気候変動に伴い、河川の氾濫等のリスクが増大している中、洪水から国民の生命・財産の被害を防止・軽減するため、国土交通省では、国、都道府県、市町村、企業、住民及び利水者など、あらゆる関係者が協働して、氾濫をできるだけ防ぐ対策、被害対象を減少させるための対策、被害の軽減、早期復旧・復興のための対策を総合的かつ多層的に行う「流域治水」を推進している。

平成30年7月、西日本豪雨が真備町を襲い、市街地等で広範囲の浸水被害が発生し、浸水面積約1,200ha、全壊棟数約4,600棟という甚大な被害が生じた。

生活基盤が失われ、地域の絆も大きな痛手を受ける中、国・岡山県・倉敷市が連携し、治水対策が動き出した。
真備緊急治水対策プロジェクトは、ハード・ソフトを一体的に進める総合対策。
再発防止に向けた迅速な意思決定の裏には、住民・行政・建設業が同じ方向を向いて築いた初動の協力体制があった。

発災直後に始動した、再度災害を防ぐための総合対策

平成30年7月5日から7日にかけて、高梁川流域では断続的に非常に激しい雨が降り、多いところでは累加雨量が400mmを超え、観測史上最大規模の豪雨となった。小田川の堤防決壊により倉敷市真備町では住宅地のほぼ全域が濁流にのまれてしまった。

岡山県倉敷市真備町における浸水状況(平成30年7月8日)
岡山県倉敷市真備町における浸水状況(平成30年7月8日)

この甚大な被害を受け、国(中国地方整備局)・岡山県・倉敷市の三者は、再度災害防止に向けた体制づくりを急ぎ、「真備緊急治水対策プロジェクト」を策定。小田川合流点付替え事業、堤防強化、河道掘削などのハード対策に加え、マイ・タイムライン作成支援や、防災教育などのソフト対策を組み合わせた総合施策を推進した。

県外の中学生が真備町で研修
県外の中学生が真備町で研修
防災食講座
防災食講座

小田川合流点付替え事業は当初10年の完成予定を5年に前倒して実施。令和6年3月末に完了した背景には、迅速な体制構築と現場の創意工夫、そして行政・施工業者・住民の連携があった。

住民・建設業者・行政が協働して取り組んだ治水――信頼を基盤とした協働体制

真備緊急治水対策プロジェクトでは、行政が一方的に決定するのではなく、住民・建設業者・行政が並走する体制が構築された。国土交通省 中国地方整備局 岡山河川事務所 流域治水課 課長 田宮 子良氏は当時の職員から聞いた話として、「信頼を得るためには、納得いただけるまで対話を続けることが大切でした」と語っている。

災害直後から説明会や意見交換が続いた。ときには質疑が長時間に及ぶこともあった。説明会は週1回ほどの頻度で開催され、職員が地域の防災勉強会にも参加した。これにより行政と住民の距離が縮まり、協力関係の基盤が形成された。

行政内部では、技術的課題を迅速に解決するよう意識付けをし、監督支援員が職員の知識を的確に補うことで効果的な事業推進に寄与した。工事の進捗は写真やSNSを通じて発信され、施工者も避難所への仮設トイレ提供などで地域に貢献した。こうした取り組みにより、行政・施工者・住民の間に双方向の信頼関係が構築された。

小田川合流点付替え事業――現場の創意と技術革新で実現した早期完成

小田川における治水上の最大の課題は、洪水時に高梁川の背水の影響により小田川の水位が上昇しやすい構造にあった。その解決のために、小田川と高梁川の合流点を約4.6km下流へ移す「小田川合流点付替え事業」が中核として進められた。

小田川を下流で合流させることで、水面の高低差が大きくなり、高梁川の背水の影響が小さくなる。高梁川へ洪水が流れやすくなり、小田川の水位が低下することで、上流域の浸水リスクを軽減することを目的とした。

この事業は、全国的にも前例の少ない大規模な合流点付替えであり、計画段階から技術的検討が重ねられた。具体的には、南山等の掘削と築堤、貯水池内の河道整正や護岸の設置を行うとともに、高梁川と小田川を締め切る堤防を設置し、小田川の合流点を下流側へ付替えることで、小田川沿川地域及び倉敷市街地における治水安全度の向上を図っている。

施工現場では水位変動への対応が最大の課題であった。施工中は常に“水との戦い”でもあり、「今日はどこまで作業できるのか」を日々の水位状況と照合しながら緻密に判断する必要があった。

株式会社荒木組 清水 明氏は「水位が上がると前日の計画が白紙になるので、毎朝の工程見直しが必須だった」と述べている。降雨による増水で作業が中断されることもあり、工程管理は常に天候と水位に左右された。

現場ではドローン測量と人力測量を組み合わせて地形を精緻に把握し、他工事の発生土砂を活用して堤防整備の効率化とコスト縮減を図った。

進捗状況や道路通行止め情報は多様な手段で発信され、地域住民の理解を得ながら施工が進められた。さらに施工にはICT建機による高精度施工、ドローン測量と3Dデータによる迅速な状況把握、自動計測システムによるリアルタイム監視などのICT施工技術が活用された。

ドローン
ドローン
ICT建機
ICT建機
ICT建機
ICT建機

「これらの技術により現場の作業効率が向上し、残った時間を連絡調整や工事進捗の共有に充てることが可能となりました」と清水氏は振り返っている。

行政との連携も現場を支えた。行政は日々変化する施工現場を把握するため頻繁に現場へと足を運び、施工者と意見交換と議論を何度も重ねた。その積み重ねが、判断の速さにつながった。結果として工事も前倒しで進んだ。