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新宿駅前を歩く巨大猫はこうして作られた。第2回 PLATEAUライトニングトーク開催。

「3D都市モデル PLATEAU LT 02」レポート


国土交通省は8月6日、ライトニングトークイベント「3D都市モデル PLATEAU LT 02」を開催。PLATEAU(プラトー)は、スマートシティをはじめとしたまちづくりのDX化の基盤となる3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を進めるプロジェクト。本イベントは、PLATEAUを活用したプロダクトやサービスを各5分間でプレゼンする企画で、「都市とPLATEAU」をテーマに、11名の登壇者がそれぞれ作品や活動を紹介した。

文:
松下 典子
編集:
ASCII STARTUP
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Geospatial APIとPLATEAUで新宿駅前に猫を歩かせてみた

巨大な猫が新宿駅前の建物の影から現れるARコンテンツ

VRエンジニアのこりん氏は、Twitterで話題となった新宿駅前を猫が歩くARのメイキングを発表。同作は5月12日にGoogle I/Oで発表されたGeospatial APIをPLATEAUと重ね合わせたものだ。

まず、Unity上で猫の歩行パスを引き、建物の影になったら描画をオン・オフされるようにオクルージョンシェーダーを作成。位置調整には測地系の知識が必要なため、特定のランドマークをもとに大まかに緯度経度標高を合わせておき、現地で微調整できるようにあらかじめUIを作っておいたそうだ。

制作手順を時系列で紹介

また、商用案件としてARコンテンツを開発する場合の注意点として、XRコンソーシアムの「施設等で利用するARサービス開発のためのガイドライン〜点群データの作成・利用及びUI/UX設計等における注意点〜」、「拡張現実(AR)を巡る著作権法上の問題に関する基礎的考察」を紹介した。

UnityでPLATEAUの3D都市モデルを直感的に楽しむためのテクニック

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社の高橋 忍氏は、「今さら聞けないPLATEAUを楽しむためのUnityのいろは」と題し、UnityでのPLATEAUデータの扱い方と開発のポイントを解説。

3DモデルデータのダウンロードからUnity上での配置やスケール調整などといった基本手順を説明した。

また、LOD2モデルを軽量化するテクニックとして、3Dデータの変換&最適化ツール「Pixyz STUDIO」を紹介。3Dモデルの品質を落とすことなく軽量化でき、Unityでの読み込みが早くなり、モデルを扱いやすくなるそうだ。

Pixyz STUDIOでLOD2を軽量化

CityGMLとFBXの連携で地理空間をエンタメ化

「PLATEAU Hack Challenge 2021」でグランプリを受賞したソウ氏。受賞作品ではゴジラが東京に襲来した場合の損害を計算するシミュレータを開発したが、そのなかで見えてきた課題がデータ連携の難しさだ。現状は、データを分析するQGIS、Excel、表現に使うUnityといった各ツールでのデータ形式が異なるため、データ変換に手間と時間がかかってしまう。

そこで、PLATEAUのデータフォーマットであるCityGMLとUnityがサポートするFBX形式について、GML_IDをキーに双方向データ連携する方法を考案。

GML_IDをキーにFBX形式の3DデータとCityGMLの地理空間情報の双方向データ連携を実現

今回は、この双方向連携を用いたゴジラのシミュレータの進化版を発表。ゴジラがビルの3Dモデルを破壊すると、その結果をCityGMLの地理情報に反映。さらにCityGMLに付与した属性から建物の損耗率がシミュレーションできる。

Blenderでゴジラがビルのモデルを2つに切断すると、GML_IDが連番で付与された2つのオブジェクトに分断
GML_IDで連携させることで、QGISで描画したCityGML側にも変化を反映

PLATEAUでバーチャル聖地巡礼

ぴっかりん氏は、コロナ禍で外出が制限されるなか、PLATEAUを使ったバーチャル聖地巡礼を紹介。PLATEAU VIEWを使って建物データを見るバーチャル聖地巡礼からスタートし、現在はCesium.jsを用いて3D聖地巡礼マップを開発中だ。

Cesium.jsを用いた3D聖地巡礼マップのウェブアプリ

Google Earthとは異なり、PLATEAUは過去の地図情報も残っているので、アニメの作成当時の建物が見られるのがメリット。また現状は属性情報が少ないため、オープンデータなどを活用して建物の属性情報を追加する例も紹介した。

