盤として、駅構内や駅周辺などで、歩行者が移動する歩行エリアの3次元構造を再現可能な人流シミュレータに機能拡張することによって、混雑の要因を精緻に分析する。さらに、バス停で待機する人の待機時の並び方や、バス到着時の乗降など、バス待機列の制御機能を組み込むことで、輸送計画の精度を向上させる。これらの技術を活用し、実際のイベント運営における拡張機能の効果を検証するとともに、人流や混雑状況を3次元構造にて可視化することで関係者間での合意形成を促進し、社会実装が可能か検証する。

実現したい価値・目指す世界
大規模イベントの輸送計画では、イベント来場者の安全かつ円滑な移動を確保するために、来場者の移動需要や混雑の発生地点を事前に推計した上で、イベント運営団体と自治体が輸送手段の運行計画や誘導策について協議し、事前に計画を策定することが不可欠である。しかし、現在の輸送計画策定では、公共交通の運行ダイヤやバス停の待機列を考慮した人流の予測が十分に行われておらず、検討の質・量ともに不足しているため、交通混雑の要因を正確に把握し適切な対策を講じることが難しい。
これは、大規模イベント特有の短期間かつ急激な人流変化に対応可能な人流シミュレーションツールが十分整備されておらず、輸送計画策定のプロセスが統計データや過去の経験則に依存していることに起因する。また、公共交通のダイヤやバス停の待機列、都市空間の立体構造といった複数の要素を統合的に扱う必要があるものの、特に駅構内の立体的な歩行空間や人流動態を再現するための3次元データの整備が不十分であり、これらを活用したシステムも未整備であることが、分析の精度向上を妨げる大きな障壁となっている。加えて、シミュレーションの計算負荷の高さやリアルタイムでの活用環境が整っていないことも、実用化を阻む要因となっている。
さらに、駅構内と駅周辺を結ぶ都市空間の3次元構造(改札、階段、通路、エレベータなど)が適切に考慮されない場合、移動経路における立体的な混雑状況を把握することが難しく、その発生要因を定量的に分析することも困難となる。これにより、イベント開催時に駅構内や駅周辺で想定外の混雑が発生し、イベント来場者や周辺住民にとっての交通負荷が著しく増大するリスクが生じる。
このように、現行の輸送計画策定プロセスは定量的な人流把握やシナリオの比較検討を行う環境が十分に整っておらず、施策の有効性に関する分析も限定的であるため、計画全体の妥当性や納得性に課題が残る。また、高度な分析を要する検討作業は専門的なノウハウを必要とするため、自治体やイベント運営団体が自ら実施することは難しく、結果として分析業務が外部委託されることが多くなる。これにより、関係者間の調整や意思決定のプロセスが長期化し、合意形成に時間を要するという構造的な課題も生じている。
本プロジェクトでは、2024年度に開発した「汎用的な人流シミュレーションシステム」 を基盤としつつ、都市の3次元構造を考慮したシミュレーション環境を構築し、輸送計画の精度向上と社会実装の可能性を検証する。2024年度のシステムでは、人流に関する施策検討を行うための基本機能として、異なる形式の人流データを国際標準規格MF-JSON形式に変換する機能、人流シミュレーション機能(歩行者の速度・目的地・衝突半径等の設定や地形・歩行エリア・天候・人流密度等の設定のもとにシミュレーションする機能)、人流可視化機能、解析結果の可視化・データ出力機能などを有しており、これをもとに大規模人流シミュレーションのニーズに即した追加機能を開発することによって、短期間、最小コストで目的を実現するものである。
今年度は、①歩行者の属性・行動パターンに関する設定機能、②バス停や公共交通に関する待機行動・ダイヤ連携機能を重点的に開発する。
①の設定機能は、異なる属性(年齢・性別等)を持つ歩行者の移動特性をより現実的に再現し、混雑が発生する要因を定量的に可視化することを目的とする。これは、特定のエリアへの移動割合や目的地分布を調整することで、駅構内や途中経路での混雑発生地点を推定し、緩和策の検討を可能にするものである。また、都市空間の3次元構造(改札・階段・通路・エレベータ等)を考慮した歩行領域の設定により、立体的な動線の再現とその分析が可能となる。
②の待機・ダイヤ連携機能は、バス停での待機列の形状や人数の設定を通じて需要変動に対応したシミュレーションを実現し、待機スペースや誘導策の最適化に資する。さらに、公共交通機関の運行ダイヤに基づく人流発生設定により、ピーク時の混雑や乗車率を事前に把握でき、シャトルバスの臨時便導入やダイヤ調整といった実施策の検討を支援する。
本プロジェクトを通じて、これらの新規機能を段階的に開発・実装することで、都市の3次元構造と公共交通の特性を統合的に捉えた人流シミュレーションを実現し、混雑の発生状況を立体的に再現して来場者の移動経路や交通負荷を視覚的に明示できるようにする。これにより、関係者が具体的なシナリオに基づいて合意形成を行うことが可能となり、定性的な説明に頼ることなく、裏付けのある計画策定を支援ことで、実用性の高い輸送計画の構築を促進する。
都市空間の3次元構造を考慮した人流シミュレーションを実現する本ツールは、関係者間の合意形成を円滑にし、運営団体・地方公共団体による調整や意思決定を支援して、大規模イベント時に来訪者と地域住民が快適に過ごせる環境の実現を目指す。さらに、3D都市モデルを活用した交通ネットワークや都市構造の可視化、データに基づく効率的な施策立案を可能にすることで、防災・都市開発・観光施策など幅広い分野での利活用の促進を目指す。


