砂浜と記憶をつなぐ――地域が支える復興の場
砂浜の確保にあたっては、海岸の所管が林野庁の治山海岸から国土交通省所管の建設海岸へ変更されたことにより、防潮堤の位置を山側へ大きくセットバックすることが可能となった。養浜は、林野庁の防潮堤工事で発生した砂丘の砂を用い、震災前と同程度の砂浜面積2.8haを確保した。
また、砂浜の侵食対策として、三次元の海岸変形モデルにより将来の砂浜変動を解析したうえで、人工リーフの高さなどを含めた設計が行われた。
(写真提供:宮城県)
宮城県では、海岸全域の変化傾向を把握するため、グリーンレーザーによる測量を県内全域で概ね3年に一度実施し、汀線の変化や砂浜の状況を継続的に観測している。将来的に侵食が進行した場合には、砂が豊富な中島海岸からのサンドバイパスなど、域内での砂の補給ルートを活用する対策も想定している。
海浜植物については、工事で影響を受ける箇所を事前に把握し、移植や緩和措置が講じられた。特にハマナスは、休眠期に根土ごと移植する方法が採用されるなど、地域で大切にされてきた植生の保全が図られた。
(写真提供:大谷まちづくり協議会)
海浜植物の種は工事前に採取され、地域の小学校で子どもたちとともに育てられた後、防潮堤法面や砂浜に移植されている。こうした取り組みは、環境教育の場としても活用されており、子どもたちが自らの地域の海岸環境について学ぶ機会になっている。
(写真提供:気仙沼市)
(写真提供:気仙沼市)
2021年7月17日には、大谷海岸の海水浴場が11年ぶりに再開した。多くの海水浴客が訪れ、かつてのにぎわいが戻りつつある。
気仙沼市によると、大谷地区では元々コミュニティの結びつきが強かったが、プロジェクトの推進に合わせて若者や女性が新たに参画し、世代や立場を越えた意見交換が行われるようになったという。伝統行事と新たなイベントが継続的に開催されており、このことが大谷地区のまちづくりや、道の駅「大谷海岸」の運営を支える力になっている。
(写真提供:大谷まちづくり協議会)
気仙沼市 菅原氏は、防潮堤や背後地の工事完成時に「大谷里海づくり検討委員会」のメンバーから感謝の言葉が寄せられたことを、「一生忘れられない良い思い出」として挙げている。
全国へ――協創型国土強靱化のモデルケース
大谷海岸の取り組みは、住民提案を起点として、海岸の所管換や国道との兼用堤、砂浜2.8haの確保などを実現し、防潮堤整備と砂浜の確保、景観への配慮を組み合わせた復旧事業として進められてきた。これらの取り組みは、第2回GI大賞・国土交通大臣賞(防災・減災部門)や全建賞(事業連携の部)などを受賞している。
東北地方整備局 片野氏は、当初は費用的にも時間的にも実現が困難と感じていた計画であったと振り返るが、目標とするイメージを明確にし、関係者が意識を共有していくなかで、関係者が実現に向けて真摯に向き合い始め、さらに各々の役割を明確にして取り組むことで実現したように感じているという。
また協創による復旧・復興については、地域住民に誇りや愛着心、満足感をもたらし、施設が長く地域に愛され管理されていくことで、地域の活性化に好循環をもたらすと考えている。こうした取り組みのルールや、合意された結果を速やかに実現できる仕組みづくりを進めることによって、今後の新たな災害復旧での活用が期待できるとの考えを示した。
(写真提供:道の駅「大谷海岸」)
(写真提供:道の駅「大谷海岸」)
気仙沼市 菅原氏は、大谷海岸で得られた“協創による合意形成”の知見を、復旧・復興事業を進める中で既に有効な手法の一つとして認識しており、今後もさまざまな事業に活用していく考えだ。また、市は「人口減少や制度面の制約により復旧・復興が進みにくい地域もあるが、地域の団結と住民の強い思いは大きな突破力になる」とし、協創の意義を強調している。
宮城県 鈴木氏は、大谷海岸のプロジェクトを振り返り、成功要因として市・県・国・関係機関・住民など多様な主体による合意形成を挙げる一方で、「計画決定までに時間を要したことは反省点であり、大規模災害が想定される地域では、事前に復興方針や計画を検討する『事前復興』の重要性が示された」とまとめている。
住民、自治体、国が協議を重ねて整備を進めてきた大谷地区海岸津波高潮対策事業は、まちづくりと防潮堤整備を組み合わせることで、地域の安全と海との関わりを両立する取り組みとして進められてきた。これまでに得られた知見は、今後の国土強靱化や復旧・復興、防災まちづくりにおいて活用されることが期待されている。
取材にご協力いただいた方
※取材内容、所属、役職は取材当時(2025年11月)のものです。
- 国土交通省 東北地方整備局 河川部
河川環境課長 片野 正章氏 - 宮城県 土木部
副部長 鈴木 善友氏 - 気仙沼市 ガス上下水道部
部長 菅原 正浩氏
