ミュージックビデオから怪獣迎撃まで多種多様過ぎる3D都市モデルの活用。夏のLT祭りで花開いた注目の10作品
「3D都市モデル PLATEAU LT 04」 レポート
2023年7月28日、「PLATEAU LT 04」が開催された。PLATEAUの3D都市モデルを使ったミュージックビデオやゴジラ迎撃シミュレーション、自治体における活用、PLATEAUの「CityGML」のAPI化、PLATEAUとUnity高品質グラフィックのコツなど、PLATEAUをテーマにした熱いLT(ライトニングトーク:短時間に集約した簡潔なプレゼンテーション)が飛び交った。
- 文:
- 大内孝子(Ouchi Takako)
- 編集:
- 北島幹雄(Kitashima Mikio)/ASCII STARTUP
「PLATEAU LT」はProject PLATEAUの一連の開発イベントの中でも自由度の高いイベントのひとつ。アイデアソンやハッカソンとは異なり、より振り幅の広いPLATEAUの活用ノウハウを聞くことができることから、技術ナレッジの交換あるいはブレストに直接役立つイベントという位置づけになる。2022年度には3回行われ、いずれも好評を博した。2023年度も今回を含め2回のLTが予定されている。
当日は10人が登壇し、持ち時間5分でプレゼンを行った。「それぞれのLTを聞いて、アイデアを見て、お互いに次に何を作ろうかといったところで、アイデアの糧にしてほしい」と、当日の進行MC・解説を務めた菅原のびすけ氏(プロトアウトスタジオ 理事長・プロデューサー)、久田智之氏(株式会社アナザーブレイン 代表取締役/みんキャプ運営委員会委員長)が本イベントの趣旨を語った。
PLATEAUを用いたミュージックビデオの企画・制作(厚木麻耶)
難病のALSと戦うDJ MASAの曲の映像表現にPLATEAUを活用した作品。クリエイター3人のユニット「iaiaia」として、厚木氏が企画から携わったものだ。
厚木氏は、PLATEAUを用いた理由を「この曲は、今までリアルだった世界がどんどんアンリアルに変わっていくというDJ MASAさんが直面する現実を表現しています。そのアンリアルな世界を表現するためにあえて実写撮影を行わずに、画像生成AI「Stable Diffusion」とPLATEAUの都市モデルを使っています。どうアンリアルな世界を表現できるか、存在していない世界を表現できるかというところにチャレンジしています」と述べた。
実際にミュージックビデオを見るとわかるが、楽曲に合わせた非常に"エモい"映像に仕上がっている。製作ツールはBlender。カメラスピードを上げる、トーンをフィルム調にするなど、PLATEAUにおけるテクスチャー表現をうまく調整して、「3Dモデルの生っぽさ」を抑える工夫をしているという。
久田氏は、微妙なリアル感を表現するための作法、ノウハウはこれから生まれ始めるのではないか、その意味でも面白い観点だと指摘する。
PLATEAUによるゴジラ渋谷迎撃シミュレーション(うめ長)
普段はAI開発などを行っているといううめ長氏の本作品の動機は、子どものころに見た平成ゴジラの傑作『ゴジラVSビオランテ』の続編を個人的に作成したいという想いだ。
以前から「Blender」を使ってゴジラのモデリングを行い、実写の都市との合成を試みていたが、カメラマッチングの難しさもあり、難航していた。「Unreal Engine」を試したのは2年前。出たばかりのPLATEAUと組み合わせて背景の制作に使えると判断したという。そして、メインで作りたいシーンは大阪ビジネスパーク戦の東京版ということで新宿を舞台にしたかったが、マシンスペック的に難しく、メインロケーションを渋谷としてシミュレーション制作が始まった。
しかし、VRゴーグルをかけてゴジラと戦ってみると、ヘリコプターでは戦えないことがわかる。時速60キロで接近してくる80メートルの巨大物体に対して、正面から近づいて目を狙うことは難しいのだ(狙いやすい横からではミサイルが遅くてほとんど目に当たらない)。次に戦車も試すが、市街地では砲塔の迎角が難しく、ゴジラとの戦いには向かないこともわかる。
そこで思考を変えて、実際にゴジラが渋谷にやってくると街がどう破壊されるのかを「Blender」でシミュレーションしてみたところ、「離れたところからどうにかゴジラを足止めして、近場のビルの上からロケットランチャーで狙撃する」という、まさに『ゴジラVSビオランテ』の戦い方になると判明。最終的に、「河川敷から一斉射撃でゴジラを足止めして、ツインビル付近でビルの上から人間が狙撃する」という感じで『シン・ゴジラ』に近いシーンになったという。
