1 概要
「PSC」と聞いて、何のことだかわかりますか?
「Port State Control(ポートステートコントロール*、外国船舶の監督)」の略で、日本に寄港する外国船に対する立入検査のことを言います。
平成15年8月、新潟港に北朝鮮籍「万景峰92号」が入港した時には、このPSC*の様子が、全国に報道され、一躍有名になりました。
PSCでは、寄港国の検査官(外国船舶監督官)が外国船舶を訪船(立入)し、条約が定める基準を満足しているか確認し、基準を満足していなければ補修(是正)を命じることとなります。
2 経緯
1.サブスタンダード船
船の検査は、その船が登録されている国が定期検査等を実施することになっています。
しかし、国によっては、充分な検査が行われず、国際ルールである条約の基準を満足しないまま航行している船があります。このように条約が定める基準に適合していない船を「サブスタンダード船*」と呼んでいます。
サブスタンダード船では、設備が壊れたままになっていたり、必要な船員が乗っていなかったり、貨物がオーバー積載されていたりしており、船や船員の安全、海洋環境保護の点で問題があります。
1978年のフランス沖の「アモコカディス(Amoco Cadiz)号」の座礁・油汚染事故に代表されるように、1970年代は大型船の海難があり、このような大規模海難事故を背景に、航行の安全確保及び海洋 環境保全のため、条約が定める基準に適合していないサブスタンダード船を排除すべきとの機運が高まり、PSCの実施体制が確立していくことになります。
2.PSCへの地域的な取り組み
PSCへの本格的な取り組みは、欧州で、1982年7月に、「パリMOU(Memorandum Of Understanding on PSC)」が採択されたことに始まります。
アジア・太平洋地域としては、1993年に「東京MOU*(Memorandum Of Understanding on PSC)」が採択され、東京に事務局が設置されており、我が国は、東京MOUの主要メンバー国として活動しています。
現在は、世界の9の地域でMOUが結ばれ、ほぼ世界的なPSCの実施体制が構築されつつあります。
3.PSCへの我が国の取り組み
我が国でも、1983年から、船員労務官などによる航海当直及び船員の資格証明書に関するPSCが始まり、1984年には、船舶検査官により船の構造・設備に関するPSCも始まっています。
また、PSC開始当初は、船員労務官と船舶検査官が、我が国船舶の検査と兼務してPSCの業務を実施していましたが、1997年度からは、PSCを専門に実施する外国船舶監督官(PSCO:Port State Control Officer)の制度ができ、全国の地方運輸局等に配属されてPSCを実施しています。
参考
1.「アモコカディス(Amoco Cadiz)号」の座礁・油汚染事故
ペルシャ湾で原油22万トンを積載し、オランダのロッテルダムに向け航行中のタンカー「アモコカジス号」は、1978年3月16日、舵取機が故障したこと によりフランスのブルターニュ半島の岩礁に乗り揚げ、船体が折損、積荷のほぼ全量が流出する大事故となった。
2.PSCの対象となる主な条約
1)満載喫水線条約 (LL条約)
2)海上人命安全条約 (SOLAS条約)
3)海洋汚染防止条約 (MARPOL条約)
4)船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約 (STCW条約)
5)海上労働条約 (MLC)
6)バラスト水管理条約 (BWM条約)