建物情報に名称(ダイバーシティ東京)とリンクを追加した例

多様なアプリでAR/VR表示するための汎用フォーマットを開発

株式会社ホロラボの古田裕介(たるこす)氏は、同社R&Dチームで、ARコンテンツを記述するための汎用フォーマットを定義するSpirareプロジェクトに取り組んでいる。XMLベースの独自フォーマット「.poml」形式で配置情報を定義、各種アプリでAR表示できる仕組みで、ウェブブラウザ―での2D表示、Questを使ったVR表示、HoloLensを使ったマップモードでのAR表示、Androidを使った現地でのAR表示などさまざまなビューワーに対応する。

.poml形式で記述した3Dコンテンツデータは各種表示方式に対応

Spirareの活用例として、3Dコンテンツと建物モデルを合わせた表示、建物に重ならない自然なモデル配置、洪水による浸水想定データの表示など紹介した。

3Dコンテンツと建物モデルを合わせて表示した例

PLATEAU×三次元測位の新たな活用アイデア

MetCom株式会社の荒木 勤氏は、同社が開発する三次元測位システムを用いたPLATEAUの新しい活用法として、PLATEAUの描く三次元空間内の実在の人や物のプロット、測位の枠組みとしての活用、災害時のライブ活用を提案した。

人のプロットの事例として、東京駅の丸ビルや築地聖路加ガーデンタワー内で建物を透過表示し、人の動きを可視化するデモを紹介。

エレベーター、エスカレーター、階段による階移動まで人の動きをしっかり可視化できる

防災の活用アイデアとしては、ハザードマップ情報と自分の現在地の地上高を照らし合わせて警報を発信する、といった使い方が可能だ。

自分のいる地上高に合わせて警告レベルを変えられる

XR技術を使った市民参加型ワークショップの開発

東京都立大学 饗庭研究室でまちづくりの研究に取り組むkoji_ishihara氏は、八王子市内の都市計画の市民参加型ワークショップに向けて、株式会社ホロラボと共同開発しているPLATEAUを使った市民参加ツールを紹介。

PLATEAUのデータに八王子市の行政データを重ねて可視化したり、VRゴーグルでバーチャル街歩きを体験することで、より多くの参加者からの有用な提案が集められそうだ。

八王子市北野地区の清掃工場・下水処理場跡地の活用計画を考える市民参加型ワークショップに向けてXRを使ったツールを開発

アートやエンタメ、防災など活用アイデアやテクニックを紹介

imgee株式会社の代表取締役社長の河野 円(madoka55537)氏は、PLATEAUを使ったコンテンツを「プラコン」と名付けて、その制作のおもしろさを紹介。さまざまな情報が読み取れることから、作品にPLATEAUを取り入れることで視聴者が伏線を楽しめるなど、映像コンテンツに深みが出るという
西尾 悟(のこのこ)氏は、PLATEAUの都市データの外枠線を抽出し、blenderにインポートしてマンガ風の背景画像を作るアイデアを紹介
石政 龍矢氏は、「PLATEAUと市民心理 -PLATEAUの犯罪不安への応用-」と題し、建物が市民の犯罪不安に及ぼす影響を分析するためのシミュレーションを紹介。あらゆる市民心理を仮想空間でシミュレーションすることで、より満足度の高いスマートな都市計画ができそうだ
復建調査設計株式会社の山本 裕規(HironoriYamamoto)氏は、2021年7月に開催されたPLATEAU Hack Challenge 2021で審査員特別賞(演技賞)を受賞した次世代防災無線デバイス「NIGERUN」で使用した、iRIC Softwareによる土石流の計算方法とUnityによる可視化手法について説明

 各発表者のプレゼン資料は、Connpassの本イベント募集ページのフィードから確認もできるので気になるものがあればチェックしてほしい。  2020年末からスタートしたProject PLATEAU。ハッカソンやアイデアソン、ライトニングトークなどのイベントを通じて、ノウハウを共有し合うコミュニティが形成され、作品の質の向上や活用の幅の広がりを見せている。  9月以降も福岡、仙台でハッカソンを開催するほか、2023年1月20日にはスタートアップ向けのピッチイベント「PLATEAU STARTUP Pitch」が予定されている。これらイベントの集大成として、アプリコンテスト「PLATEAU AWARD 2022」を開催。11月30日までエントリーを募集している(詳しくはPLATEAU NEXTのサイトを参照)。  なお、次回のライトニングトークイベント「PLATEAU LT 03」は、10月下旬に開催される予定だ(参加申込はこちら)。