(4)測定値の表記
ND:検出下限値未満
tr:検出下限値以上かつ定量下限値未満
定量下限値を下回る低濃度の試料を対象とした場合、定量下限値以上の試料に比べ、二重測定等の精度管理結果からも、測定値の変動が大きく、その数値はある程度の幅を持つと考えられる。
また、下水試料の特性(夾雑物等が多いこと)より、環境水に比べ低濃度の測定が困難であることから、検出下限値以上かつ定量下限値未満の測定値については、tr(traces)の表記を行う。なお、参考値として測定値を括弧書きで併記するが、変動が大きいため数値の信頼性が低いことに留意する必要がある。
(5)実施機関
調査の計画、実施方法の策定及び調査結果のとりまとめについては、関係自治体の協力を得て、財団法人下水道新技術推進機構が実施した。同機構では、「下水道における環境ホルモン対策検討委員会(委員長:松尾友矩、東京大学教授)」を設置し、下水道に係わる内分泌攪乱作用の疑われている化学物質の分析方法や挙動等の検討を行っている。
なお、採水及び分析は、民間の分析機関へ委託した。
7−2 調査結果
(1)流入下水における測定結果
前期及び後期調査での、流入下水における測定結果を表7−4に示す。但し、前期調査においては、試行分析として実施しており、測定結果について精度上の問題が残っていたと判断されるため、測定値はある程度の幅を持っていると考えられる。
基本調査対象物質(9物質)に関しては、スチレンモノマー(前期でのみ実施)以外の物質は、いずれかの処理場で検出(但し、後期で実施したスチレンの2及び3量体については2,4,6-トリフェニル-1-ヘキセンのみ検出)されており、特にノニルフェノール、ビスフェノ−ルA、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、17βエストラジオールは、対象の全処理場で定量下限値以上であった。
なお、後期調査に先立ち、代表処理場において通日調査(24時間時間変動調査)を実施し、水質濃度の変動幅の確認を行った。調査結果より、物質によって差はあるものの、日平均値に比べ、おおむね0.5〜1.5倍の範囲で変動しており、測定結果はこの程度の変動幅を持つ値であると理解する必要がある。
表7−4 流入下水における基本調査対象物質の測定結果
(前期調査は試行分析)
物質名
[検出下限値(定量下限値)(μg/L)] |
測定範囲(μg/L) |
検出状況(該当地点数/調査地点数) |
範囲 |
中央値 |
定量下限値以上 |
tr |
ND |
4-n-オクチルフェノール1)
[0.1(0.3)] |
ND〜0.5
ND〜0.4 |
ND
ND |
2/10
1/10 |
1/10
1/10 |
7/10
8/10 |
4-t-オクチルフェノール1)
[0.1(0.3)] |
tr(0.1)〜3.3
ND〜2.3 |
tr(0.3)
0.3 |
5/10
5/10 |
5/10
4/10 |
0/10
1/10 |
ノニルフェノール1)
[0.1(0.3)] |
1.9〜45
1.7〜75 |
4.5
7.5 |
10/10
10/10 |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル1)
[0.2(0.6)] |
2.6〜40
11〜48 |
18
27 |
10/10
10/10 |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
フタル酸ブチルベンジル1)
[0.2(0.6)] |
ND〜1.5
ND〜1.9 |
tr(0.2)
tr(0.2) |
3/10
3/10 |
3/10
4/10 |
4/10
3/10 |
フタル酸ジ-n-ブチル1)
[0.2(0.6)] |
3.0〜17
1.1〜4.4 |
6.9
2.2 |
10/10
10/10 |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル2)
[0.01(0.03)] |
1.5〜5.8
0.35〜2.5 |
3.2
1.2 |
10/10
10/10 |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
ビスフェノールA
[0.01(0.03)] |
0.34〜1.7
0.35〜2.0 |
1.3
1.0 |
10/10
10/10 |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
スチレンモノマー
[0.1(0.3)] |
ND
− |
ND
− |
0/10
− |
0/10
− |
10/10
− |
スチレンの2及び3量体3)
[0.01(0.03)] |
−
ND〜tr(0.01) |
ND |
−
0/10 |
−
4/10 |
−
6/10 |
17βエストラジオール
[0.0002(0.0006)] |
0.026〜0.056
0.032〜0.052 |
0.044
0.040 |
10/10
10/10 |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
1) 前期調査と後期調査とで分析方法が異なる
2) 前期調査は内部標準法による定量、後期調査はサロゲート法による定量
3) 2,4,6-トリフェニルヘキセン(他は全処理場でND)
注:前期調査における測定は、試行分析として実施。精度管理結果から、二重測定、クロスチ
ェックの変動が大きく、測定結果については精度上の問題が残っていると判断される。 |
なお、2処理場で実施した追加調査対象物質についてみると、フタル酸ジエチル、ベンゾ(a)ピレン、2,4-ジクロロフェノール、ベンゾフェノン、n-ブチルベンゼンにおいて1ヶ所あるいは両方の処理場で検出下限値以上となっており、4-ニトロトルエンは前期のみ1ヶ所で検出されていたが、その他の物質については、検出されなかった。なお、前期は追加調査として実施したスチレンの2及び3量体(2量体の1,3-ジフエニルプロパンのみ測定)は両方で検出されていたが、定量下限値未満の濃度であった。
(2)放流水における測定結果
前期及び後期調査での、放流水における測定結果を表7−5に示す。