「PLATEAUがあったからこそ、リアルにゴジラ戦をシミュレーションできた」とうめ長氏は振り返る。ちなみに、渋谷に河川敷はないので自分で追加したのだそう。PLATEAUを使うことでこうしたシミュレーションができることを示し、これには菅原氏、久田氏とも感嘆していた。
PLATEAUのCityGMLをAPI化(ソウ)
続いて登場したソウ氏は、2023年度に入ってすでにPLATEAU関連イベントに2回登場しており、今回のLTで3回目だ。ソウ氏がこの日のLTで発表したのはPLATEAUの「CityGML」をAPI化したプロジェクトだ。
「CityGML」というPLATEAUが採用する国際標準規格のデータ形式を容易に使えるように、ウェブアプリに機能をまとめている。たとえばPLATEAUの3D都市モデルのダウンロードについては、G空間情報センターから自由にダウンロードできるようになっているが、「その手順が面倒」なのと「ダウンロードしたファイルの管理」が思う以上に煩雑だという。
その点、Web APIという形でダウンロード済みのデータを配信するという形にすることで使う際の利便性をぐっと高めることができる。さらに、アプリ上で必要な処理をノーコードで行えるようにする。たとえば、PLATEAUのデータをフィルタリングしてジオコーディングし、保存するといった処理をノーコードでプログラミングできる。
また、このプラットフォームは、開発したプログラムを共有し再利用できるようになっている。久田氏はコラボレーションツールとしての可能性について言及した。昨年のPLATEAU AWARD 2022に出した「情報加算器」をエンハンスしていった結果だとソウ氏は言うが、今度もさまざまな拡張を続けていくという。目下、ベータテスターや一緒に作ってくれる仲間を募集中とのこと。
PLATEAUを用いた熊本市中心市街地におけるバリアフリー情報の可視化(がちもと)
熊本を活動拠点にした技術コミュニティ「KumaMCN」の運営や崇城大学の古賀都市計画研究室の技術顧問として活動しているがちもと氏が発表したのは、まちづくりの研究におけるPLATEAUの活用だ。
その方法は、①熊本市中心市街地(59.48ha)を対象にバリアフリー整備状況を現地調査し、②調査対象となる建物・業種を選定、③現地調査を実施しGISデータに整理、④PLATEAUを用いて可視化する、というもの。現地調査は調査員9名で2022年11月11日〜13日に行い、対象は940棟のテナントビル、対象店舗数は4094件。次の調査項目に関して調べた。
• 建物の入口の段差
• 建物内のエレベーターの有無
• 店舗の入口の段差の有無
• 店舗内の多目的トイレの有無
• 店舗内の授乳室の有無
• 交通弱者が店舗を利用することができるか
PLATEAUによる可視化は、「建物内のエレベーターの有無」や「段差の情報」などを切り替えて表示できるようになっている。今後の展望として「現状のフェーズ1では建物単位での可視化だが、フェーズ2としてフロアの情報を追加し、フェーズ3として店舗内のすべてに拡大し、車椅子が通行できる通路幅があるかといった情報を詳細を調べてPLATEAU上に載せていく」などを考えているという。
調査結果のビジュアル化の効果は言わずもがなだが、3Dモデルによる可視化はより直感的で誰にでもわかりやすくなる。フェーズ2でフロアの情報が付加できれば、より有益な情報提示が可能だろう。
久田氏は、こうした情報を属性情報に戻せたら面白いのではないか、そのためにソウ氏の仕組みが使えるのではないかと述べた。「CityGML」にスキーマを作れたら、他の都市でもそれを使って情報を入れ、同様に表現することが可能になるだろう。
PLATEAUとモバイル端末によるスキャン等を活用した地域づくりの可能性(藤井友也)
兵庫県職員の藤井氏は個人の取組としてiPhone LiDARを使って地域情報の3D化を行っているという。きっかけは、誰でも地域の情報を容易に3D化できるというiPhone LiDARのおもしろさ。PLATEAUの3D都市モデルをiPhone LiDARで補完することで仮想世界の中に現実世界を持っていくことができるわけで、そのプロセスを含めて地域づくりに使えないかと考えたのだ。