流入下水に比べ、検出された物質数は少なく、また、測定範囲も小さな値となっている。ノニルフェノール、ビスフェノールA、17βエストラジオールは全ての処理場で検出されているが、4-n-オクチルフェノール、フタル酸ブチルベンジル、スチレン(前期はスチレンモノマー、後期はスチレンの2及び3量体を測定)は前期・後期とも全ての処理場で検出されなかった。
前期及び後期の調査結果においては、分析方法を変更した物質もあり、一概に比較することはできないが、概ね同様の検出傾向を示していた。
なお、流入下水と同様、通日調査結果より、放流水測定結果は、日平均値に対して、0.5〜2.3倍程度の変動幅を持つ値であると理解する必要がある。
表7−5 放流水における基本調査対象物質の測定結果
物質名
[検出下限値(定量下限値) (μg/L)] |
測定範囲(μg/L) |
検出状況(該当地点数/調査地点数) |
範囲 |
中央値 |
定量下限値以上 |
tr |
ND |
4-n-オクチルフェノール1)
[0.1(0.3)] |
ND
ND |
ND
ND |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
10/10
10/10 |
4-t-オクチルフェノール1)
[0.1(0.3)] |
ND〜tr(0.1)
ND〜tr(0.1) |
ND
tr(0.1) |
0/10
0/10 |
1/10
6/10 |
9/10
4/10 |
ノニルフェノール1)
[0.1(0.3)] |
tr(0.2)〜0.7
tr(0.1)〜0.9 |
0.4
0.4 |
7/10
9/10 |
3/10
1/10 |
0/10
0/10 |
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル1)
[0.2(0.6)] |
ND〜4.9
ND〜4.0 |
0.6
1.5 |
5/10
7/10 |
2/10
2/10 |
3/10
1/10 |
フタル酸ブチルベンジル1)
[0.2(0.6)] |
ND
ND |
ND
ND |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
10/10
10/10 |
フタル酸ジ-n-ブチル1)
[0.2(0.6)] |
ND〜tr(0.5)
ND〜tr(0.2) |
ND
ND |
0/10
0/10 |
4/10
2/10 |
6/10
8/10 |
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル2)
[0.01(0.03)] |
tr(0.02)〜0.15
ND〜0.05 |
0.07
ND |
8/10
1/10 |
2/10
0/10 |
0/10
9/10 |
ビスフェノールA
[0.01(0.03)] |
tr(0.01)〜0.51
tr(0.01)〜0.13 |
0.06
0.04 |
9/10
6/10 |
1/10
3/10 |
0/10
1/10 |
スチレンモノマー
[0.1(0.3)] |
ND
− |
ND
− |
0/10
− |
0/10
− |
10/10
− |
スチレンの2及び3量体3)
[0.01(0.03)] |
−
ND |
−
ND |
−
0/10 |
−
0/10 |
−
10/10 |
17βエストラジオール
[0.0002(0.0006)] |
0.0032〜0.055
0.0028〜0.030 |
0.014
0.012 |
10/10
10/10 |
0/10
0/10 |
0/10
0/10 |
数値は、上段が前期調査結果、下段が後期調査結果
4) 前期調査と後期調査とで分析方法が異なる
5) 前期調査は内部標準法による定量、後期調査はサロゲート法による定量
6) 2,4,6-トリフェニルヘキセン(他は全処理場でND)
|
なお、2処理場で実施した追加調査対象物質についてみると、2,4-ジクロロフェノール、ベンゾフェノンにおいて1ヶ所あるいは両方の処理場で検出下限値以上となっており、4-ニトロトルエンは前期のみ1ヶ所で検出されていたが、その他の物質については検出されなかった。
(3)流入下水と放流水との比較について
後期調査での、下水処理場における流入下水と放流水との比較として、各物質毎の、下水処理場における減少率を表7−6に、また全処理場データの中央値による流入下水と放流水の比較を図7−1に示す。
放流水が検出下限値以下であり、減少率が算出できないケースも多いが、 内分泌攪乱作用が疑われている化学物質については、70%以上の減少率であり、ほとんどのケースで90%以上となっていた。なお、人畜由来である17βエストラジオールについては、40〜93%であった。
図7−1に示されるように、流入下水と放流水の検出濃度の比較から、下水処理場は、放流先水域に対して、内分泌攪乱作用が疑われている化学物質等を削減していることが確認された。
表7−6 処理場における減少率(後期調査)
物質名
|
減少率
|
備考
|
中央値
|
範囲
|
4-n-オクチルフェノール |
−
|
>75%
|
流入がNDの場合あり |
4-t-オクチルフェノール |
−
|
>67%〜96%
|
〃 |
ノニルフェノール |
94%
|
76%〜99%
|
|
ビスフェノールA |
95%
|
84%〜>99%
|
|
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル |
94%
|
82%〜>99%
|
|
フタル酸ブチルベンジル |
−
|
>67%〜>90%
|
流入がNDの場合あり |
フタル酸ジ-n-ブチル |
−
|
82%〜>96%
|
|
アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル |
−
|
97%〜>99%
|
流入がNDの場合あり |
スチレンの2及び3量体 |
−
|
|
流入がNDで計算できず |
17βエストラジオール |
70%
|
40%〜93%
|
|
注: |
中央値: |
流入下水及び放流水の中央値で算定。 |
|
|
"−"は流入下水が定量下限値未満、あるいは放流水が検出下限値未満。 |
|
範囲 : |
放流水がNDの場合、削減率は検出下限値で算出し、">○%"と表記。 |
内分泌攪乱化学作用の疑いのある科学物質

|
注:TPHは2,4,6-トリフェニ-1-ルヘキセン |
人畜由来のホルモン

|
図7−1 流入下水と放流水の中央値の比較
|