たとえば、LOD2のデータにiPhone LiDARでスキャンしたデータを組み合わせる(上図、京都市のデータの活用例)。さらにiPhoneの動画から生成したフォトグラメトリのデータで少しテクスチャを付けてイメージを変える(下図、加古川市のデータの活用例)、VRプラットフォームにアップしてどうなるかを見る、などさまざまなことを試している。
今後の展開として藤井氏は、地域の人や大学生など若者を巻き込んで、デジタルを活用したまちづくりのワークショップに生かしていく、中高生への出前講座(地域学習)の学習ツールとして活用する、また再開発で変化していく街の風景を仮想空間に残していく(逆に仮想空間に新しい現実世界の街の情報を入れていくことで、地域の情報をアップデートしていく)、などを考えているという。
久田氏は自分がやりたいと思っていることを、丁寧に未来も含めて整理してもらったようだと大きく共感を示した。菅原氏も、一般の人がみんなで参画できるプロジェクトだとコメントした。
ニコニコ超会議2023で発表した仏説阿弥陀経remix(河野円)
「サイバー南無南無」というクリエイターグループ代表の河野氏が発表したのは「仏説阿弥陀経 サイバー南無南無remix」という映像作品。
そもそも「サイバー南無南無」は仏教美術とテクノロジーアートの融合を目指すクリエイター集団。仏教の教えをクリエイターとしての解釈で「現世をいかに楽しく、いい感じに生きるための哲学みたいな感じ」にとらえた作品だ。その中で、2023年のニコニコ超会議に向けてPLATEAUと仏教美術を組み合わせた作品を作ることにした。
いかにも宗教美術のようなものを作るよりも、今のこの現代がカッコよく見えるような、極楽浄土に見えるような映像演出ができないかと考え、その舞台としてPLATEAUを活用したという。この作品もぜひ映像を確認してほしいが、曼荼羅的な、しかも奥行きのある空間が描かれている。この奥行き感はPLATEAUならではのものだと河野氏は述べている。
久田氏は、音楽とその世界観を伝える何かを作ろうとしたとき、3D都市モデルを組み合わせるという使い方にピンとくる人がいる、そのあたりのナレッジはこれから生まれてくるのだろうと述べた。
PLATEAUモデルを用いた山梨県におけるリニアと空クルのある未来(LuvFan、リンゴップル)
山梨県で会社員をしているLuvFan氏、リンゴップル氏の二人が発表したのは、山梨県を盛り上げるコンテンツ。山梨県の観光を盛り上げるキーワードとして「リニア中央新幹線」と、大阪・関西万博で運航が推進されている「空飛ぶクルマ(空クル)」をバーチャルの世界で表現した。
リニア中央新幹線も空飛ぶクルマもいずれも近い将来に現れる"未来の乗り物"であり、山梨県で双方の誘致が実現したときにどのような未来が創造されるのかを描くことがテーマだ。加えて、山梨県には富士山がある。富士山を眺めながら甲府の中心街に空飛ぶクルマで着陸する、そんな未来の交通手段を描きたいと考えたという。
役割分担としてLuvFan氏が乗り物のモデルを担当。画像検索でリニア中央新幹線を探し、「Blender」で3Dモデルを作成した。一方で、リンゴップル氏は地上側のモデルを作った。
作品ではリニア中央新幹線のスピードが体感できる仕上がりになっている。残念ながら富士山のモデルは配置できていないが、今後、ブラッシュアップしていく予定だという。二人とも3Dコンテンツに取り組んだのはほぼ初めてという状態でここまで作成したということに、久田氏も菅原氏も感嘆。初心者であってもPLATEAUを使うための素材や環境がオープンソースで提供されていることで、個人でもやる気になればできるということを示しているとコメントした。
PLATEAU×Unityによる高品質グラフィックのコツ(大下岳志)
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社の大下氏は、これまでまとまった情報がなかった「シンプルに見た目をきれいにするという観点でUnityでPLATEAUのデータを扱う方法」を紹介。作例として、Twitter(現・X)で公開した動画の制作過程を振り返りながら、そのノウハウを解説した。
使っているのはUnityのHDレンダーパイプライン(HDRP)。HDRPはリアルな表現に特化したレンダリング機能だ。このHDRPの機能のひとつ、Volume Frameworkで空間に対して直接、環境や撮影の設定を付加していくことで、魅せる映像表現にしていく。
作例では、Unityの最初のシーンにPLATEAUを配置した後は、ほぼすべてVolume Frameworkだけで仕上げている。モデルを配置したシーンに空や雲、カメラの詳細な設定などを定義していく。それだけで映像のクオリティが変わっていくのがVolume Frameworkのすごいところだ。
見た目のクオリティはアウトプットの中でも非常に大きな要素だ。何かプレゼンするにしても話が伝わりやすくなったりもする。今回のLTでも何らかの世界観の表現にPLATEAUが使われるという作品が複数あったが、今後はよりきれいに見せたいという需要が増えてくるだろう。ナレッジとして、映像表現の素材としてPLATEAUのデータを活用するノウハウが出てくることが期待される。
作例の制作過程を解説した動画はYouTubeで公開されている。
都市デザインとPLATEAU〜3D都市モデルを使ってみた〜(金城正紀)
大学の土木系学科でCADなどを教えているという金城氏は、「使う側の視点から見た3D都市モデル」について発表した。PLATEAUがリリースされる前にどんなことをしていたのか、そしてリリースされた後にどう便利になったのか、長年建築系の仕事に携わってきた金城氏だからこそ語ることができる内容だ。
PLATEAUがなかった時代のコンペ資料として金城氏が示したのは、地形図から少しずつCADで建物をトレースして作成したというもの。数年前ですら、地形から等高線をなぞってひたすら地形を起こし、建物も等高線に合わせてGoogle Earthで調べて作成していたという。以前はここまで労力をかけて3Dモデルを作成していたのだ。それを変えたのがPLATEAUの登場だ。たとえば、1000分の1の模型を制作するとなると数カ月の作業だが、PLATEAUを使えば模型を作らずにイメージを伝えることができる。
制作を容易にするだけではない。建築分野における3Dモデルが果たす役割も変化している。建築設計において3Dモデルは2Dの設計図に対してイメージを補完する役割だったが、PLATEAUの3D都市モデルで日照シミュレーションを行うなど、建築に伴う合意形成に有効な活用ができるようになったと金城氏は指摘する。あるいは、再開発における街のシミュレーションをVR空間に作成すれば、VR上で自分がその中を歩いて疑似体感をすることも可能だ。
金城氏は、PLATEAUデータは建築設計の分野での本格的な活用を進めていくため、ピロティ―や庇などのディティールを有したLOD3以上のデータの拡大に期待していると述べた。
保健師がPLATEAUを使ってみたら地域の健康課題が見えた(堀池諒)
もともと保健師だったという堀池氏は、現在は大学で公衆衛生看護学分野の助教をしている。堀池氏は「地域を分析して、それぞれの地域にどんな健康課題があるのかを抽出し、対人支援と政策立案も展開する、全ての住民が健康になることが目標の保健師にとって、PLATEAUはとても相性がいい」と語る。
例として堀池氏が提示したのは、災害対策として徒歩でどこまで避難できるかをQGISで解析したもの。この到達圏の線は建物の建築年や木造か非木造かといった情報を使うことでも変わっていく。これにPLATEAUを重ねると、津波に沈んでしまう建物と沈まない建物を明確にできる。人工呼吸器が必要な患者のデータを合わせて、避難計画を作ることもできる。
また、PLATEAUの建物用途を使って街の構造がつかめることは大きなメリットになる。たとえば商業系の施設が密集しているエリアにポツンと住宅がある。もしここに独居の高齢者がいたら十分な介護サービスを受けられていないかもしれないと想像できる。あるいはフロア別の用途から、医療施設はあるが2階ではコロナなど感染症対応には動線が分けられないといったことがわかる。
なお、堀池氏がいまPLATEAUのデータと重ねて活用しているのは人工衛星「しきさい」が観測した地表面温度のデータだという。これによって何がわかるかというと、たとえば熱中症対策をより危険度の高いエリアごとに呼びかけるなど、効率的な働きかけが可能になる。
以上、10組のLTがあったが、映像作品から現実社会での活用まで、PLATEAUがさまざまな領域で広く活用されていることがわかる。まさにLTの醍醐味というところだ。これからハッカソンイベントに参加する、PLATEAU AWARDへの応募を考えているという人には、ぜひアイデアの参考にしてほしい。